あなたの「コーチング」は、なぜうまくいかないのか?コーチングを必ず成功する実践法!?
[最終更新日]2023/11/03
「部下への育成(またはコミュニケーション)に、コーチングを活用しているのだけど、なかなかうまくいかない…」と悩んでいる方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
ティーチングと並んで「部下育成の二大コミュニケーション手法」として知られるコーチングですが、その難しさゆえにいざ使ってみてもうまく効果を発揮できなかったり、かえってぎこちないコミュニケーションなってしまったという話も良く聞きます。
そこで今回は、そんなコーチングにおいて、「なぜうまくいかないのか」という問題点から、コーチングをより満足いくものにしていく為の具体的な実践法についてお伝えしていきます。
ぜひご覧ください!
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Index
目次
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- 管理職になったら知っておきたい【コーチング】の基本
- [adsece_ety] そもそも、コーチングとはどんなもの? コーチングの概要と役割 まずはコーチングについて説明します。コーチングとは...
そもそも、コーチングってどんなスキル?
コーチングは相手のポテンシャルを引き出すコミュニケーションスキル
コーチングとは人材開発のコミュニケーション手法の一つで、対象とする人の成長を促すことを目的に行うものです。
「coach」という馬車を表す言葉が語源となっており、目的地まで馬車がひとを届ける役割を果たすことになぞらえて、対象者の目標達成をサポートするという意味で使われている言葉です。
コーチングにおける指導は、相手が目標・ゴールに向けて達成していくための道程を、自身で見つけられるようにサポートすること意識します。
そのため上司が部下にコーチングする場合には、相手の自主性や能力、可能性を引き出すように、そして、上司と部下という関係ではなく、「人と人」という対等な立場で対話し、対象者自身から気付きや答えを引き出すコミュニケーション・スキルが必要となります。
コーチングは4つのスキルで成り立っている
コーチングは対話を通して、対象者の中にある答えや可能性を引き出す手法であることは前述しました。
そのためには、コーチングを行う上司は、以下の4つのスキル・スタンスを身につけることが求められます。
コーチングを形成する4つのスキル・スタンス
- 相手の気持ちや可能性を信じる「信頼」
- 相手の話に耳を傾け続ける「傾聴」
- 相手の思いや意見を受け止め認める「承認」
- 相手の本意を引き出すための「質問」
コーチングを形成するうえで必要となるスキル・スタンスの1つ目は「信頼」です。
コーチングは、上司が対象となる部下の思いや成長の伸びしろ、可能性を信じることから始まるのです。
「自分が逐一指示しなくても、部下は自ら成長してくれる」と信じることが、何より重要です。
コーチングを形成するうえで必要となるスキル・スタンスの2つ目は「傾聴」です。
部下に自発的に行動してもらうためには、上司が相手の話をしっかりと聞くことが不可欠です。
上司が自分の意見をさしはさむことなく、相手の話を真摯に聞く姿勢が伝われば、部下も胸襟を開きやすくなります。
コーチングを形成するうえで必要となるスキル・スタンスの3つ目は「承認」です。
部下との対話の中で未熟さを感じたとしても、上司は自分との考え方の違いを受け止め、認める(受け入れる)ことが大切です。
部下は上司に認めてもらえたことで、より自主的に自分の可能性を引き出そうとするからです。
コーチングを形成するうえで必要となるスキル・スタンスの4つ目は「質問」です。
質問を投げかけ、部下がその回答を考える中で、自分の真意や可能性に気付けるきっかけを創出していくのです。
その過程で部下は眼前の事象や課題に対する認識を深め、そして自発的・能動的な行動を起こしやすくなります。
◇ ◇ ◇
「コーチングがうまくいかない…」「コーチングをしても、部下が響いてくれない」という方で、上記4つのスキル・スタンスを発揮できていなかったという場合は、まずそれらの点を意識して改善されると良いでしょう。
「信頼」「傾聴」「承認」「質問」の4点を意識しているにもかかわらず、コーチングがうまくいかないという方は、次章の「2)「コーチング」をやってみたけど、うまくいかない…その原因・背景は?」をご参考ください。
「コーチング」をやってみたけど、うまくいかない…その原因・背景は?
