管理職になったら知っておきたい「大人の発達障害」について
[最終更新日]2023/11/03
「大人の発達障害」という言葉をご存知でしょうか?
もしかしたら既に、部下にこの発達障害を診断されている方をお持ちである、もしくは会社などで関連するセミナーなどを受けて、その傾向に心当たりがある部下がいるー、という方がいらっしゃるかもしれません。
本記事では、そのような「大人の発達障害」とその傾向にある部下を持つ管理職の方々のために、この障害の基本的な背景・知識から、仕事を一緒にしていくための対応方法について、具体的なケースとあわせて、ポイントをご紹介していきます。
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目次
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そもそも、「発達障害」ってどんなもの?
本内容で取りあげる「大人の発達障害」は、知的障害や言語障害と同じ先天的な障害の1つで、次の3つの能力が劣る「3つ組の障害」(アスペルガー症候群)とも言われます。
- 1.コミュニケーションの障害
- 2.社会性の障害
- 3.想像力の障害
これらは、社会人として会社・組織で仕事をしていくために求められている能力で、障害を持つ方は、この3つの能力が一般的に要求される発達水準に達していない状態を指します。
さらに、知覚や言語の障害のように、成長段階で明らかな発達の遅れがないため、障害と認知されづらいことからも、職場でのトラブル原因にもなりやすい障害ともいえます。
今回、この「3つ組の障害」について、職場で起こりやすいトラブルとその防止方法について、説明をしていきます。
コミュニケーションの障害
相手のしぐさや表情から、相手の気持ちや言葉には出していない意図を、読み取ることが困難な状態を「コミュニケーション障害」と言います。
いわゆる比喩、冗談、皮肉といった「婉曲表現」の理解が苦手です。またこれとは逆に、自分の考えていることを要約して伝えることや、相手が欲しい情報を選んで説明することも不得意です。
ケース(1)
営業の商談をした際、先方が少し考え込むような表情をしながら、「これは良い製品だと思うのですが、少し検討にお時間をー」といった、相手の社交辞令や判断のポーズに対して、
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「いい製品とおっしゃっていただけているのに、なぜいま契約をいただけないのでしょうか?」
などと発言してしまう。本人は言葉通りに受け取っただけ、と思いまったく悪気がない。
ケース(2)
社内のミーティングなどで、担当の案件について報告をした際、上司や他部署の人から「結局、何をいいたの?」という質問に対して、簡潔な回答ができず冗長な回答を繰り返してしまう。
もしくは、「その説明じゃわからないよ」という指摘に、逆に相手が何を「分からない」と言っているのか理解できず、
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(自分はちゃんと説明しているのに、なんで理解してくれないんだろう…)
と不満を抱いてしまう。
社会性の障害
「社会性の障害」は、同僚や社外の方など、他人と一緒に行動したり仕事をしたりする際、協調・同調するために、どのように振る舞うべきか、という理解がない。もしくは、それを頭でも理解していても、行動にできない状態を指します。
いわゆる”社会のマナー”や”空気が読む”のが苦手な状態です。
ケース(1)
顧客の会社や店舗を訪問した際、先方のオススメのお店を紹介され、一緒に食事をする場面。先方のオススメの料理やお店にも関わらず、
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「このお店の料理は美味しくないですね」
「このお店、ネットの評判悪いですよ」
と、先方の好意を否定するような発言をしてしまう。
特に、こういう発言が失礼にあたると思わず、むしろ自分の考えや事実を正直に言っているだけ、と考える傾向にある。
ケース(2)
面談や打ち合わせの際、まったくアイコンタクトをとらない。
「あまり印象が良くないから、アイコンタクトを取ったほうが良いと思うよ」と、部下の態度にアドバイスをするも、実はその部下もアイコンタクトは会話上のマナーである点は頭で理解はしているが、恐怖心や不安から、どうしても行動ができない、行動することを促されるに苦痛を感じてしまっている。
想像力の障害
「想像力の障害」は、自分の安心できるルールや環境を強く求める心理が働き、その結果、決まった行動から外れることを嫌い、想定外のことをイメージするのが苦手です。また、興味の対象が非常に狭く、融通が利かない、という特徴もあります。
ケース(1)
