管理職なら知っておきたいDX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
[最終更新日]2023/10/17
ここ数年、DX(デジタルトランスフォーメーション)という用語をよく目にするようになりました。
「デジタルによる変革」といったDXの大まかな意味は知っていても、「ひと昔前に流行ったIT化と何がちがうのだろう?」「うちの会社にも必要なことなのだろうか?」と感じている人も少なくないでしょう。
実は、大半の企業にとってDXは「この先5〜10年ほどの間に企業が生き残れるかどうか」「成長を続けられるかどうか」の明暗を分ける重要なテーマになると言われています。
なぜそれほどDXが重要な概念と言われているのか、実際にDXを成功させた事例を交えて紹介していきます。管理職の皆さんは、ぜひご自身の職場でDXを推進していく上で参考にしてください。
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Index
目次
まずはDX(デジタルトランスフォーメーション)の基本を確認
DXという言葉が日本で広く知られるようになったのは、2018年に経済産業省が公開した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」という資料が大きなきっかけでした。
参考:経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」(2018年12月)
これからの企業経営に欠かせない概念として注目を集めるようになったDXですが、現状では企業ごと・人ごとにDXへの解釈はまちまちなところがあります。
そこで、まずはDXの本来の定義と、DXが注目されるようになった背景について確認しておきましょう。
DXの定義とは?
経済産業省による資料では、DXは次のように定義されています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」 https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004.html
単にデジタル技術を活用するだけでなく、その先にある業務変革やビジネスとしての優位性を確立することにDXの目的があるとされているのです。
デジタル技術を活用することを目的とした業務改善などは、あとの項で解説する「デジタイゼーション」や「デジタライゼーション」と呼ばれ、DXとは区別されています。
なぜDXと表記されている?
DXはDigital Transformationの略ですが、trans-という接頭辞は英語で一般的に「X」と略記されることから、「DT」ではなくDXと表記されます。
なぜDXが注目されるようになったの?
IT技術によって私たちの暮らしが加速度的に便利になりつつあることについては、もはや説明の必要はないでしょう。
私たちは自宅に居ながらにしてECでショッピングをし、映画や音楽をサブスクリプションサービスで楽しむことができます。
ビジネスチャットやビデオ通話システムは、私たちのワークスタイルさえも変革しようとしています。
これは世界的な潮流であり、産業革命を超える大きな時代の変化であるとして、第三次産業革命という言い方をされることさえあります。
ところが、日本はここ20年ほどの間にグローバル経済の急激な成長から取り残されつつあると言われるようになりました。
かつてはモノづくり大国と呼ばれ、時価総額の世界ランキング上位を日本企業が独占していた時代もあったほどです。グローバル経済の世界地図はこの20年間で大きく書き換えられてきたのです。
参考:世界の時価総額ランキング1989年~2019年
GAFAMに代表されるグローバル企業との差が広がるばかり——。
このままでは日本は先進国から脱落するのではないか——。
そういった状況をいかに打破し、日本企業がこの先も生き残っていくかを考えたとき、DXという視点が企業経営において欠かせないと言われるようになったのです。
DXのカギを握る「第3のプラットフォーム」とは?
