「管理職にはなれても、役員にはなっていけない人/経営者層NGな人」とはどんな人?
[最終更新日]2022/12/15
現在、管理職として活躍されている皆さんは、これからのキャリアパスをどのように構想していますか?より大きな裁量を持って仕事をしてみたいと考えている人の中には、ゆくゆくは「役員」「経営層」へと昇格することを目指している人もいるかもしれません。
ただ、ここでちょっと立ち止まって考えてみてください。管理職と役員の違いとは、一体どんなところにあるのでしょうか?「管理職としては優秀でも、経営者としては不向きな人」もいると言われることがあります。それは本当なのでしょうか?役員の仕事と向き・不向きについて見ていきましょう。
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Index
目次
役員と管理職の役割の違いは?
管理職から、いずれは役員へ——。ひそかにそのような野心を抱くのは、決して悪いことはではありません。一部署の責任者という枠を超えて会社全体という視点で物事を捉えるためにも、早いうちから経営感覚を持って仕事に取り組むのは大切なことです。
しかし、ここには大きな落とし穴があります。一般社員から管理職、そして役員へとステップアップしていくイメージで考えていると、あたかも役員が管理職の延長線上にあるかのように思えてしまうことがあります。
実際には、役員と管理職との間には決定的な違いがいくつかあるため、「管理職からレベルアップする」という感覚で役員になると相当辛い思いをするかもしれないのです。まずは役員と管理職の役割の違いをしっかりと認識し、「管理職とは全くの別物」という認識を持つことが重要になります。
役員と管理職の一番の違いは、「責任の追及のされ方」
管理職は会社にとって「従業員」です。これは係長や課長、次長、部長といった役職に関係なく、どの管理職も社員であり雇用されている身であることには変わりありません。
そのため、担当部署の売上が大きく下がってしまったり、赤字を出してしまったりした場合にも、査定に響いて賞与や昇給に影響を及ぼすことはあるかもしれませんが、業務上横領などの法に抵触する行為でもない限り、個人的な責任を追及されることはありません。
一方、役員は従業員ではなく経営陣です。会社の経営そのものに対する責任を負っていますので、役員自身に何ら過失がなかったとしても、従業員の不祥事に対して責任を追及されます。役員は企業が違法行為を犯すことのないよう監視するべきポジションです。
そのため、企業による違法行為で損害を与えた相手に対して、取締役は損害賠償責任を負うことになります。これが役員としての「経営責任」なのです。
役員が持つ責任と、そして「リスク」とは──?
役員は管理職とは異なり、企業経営の最前線で矢面に立つことになります。大きな責任が伴うのは言うまでもありませんが、役員に就任するということはさまざまなリスクを負うことでもあるのです。
役員に就任することでリスクを負う——。責任が重くなるのはともかく、リスクを負うことになるという捉え方がいまいちピンとこないかもしれません。そこで、役員に就任することで負うことになるリスクのうち、とくに大きなものを挙げてみました。
- 株主や債権者に対して責任を負う
- 代表や株主の意向によって、(簡単に)解任されるリスク
- 最低賃金や減給制限ルールが適用されない(大幅な給与カットのリスク)
- 雇用保険や労働時間の規制といった、「守ってくれる規則」がない
それぞれ、順を追って見ていきましょう。
株主や債権者に対して責任を負う
企業経営には資金が必要です。創業資金や運転資金をどのように確保しているかは企業によってまちまちです。株主から出資を受けている場合もあれば、借り入れをしている場合もあるでしょう。役員は経営陣として企業の経営責任を負っていますので、株主に利益を還元し、債権者に返済することに関しても責任があります。
会社の売上が伸び悩んだり、十分な利益が確保できなかったりといった事情で株主や債権者への責任を会社として全うできない事態になったとすれば、役員が個人的に責任を負う必要があるのです。
代表や株主の意向によって、(簡単に)解任されるリスク
役員は従業員ではありませんので、解雇規制の対象になりません。従業員であれば、少なくとも30日前に解雇予告をしなくてはなりませんが、役員に対してこのルールは適用されないのです。つまり、「あっけなく解任される可能性がある」ことを意味しています。
役員の解任事由としては、企業のトップである代表者の判断によるものだけでなく、株主の意向によって解任が決定されることもあり得ます。従業員のように「会社や法律に守られている」わけではないのです。
