「発達心理学」は、上司・部下とのコミュニケーションでも使いたい心理学

[最終更新日]2023/11/06

お役立ち情報
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世代別:人生で最も大切なことは? 20代:愛 40代:志 60代:受容

人は、年齢の積み重ねによってものの感じ方や価値観も変化していくものです

ふと過去を振り返ったときに、「過去の自分と現在の自分とで、考え方がガラリと変わっていた」という経験のある方も少なくないでしょう。

または、ご自身と異なる年代の人とのコミュニケーションに苦心している(たとえば、「年上の人と話すのが苦手」、「若い人が何考えているか判らない…」等)という方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、そんな幅広い年齢層に対するコミュニケーションに役立つ心理学として「発達心理学」を取り上げます。
幼児や児童が青年へと成長していく過程でよく引き合いに出される心理学の分野ですが、大人がビジネスの場面で活用することも可能ですので、ぜひ知っておいていただきたいトピックと言えます。

発達心理学とはどのようなものなのか、仕事においてどう活かしていくことができるのか、確認していきましょう。

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Index

目次

発達心理学とは?

発達心理学とは。加齢に伴い人が発達・変化していく過程を研究する学問。

発達心理学とは、人が加齢していくのに伴って発達的変化を遂げていく過程について研究する学問です。

もともと、子どもが大人になる過程について研究が進められ、乳児期から幼児期、児童期、青年期へと成長していくに従って興味の対象となる関係性が広がり、発達段階に応じた疑問を持つとされてきました。



現代における発達心理学

現代においては、発達心理学はさらに進化を遂げています。青年期に留まらず、成人期から成熟期、さらには老年期に至るまで、一生を通じて発達していく人の成長について心理学の観点から研究されているのです。

たとえば、20代の頃は短気だった人が、30代・40代と年齢を重ねるに従って「丸くなる」といったことはめずらしくありません。この過程において、何らかの心理的発達を遂げていると捉えるのが発達心理学の観点です。



発達心理学の研究領域

発達心理学では、人の心理を次のカテゴリに分けて考えていきます。

情緒…楽しい、嬉しい、悲しいetc…社会性…他社との関わり、関係の形成認知…周囲や世界との繋がりの捉え方身体能力…運動機能や視力、聴覚等
  • 情緒・・・楽しい、嬉しい、悲しい、怒りなどの感情
  • 社会性・・・他社との関わり方、人間関係の形成の仕方
  • 認知・・・周囲の環境や世界とのつながりをどうとらえているか
  • 身体能力・・・運動機能や視力、聴覚といった身体にまつわる能力

職場での関係構築にも役立てやすい、おすすめの「発達心理学(発達理論)」

上司と部下のコミュニケーションに「発達心理学」

発達心理学において著名な研究者には、ユング、エリクソン、レビンソン、スーパーといった4名の人物がいます。

それぞれ特徴的な切り口で人の発達段階と心理的成長について論じているのですが、とりわけエリクソンとスーパーの2人が唱えた発達理論は、ビジネスにおけるコミュニケーションにも応用しやすいと思われます。

そこで、この記事ではエリクソンとスーパーの発達理論について掘り下げていきます。それぞれのユニークな視点について見ていきましょう。




エリクソンの発達段階理論

エリク・ホーンブルガー・エリクソン(1902/06.15 ー 1994/05.12)アメリカの発達心理学者。「アイデンティティ」の概念を提唱し、米国でもっとも影響力のあった精神分析家の一人。

参照:wikipedia

エリクソンが提唱した理論では、発達段階理論のほかに「アイデンティティ」の概念がよく知られています。

アイデンティティは「自我同一性」と和訳されることがありますが、人は時を超えて一貫した連続性のある存在である、という考え方のことを言います。

人が乳児期から老年期まで一貫した存在であると考えたエリクソンは、下の表に示す通り人の個体発達文化を8段階に分けたのです。

時期 危機
(ポジティブとネガティブの葛藤)
成長させる面
乳児期(~1歳未満) 信頼 vs 不信 希望
幼児期初期(1~3歳) 自律性 vs 恥・疑惑 意思
幼児期後期(3~6歳) 積極性 vs 罪悪感 目的
学童期(6~13歳) 勤勉性 vs 劣等感 有能感
青年期(13~22歳) 自我同一性 vs 同一性拡散 誠実
成人期(22~40歳) 親密性 vs 孤立
壮年期(40~65歳) 世代性 vs 停滞 世話
老年期(65歳以上) 統合 vs 絶望 英知