DXのカギを握るデジタル技術として、次の4つの情報基盤がポイントとなると言われています。
これらの情報基盤は、未来を担う「第3のプラットフォーム」と呼ばれています。第3のプラットフォームはDXを推進する上でなくてはならない技術であると同時に、DXに後押しされていっそう需要が急増すると言われているのです。
DXのカギを握る「第3のプラットフォーム」
- クラウド
- ビッグデータ
- モビリティ
- ソーシャル
IDC Japanによれば、第3のプラットフォームの市場規模は2019年には16兆3,307億円だったのに対し、2023年には21兆7,515億円に達する見込みであるとしています(※)。
およそ20年間でこうした技術を導入・運用するようになり、需要が急増すると見込まれているのです。こうした予測にも、DXが今後の企業活動に及ぼすインパクトの大きさと重要度の高さを垣間見ることができます。
※参考:https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/2002/18/news017.html
企業にとってDXの重要性が増している理由
ガラケーからスマートフォンへとシフトしたことで、私たちが日々得ることのできる情報量は格段増え、コミュニケーションのあり方までもが大きく変容しました。こうした事例を考えれば、デジタル技術を活用することによって私たちが多くのメリットを享受できるのは今さら言うまでもないことのようにも思えます。
では、なぜ今あらゆる企業にとってDXの重要性が改めて強調されているのでしょうか。ここには主に次のような背景が関わっています。
業務の変革により付加価値を創出する必要があるから
現代の日本において、著しい不自由や不便を感じる場面は極めて少なくなっています。
かつて家電が三種の神器と言われた高度経済成長期には、白物家電が各世帯に行きわたるまで供給を続ける必要があり、「モノを作れば作るほど売れる」という状況にありました。
しかし、現代において「私たち皆が欲しいと思っているもの」はほとんど見当たりません。モノは行きわたり、飽和状態にほぼ達したと言ってもいいでしょう。
つまり、現代は高度経済成長期のように「懸命にモノを作り続ければ売れる」という時代ではなくなっているのです。
このような時代においては、労働集約的な働き方によって従業員が各々の時間を企業に差し出しているだけでは、価値のあるモノやサービスを生み出すのが難しくなります。
労働の価値は「単純な作業をいかに長時間、根気よく続けたか」で決まるのではなく、いかに付加価値を創出したかで決まります。
これまでの働き方や労働観を抜本的に見直し、生産性を向上させたり付加価値を創出したりすることに目を向ける必要があるでしょう。DXによって生産性・付加価値を共に向上させることが求められているのです。
老朽化・肥大化・ブラックボックス化を乗り越える必要があるから
日本の生産性が向上しない原因の1つに、レガシーシステム(時代遅れの古い仕組み)があるとしばしば指摘されます。
既存のシステムが老朽化・肥大化し、リプレースやカスタマイズを困難にさせていると言うのです。
一例として、金融機関の基幹システムでは1970〜80年代に書かれたCOBOLプログラムが現在も稼働していますが、システム全体の規模があまりに巨大であることから、一旦すべてを止めて新しいシステムに入れ替えるということが非常に困難になっています。
このように、老朽化・肥大化したシステムをいかに刷新していくかが大きな課題としてのしかかっています。
また、こうした古くからあるシステムを支えてきた人材が高齢化し、古い技術を扱える人材が減っていくことも問題になっています。
古い技術を扱える人材がいなくなればシステムはブラックボックス化し、運用を続けることそのものがリスクと背中合わせになってしまいます。
こうしたレガシーシステムの「壁」を乗り越えていく上で、DXが大きな役割を果たすと考えられているのです。
急激に変化していくビジネス環境に迅速に対応する必要があるから
いま私たちを取り巻くビジネス環境はかつてないほど変化の激しい時代を迎えています。
人々の嗜好や興味関心が細分化されたことに加え、技術が台頭してから廃れるまでのスパンが非常に短くなっているのです。
その結果、中長期的な事業計画を立てることが困難になり、予測不能なビジネス環境の変化に迅速に対応することが求められています。
一例として、宿泊業界では既存の宿泊施設をAirbnbが代替するようになり、富裕層はラグジュアリーホテルに宿泊して贅沢な気分を味わうよりも、いっそうユニークでかけがえのない「体験」を得たいと考えるようになりました。