さて、コーチングの概要および必要とするスキル・スタンスを理解していながらも「コーチングがうまくできない」という方は、おそらく以下「失敗例」4パターンのいずれかに当てはまるのではないでしょうか。
それぞれパターンの原因・背景と対策についてまとめましたので、ご自身に当てはまるものがありましたら是非チェックしてみてください。
- コーチングの失敗例?#1 相手が乗り気にならない・テンションが低い
- コーチングの失敗例?#2 相手のアウトプット品質が高まらなかった
- コーチングの失敗例?#3 結局自分でやってしまった
- コーチングの失敗例?#4 結果的に、相手が自分に対して距離を置く、身構えるようになった
コーチングの失敗例?#1 相手が乗り気にならない・テンションが低い
原因・背景として振り返るポイント
- 相手(部下)の方で、現業務に関する「理解度」は充分にあるでしょうか?
- 相手(部下)のコンディション面は問題ありませんか?
- 相手(部下)との信頼関係は充分に構築されていますか?
- その他、相手(部下)の「心理的安全」は担保されていますか?
コーチングを行った際に、相手(部下)が「乗り気にならない」「テンションが低い」といった理由で思うような効果が得られなかった場合、「相手の現業務に関する理解度不足」、「相手のコンディション面の課題(ストレスの大きい状態、または鬱状態になるなど)」、「相手との信頼関係の構築不十分」、「相手の心的安全が損なわれている」といずれかに原因(背景)があることが考えられます。
これら原因・背景がある状態で、無理にコーチングを進めるのはあまり良い打ち手ではありません。
まずはそれら原因・課題に上司であるあなたも向き合い、より良い状態に向けての行動を検討するべきでしょう。
一つ注意したいのは、コーチングは部下・チームの成長を目指す上での「手段」であって、「目的」ではないことです。チームや部下、そしてあなた自身の状態によってはコーチングが「今優先して実施すべき手段」ではない場合もあります。
また、最近多くの組織の部下コミュニケーションで良く挙げられる課題としては、部下・若手社員の「心理的安全の欠如」があります。
心理的安全はコーチングのみならず、業務上の協働・チームワークにおいて大きな影響を及ぼしますので、この点について課題感を持たれた方は併せて以下記事をご参考いただくことをおすすめします。
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コーチングの失敗例?#2 相手のアウトプット品質が高まらなかった
原因・背景として振り返るポイント
- 上司側で「答えありき」のコーチングを行っていなかったか
- 上司側で、コーチングの効果や、部下の変化を「即自的なもの」と捉えていないか(時間軸の捉え方は適切か)
- 相手(部下)の成長ペースに対する期待値は適性だったか?
- 相手(部下)は、自発的な思考よりも「上司の期待に応えよう」という意識が強まっていなかったか
さて、コーチングを行って「相手(部下)のアウトプット品質が高まらなかった」と悩む上司の方は、はじめにご自身の「コーチングの本来の目的」を振り返る必要がありそうです。
と言いますのは、コーチングの本来の目的は「部下自身の気づき・成長を促す」ことにあり、「上司の期待するアウトプットを出す」ことは直接的な目的ではないからです。
また、どんな業務にせよ、現状よりさらに高みを目指す際には、まず携わる人たちの「新たな気づき」や「成長」があって、遅れて「成果・結果」が顕れます。
コーチングは、現業務のアウトプット品質を「直接」的に高めるものではないことについては重々認識しておくべきでしょう。
更には、私自身の経験も含めて伝えさせていただくと、一回のコーチングアクションですぐに新しい気づきを得られる部下がいた場合、それはその部下が非常に優秀だからであって、決してあなた自身のコーチングが優秀だからではありません(事実としてそう言い切れるかどうかはともかく、そう思って部下と接するべきです)。
大抵の場合、上司は何度も何度もコーチングを重ね、それに合わせて部下が少しずつ気づき・成長を得ていく流れになるものです。
コーチングは、部下の「アウトプット品質」に向けて行うものではなく、部下の「新たな気づきと成長」に向けて行うべきであり、そして一朝一夕で変化がわかりやすく出るものではなく、時間と回数をかけての丁寧なコミュニケーションがあって成果が出ることが多いことを、意識しておくと良いでしょう。
コーチングの失敗例?#3 結局自分でやってしまった
原因・背景として振り返るポイント
- 相手(部下)の成長ペースに対する期待値は適性だったか?
