2045年までにAIは人に取って代わる?「シンギュラリティ」(技術的特異点)とは
[最終更新日]2023/11/06
AI(人工知能)に仕事を奪われる、というフレーズを耳にしたことがある人は多いはずです。昨今、AIは着実に実用化が進み、ビジネスにおける活躍の場を広げつつあります。このままAIが進化し続けていくと、本当に人間の仕事はなくなってしまうのか、漠然とした不安を感じている人もいるかもしれません。
果たして、AIが人に取って代わる時代は到来するのでしょうか。AIの特性と、近い将来起こり得ると言われている変化について見ていきましょう。
Index
目次
<スポンサーリンク>
シンギュラリティ(技術的特異点)って何?
AIが進化していく過程を追っていくと必ずと言っていいほど突き当たるキーワードがあります。それが「シンギュラリティ」です。日本語では一般的に「技術的特異点」と呼ばれています。さまざまな科学者や哲学者などの識者が、シンギュラリティについて論じています。
シンギュラリティという言葉が何を意味しているのか、また、なぜこれほどまでに注目されているのかを知ることで、AIが進化したイメージをつかみやすくなるはずです。
シンギュラリティ(技術的特異点)の意味
人間の脳内では、神経細胞(ニューロン)にシナプスを介して信号が伝えられています。この機能の一部を再現したニューロコンピュータがすでに開発されており、ニューロンの数を増やしていくことによって理論的には人間の脳と同等、あるいは人間を超える能力を持つことが可能になります。
AIが進化を続けていくにつれて、いずれ人間の知性を超えたAIが登場するのではないか、という仮説が成り立つわけです。このように、人間の知性をAIが超えることを「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼んでいます。
機械が人間を超えるというのは、まるでSF映画の世界の出来事のように思えるかもしれません。ところが、人工知能研究の世界的権威として知られるレイ・カーツワイル博士の予測では、シンギュラリティは2045年に起こり得るとしています。そう遠くない将来、AIが人間の知性を超え、人類の頭脳では予測できない領域へと踏み出すのではないか、と考えられているのです。
なぜシンギュラリティが注目されているのか
シンギュラリティが注目されている理由について確認する前に、次のキーワードを見てください。
- ディープラーニング(深層学習)
- ビッグデータ
- IoT
どれも聞いたことのある言葉ではないでしょうか。実は、これらはすべてAIがシンギュラリティへと向かう要因なのです。
単なるコンピュータとAIの違いは「学習」する点にあります。パターン認識によって情報を選別し、自ら判断の精度を高めていきます。この過程で必要とされるのが膨大な量のデータです。身のまわりのあらゆるものがインターネットにつながるIoTが実現すれば、私たちの日常生活において膨大なデータが常時収集されることになります。こうして蓄積されたビッグデータを元にAIは学習し、進化し続けていきます。
シンギュラリティに達したAIは、自らをプログラミングしアップデートすることが可能になると言われています。つまり、人の手を必要とせず、自ら指数関数的な速度で進化し続けていくと考えられているのです。AIが自ら進化し始めたとき、それが人間の手に負えるものであるか誰にも分からないため、シンギュラリティは注目されているのです。
シンギュラリティは本当に起きるのか
シンギュラリティとはAIが人間の知性を超えることである、と言われても半信半疑な人は少なくないはずです。本当にそのような未来は訪れるのか、シンギュラリティは本当に起きるのか、その実現可能性について知りたいと思う人もいることでしょう。
シンギュラリティが実現する可能性についても、さまざまな仮説が立てられ議論が交わされています。中には、2045年よりも早くシンギュラリティが到来するとする説もあるのです。どのような根拠でそう考えられているのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
シンギュラリティ実現の可能性について
AIのみならず、テクノロジーの進歩には有名な2つの法則があります。「ムーアの法則」と「収穫加速の法則」です。
ムーアの法則とは、集積回路の進化速度を経験則から法則化したものです。集積回路は2年弱の周期で性能が倍増を続けてきたことから、今後も同様の速度で進歩し続けていくと予測できるわけです。
収穫加速の法則は、前述のカーツワイル博士が提唱した法則であり、「テクノロジーは指数関数的に発展する」としています。
これらの法則から、AIの進化速度を予測した結果、2045年にはシンギュラリティが到来すると唱えられるようになったのです。ここには2つの大きなポイントがあります。
- 技術の進歩は不可逆的であり、今後もほぼ確実に進歩し続けるであろうこと
- AIは自ら学習する性質があるため、進化のスピードは増していくと考えられること
特に後者は、これまでの科学技術の進歩には見られなかったAI特有の性質であり、人類が予測するよりも早くシンギュラリティが到来するのではないか、と予測される1つの要因になっています。
2029年には、人工知能が人類を追い越す?