明らかにエクセルの操作効率が悪く、時間短縮のためにもショートカット・キーをいくつか教えたのに、一向に試してみたり、覚えようとしてくれない。何度か助言しても、
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「自分のやり方が一番しっくりくるんで。」
の一点張り。また、社内の業務フローや業務ソフト変更が決定・決定した際、人一倍にストレスを感じてしまう。
ケース(2)
多くの部門が関わるプロジェクトや緊急のトラブルが発生したとき、自分のこだわりや考えがある事象について、周りの意見に耳を傾けず、データ調査や解析をしてしまう。
結果、コストやスケジュールを度外視したり、意思決定に不要な情報に時間を裂くなど、全体の進捗に影響を及ぼしてしまう。
発達障害・もしくは傾向のある部下と接する際のポイント
「3つ組の障害」の特徴を、どのように感じられたでしょうか。 1つ1つの障害は、程度の差はあれ、自分の性格や苦手なことにあてはまる。もしくは社内研修などで行う業務・性格のマッチング診断で助言された内容―、という印象を持った方もいるかもしれません。
ここでは、仕事における「3つ組の障害」の対応方法を紹介していきますが、それらは、いま行っている仕事とまったく別次元のスキルを求められるものでありません。むしろ、組織を効率的に運営するマネジメントスキルの延長線にあるともいえます。
業務上の事例を交えつつ、その具体的な対応について、ポイントを紹介していきます。
指示は可能な限り具体的にする
「コミュニケーションの障害」で説明した通り、当人は言葉を額面通りに受け取ってしまう傾向にあります。
指示内容は、具体的に、ストレートに伝えることが重要です。特に業務の指示に関しては、「5W1Hを含ませる」。「形容詞を使わずに数字で伝える」がポイントです。
対応例(1)
- ×:「なるべく早く、A製の直近のアンケート評価結果をまとめて連絡して。」
- ○:「明日の午前11時までに、A製品の先月のアンケート評価結果を20件分、連絡して。」
「なるべく」「だいたい」「すぐに」「ちょっと」といった曖昧な表現ではなく、「11時まで」「20件分」「30分後に」「○○さんに」といった具体的な表現を心掛けましょう。
対応例(2)
- ×:「一度途中経過を確認したいから、今日の午後3時に連絡して。」
- ○:「一度途中経過を確認したいから、今日の午後3時に資料をメールで送って。」
「メールで」「資料を添付」という具体的な指示がないと、本人は直接報告したり、電話をする、もしくは資料ではなくメールの本文で概要だけ報告する、と思うかもしれません。
実はこの上司は、出張で会社に不在になるために出先でみる、というつもりでこの指示を出したものの、具体的な指示がなかったために、本人は「上司が不在だったので報告できませんでした」と報告する可能性もあります。
予定・業務内容は視覚化して伝える
発達障害のある人は、耳から入る情報への反応・処理が劣る傾向にあります。できるだけ目から情報が入る形で指示をしましょう。どうしても、口頭での指示の場合、指示を「復唱させる」といった方法も有効です。
対応例(1)
業務フローやソフトの操作、業務スケジュールをフロー図やマニュアル、スケジュール表にして伝えましょう。
資料を渡して、具体的な期限を指示すれば、わざわざ同僚や前任者に時間を取ってもらって説明を受けるよりも、早く正確に内容を取得してくれることも期待できます。
対応例(2)
上で紹介した「復唱」と同様な効果を出せる方法として、その場でメモを取るよう促したり、口頭や電話、ミーティングの中で指示をした内容を、改めてメールで送るのも非常に有効です。
強みを活かせるように仕事を割り振る
発達障害には、上で紹介したような短所がある一方で、他の人と比べて秀でた特性、長所もあります。
職場環境・仕事の割り振りによって、その強みを生かし、障害の弱みをカバーすることは十分に可能です。上で紹介した指示の方法を守った上で、適した仕事を割り振れば、力を発揮してくれることが期待できます。
強みを生かした仕事
- ・数字や出来事から事実を正確に抽出する力
例)データ調査、情報管理、設備保全 - ・法律、条例や規則、専門知識をベースに判断する作業
例)品質管理、安全管理、法律・財務、経理 - ・映像、文字、数字といった視覚化された情報の処理
例)プログラミング、CADオペレーター、チェック作業
参考に、力を発揮できずトラブルを招きやすい仕事内容も紹介しておきます。
苦手な仕事
- 相手に合わせる、フレキシブルな対応が求められるサービス業
- 自分にとってあまり興味や関係のない商品・サービスの営業
- 部門、顧客など立場の違う関係者間を調整する仕事
アドバイスや相談をするときは、事前に軽く伝えておく
「想像力の障害」の根本にあるものは、決まったルールから逸脱することへの不安です。とにかく事前に伝えることを鉄則として、相手の不安を和らげて、安心感を持ってもらうことがポイントです。