このように、「古くからある大きなものが、新たに台頭した小さなものへと置き換わる」というディスラプション(破壊的変化)がさまざまな業界で起こるようになり、かつてないほどビジネスにスピード感や柔軟性が求められるようになりつつあります。
急激に変化するビジネス環境に迅速に対応する上で、DXによる抜本的なビジネスモデルの見直しが求められるようになっているのです。
DXへの取り組みにおいて注意しておきたい3つのポイント
ここまで見てきたように、DXは企業にとって「ベター」ではなく「マスト」の取り組みとなっています。
しかしながら、DXが注目を集めるにつれてDXそのものがバズワード化し、かつての「IT化」と混同されているケースも少なくありません。DXに取り組むのであれば、少なくともDXの本質や目的を履き違えないように注意しておく必要があります。
そこで、DXへの取り組みにおいてとくに注意しておきたいポイントをまとめました。これからDXに取り組む組織においては、次の点に留意してDXを推進していくようにしましょう。
ポイント①:「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」とのちがい
DXとよく混同されがちな概念に「デジタイゼーション」や「デジタライゼーション」があります。
デジタイゼーション(Digitization)とは
ビジネスのプロセスにデジタルツールを導入することで、効率化や合理化を図ること。
例)紙の伝票をExcelでデータ化し、さらに蓄積されたデータをリレーショナルデータベースで運用する。
デジタライゼーション(Digitalization)とは
ビジネスプロセス全体をデジタル化することで、新たな価値や利益の創出へと結びつけること。
例)店頭で販売されていたCDをストリーミング再生できるようにし、サブスクリプションサービスにする。
デジタイゼーションやデジタライゼーションはDXを実現するための通過点にはなり得ますが、DXはさらにその先にある社会的な価値や影響を見据えている点が大きな違いです。
新たな技術の活用はDXの手段にこそなれ、DX自体の目的や目標ではありません。
ポイント②:既存業務の代替はDXの本質ではない
DXへの取り組みを推進しようとする企業によく見られる動きとして、何らかのシステムを導入することが挙げられます。
しかし、システムの導入によって既存業務を代替すればDXを達成できるかと言えば、そこには大きな溝があると言わざるを得ません。
たとえば、コロナショックによって学習塾業界では映像授業を導入する事例が飛躍的に増えました。子どもが通塾できない期間、映像授業を配信することで学習機会の損失を防ごうとしたのです。
これは一見すると合理的な経営判断のように思えますが、実は致命的な矛盾を孕んでいます。なぜなら、もし通塾生が「自宅で映像授業を視聴すれば勉強できる」ということに気づいた場合、学習塾の存在意義そのものが危うくなってしまうからです。
映像授業を積極的に導入し、かつ成功を収めた学習塾ほど、今後ますますリアルでの授業の付加価値が求められるようになり、学習塾産業のあり方そのものの存在意義を問われることにもなりかねません。
このように、DXは新たなシステムの導入を推進すれば事足りるのではなく、DXによって根本的なビジネスモデルの転換を迫られる可能性も否定できないのです。
既存業無の代替はDXの本質ではないことを理解しておく必要があるでしょう。
ポイント③:新たなビジネスやサービスの仕組みの創出が最大の目的
DXの最大の目的は、新たなビジネスやサービスの仕組みを創出することにあります。
DXの要となる技術の1つにモビリティがあります。
私たちは日々、鉄道や自動車、航空機などさまざまな移動手段を利用していますが、その大半は「移動」を目的としています。今後、パーソナルモビリティが広く普及する時代が到来すれば、車は単なる移動手段ではなく「空間」を提供するものへと変貌を遂げるでしょう。
さらに自動運転技術がそこに加味されることで、移動中の時間を仕事や娯楽に利用することも可能になります。
移動中にプライベートな時間を過ごすことができるようになり、個々人の可処分時間が増大することで、パーソナルモビリティの中で楽しむことを目的としたコンテンツに注目が集まることも考えられます。
こうした「サービスとしてのモビリティ(MaaS)」が私たちにもたらすのは移動ではなく「空間」や「時間」ということになり、単なる乗り物という概念を超えた全く新しい価値が世の中に提供されることになるのです。
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DXに成功してビジネスを活性化させた事例