シンギュラリティは2045年問題と呼ばれることもあり、2045年という予測が広く知られるようになりました。ところが、カーツワイル博士は2017年のインタビューにおいて「コンピュータが人間と同等のレベルの知性を獲得するのは2029年」といった趣旨の発言をしているのです。2045年からさらに16年早まり、2029年にはシンギュラリティへと突入する可能性があることを示唆しています。
たった10年ほどの間にこれほど劇的な変化が訪れるとは、にわかに信じがたいかもしれません。しかし、日本においても2020年には無線通信で5Gが実用化される見込みであり、4G/LTEと比べると100倍の速度・同時接続端末数が実現すると言われています。
これは1㎢あたり100万台の端末が同時接続できることを意味しており、コネクテッドカーやウェアラブルデバイス、IoTによってインターネットに常時接続されたスマート家電といった、あらゆる端末を通じて収集された膨大な量の情報を吸い上げ、蓄積していくことになるはずです。
こうして蓄積したビッグデータを元に指数関数的な速度でAIが学習を始めるとしたら、わずか10年ほどの間にAIが予想を超える進化を遂げても不思議ではありません。
シンギュラリティによって減っていく仕事は──
AIが得意とするのは、データに基づいた定型的な作業やデータ処理、データ照合といった仕事です。日本においてはこうした類の仕事を人間が行っているケースがまだ多いことから、AIが進化していく過程で「奪われる」仕事も少なくないと言われています。
AIによって代替可能な仕事の例を挙げてみます。
- IC生産オペレーター
- CADオペーレーター
- 一般事務
- データ入力
- 行政・学校事務員
- 会計監査係員
- 医療事務
- 経理
こういった機械のオペレーションや事務職は、AIによって代替される可能性が高いと言われています。
また、現在は人間が対面で行っている仕事の中には、AIによって無人化が実現できると考えられているものも少なくありません。
一例としては、
- 銀行窓口係
- 駅務員
- 給食調理人
- 受付係
- レジ係
などが挙げられます。
さらに、下記のように作業や確認が中心の労働も、AIが制御するロボットに代替される可能性があります。
- 金属プレス工
- 自動車組立工
- 出荷・発送係員
- 検針員
- 測量士
- 製本作業員
- 惣菜製造工
特に顕著にAIに取って代わることが予想される仕事3つ
その① 「一般事務」「金融機関」などの計算はAIの方が得意
AIに代替される可能性が高い仕事の特徴の1つに、データの処理や計算を行う職種が挙げられます。一般事務をはじめとする事務職は、現時点でもRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)によって代替できると言われているものがあります。
そもそも人間よりも機械のほうが「速く」「正確に」「大量の」仕事をこなすことができ、しかも24時間休まず働き続けることができるという特徴があるのです。そのため、他の職種と比べるとAIへの代替スピードが速いのではないかと考えられているのです。
金融機関など数字を扱う業種においても、AIで代替できる仕事は多いとされています。窓口対応は無人化が進み、人間の代わりに機械がその役割を担うことになる可能性が高いでしょう。
また、中には融資担当のように高度な判断力や経験が必要と考えられてきた仕事でさえも、AIのほうが素早く精度の高い判断ができると考える人もいます。他にも、会計士のように専門知識を要する職業までもが、AIで代替可能と言われることがあるほどです。
その② 乗り物や機械の運転もAIがまかなえる
AIは機械のオペレーションを得意としていますので、その活躍の影響は乗り物の運転にも及びます。現在、車の自動運転が実用化に向けて進歩し続けています。AIは定型的な判断や大量のパターン認識を得意とする一方で、予測不能な事態に対処することが苦手です。端的に言えば、AIは人間が暮らす現実の世界を認識するのが苦手なのです。
こうしたAIの特性から、公道のように車やバイク、自転車が走り、人が歩いていることもあるといった雑多な状況で自動運転を実現するのは非常に高度な技術を要します。一方で、空港内の巡回バスや鉄道の運転、農作業や建設現場での機械の操縦といった、目的が明確なものはAIの得意分野に近いと言えます。
人が運転する必要がなくなっていくことで、不注意による事故を減らせる可能性があることに加え、危険を伴う作業であっても人がリスクを負うことなく進められるといったメリットも得られるようになります。
このように、AIの台頭によって乗り物の運転や機械の操縦においても、人が行ってきた仕事が機械に代替される時代がやってくるかもしれないのです。
その③ 公務員の仕事もAIが奪ってしまう時代になる?