- (その業務に関して、)部下の成長よりも業務の達成度への優先度が勝っていなかったか?
- コーチングで部下に検討してもらう対象の、「難易度」は適切だったか?
このケースで特に注視したい振り返りポイントは、2点目の「部下の成長よりも、業務の達成度への優先度が勝っていなかったか?」という点です。
多くの業務は「期限」や「スピード」を求められますので、「この業務は部下ができるようになるまで待っていたら、取り返しがつかなくなる」ということも少なくないでしょう。
前項でも述べましたが、コーチングは目に見える成果や変化が顕れるまで少なからずの時間を要するものです。
もしその時間を許容できない場合は、コーチングではなくティーチングによる指導を行うか、もしくは対象の業務をもう少し細かく分解して、「この範囲だったら部下の方で(比較的早く)キャッチアップできるだろう」または「万一うまくいかなくなっても、取り返しを付けやすい」という範囲でコーチングを実施すると良いでしょう。
コーチングの失敗例?#4 結果的に、相手が自分に対して距離を置く、身構えるようになった
原因・背景として振り返るポイント
- 相手(部下)のコンディション面は問題ありませんか?
- 相手(部下)との信頼関係は充分に構築されていますか?
- その他、相手(部下)の「心理的安全」は担保されていますか?
- コーチングで部下に検討してもらう対象の、「難易度」は適切だったか?
4つ目のパターンについては、まずコーチングという行為自体が部下の方にも相当のプレッシャーや難易度を与えることを意識されると良いでしょう。
業務において「自分で考えてみる」ということは、すなわち「(人の助けを借りずに)自分一人で考える」こと、そして「考えて起こした行動や結果に対して、責任を持つこと」にも繋がります。
それらに対してチャレンジ精神旺盛に取り組む部下も中にはいるでしょうが、全員がそうではありません。
あなたが部下に対してコーチングのコミュニケーションを取る際に、部下の心境がどう反応するかも注視しておくことをおすすめします。
一方で、部下があなたのコーチングによってプレッシャーやストレスを感じたとして、それ自体が悪いことであるとは限りません。そのプレッシャーやストレスが、部下のこれからの成長を目指す上のきっかけであったり、もしかしたら「ぬるま湯」状態になっていたところからの脱却に繋がるということもあるでしょう。
コーチングは相手との信頼関係が前提とされますが、コーチングによるいっときの緊張関係や部下のプレッシャーは長い目で見たときに「必要となる」ことも少なくありません。
コーチングによって部下が身構えたり距離を置くようになったとき、それ自体を「結果」とするのではなく、その状態を「一つの過程」として見て、その先にどんな展開があるのかを見据える「中長期的な視点」が、私たち上司には求められるのです。
あなたのコーチングを、より「有意義」になものにしていくための実践方法
さて、ここからはコーチングによる指導をより「有意義」なものにしていくための、具体的な実践法についてお伝えしていきます。
すでにコーチングの流れを知っているという方にも、それぞれのステップで「意識しておくと良いポイント」を紹介していますので、おさらいの意も込めてご確認ください。
コーチングを進める5つのステップ「GROWモデル」
コーチングは、基本的には以下の5つのステップを踏みつつ、進めていきます。
- Step1 目標(ゴール)の設定
- Step2 現状の把握
- Step3 リソース(資源)の発見・明確化
- Step4 選択肢の創出
- Step5 意思の確認
それぞれのStepごとに、流れを確認していきましょう。
Step1 目標(ゴール)の設定
ポイント
- 目標・ゴールの「前提条件」は基本上司の方で提示する
- 目標・ゴールは、相手(部下)が行動に移せる程度に「明確」にする
- 相手(部下)にとって、適切な「難易度」の目標・ゴール設定になるよう促しかける
どんな業務も、目標・ゴールがなければ適切な行動には繋がりません。