最低賃金や減給制限ルールが適用されない(大幅な給与カットのリスク)
管理職を含む従業員には、被雇用者として安定した生活を送るためのルールが適用されます。最低賃金や減給制限といったルールがその代表的なものでしょう。こうしたルールがあることで、従業員の給与を突然減らしたり、著しく少ない報酬で仕事に従事させたりといったことができない仕組みにしているのです。
ところが、役員は従業員ではありませんので、こうしたルールは適用されません。言い換えれば、役員報酬はいくらに設定しても自由であり、減俸についてもルールはありません。役員の側からすると、急に収入が減るリスクと常に隣り合わせであり、安定していないことを意味しています。
雇用保険や労働時間の規制といった、「守ってくれる規則」がない
従業員でないということは、雇用保険や労働時間の規制も適用されません。従業員であれば、失業したときは雇用保険の失業給付を受け取ることができたり、働いているときは一定以上の無理な働き方を強いられることがないよう労働時間に上限が設けられていたりと、ライフラインを守るための規則が存在します。
一方、役員にはこうした「守ってくれる規則」がありませんので、職を失っても手を指し伸べてもらえるわけではなく、長時間働き続けていたとしても会社として休みを取らせる義務はありません。
こんな人は、今役員になるべきではないかも… 役員に向いていない人4つの特徴
役員になるということは経営陣として責任を負うことを意味しており、管理職とは責任を負う程度もその範囲も段違いの差があります。
そのため、管理職として適性があるからと言って、必ずしも役員にも向いているとは言い切れないところがあります。管理職としてのキャリアに自信が持てるようになったからと言って、役員への昇格を狙うのは時期尚早ということもあるのです。
次のような傾向のある人は、もしかしたら今のタイミングで役員にならないほうが無難かもしれません。役員に向いていない人の典型的な特徴について挙げてみます。
- 現在の仕事が忙しくて余裕がない→【視野が狭まっている】
- 情報収集不足、勉強不足である→【現状認識が遅い】
- 現状の数値成果や、目標予算の進捗状況に意識がほぼ100%向いている→【未来が見えていない】
- 失敗への極度な恐れや、過去の栄光に引きずられている感がある→【変革力が弱い】
それぞれ、順を追って見ていきましょう。
現在の仕事が忙しくて余裕がない→【視野が狭まっている】
経営陣は会社の現状を客観的に捉え、これから組織が向かうべき方向性や将来に向けたビジョンを見失うことなく示し続ける必要があります。
管理職であれば、会社全体が目指す方向性や経営計画は「上から下りてくるもの」かもしれませんが、役員ともなるとそうはいきません。顧客ニーズや時流の変化を敏感に捉え、機を逸することなく先手を打っていくことが求められるのです。
そのため,役員にとって「視野が狭まっている」のは危機的な状態です。会社全体、業界全体、世の中全体といった巨視的なものの見方ができなくなり、いま目の前にある仕事に注力することしか頭にないような状態になってしまいがちだからです。
利益がなかなか出ないとなれば「経費削減」、売上が伸び悩んでいれば「営業活動の増強」といった、目の前の問題を解決するためだけの即物的な決断をしがちになり、中長期的な展望を踏まえた視座を見失ってしまいます。
役員は実務部隊ではないのですから、目の前の仕事に埋もれているべきではありません。「とにかく今はやることが多くて忙しい」という思考に陥りやすい傾向がある人は、役員には不向きな可能性があります。
情報収集不足、勉強不足である→【現状認識が遅い】
近年は時代が変化するスピードが速くなり、変化も激しくなってきています。そのため、常に情報収集を行い最新動向に通じていることが、組織を率いていく人材にとって不可欠な素養の1つとなっています。
また、過去に学んだ知識が年数を経て古くなったり、現代においては通用しないものになってしまったりすることは決して少なくありません。
インプットが不足すると、大きな流れの中の一端としての「今」を捉えにくくなります。消費者のニーズが変化しているといった情報を得たとしても、「なぜ変化しているのか」「今後さらにどう変化するのか」といったストーリーが「線」で見えてこないため、「とにかく現状に合わせて戦略を立てておこう」といった「点」の判断しかできなくなってしまうのです。
こうした近視眼的な視点に支えられたビジネスモデルは、変化の速い時代にはすぐに古くなっていきます。先々を見据えた決断を下すためにも、情報のアンテナを高く保ち続けることが非常に重要です。
