あなたの合理性は鈍っていないか?ヒューリスティックと認知バイアスについて
[最終更新日]2023/11/06

ビジネスには欠かせない「合理性」。論理に基づいて行われるからこそ周りも納得し、効率よく仕事を進めることができます。
しかし無意識のうちに「考えているようで実は主観に流されている」、そんなことも人間には多々起こるようです。
今回はそんなビジネスにとって大敵な、合理性を欠く思考に繋がる「ヒューリスティック」と「認知バイアス」についてご紹介します。
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Index
目次
ヒューリスティックとは?

ヒューリスティック(ヒュリスティックとも)
物事を直感的につかむ人間の基本特性のこと
私たちは横断歩道を渡る時、「今は青だから渡ることが…できる!」と考えて歩くでしょうか?おそらく信号機が青色に点灯になっているのを見て「よし渡ろう」と反射的に行動すると思われます。
このように物事を直感的につかむ人間の特性をヒューリスティックと呼びます。
実は私たちは普段情報にまみれています。
ドアを開けて前に進むだけでも「ドアのノブは手を使ってひねって押せば扉が開く」「まず右足を前にそして左足を前に」と1つ1つ考えていると膨大な時間がかかります。
そこで人間は経験と直感である程度行動できるように、ヒューリスティックが備わっているのです。
しかしヒューリスティックは論理的に考えなければならない時でさえ起こっていることもあり、それがビジネスでは妨げとなってしまうこともあります。
ヒューリスティックの種類(一部)
ヒューリスティックには多数種類があります。その種類の内容を知っておけば、「こういう場合はヒューリスティックが起こりやすいから気を付けなければ」と注意しやすくなります。
今回は多数ある中でも代表的なヒューリスティックをいくつかご紹介します。

代表性ヒューリスティックス
一部の少ない情報を元に、他の関連性のない事柄までも判断を下してしまう特性です。
例えば高級なスーツを着てシャキッとした人と、よれよれの作業服を着た人がいるとします。どちらかがこのビルの社長ですと言われると、スーツを着た男性が社長だと判断してしまわないでしょうか?
しかし高級なスーツと社長であることには何の論理性もなく、また社長が作業服を着ている場合も十分にあるのです。
また、いくつもの名作を生み出している名監督であれば、次回作も絶対に面白いはずだと見に行ってしまわないでしょうか?
これも実は名監督であっても次回作が100%面白いという論理にはつながらず、経験則に基づく考えなのです。このような考えを代表性ヒューリスティックスと呼びます。
再認ヒューリスティックス
自分が知らないものよりも、すでに知っているものを高く評価してしまう特性です。
例えば人からもらったお菓子を「これは普通だな」と思って食べていても、実は超高級有名ブランドのお菓子だったと知ると、途端に美味しく感じてはこないでしょうか?
しかし食べているものはお店を知る前のものと同じであり、もちろん味に違いはないはずです。
スポーツに例えると、優勝候補の1つと呼ばれる有名高校と無名で大会記録はない新設の高校が試合を行うなら、もちろん有名高校が勝つだろうと思ってしまわないでしょうか?
しかし本当は無名高校側の強さは全くわからないので、論理的に考えると勝率は五分五分です。このような考えに至ってしまう特性を再認ヒューリスティックスと言います。
感情ヒューリスティックス
自分の好き・嫌いという感情が無意識のうちに判断にも影響してしまう特性です。
例えば自分の好きな人が「大丈夫?」と声をかけてくれたら「自分を心配してくれているんだな、優しい人だな」と感じますよね。
しかし一方で自分が嫌いでたまらない人が「大丈夫?」と声をかけてくると、「お前に心配される筋合いはない」「自分を見下しているのか?」と感じてしまう人もいるでしょう。
本当は嫌いな人も心配してくれている可能性は十分にありますが、感情ヒューリスティックスで嫌いな人を無意識のうちにマイナス評価してしまっているのです。
これは恋愛においてもよく見られます。好きだと自覚するとその人が何をしていてもかわいく見える、友達なら怒ることも好きな人ならそんなに悪いこととも思えない、というのも感情ヒューリスティックスと言えるでしょう。
認知バイアスとは?