まずは、コーチングの対象となる業務において、目標・ゴールを設定します。
また、上司は、目標・ゴールを定めるうえでの「前提条件」を部下に伝えていきます。
このステップで重要となるのは、「目標・ゴール」をどこまで具体的に描かせるかという点と、「前提条件」をどこまで提供するかです。
例えば、「クライアント向けの企画書を作成する」という業務においては、以下のような前提条件と目標・ゴールを示すことができるでしょう。
前提条件 | ・〇月〇日までに、企画書をクライアントに提出する必要がある ・クライアント提出の事前(遅くとも2営業日前)に、上司のレビューを設ける ・今回提出する企画書には、以下を含める必要がある >サービス概要、導入メリット、予算(見積もり)、導入スケジュール ・以前別のクライアントに向けて作成された過去資料があるので、それらも参考にして作成する ・事前にクライアントのニーズを確認し、そのニーズに合わせて企画書内の構成や訴求ポイントを調整し、作成する |
---|---|
目標・ゴール | ・部下の方で、以下を実現・達成することを目指す >企画書作成・提出に向けて期日に沿って実現できること(また、その為のスケジューリングを行うこと) >上司へのチェック・レビュー機会を適切に設けること(自分から報連相する) >企画書作成の一通りのながれを、部下のほうで行い完成させること >クライアントへのニーズ確認のコミュニケーションを、部下主体で行うこと |
上記「目標・ゴール」の内容はあくまで例として挙げています。部下の経験値やスキルに合わせて、任せる範囲を調整すると良いでしょう。
この際、部下はあくまで「業務遂行」を意識して目標・ゴールについて検討しがちですが、上司は合わせて「新たな経験・気づき」にも目を向けるよう促すことが大切です。
例えば、プロジェクトのスケジュール作成をこれまで行ったことのない部下でしたら、「良い機会だから、スケジュールの作成もやってみようか。参考になる資料やポイントは事前に伝えておくから、チャレンジしてみたら」といったように伝えるなど、部下に新たな「チャレンジ目標」を意識させることも効果的です。
Step2 現状の把握
ポイント
- 現状において「何が理解できていて、何が理解できていないか」について、基本部下に考えてもらう
- 部下の「理解できていない」要素について、直接回答を伝えるか、「何をすればそれが分かるようになるか」を伝えるか、上司側で適宜判断しながらコミュニケーションを取る
業務の目的・ゴールを定めた後は、「現状の把握」へと進みます。
ここでは、目標・ゴール達成の為に「現在どんな状況で、何をすればよいのか」を明確にしていきます。
このステップで重要となるのが、「上司が伝える(教える)」割合と、「部下が考える」割合のバランスをどう持たせるかです。
現状において「何が理解できていて、何が理解できていないか」について、基本部下に考えてもらうようにしつつ、必要に応じて上司側の方でも部下のほうで見きれていない箇所・ポイントを伝えていくと良いでしょう。
また、それらを伝える際も、直接回答を伝えるか、「何をすればそれが分かるようになるか」を伝えるかを適宜判断しながらコミュニケーションを取ることをおすすめします。
Step3~4 リソース(資源)の発見・明確化、選択肢の創出
ポイント
- この時点で、部下に少なからずの「不安感」が見られる場合は、Step1~2に戻る
- これから行う業務の「優先順位」および「スケジュールの見積もり」について、部下に考えてもらう
- 上司がどこまでフォローするか等、「上司の役割」を明確にする
- 目標・ゴールに向けてのアクションにおいて複数候補がある場合、「どれが一番適切か」の判断軸を持てる手助けを行う
現状把握を終えた後は、Step3~4の「リソース(資源)の発見・明確化」および「選択肢の創出」に移ります。
このステップに入った際に、部下に不安な様子や気乗りしない様子が見られた場合は、無理に進めようとせず、いったんStep1~2に戻ってみることをおすすめします。大抵の場合わからないことがあったり、目標の難易度が高すぎることが原因としてあるからです。