AIの進化は、これまでの職業に対する私たちの認識そのものを変えてしまうこともあるかもしれません。中央官庁職員や上級公務員といった、一般的には安定していると思われていることの多い職業でさえ、AIで代替できる可能性があると考えられているからです。
前述のように、AIにとって事務作業はまさに得意分野です。速く正確に、しかも休まず働き続けられるAIであれば、人が行うよりも質の高い仕事を迅速にこなすことができる可能性は高いでしょう。
また、人間は重要なことを見落としてしまったり、私利私欲に目がくらんでしまったりすることがないとは言えません。個人情報流出のような重大なミスを犯してしまうこともあれば、横領や不正といった結果に至ってしまうこともあるのが現実なのです。
AIは割り当てられた任務に特化して仕事を速く正確に、大量にこなすことは得意ですが、それ以外の不測の事態に対処することには不得手です。裏を返せばイレギュラーな状況を作りにくいとも言うこともでき、ミスを減らせるだけでなく、人の手による不正をなくす効果も期待できるのです。
シンギュラリティによって発展する仕事3つ
シンギュラリティに達したAIは、従来人間が担ってきた仕事を代わりにこなすことができるようになり、仕事の種類によっては人間の仕事を奪われる可能性があるとここまで述べてきました。しかし、人間の仕事が減っていくばかりとも限りません。中には、AIでは代替が困難と考えられている職業も存在します。
シンギュラリティによってむしろ発展する可能性のある仕事について知っていれば、そのスキルを今から磨き、伸ばしていくという対策を講じることもできるのです。
その① AIを運用・管理する仕事
シンギュラリティに到達したAiは自分自身でプログラミングを行い、自らをアップデートできるようになると言われています。では、人間が出る幕は全くなるかと言えば、そうではありません。AIが適切に運用され、最適なパフォーマンスを発揮するとともに、人間社会にとって危害を加えることがないよう、管理していく仕事は残ると考えられます。
この仕事を担うには、AIがどのような仕組みで判断を下しているのか理解している必要があります。つまり、シンギュラリティを迎えてからもなお、AIエンジニアの仕事はなくならないばかりか、いっそう必要性を増していく可能性があるのです。
こうした仕事を担っていくエンジニアにとって、必要な知識はプログラミングに留まりません。AIが学習する上で必要なデータを分析するための統計学の知識や、その基礎となる数学の知識が不可欠なものになると考えられます。よって、AIエンジニアには必然的にデータサイエンスの知識も求められるようになっていく可能性が高いのです。
その② 一から何かを創り出す仕事
AIはすでにある膨大なデータを処理し、パターン学習によって判断の精度を高めていくことに非常に長けています。この点においてAIは人間が足元にも及ばない能力を発揮することでしょう。
ただし、AIには苦手分野もあります。それは、何もない状態から何かを生み、創り出していくタイプの仕事です。AIが判断を下すには、大前提としてデータが必要になります。つまり、データが皆無の状態から判断することは理論上不可能なのです。具体的には、これまでにない全く新しい企画を考えるといったことは、AIにとって不可能に近いと考えられます。
他にも、一見すると不合理と思われるような判断を下すこともAIは苦手です。一例として、既存の芸術作品をデータとして分析し、模倣することはAIでも可能ですが、誰も想像しないような突飛な作品を生み出すのは人間でなくてはできません。
こうした類の創作活動は、いわば人間の脳のエラーから生み出されているとも言えます。AIは既存の現象の蓄積から正確に判断し、傾向を分析することは得意でも、全く新しいものを生みだし人々を魅了することには長けていないと推測できます。
その③ 対人能力が求められる仕事
AIにとって非常に難解なものの1つに、人間の「感情」があります。同じ人に同じことを伝えたとしても、伝えるタイミングによって受け取られ方が異なるといったことは、対人関係において当然あり得ることです。ところが、同じ情報を同じ相手に伝えているにも関わらず、結果が異なるという現象はAIには理解不能であり、分析が困難なのです。
現在、人間が行っている対面の仕事の中には、AIで代替可能と考えられているものもあります。ただし、人間の感情を織り込んだ対人能力が求められる仕事に関しては、AIに代替されることなく残り続けるのではないかと考えられています。一例として、弁護士や教師、カウンセラーといったように、伝える相手の感情を推し量ることが不可欠な職業に関しては、AIへの置きかえが難しいと予想されているのです。
これらの職業以外にも、対人コミュニケーションを通して問題解決を図る必要のある仕事に、AIが入り込むのは難しいと考えられます。対人能力を磨いていくことは、シンギュラリティの時代においても求められる仕事をしていく上で非常に重要な要素なのです。
シンギュラリティを恐れず、AIを活用する側に回ろう
AIは人間の脳に代わる存在として、あたかも人間社会を脅かそうとしているもののように捉えられることがあります。しかし、AIの性質を理解し、AIが得意とすることと苦手とすることを把握していれば、人間にしかできない仕事を積極的に選択していくことも可能です。
シンギュラリティの時代こそ、人間だからできる仕事の付加価値は高まっていくと考えられるのです。シンギュラリティを恐れるばかりではなく、AIを活用していく側に回ることができるよう、人間ならではのスキルを高めていくことが重要です。
<スポンサーリンク>