認知バイアス
人間が物事を評価するとき、 自分の利害や希望に沿った方向に考えが歪められる、またこれまでの経験や先入観にとらわれるなど、人の思考を無意識のうちに誘導するものである。
認知バイアスとは、物事を評価する時に自分の経験や先入観によって無意識のうちに考えが歪められるものです。合理的に判断しているとは思っても、実は認知バイアスがかかってしまっていたということはよくあるのです。
例えばケンカの仲裁に入った時、自分としては中立の立場で考えて「AはBに謝るべきだ」という判断を下したとします。
でもそれは本当に中立だったでしょうか?「この前自分もAに嫌な思いをさせられた、今回もそうに違いない」「Bは普段からいいやつだ、絶対にAが言うようなことはしないはずだ」という気持ちに動かされたということはなかったでしょうか?
バイアスは無意識のうちにかかってしまうのでやっかいです。
ヒューリスティックと認知バイアスの違い

ヒューリスティックと認知バイアスは類似点も多く、混同して語られることも少なくありません。しかし以下のような違いがあります。
ヒューリスティック
主に「直観による意思決定」として扱われ、いわばその意思決定の適性や品質にフォーカスされる。
認知バイアス
一時の意思決定のみならず、その人の「世の中の見かた」「認知のひずみ」にも関わる。
どちらも「自分の判断が合理性を欠く場合」ではありますが、ヒューリスティックスは重要な意志決定に関わりやすく、認知バイアスは「日常的に抱いている感覚」「考え方、価値観」にも関わりやすくなるでしょう。
代表的な認知バイアス(一例)
認知バイアスもヒューリスティックと同じく多くの種類があります。
バイアスについてもいくつか知っておくと、自分が本当に合理的に判断できたのかをチェックするポイントとなります。そんな認知バイアスの中でも、目にすることや体感することの多い物を中心にご紹介します。

正常性バイアス
多少の異常事態が起こっても、それを正常の範囲内としてとらえ、心を平静に保とうとするバイアスのことです。
よくあるのが、火災報知器が鳴っても「どうせ誤作動だろう」「きっと訓練放送が聞こえないだけだ」「周りも避難していないし大丈夫」と思いこんでしまうものです。
訓練で何度も「火災報知器が鳴れば非難するように!」と教えられ、自分もそのことに納得していたはずなのに、なぜか実際に鳴ると「いや大丈夫だろう」と感じてしまうのです。このようにバイアスがかかっていると、自分が論理的に理解していることでさえ、合理性に欠ける判断をとってしまうのです。
確証バイアス
自分の信じる仮説や考えを検証する際に、それを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしないバイアスのことです。
例えばよく「星座占い」が朝のテレビ番組で放送されていますが、自分の星座が1位だと「今日は電車にも座れた」「今日は時間通りに仕事を終えた」「今日は〇〇が安かった」など、なんとなく良いことばかりに目が向き「やっぱり1位だからだな」と感じることはないでしょうか?
しかし本当は占いで12位の時も同じようなことが起こっていることもあるのです。人間の脳は理由を求めたがるので、「占いが1位である」ことを信じると、今日はラッキーであるという根拠を無意識のうちに見つけようとするのです。
後知恵バイアス
物事が起こってからその物事が予測可能だったと考えるバイアスのことです。
あとになって「やっぱりそう思った」と思うことはないでしょうか?しかしその結果は本当に物事が起こる前、思っていたでしょうか?同じくらい反対の結果も考えてはいなかったでしょうか?
例えばじゃんけんをして、1回目はお互いにグーであいこ、2回目に自分はグーで負けたとします。そのときに「やっぱりそうなると思った」と思ってしまうときがあると思いますが、果たして本当にそうでしょうか?
おそらく「2回目も相手は同じくグーを出すだろう」という考えもあれば「パーを出すかもしれない」「もしかするとチョキを出すかもしれない」という考えもあったと思われます。
結果を見た瞬間、他に考えていたことが薄れ、あたかも自分が予想できていた部分だけが印象に残っているのです。
サンクコストバイアス
サンクコストとは「埋没した費用」、つまり過去に費やしてしまった回収できないコストを指す用語であり、サンクコストバイアスとは、サンクコストに引きずられて行動がゆがめられるバイアスです。
費用や時間を費やした以上、他に方向性を変えたほうが良いとはわかっていても、今更辞める気にはなれないというような気持ちになることはないでしょうか?
例えばギャンブルへの依存が挙げられます。「もう10万円投資したのだから、勝つまではやめられない」と続けた結果、10万円以上負けてお金が尽きてしまった、ということはよく耳にすることです。
今までの経験や論理的な考えからも、これ以上続けても負ける可能性の方が高いと理解しているのに、費やしたコストにとらわれここで辞めたくないと感じてしまうのです。
ヒューリスティックと認知バイアスへの対策
自分では合理的に考えているつもりでも、ヒューリスティックや認知バイアスは無意識に思考を歪めてしまうものです。しかしビジネスなど合理性を重要視する場面では困りますよね。
そこでヒューリスティックや認知バイアスへの以下の対策方法をご紹介します。