本表は、ウィキペディア「エリク・H・エリクソン 」より。弊社加筆・修正。

自分自身のアイデンティティを中心として、人は成長とともに危機を覚える対象や成長を促される対象が変化していきます。

信頼か不信か、といった二者択一的だった乳児期の葛藤は、年齢とともに周囲との関係性をより広く認知できるようになり、成年期以降は周囲に対してより開かれた視野を持ち始めることが見て取れます。

社会人前半の年次にあたる成人期においては、アイデンティティを支える重要な要素が「愛」であるとしています。家族愛、愛社精神、同僚との仲間意識などが興味の対象となっていることが分かります。

社会人後半の年次にあたる壮年期に入ると、興味の対象が「愛」から「世話」へと変化するとしています。部下など後進の育成やわが子の成長、親の介護、会社への恩返し・・・といったように、自分とは異なる世代にも開かれた視野を持ち始め、いかに貢献していくかという点が興味の対象となっていくことが分かります。

もちろん、人によって発達段階には差があるだけでなく、成長を促される対象は各個人で異なります。

しかし、全体的な傾向としては、かつて自身の有能感や自分自身に誠実であることを興味の中心として捉えていた場合でも、年齢とともに周囲への関心度が高まり、喜びを感じる対象も変化していく傾向があると言えるでしょう。




スーパーのキャリア理論

スーパーの「ライフロール」の概念

スーパーによる発達理論において特徴的なのは「ライフロール」の概念です。

ロール(役割)が発達段階に伴って変化していき、環境の変化や得られた体験と心理的成長が密接に関わり合っているというわけです。

これはキャリア理論の原点とも言われ、現代においてもビジネスパーソンのキャリアを考える上で重要な視点とされています。

下の表は、スーパーによるキャリア理論を各年代に分けて示したものです。

発達段階 年齢 発達課題
成長段階 0~14歳 自分がどのような人間かを知る。家族や学校での体験から、将来の働き方に対する希望や欲求、関心が培われる
探索段階 15~24歳 学校教育や部活動、そのほかアルバイトや就職といった新しい環境をいくつも経験し、試行錯誤とともに現実的な思考を通じて自身のキャリア(職業)が選択されていく
確立段階 25~44歳 前半は、キャリア形成の初期段階であり、現実の仕事と自身の適性・スキルを照らし合わせ、適応のための試行錯誤を繰り返す。
後半は、スキル・知識の専門性が高まり、自身の能力・適性を活かすことおよび自身のキャリア確立への関心が深まる。
維持段階 45~64歳 自己実現を意識・目指す時期となり、同時に安定志向が高まる。
現在の立場やキャリアを維持することに関心を持つ。
解放段階 65歳~ 定年退職時期。
引退後の第二の人生でどのような役割・やりがいを持つか(またそれをどう進めるか)が新たな課題となる。

本表は、リクルートワークス研究所「第1章【問題提起】91%がキャズムを乗り越えられない時代の到来」より。弊社加筆・修正。

探索段階から確立段階への遷移は、大きく分ければ学生時代から社会人への変化と置き換えることができるでしょう。

就職してからの仕事内容を100%理解した状態で社会人生活をスタートさせる人はいないため、現実の仕事内容に適応しようと努め、ときには折り合いをつけながら「社会人としての自分」という役割を確立していきます。

30代・40代に入ると、それまでの経験やキャリアをもとに、より専門性を高めたり適性を見出したりすることに関心が移っていきます。こうした心理が、キャリアを確立したいという欲求へとつながっていくのです。