こちらの希望やり方が「本人のルール」になれば、逆にそれは誰よりも効率的に処理してくれる可能性もあります。
対応例(1)
業務については、本人のやり方が出来上がる前に、マニュアルなどを配布して、先に指示を出しましょう。 もし既に出来たルールの変更の場合は、突然変更するのではなくて、「事前告知」「試験期間」といった準備を必ず設けましょう。告知は早ければ早いほど、準備のステップは多ければ多いほど有効です。
対応例(2)
緊急な仕事の依頼の場合は、「最低限何をしてほしいか」「一緒関わるメンバーはどんな人か」「もし判断に迷った場合は誰に相談するか」「社外とのやりとりが発生するときは、簡単なシミュレーションをする」の4点に絞って、事前の指示をだしましょう。もちろん、指示は、メールやメモ書きがベストです
発達障害をきっかけに起きる可能性のある影響
「大人の発達障害」の最大の特徴は、冒頭でも紹介したように障害と認知されづらく、自分自身でもその自覚がないことがほとんどである、という点です。
事実、約4000人に1人の割合で発症するとも言われている本障害ですが、本人や身近な人に自覚がない場合も含めると、その発症数はさらに多いと考えられています。
そして、この「認知されづらい」特徴が、障害の当事者ならびに周囲人たちに、二次的な影響(「二次障害」と「カサンドラ症候群」)を与えてしまうリスクを持っています。ここでは、この2つのリスクについて、発生のメカニズムと対応法を紹介します。
管理職自身もかかる可能性がある「カサンドラ症候群」
「二次障害」によるリスクは、実は、障害を持っている当人だけではありません。
障害のある部下を管理する管理職の方、もしくは一緒に仕事するメンバーの方も、対応をしていく中で心身に不調を感じてしまう「二次障害」(「カサンドラ症候群」)を発症するリスクがあり、障害を持つ方への対応方法と併せて、ケアすべき大事な内容と言えます。
部下が発達障害だとわかり、ここで紹介してきた具体的な対応方法を実行したとしても、当然ながら、時々で意思疎通が困難の場面に遭遇したり、組織の中でトラブルが起こってしまうことは避けられません。
その際に、管理者自身が、必要以上に自身の管理能力の低さを責めてしまったり、管理そのもののストレスを感じやすくもなります。
また、当人同様に、やはり周囲の認知・理解は難しい(例え部署として理解が合っても、他の部署や顧客まで認知されていない環境)ゆえに、孤独感を感じてしまう場面もあります。
症状は、偏頭痛や自律神経失調症、自己評価の低下や抑うつなどさまざまです。自分がカサンドラ症候群かもしれないと思ったら、専門機関や病院に相談したり、冷静になるためにも距離をおき、一人の時間を持つといいでしょう。
当事者も管理職も「1人で抱え込まない」ための工夫が必要
職場で発達障害、もしくはその傾向がある人がいる場合、紹介してきた「二次障害」や「カサンドラ症候群」を発生させないためにも、当事者も管理者の両方ともが、「1人で抱え込まない」環境づくりが大切です。
当事者
障害ゆえに、本人では制御・改善はできない、また、制御できないことにコンプレクスを抱えて「二次障害」になる、というリスクがある以上、周りのサポートが必須です。
例えば、日本語が流暢でない外国人の方が職場にいる場合、お互いに価値観や言語が違う、という前提で仕事を共に勧めます。これと同様です。
この障害への理解があれば、どういう点で困りそうか、サポートをした方良いか、逆にこれは得意だからお願いしよう、という意識が生まれます。本人も相談を受け入れ易くなるはずです。
管理者
専門家でない以上、管理の上で、心身へ負担をともなうことは避けられません。無理は禁物です。もちろん、リスクを考えれば、専門家に頼るのはベストな対策ですが、会社で契約するのは、おそらく簡単ではないでしょう。
そのような場合、担当者を一人にするのではなく、必ず職場の複数人で支援することを前提として対応しましょう。
まとめ 「認知」・「理解」こそが、取り組みの第一歩
いかがだったでしょうか。「大人の発達障害」にどのような印象を持ちましたか?
今までまったく知らなかったー、という方もいらっしゃったかもしれません。ただ、そのような感想こそが、この発達障害を取り巻く最大の課題であり、同時に、一番の解決のヒントともいえます。実は、この発達障害への認知はまだ不十分で、同様の感想を持つ方は多いのが現状です。
本人を含め、周囲のできるだけ多く方が、ここで紹介したような職場のトラブルは「症状」であり、それは「障害が原因である」という「理解」の浸透こそが、この障害と向き合う最も重要な取り組みの1つです。
ぜひ内容を参考いただき、発達障害を受け入れる、より良い職場の体制を作っていただければ幸いです。
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