- それらヒューリスティック・認知バイアスの存在を知っておくこと
- あやまち・改善点をニュートラルに捉え、振り返る(失敗を大切にする)
それぞれ、ひとつずつ確認していきましょう。
それらヒューリスティック・認知バイアスの存在を知っておくこと

まずはヒューリスティックや認知バイアスがどのような時に起こりやすいのかを知っておくことが重要です。
ヒューリスティックや認知バイアスには多数の種類がありますが、特に起こりやすいものをご紹介しました。
「こういった時には起こりやすいのだな」ということを頭の片隅に入れておけば、本当に合理的な考えであるか確認する時「そういえばこのような事例があったな」と思い出せれば、かなり客観的に物事が見ることができます。
ヒューリスティックや認知バイアスの最もやっかいな部分は「無意識で」起こることです。
つまりポイントは「気付けるか・気付けないか」です。まずはどのような場面でヒューリスティックや認知バイアスが起こるのかを知った後、日頃から意識して合理的であるかを考える癖をつければ、簡単にはヒューリスティックや認知バイアスに惑わされないようになっていくでしょう。
あやまち・改善点をニュートラルに捉え、振り返る(失敗を大切にする)

自分の失敗を受け止めることはバイアスに打ち勝っていることでもあります。
人は失敗した時自分のせいにはしないようにする「自己奉仕バイアス」というものが働くので、真摯に自分の悪い所を見つめなおすということは、このバイアスに対処しているとも言えます。
したがって、自分の失敗を謙虚に受け止め振り返ることができる人は、すなわち客観的に考える習慣がついている人であり、ヒューリスティックや認知バイアスを回避しやすい人と考えられます。
まずは他人の発言や行動よりも、自分の日頃の考え方や行動を見直してみましょう。
自分を客観的に見るということは最も難しいことではありますが、何度も失敗を受け止めることで、ヒューリスティックや認知バイアスへの耐性もついてくるでしょう。
まとめ)合理的でないことに気付くことが合理的への第一歩
「自分は常に合理性を大事にしている」と考えている人に限って、実はヒューリスティックや認知バイアスに歪められている恐れがあります。
ヒューリスティックや認知バイアスは無意識のもので、自分では歪められていることに気付きにくいからです。
まずは「自分の判断は合理的でないかもしれない」という意識を常に持つことが、合理的な考えへと至る第一歩です。
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