現状の数値成果や、目標予算の進捗状況に意識がほぼ100%向いている→【未来が見えていない】
企業の業績しだいでは、役員の進退問題に発展する可能性があります。役員にとって数値成果や目標に対する進捗が重要なものであることに疑いの余地はありません。数字に責任を負うのも、役員としての経営責任だからです。
しかし、数字に責任を負うのと、数字に追われてばかりいるのは意味合いが全く異なります。「今月の目標値は達成できるだろうか」「今週の進捗は計画通りだろうか」といったことに意識が向いてしまい、それ以外のことが頭にないようでは中間管理職的な思考と言わざるを得ません。
数字さえ達成できればよい、といった考え方に終始していると、組織はこれからどんな方向へと向かうべきなのか、何を実現すべき企業なのか、といった「大義」を見失ってしまいがちです。「目標を達成せよ」としか言わない経営陣のもとでは、従業員は将来に向けた明るい展望を持って働くことは難しいでしょう。
失敗への極度な恐れや、過去の栄光に引きずられている感がある→【変革力が弱い】
くり返しになりますが、役員は大きな責任を負っています。会社が沈んでしまうようなことがあれば、自身も個人として責任を取らなくてはなりません。
このような重責を担う立場に置かれたとき、「それなら失敗しないようにしよう」「以前うまくいったことをなぞろう」といった考え方に陥りがちな人は、経営陣として組織を率いていくのに向いていないでしょう。
無難で誰でもすぐにできてしまうような経営戦略は、他社からも簡単に真似されてしまいます。失敗を恐れるあまり企業としての競争力が弱くなり、経営が不安定になるという皮肉な結果になりかねません。
役員として重責を担っているからこそ、失敗を極度に恐れたり過去の栄光に引きずられて二番煎じに甘んじたりするべきではありません。思い切った決断ができない変革力の弱さは、いずれ企業としての押し出しの弱さや独自性の乏しさとなって跳ね返ってくることになるのです。
こんな人は、「いずれ役員になること」を目指してみよう
ここまで、役員になるべきではないタイプの人の特徴を挙げてきました。では反対に、どんなタイプの人は役員を目指すことも視野に入れてキャリアを描いていくことができるのでしょうか。
大前提として、ここから先に書かれていることは必ずしも「努力しだいで実現可能」とは限りません。企業全体を率いる経営陣ともなると、どうしても適性や「器」の問題になる部分がありますので、「こんな努力をすれば役員としての資質が身につく」といった特定のセオリーは存在しないのです。
そのことを踏まえた上で、役員としてふさわしい人が持つ4つの資質を挙げてみます。
- 力強いビジョンを持てている
- 広い視野を持てる
- 周囲に、これからのステージアップを応援してくれる人がいる
- 自分の成果よりも、仲間の成果・成長の方が嬉しい
——いかがでしょうか。4つ全てを兼ね備えている!と自信を持って言えたら素晴らしいのですが、なかなか全てが揃っている人はいないのが現実です。
では、4つのうちいずれか1つでも欠けていたら役員を目指すべきではないか?と言うと、決してそんなことはありません。むしろ、現在活躍している経営陣も、これら4つを全て十分なレベルで持っている人はそう多くはないでしょう。
実際には、どれか1つでも当てはまる資質を持っていれば、それを強みとして組織を率いていくことは可能です。それぞれの資質について、詳しく見ていきましょう。
力強いビジョンを持てている
従業員が「こんな会社で働いてみたい」と思うのは、どんな会社でしょうか。待遇や給与水準なども重要な要素であることに間違いはないはずですが、とくに重要なのは経営陣の「ビジョン」です。
人は力強いビジョンに惹きつけられ、突き動かされていきます。具体的には、どのような理想を持った会社であるか(経営理念)、どのような目標の達成を目指すのか(数値目標)、どのように成長していくのか(教育方針)の3つの柱を明確にし、ビジョンを掲げていくことが重要なのです。
そして、ビジョンを熱く語り、本気で実現しようとしていく姿を見て、人が集まってくるのです。これこそが企業組織の原点と言ってもいいでしょう。
企業経営はいつでも順調なときばかりではありません。困難が立ちはだかったときも、何を目指して進んでいくのかを見失うことなく訴え続け、人を引っぱっていく力強さを持った人こそが役員としてふさわしいと言えます。
広い視野を持てる
売上が好調なだけでなく伸び続けている企業の経営陣は、日頃どのようなことを考えているでしょうか。「うちの会社さえ伸びればいい」「自分の報酬を維持できればそれでいい」——そんなことを考えているでしょうか?
