「部下が自走しない」のは上司の責任?部下の自主性を育てるには?
[最終更新日]2023/03/11
「部下が自走しない(=自分で考えようとしない・主体的に動かない)」ことを日頃から苦々しく思っている管理職の方は決して少なくないはずです。たとえば、部下に対して次ように感じたことのある人もいるのではないでしょうか。
「1つ1つ細かく指示しないと動いてくれないの?」
「もっと自分で考えて自主的に行動してほしい」
部下に対して普段からこのような不満を感じていると、上司にとってストレスを溜め込む原因にもなりかねません。
そこで、今回は「自走しない」タイプの部下がいる場合、どうすれば自主性を育てられるのかを考えていきます。
はじめに、ある企業で管理職を務めるMさんと、その部下であるYさんの事例を見ていきましょう。
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Index
目次
「自分で考えない」「自走しない」部下を持ったMさんの話
Mさんはアプリ開発会社の法人営業部長を務めています。部下は8人。法人営業部はアプリのOEM開発と導入支援の屋台骨を支える花形の部署ですが、営業部員の年齢層は若く、20代・30代が中心となって活躍しています。
Mさんが対処に困っているのは、30代前半のYさんという社員についてです。なぜYさんはMさんにとって悩みの種となったのでしょうか。
中堅社員のYさんに期待を寄せていた
Yさんは法人営業部の中でも社歴が長いほうでした。
Mさんもまた、Yさんが20代の後輩社員たちを引っ張る存在となってくれることを期待していました。快活なYさんは部署の盛り上げ役としても適任で、リーダーとして育ってくれるものとMさんは思っていたのです。
Mさんが管理職に昇進する以前から取引のある主要顧客の1つにR社があります。R社の担当者とMさんの付き合いは長く、勤務先は違えども、Mさんのことをまるで兄貴分のように慕っているようでした。
Mさんは、この重要な顧客をYさんに任せることに決めました。
会社同士の付き合いも長く、お互いに信頼関係ができていると感じていたこともあり、YさんにR社の案件を担当してもらうことに対してMさんはあまり心配していませんでした。
Yさんの動きに違和感を覚えるようになる
YさんがR社を担当し始めて数ヶ月が経った頃、R社の担当者から電話が入りました。電話はYさん宛てではなく、Mさん宛てでした。
- R社担当者
-
Mさん、今回Yさんにお願いしたアプリ改修の見積、なんとかなりませんか?
Mさんが事情を聞いたところでは、Yさんはちょっとした依頼でも必ず人月計算で見積書を作成し、Mさんの決裁を仰いでから開発を進めていたそうです。
些末な仕事であってもYさんは細かく見積るので、開発スタートまでに時間がかかるとのことでした。
- Mさん
-
Yくん、今回のようなちょっとした案件なら、もっとざっくり工数を試算していいんだよ。私も担当していた頃はずっとそうしていたから
Mさんは、何気なくYさんにこう伝えました。しかし、Yさんは困惑したような表情を浮かべています。
この一件以来、Yさんの動きに違和感を覚えるようになっていきました。日頃からR社と打ち合わせをしていればまず知っているであろうことまで、YさんはMさんにたびたび確認してくるようになったのです。
- Mさん
-
(そんなことまで逐一指示しないと、自分で判断できないのか——)
Yさんへの期待が大きかっただけに、Mさんは深く失望してしまいました。
上司であるMさんから見たYさんの評価
上司であるMさんは、Yさんを次のように見ています。
- もっと顧客の懐に飛び込んで、自分で情報を引き出せるようになってほしい
- 前任者に逐一確認するのではなく、自分なりの営業スタイルを確立したほうがよい
- 臨機応変に対処できるよう、仕事のさじ加減や緩急のつけ方をつかんでもらいたい
要するに、Yさんは中堅の営業部員として持っているべき能力を発揮できておらず、Mさんにとってかなり期待外れだったのです。
R社を担当するようになって1年が過ぎても、先方の担当者はYさんよりもMさんを信頼しているようです。
実際、R社の担当者は遠回しに「Yさんはどうも頼りない」「いざとなったらMさんがいてくれるから安心」といったニュアンスの発言をすることがあります。
R社に関しては、重要な案件では今でもMさんが営業に同行し、Yさんが自主的に判断しようとしない部分をMさんが補っている状況です。