40代後半以降は維持段階へと移り、いよいよ自己実現を志向するとともに、現状維持を図りたいという心理も働くようになります。

新しい挑戦や未知の体験へ果敢に挑むことよりも、それまでの経験の枠内で物事を処理しようとする傾向が強まる人が多くなるのはそのためと考えられます。

企業においても、この年代の人材の多くは組織内でのポジションが固定化され始める時期であり、今後のキャリアの伸び幅や能力的な限度が自他共に認識され始める頃です。

「若い頃と比べるとチャレンジをしなくなった」と片付けてしまうのは簡単ですが、発達段階の大きな流れの中で否応なく変化している面もあることを知っておくことが重要なのです。

発達心理学・発達理論をベースに、仕事上の対人コミュニケーションを探求する

発達心理学はあくまで心理学的見地から分析・提唱されてきた理論ですが、この理論をベースに仕事上の対人コミュニケーションを考えると、これまでとはまた違った視点が生まれてくるかもしれません。

とくに年代の異なる部下や上司と接する際、相手の発達段階と自身の発達段階を考慮することで、コミュニケーションにおける相手への伝わり方を客観視することにも役立つはずです。

ここでは、社会人の年代にあたる4つの発達段階において、どのような点に留意してコミュニケーションを図るべきか、事例を交えて紹介します。




「青年期」(20歳前後)の傾向と、コミュニケーションの取り方について

青年期(20歳前後)

この年代は、学生から社会人へと環境が大きく変わります。同時に、自分が選び取った仕事において適性があるかどうか、この仕事で自分がやっていけるのかどうか、といったことに敏感になっています。

環境が変化するからこそ、自分の中で「目指しているもの」「理想とするもの」といった自我同一性にこだわりを持っていることがあります。

同期入社の社員や年齢の近い先輩社員との間で、お互いを激しくライバル視し合ったり、周囲を出し抜いてでも自分の評価を高めることに必死になったりと、貪欲な一面を隠すことなく邁進しようとする人もいることでしょう。

社会人としてのキャリア形成はまさに始まったばかりです。目の前の仕事に適応しようと試行錯誤を繰り返していると考えられます。

年齢的にも若いので、他者に対して寛容さが足りなかったり、異質な意見や考えを受け入れられなかったりすることもあるかもしれません。

管理職の立場としては、できるだけ本人の言い分や考えを認めるようにし、仕事上で指導したりアドバイスしたりすることはあっても、根本的な部分では本人のことを「買っている」「高く評価している」といったことが伝わるようにすることが大切です。

また、この年代の特徴として「自我同一性への関心」が依然として高いことも考えられます。
他の社員と能力や成果を比べたり、優劣をつけるようなことを言ったりすると自尊心を深く傷つけることがありますので、こうした言動は控えるようにしたほうがいいでしょう。




「成人期 前期」(25~34歳ごろ)の傾向と、コミュニケーションの取り方について

成人期(25~34歳頃)

この年代は、社会人として若手から徐々に中堅へと移行していく時期です。
後輩が入ってきて指導にあたるようになったり、人によってはリーダーや主任、係長といったようにマネジメントの初歩段階へと入ったりする場合もあるはずです。

青年期のように、自分を認めてもらいたいという欲求が少しずつ落ち着いてくるとともに、自分が周囲にしてあげられること、貢献できることにも関心が向き始めます。

同時に、自分が選んだ仕事で求められる能力と、実際に自分が発揮できる能力がどのぐらい合致しているかが明らかになっていきます。順調に能力を発揮している人はますます波に乗っていく一方で、仕事内容と持っている能力がうまくかみ合っていない場合は悩みを抱えてしまうことも考えられます。

管理職としては、本人がどのような状況に置かれているのかをよく見極めることが大切です。
能力を十分に発揮できている部下に対しては、自分のことで精一杯になるのではなく、周囲に手を指しのべることで信頼を得ることにも目を向けるように伝えていきましょう。