実際、成長し続けている会社ほど、経営層は「世の中に新しい価値を提供したい」「持続可能な社会を実現したい」といった、視座の高い目標や理想を掲げているものです。皮肉なことに、自社の売上を確保・維持することに固執すればするほど、売上が先細っていくもののようです。
役員は自分自身や身辺の心配だけしていればいいのではなく、従業員や企業全体を気に掛けていかなくてはなりません。松下幸之助氏は「企業は社会の公器である」という言葉を残しています。常に視座は高く保つとともに、多面的な視点を持ち、自分自身や自社を包括する社会全体のことを考えていく必要があるのです。
周囲に、これからのステージアップを応援してくれる人がいる
役員のように人を率いていく存在にとって、人間的な魅力が感じられるかどうかは非常に重要なポイントです。ここで言う魅力とは、単に「立派なことを言っている」とか「知識が豊富で博学だ」といったことを指しているわけではない点に注意が必要です。
人を惹きつけ、「この人と働きたい」「この人の事業に協力したい」と思わせる「何か」があるかどうか、なのです。
そういった人は、周囲にいつも応援してくれる存在となる人がいるものです。これから一段高いステージに挑戦しようとしているとき、自分だけが「上に行きたい」と野心を燃やしているのではなく、そっと背中を押してくれる誰かがいたり、協力してくれる人がいたりするかどうかです。
よく、成功者のエピソードを聞いていると「運が良かった」と自身のことを言う人がいます。こういったタイプの人は、重責を担う立場になってからも協力者がタイミングよく知恵を貸してくれるなどして、重大な局面を乗り切っていることがあるものです。
このように、人を惹きつける魅力が重大な局面を乗り切る上での原動力となっていることが少なくないのです。
自分の成果よりも、仲間の成果・成長の方が嬉しい
自分自身が1人のプレイヤーだった頃と比べると、管理職になってから自分が成果をあげることよりも部下の成功や成長のほうが重要な意味を持つようになった、と感じている人は多いはずです。役員ともなれば企業全体、全従業員について責任を負うことになりますので、この傾向はいっそう顕著になります。
役員が1人で全社の実務を担っているわけではなく、責任を持って担当してくれる社員1人1人がいることで会社は成り立っています。社員が成長し、より高い成果をあげていくことによって、会社としても成長していくことができるのです。
また、上役が従業員の成長や仲間の成果を本心から喜んでいるかどうかを、従業員は鋭く見抜いているものです。世の中には「社員がどんどん増えている」という会社もあれば、「人が次々辞めてしまって定着しない」という会社もあります。経営陣がどのようなスタンスで従業員と接しているか、がその明暗を分ける一因になっているのかもしれません。
まとめ)役員というステージは管理職とは切り離して考えよう
管理職と比べて、役員には大きな裁量が与えられています。一事業部の管理職では不可能だったことができるようになり、自分の裁量で進められるようになることが増えるのは間違いありません。この点に魅力を感じ、「いずれは役員になることを目指したい」と感じる人は多いことでしょう。
一方で、役員が追っている責任の大きさや、従業員ではなくなることに対するリスクが思いのほかたくさんあることも忘れてはなりません。この記事では代表的な例を紹介しましたが、会社の業績やさまざまな経営リスクに対するプレッシャーは、管理職とは別次元のものと考えるべきです。
役員というステージを管理職とは切り離し、管理職の延長線上にある役職ではないことを十分に理解しておくようにしましょう。
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