Mさんは、本心ではYさんが前面に出て活躍してもらいたいと思っていますが、Yさんが自走しないタイプの部下である以上、当分の間はMさんがサポートしていくしかなさそうです。
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部下の側から見た「自走できない」状況に陥っている原因
Mさんは「自走できない」部下であるYさんに手を焼いているわけですが、Yさんから見てMさんはどのような上司に映っているのでしょうか。
上司にとって、部下が自走できるようにならない原因は見えにくいものです。部下の側からすると「自走したくない」のではなく、「自走しにくい状況になっている」ことも考えられます。
それでは、Mさんの部下として働くYさんの視点から、前で紹介したエピソードを見ていきましょう。
上司であるMさんはYさんにどう映っていたか
Yさんにとって、Mさんは心から尊敬すべき上司です。法人営業部を率いて現在の形にまで築き上げてきたキャリアは、営業マンとしてもマネージャーとしても、目標となる憧れの存在だったのです。
そのM部長が担当してきた重要な顧客を引き継ぐことになり、Yさんは背筋が伸びる思いでした。
Mさんが築いてきたR社との信頼関係を壊すようなことがあってはならないと感じ、ていねいに、きちんと対応していこうと心に決めていました。
一方で、YさんにとってMさんがR社との間で築いてきた厚い信頼関係は少なからずプレッシャーにもなっていました。
とくに、MさんとR社の担当者が古くからの友人のように懇意にしている様子を目の当たりにして以来、まるでYさんは部外者であるかのような雰囲気を感じ取っていたのです。Mさんにしてみれば「当然知っているはずのこと」でも、Yさんにとっては初耳ということがしばしばありました。
的外れなことをしないよう、必ずM部長の判断や決裁を仰いで仕事を進めていくほうが確実だ——。しだいにYさんはそう考えるようになっていきました。
Yさんが「自走できなくなっていた」理由とは?
- Yさん
-
自分は少なくともM部長ほどR社のことを知らないのだから、M部長への相談や報告は事細かにしていくべきだ
Yさんはこう考え、その通りに仕事を進めていました。
ある日、R社の担当者から電話が入りました。その件でM部長から受けたアドバイスは、Yさんにとって心外なものでした。
- Mさん
-
Yくん、今回のようなちょっとした案件なら、もっとざっくり工数を試算していいんだよ。私も担当していた頃はずっとそうしていたから
M部長が「ざっくり」試算しても納得してもらえていたのは、他でもないM部長が担当者だったからではないのだろうか——?しかも、M部長の感覚とYさんの感覚は全く同じではなく、微妙なずれが生じるはず。
そのとき、R社の担当者は「Mさんが担当していた頃とは変わった」と感じるにちがいありません。
この一件以来、YさんはますますM部長の「感覚」を頼るようになりました。
Yさんの独断で仕事をすると、M部長のやり方とはかけ離れたものになってしまうかもしれない。そのことが恐くなったYさんは、ささいなことでもMさんに確認を入れるようになっていったのです。
Yさんはいま、どのような心境でいるのか
Yさんは今、徐々に仕事への意欲を失いつつあります。
R社とM部長との仲介役となり、まるで伝書鳩のようにM部長の意向を伝え、R社の要望をM部長のもとへ持ち帰る日々の繰り返しだからです。誰の目から見ても、「あれならM部長自身がR社と直接やりとりしたほう早い」「YさんはただM部長の考えを伝言ゲームのように伝えているだけだ」と映ることでしょう。
Yさんがどんなに努力しても、M部長とR社の間で行われてきた過去のやりとりに加わることはできません。
現に、R社を担当するようになって1年以上が経過した今もなお、「実は以前、R社とこのように取り決めた」「何年も前からずっとそうしている」とM部長から聞かされる場面にたびたび遭遇しています。
Yさんがいくら自分で考えようとしても、肝心な情報が与えられていないために空回りしてしまうことも少なくありません。
「結局、M部長が担当したほうがスムーズにいくのだろう」
「私が担当しないほうがよかったのかもしれない」
これが、今のYさんの正直な気持ちです。
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部下が「自走しない」原因を上司が作っているケースとは?