能力を十分に発揮できていない部下の場合は、今後のキャリア形成のためにも小さな成功体験を積んでもらうことが重要になります。

能力が発揮し切れていない状態は本人としてもストレスが溜まる状態にあるはずですので、そのまま腐ってしまうことのないよう、人間性などの内面も含めて仕事以外の部分も的確に褒めるなど、良いところを見出していくことが大切です。




「成人期 後期」(35~44歳ごろ)の傾向と、コミュニケーションの取り方について

成人期 後期(35~44歳頃)

この年代に入ると、自身が歩んできたキャリアや経験値に対して一定の自信を持っている人が増えていきます。

自分なりの仕事の進め方や仕事上のこだわりを持つようになる一方で、自分とは異なる仕事のやり方・考え方に対して否定的になりやすい年代でもあります。

自分よりも若い部下や同僚から意見されると不快をあらわにしたり、世の中の新しい動きに馴染めなくなっていったりするのもこのぐらいの年代の人に多い傾向があります。

自分の能力や適性、さらにはキャリアに対して自信を持つことと、異質なものを排除して安心感を維持したいという気持ちは、場合によっては表裏一体なのかもしれません。

相手が上司の場合、部下から尊敬されているかどうか、軽く見られていないかどうか、といったことが(素振りは見せなくても)大きな関心事の1つであることが少なくありません。

年齢を重ねているからと言って、幅広い意見を受け入れたいと考える人ばかりではありませんので、この年代の上司に意見したりアドバイスをもらったりする場合は、きちんと相手を立てて敬う姿勢でのぞむことが大切です。

周囲の人を世話したり、後進を育てたりすることで自己成長を実感し始めるのもこの年代の特徴です。
アドバイスが役立ち、仕事の成果に結びついたときなどは、感謝の気持ちを伝えることを忘れないようにしましょう。




「壮年期」(45~64歳ごろ)の傾向と、コミュニケーションの取り方について

壮年期(45~64歳頃)

この年代になると、一定の役職についている人や、役員などの立場で組織を統轄している人もいるはずです。
ビジネスパーソンとして個人的にやっておきたいことはおおよそ決着がつき、後進の育成や組織を次世代に引き継ぐといったことが関心の対象になっていきます。

会社や部署といった限られた範囲内での自己実現だけでなく、より幅広い意味での自己実現を志向する人も出てきます。

人とのつながりを若い頃よりも大切にするようになったり、仕事を離れて付き合えるような人間関係を求めたりするのもこの年代の人に多い傾向があります。

一方で、この年代から新たなチャレンジをしたり、未知のものに積極的に触れようとしたりする人は少なくなっていきます。どちらかと言えば現状維持を望む安定志向が高まるケースが多いと言えるでしょう。

そのため、この年代の上司に提案を持ちかける場合などは、「目新しさ」よりも、より本質的な部分でどのような意義があるのか、慣れ親しんできた既存のものとどのように共通する部分があるのか、といったことを意識的に伝えるようにしましょう。

年齢とともに経験を重ねてきた方々ほど、表層的な事柄ではなく、より本質に近いことに関心を寄せる傾向があるからです。

まとめ)発達心理学を駆使してコミュニケーションを多面的に捉えよう

冒頭で述べた通り、発達心理学はもともと子どもから大人へと成長していく過程での内面的な成長を研究する分野です。

しかし、社会人になってからの経験や人との出会いが内面的な成長にも密接に関わっていることは、おそらく多くの方々が身をもって体験してきたことなのではないでしょうか。

この記事で紹介した発達心理学の理論や年代別に分けた場合の人との接し方は、あくまで一例に過ぎません。

人によって、あるいは職場によって、さまざまなケースがあるはずです。「この年代の人はこうだ」と決めつけたりせず、目の前の相手をよく見て理解しようとする姿勢を持ち続けることは非常に重要ですので、理論は理論として理解しておくようにしましょう。

発達心理学をコミュニケーションに活用していくことで、ふだんは意識していなかった相手の一面が理解できたり、自身が置かれた状況をより冷静に捉えることができたりすることもあるかもしれません。

発達心理学を駆使することによって、職場でのコミュニケーションをより多面的に、より深く捉えるきっかけにしていただけたらと思います。

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