また、このステップで明確にすべきは「細かい業務の優先順位」、「スケジューリング」および「上司、またはその他関係者も含めた)役割分担」です。
それら項目は(必要に応じて)上司から伝えるものの、具体案は基本部下に考えてもらうように進めると良いでしょう。
Step5 意思の確認
ポイント
- 再度、目標・ゴールが何かを確認する
- ここまでのプランに対して、部下が「うまく進められる」と認識しているかを確認する
- 部下が目標・ゴールの達成に向けてどれだけの意思・意気込みがあるかを確認する
- コーチングのコミュニケーションを終えた後、上司側でも「その後の進捗」を確認する機会を持つ(※確認頻度は、部下の経験値やスキル、および性格等に合わせて調整する)
Step4まで進んだ後は、最後のステップ「意思の確認」です。
ここで言う意思は、目標・ゴールの達成に向けての「実現できるという認識(または確信)」および「意識・意気込み」についてです。
これらの意思が不十分と感じた場合は、前のステップに戻るか、一部ティーチング等の指導を加えるべきかを上司の方で検討する必要があるでしょう。
また、コーチングは対面上のコミュニケーションのみで完結するのではなく、その後の部下の行動をしっかり観察し、適宜フォローすることも求められます。
もちろん、進捗確認等の報連相は部下の方からしてきてくれる方が望ましいですが、特に初めての業務を任せられた際、その報連相のタイミング自体も部下にとっては非常に難しく感じるものです。
たまにコーチングは「放置型の指導法」と解釈される方もいますが、実際はその対極にあります。
あくまでアクションの主体を部下に委ねながらも、上司はその経緯をしっかりと見守って、しかるべきタイミングで確認のコミュニケーションやフォローアップができるように意識すべきでしょう。
コーチングは、回数を重ねて効果を確認していくもの
ここまで、コーチングの流れごとのポイントをお伝えしてきました。
冒頭でも触れましたが、コーチングの指導法には相応の難易度も伴います。
一回のコーチングの結果やそのときの部下の反応で一喜一憂したり、成功・失敗の即断はしないほうが良いでしょう。
コーチングをレトリック(技巧的)なものとして捉えすぎず、また一回のアクションに終始するのではなく、継続し、ときに何度も何度も繰り返して、その成果を象っていくもの──そのように捉えて、臨まれることをおすすめします。
私のコーチング体験談
私が月刊紙の編集部に所属し、副編集長として采配を振るっていた時の話です。
その当時、会社が社会人経験のない既卒者を3名採用しました。そのうち1名が編集部に配属されたのですが、編集希望だったわけではなく、読書習慣もなかったことから、まず業務上必要なスキルを教えることから始めました。
紙面ができるまでの過程や記事をつくるプロセス、原稿の作成や入稿方法、校正記号の書き方、校正・校閲の注意点などをマニュアルにそって説明し、研修期間終了と同時に短いコラム記事など、差しさわりのないページから実務を任せてみました。
当初は指定の文字数で原稿が書けるようになることが目標だったので、資料やテーマは私が用意して渡していました。
そしてアップした原稿をチェックして、テーマと内容のずれや日本語表現などについてフィードバックすることをくり返していたのです。
半年ほどたって原稿が一定レベルで書けるようになったことを確かめたうえで、私はその部下に自分でテーマを考え、資料を用意して、私にプレゼンして許可をとってから原稿執筆するように、仕事の進め方を変えると告げました。
本人も了承しましたが、期日を過ぎてもテーマに関する相談がなく、締め切りが近づいてもアクションがないので、自分から声をかけました。
すると、テーマすら考えていなかったことがわかったのです。
さすがにびっくりして私は、「なぜそんなに進んでいないのに、相談に来なかったのか」と伝えました。するとその部下は、「どんなテーマが適しているか分からなかったから」と言いました。──いや、だから、それだったらなおさら相談に来るべきだろうと思いましたが、部下は表情を暗くして、同じような言葉を繰り返すばかりでした。