前項までの事例では、部下は部下なりに考えて仕事に取り組んできたものの、上司が望む方向に力を発揮できていないことが分かります。
このように、部下が「自走しない」と感じている場合、部下との間で認識のずれが生じていることが考えられます。
では、部下の自主性の芽を摘んでしまう・知らず知らずのうちに潰してしまう上司には、どのような傾向があるのでしょうか。直属の部下の顔を思い浮かべながら、自分自身が該当していないか次の各ケースをチェックしてみましょう。
ケース➀ 部下の話をきちんと聞いていない
Mさんの事例では、なぜ部下のYさんが細かく見積を作っているのか、理由を尋ねていません。
Mさんとしては「融通が利かない」「仕事の緩急のつけ方が分かっていない」といった捉え方をしたのでしょう。
しかし、Yさんはもう若手社員ではないわけですから、中堅社員として自分なりに考えて仕事をしているはずです。その前提に立つことができていれば、Yさんがなぜそのような行動を取ったのか、理由を知ろうとするでしょう。
部下の話をきちんと聞くのは、実は上司として簡単なことではありません。
たいてい、部下よりも上司のほうが忙しい上に経験も豊富ですから、部下が言おうとしていることを先回りして予測したり、「だいたいこんなことだろう」と部下の考えを推測したりしがちです。
このようなことが続くうちに、ちょうどYさんがR社との取引にやりにくさを感じていたように、部下が仕事上で抱えている困りごとや悩みを引き出せなくなってしまいます。
すると、部下はますます上司の考えや方針を汲み取れなくなり、主体的に判断して仕事を進めにくくなったり、的外れな頑張り方をしてしまったりするのです。
ケース② 自分にとっての「正解」を用意してしまっている
MさんはYさんに対して「顧客の懐に飛び込んでほしい」「自分なりの営業スタイルを確立してもらいたい」と思っていますが、これらはMさんの中での「正解」に過ぎません。
Mさんの仕事を引き継いだYさんが直面する課題や乗り越えるべき壁に対してフォローするプロセスを飛ばして、Mさん自身が理想とする営業スタイルをYさんに求めてしまっています。
Mさんにとって、R社の担当者は長年にわたって関係性を築いてきた相手ですので、もはや阿吽の呼吸で仕事を進めることができるでしょう。ところが、Yさんの立場からすればMさんとR社との関係性が強固であればあるほど、途中から担当を引き継ぐ上でのハードルは高くなるはずです。
このように、上司が自分にとっての「正解」を用意してしまい、その基準に従って部下に接していると、部下が抱えている課題や問題点を見過ごしてしまう恐れがあります。
部下が今現在どのような状況に置かれているのか、直面している問題は何であるのかを先入観を排して見抜く上で、上司が用意した「正解」は障壁となる可能性があります。
ケース③ 情報の開示が不十分で後出しの指示が多くなっている
Mさんにとって、懇意にしているR社との間で取り決めたこと・長年続けてきたことは「当たり前」と感じられるはずです。
当たり前のことなので、わざわざ言わなくても部下には自分で判断してもらいたいと思ってしまうのです。
一方、Yさんの立場からするとMさんは重要な情報を後出しにする傾向がある上司として映り、非常に仕事がやりづらい状況になっていると考えられます。
上司の立場としては「分からないことがあるなら聞けばいい」と考えがちです。
しかし、上司と部下ではそもそも掌握できる情報量が大きく異なることを忘れるべきではありません。
「R社とはこう取り決めた」と後から言われても、取り決めがなされた事実そのものを知らない以上、YさんがM部長から情報を引き出すのはほぼ不可能なケースも出てくるはずです。
上司から見ると「ちょっと言い忘れていただけ」と思えるようなことでも、部下にとっては「情報が下りてこない」「空回りしてしまった」と感じている可能性があります。
こうした場面が多くなっていくにつれて、「自分で考えるだけ無駄では?」と部下は考えるようになっていきます。必要な情報を先回りして与えるのは容易なことではありませんが、自分自身が指示を受ける側だったら何を知りたいか?を常に想像しておく必要があるでしょう。
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部下の自主性を育てるために上司が意識すべきこととは?