DXは遠い未来のことではなく、今すでにDXに取り組み、成果を挙げている企業も続々と出現しています。
DXの特徴として、業務が効率化され生産性が向上するだけでなく、新たな知見を獲得できることが挙げられます。
DXによってサービスや製品の価値をさらに向上させていく上での重要な試金石を得ることが可能になるのです。
DXによってビジネスを活性化させ、企業がさらなる成長フェーズへと突入していくことを予期させる3つの事例を見ていきましょう。
「お客様の声」の見える化(三井住友銀行)
銀行の窓口や全国の営業店に寄せられるお客様の声は、年単位で見ていくと膨大な量になります。
三井住友銀行では、年間35,000件にもおよぶお客様の声を効率的に分析し、分析結果から新たな知見を獲得するためにDXを推進しました。
テキスト含意認識技術によってお客様対応履歴の要約を抽出・分類して効率的に情報を整理し、同じ意味を含む文をグルーピングして定量的に把握できるようにしたのです。
この取り組みによって、それまで人の手で行ってきた情報の整理が大幅に効率化されただけでなく、分析が高度化し新たな知見を得ることに成功しています。
こうして得られた知見を現場にフィードバックしていくことで、多くの顧客が求めるサービスへと改善しやすくなり、顧客の期待値を上回るCS向上を実現したのです。
参照:https://jpn.nec.com/case/smbc/index.html
ラストワンマイル配送(イオン九州)
参照:https://paypaydash.yahoo.co.jp/campaign/start/
イオンはこれまでもネットスーパーを展開してきましたが、個々の配達先までトラックでまとまった量を運ぶ必要があり、注文してから実際に商品が届くまでのタイムラグが否応なく生じていました。
そこで、イオン九州はより早く機動的に消費者の元へ商品を届けることを可能にするサービス「PayPayダッシュ」の実証実験を始めました。
たとえるなら、Uber Eatsのスーパーマーケット版と考えるとイメージしやすいでしょう。スマホアプリから注文した商品は、最短で30分以内に自転車に乗った配達員よって届けられます。
この実証実験の結果は、実店舗から配達先までの即時配達にどの程度のニーズがあるのかを把握するだけでなく、取扱商品の検討や顧客の買い物体験向上にも活かされていきます。
需給双方にとってメリットをもたらす、物流分野におけるDXの好例と言えるでしょう。
服薬支援システム(大塚製薬)
脳梗塞の再発抑制を目的として服用される抗血小板剤「プレタール」は、毎日の欠かさない服薬が非常に重要なポイントとなります。
ところが、患者の飲み忘れや自己判断による服薬中止によって、服薬率は半年間でおよそ5割まで下がってしまうという報告もあるほどでした。
そこで、大塚製薬は服薬アシストモジュールとスマートフォンアプリを連携させた服薬支援システムを開発しました。
薬剤の容器に付けられた服薬アシストモジュールが服薬の時間をアラームで知らせ、開封・服用したことを察知するとスマートフォンアプリに記録されるという仕組みになっています。
服薬の履歴は家族へメール配信され、状況を把握することができます。また、こうして蓄積された履歴は薬剤師や医師が患者を指導する上で客観性・信頼性の高いデータとなるだけでなく、将来的に新薬の開発や既存の薬剤の改良においても役立てられていくでしょう。
飲み忘れ防止のための機能を服薬データの蓄積にも無駄なく活用している点が秀逸です。
参照:https://www.otsuka.co.jp/company/newsreleases/2017/20170127_1.html
まとめ)DXへの取り組みとスピード感は企業の明暗を分ける可能性あり
DXにスピーディに取り組み、少しずつ成功体験を蓄積していく企業は、そのたびごとに新たな気づきや知見を得てチャンスを手にしていくでしょう。
一方で、旧来の仕事のやり方や慣習から抜け出せない企業の多くは、急激に変化するビジネス環境から取り残されてしまう恐れがあります。こうして、DXに取り組み続ける企業とそうでない企業との差は今後ますます広がっていくでしょう。
このように、DXへの取り組みの度合いとそのスピード感は、今後の企業活動における明暗を分けていく可能性さえあります。
ご自身の職場においても、本記事の中で紹介してきた事例なども参考にしつつ、今後の会社と自分自身の成長のためにDXの推進を積極的に提案してみてはいかがでしょうか。
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