しばらく部下の様子を見ていて、私は「もしかしたら、この状態は部下の落ち度というよりも、起こるべくして起きたことかもしれない」と思い始めました。そして、(若干時間は要しましたが)ようやく以下の点に気付いたのです。
・私自身が、無意識にティーチングからコーチングの指導法にシフトしていたこと
・設定した「目的・ゴール」が当時の部下にとって難易度が高く、その為部下が不安・混乱状態にあったこと
・部下のスキルや状態を、私が適切に把握していなかったこと
・当時の部下と私との信頼関係が、まだ十分に培われていなかったということそこで私は、「それだったら」と思い、まずは部下の不安感や混乱を取り除くコミュニケーションを取り、その後少し時間を置いてから、今度ははっきりとコーチング的指導を意識した指示を行いました。
具体的には、まず部下に対し、今回の業務の具体的な成果物とその成果物が私たちチームにとってどんな役割・位置づけになるかを説明しました(Step1 目標・ゴールの設定)。
その後、現状わからない点や疑問視している点についてヒアリングし(Step2 現状の把握)、業務を効果的に進めていく為にこれまでの過去資料が役立つこと、まずはそれら資料を自分なりにまとめておくことを提案しました(Step3~4 リソースの確認、選択肢の創出)。
そして、その結果を踏まえて、どのようにテーマを考えて、どんな資料を探したらよいと思うかを質問していき、部下のゴールイメージを明確にしていきました(Step5 意思の確認)。
この過程においてもかなりの試行錯誤はありましたが、その後部下の業務品質ははじめ少しずつ改善していき、だんだんとそのスピードは高まっていったのです。
◇ ◇ ◇
このときの経験は、私にとって部下育成における手痛い失敗から始まって、最終的にはコーチング指導の成功事例として実を結ぶことができました。
そして何より思ったことは、「部下が私の指導に、途中であきらめずに真摯に応えようとしてくれたこと」への感謝です。
コーチングの成否を決める最も重要な要素は「主役はあくまで部下(相手)」であることを、どこまで深く認識できるかにあるように思います。
指導者が「コーチングスキル」を高めようという意識は大切ですが、それ以上に「相手のことを信じて、より深く知ろうとする」──その意識がコーチング指導の成果に関わるのではないでしょうか。
まとめ)コーチングは、「相手の成長を信じ、願う」行為のひとつ
「あなたの「コーチング」は、なぜうまくいかないのか?コーチングを必ず成功する実践法!?」というテーマで、ここまでお話をしてきました。
コーチングをより有意義にしていく為のポイントをいくつかお伝えしましたが、ここで最後に、「コーチングを『成功させる』という考え方は果たして適切なのか?」という問題提起をもって、この記事を締めさせていただければと思います。
本テーマと矛盾するような問題提起ではありますが、そもそもコーチングが成功したかどうかは私たち指導者よりも、コーチングを受ける部下側が主体となって判断するべきです。
そして部下が「あのときのコーチングのおかげで、今の自分、これまでの成長がある」と気付くことは、もしかしたらあまりないのかもしれません(そう気づいてくれる部下もきっといるでしょうが、すべての部下にその気づきを強要することはできないでしょうから)。
ともすると、私たちコーチングを行う側にとって、本当に求められるのは「コーチングの成否を実現するスキル」よりも「コーチングによって相手の成長を信じ、願う」気持ちの強さなのではないでしょうか。
また、コーチングは実施する人によって、その進め方や大切にする要素、与える印象は異なります。
「コーチングはこういうもの」「こうしなくてはいけない」という画一的な捉え方をあまり持ちすぎず、それよりもあなた自身が願う、コーチングによる部下との触れ合いによって真に得られるものをイメージしていくことも大切だと、私は思います。
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