部下が自主的に考え、動いてくれるようになるには、上司はどのように接していったらいいのでしょうか。
重要なのは、部下の自主性を「もともとの性格」や「人間性」と安易に結びつけないようにすることです。
自主性に欠ける=そういう性格の人だ、と決めつけてしまうのは、部下が持っている資質に頼り切ってしまうことを意味しています。
部下が持っている資質をさらに伸ばし、苦手なことでもできるようにしていくには、上司が「育成」「指導」の視点を持って部下を促していく必要があります。
部下の自主性を育てるのは根気が要ることですが、上司としてはとくに次の3点を意識しておくことが望ましいでしょう。
部下の考えや意見を否定せず「まずは聞く」姿勢でのぞむ
部下から報告や相談を受けているとき、部下の目が行き届いていない面を発見したり、未熟さを感じたりすることは少なくないはずです。
ただ、上司として部下を指導・育成する立場にある以上、部下の発言に至らない点を見いだすのは必然といえます。
部下の考えや意見に対して、すぐにアドバイスを与えようとするのは必ずしも良いこととはいえません。
なぜなら、部下としては「考えを否定された」「正解かどうかを決めるのは上司」と感じる恐れがあるからです。
まずは部下の話を最後まで聞く姿勢でのぞみ、是正すべきことや掘り下げておくべき部分を見つけたら、「〇〇についてはどう思う?」と部下に質問を投げかけましょう。
結果的に上司が考える方向へと導くことになったとしても、部下が自分で考えて答えを出すか、上司から一方的に「正解」を提示されるかによって、納得度は大きく変わるはずです。
間違っても、部下の話をさえぎって「それは違うよ」などと否定してかからないよう注意しましょう。
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思い切って部下に任せ、自分はサポート役に徹する
「部下が自走しない」と主に感じるのは、部下に仕事を任せたときでしょう。同じように仕事を任せているようでも、上司から部下への仕事の任せ方には大きく分けて3つのタイプがあります。
見た目上はどう任せているか? | 実質的にはどう任せているか? | |
---|---|---|
タイプ➀ | ・心配でとても任せられない | ・実際は上司が仕事をしている ・部下は名ばかりの担当者 |
タイプ② | ・一応は部下に任せている | ・事あるごとに上司が出てくる ・部下は定型的な仕事のみこなす |
タイプ③ | ・部下を信頼して任せている | ・部下が中心となって動いている ・上司はサポート役に徹している |
先に挙げたMさんの事例はタイプ②に該当します。
名目上は部下のYさんが担当者ですが、事あるごとに上司であるMさんが出てくるため、R社はMさんを頼り続けてしまい、Yさんは取引先と上司との仲介役を果たしているような感覚に陥ってしまうのです。
このように、タイプ➀や②のような仕事の任せ方をしていると、部下が仕事にやりづらさを感じるだけでなく、いつまで経っても仕事が上司の手を離れないため、上司としても負担が減らない状態が続くことになります。
部下に自走してほしいと思うのであれば、タイプ③のように思い切って部下に任せ、名実ともに部下が中心となって動いてもらうことを前提にするべきでしょう。
もし部下の力量に不安を感じる面があったとしても、上司は裏方に回りサポート役に徹しましょう。こうすることで、部下は上司の仕事ぶりを見て学ぶと同時に、「自分がもっとしっかりしなくてはいけない」と感じるようになっていくのです。
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部下の人間性を信頼する・信頼していると言葉にして伝える
部下にとって「上司からどう見られているのか」は、決してささいな問題ではありません。
上司としては態度で示しているつもりでも、部下の側が「自分は上司から信頼されている」と感じるとは限らないのです。
上司から全面的に信頼されていると感じられるからこそ、部下は思いきった挑戦に踏み切ることができ、結果的に「自走できる」人材に育っていきます。
逆に、信頼関係が構築できていない状態のままでは、部下は上司から表面的に気に入られることや、逆らわず従順にしていることばかりに注意を払うようになってしまいます。
部下の人間性を信頼していると伝えるには、シンプルに「あなたのことは人間的にとても信頼している」と言葉に出して言うのが最も効果的です。
できれば1 on 1など、部下と落ち着いて話せるタイミングで伝えるのが望ましいでしょう。
信頼していると伝えた以上、上司であるあなた自身にも部下の良い面や優れた面を見ようという意識が芽生えるはずです。「言葉に出して伝える」ことは、非常に重要なポイントといえます。
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まとめ)部下の自主性を伸ばすことも「育成」「指導」の一環
「部下が自走しない」「自分で考えて動いてくれない」という考えは、見方によっては上司の指導・育成力を必要としない部下を求めていることを意味します。
部下が自主性を発揮しやすい環境を整えたり、自走できるようになるまでサポートしたりするのも、上司の仕事の一環といえるのではないでしょうか。
部下の指導・育成に管理職が悩む一方で、部下自身も日々仕事に取り組む中でさまざまな思いを抱えているはずです。
部下の仕事ぶりに不満を募らせるばかりでなく、部下が置かれている状況や直面している問題に目を向け、できる限り同じ視点に立って物事を見るように心がけてみましょう。
部下が自主性を発揮できずにいる原因の一端が見えてくるかもしれません。
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