有給取得のルールはどう変わった?今さら聞けない有給の基礎知識

[最終更新日]2022/12/15

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2019年4月から労働基準法改正に伴い、年次有給休暇の年5日間取得が義務化されました。働き方改革の一環として行われたこの法改正、管理職の皆さんはご存知でしたか? 

これは努力義務ではなく正真正銘の「義務」ですので、違反した場合は使用者に30万円以下の罰金が科せられます。違反のカウントは労働者1名につき1件とされますので、たとえば従業員が100名いる会社であれば100件の違反と見なされてしまうのです。

管理職としては、有給取得のルールを自身が守るだけでなく、部下にも適切に守ってもらう必要があります。そこで、有給取得の新ルールについて確認しておきましょう。

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2019年4月から有給取得ルールはどう変わった?

有給取得ルールの変更は、働き方改革の1つとして実施されたものです。

そもそも働き方改革とは、日本の労働力人口が将来にわたって減少していくことを見据え、労働生産性を高めるとともに、多くの人が労働市場に参加しやすくすることで働き手を増やしていこうといった目的で行われています。有給取得の義務化にはこうした背景があることをまずは理解しておく必要があります。

では、有給取得ルールは具体的にどのように変わり、何が義務化されたのでしょうか。

年次有給休暇「年5日」の取得義務化とは具体的にどういうこと?

従来の年次有給休暇は、従業員が自分の意思で取得を希望するものでした。言い換えれば「本人が取得したいと言い出さない限り、会社側から取得を勧める必要はない」ものだったのです。そのため、有給休暇の制度があっても取得していない・活用できないといった企業が決して少なくなかったのが実情でした。

そこで、働き方改革の一環として有給休暇を「年間で5日は最低でも取得させること」と定めたのが、今回の取得義務化の大きなポイントです。仮に従業員自身が「私は年5日も休みたくありません。ですので有給取得を勧めないでください」と申し出たとしても、「義務」ですので取得してもらわなくてはなりません。

本人から有給の申請がなければ、会社側から働きかけて取得を促さなくてはならないルールに変更されたわけです。

ちなみに、義務化されたのは年5日までという水準ですが、政府は2020年までに有給取得率70%を目指して働き方改革に取り組んでいくことを掲げています。

年次有給休暇の計画的付与制度とは?

今回の法改正以前から、実は年次有給休暇には「計画的付与制度」という仕組みが存在していました。あらかじめ会社側と労使協定を結んだ上で、「この時期に有給を取得します」と計画を立てておき、計画に従って有給を取るという趣旨の制度です。

年5日という取得義務が定められたことによって、どの社員が有給を何日取得済みであるのか、1年間の残り期間であと何日取得してもらわなくてはならないか、1人1人の状況を把握して目を光らせ続けているのは、管理職や総務担当者にとって負担となる可能性があります。

そこで、従来からあったこの「計画的付与制度」を活用することで、5日間の有給取得に漏れが生じないようにできるのではないか?と注目が集まりました。

誤解があってはいけない点として、次の2点が挙げられます。

  • 有給の計画的付与制度は従来から存在した制度で、今回の法改正で新たに作られたものではない
  • 必ず計画的に付与しなくてはならないわけではなく、従業員が任意に有給を申請してもよい

そもそも年次有給休暇とは?有給の根本を理解しよう

今回の法改正は罰則付きの義務化ということもあり、にわかに有給休暇が注目されつつあります。しかし、有給休暇という制度そのものはずっと以前から存在していたものですので、「年5日間」という取得日数が義務化されたのみで、それ以外は従来の有給休暇の制度が引き続き適用されることになります。

年5日という情報に注目が集まるのは致し方ないことかもしれませんが、せっかくの機会ですので有給休暇の制度そのものについて復習し、根本を理解しておくことが大切です。

有給休暇が存在するのはなぜ?その目的とは?

有給休暇とはその呼称通り、「給与が発生する休日」のことです。有給取得日は欠勤扱いにならず、出勤したのと同じと見なして出勤日と同等の給与が支払われるというわけです。

日本における有給休暇の歴史は、終戦後の1947年にまでさかのぼります。この年に労働基準法が定められ、次のように規定されました。

“使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。”
(労働基準法第三十九条)

労働者の心身の疲労を回復させることで労働力の維持を図るだけでなく、憲法に定める「健康で文化的な最低限度の生活」を実現していくため、このように規定されたものと考えられます。

労働基準法が定められたタイミングですでに有給休暇は存在していたこと、かつ、働いていく上で労働者にとって必要なものとして当時から位置づけられていたことがポイントです。

年次有給休暇は企業の福利厚生ではなく「義務」

ここで確認しておきたいこととして、有給休暇は企業ごとに定める福利厚生制度ではなく、どの企業にも共通する「義務」であるという点があります。ときどき求人票などに「有給制度あり」といった書かれ方をされているのを見かけることがありますが、その企業が独自に設けている制度ではありませんので注意が必要です。

また、社員に対して「うちの会社は有給制度があるかどうか分からない」といった誤った説明をするのも問題があります。労働基準法で定められた義務であることをしっかりと理解しておきましょう。

ただし、実際には「従業員が申請してきたら承認する」といった運用になっている企業がほとんどのはずですので、有給を取得していない従業員がいたとしても従来は問題ありませんでした。今回の法改正によって、年5日という具体的な取得日数が示されたというわけです。

これ以前も有給休暇という制度そのものは企業にとっての「義務」だった点に注意しましょう。

なぜ有給取得が義務化された?従来の有給制度の問題点を確認しよう

働き方改革でよく話題にのぼるのが「残業時間」と「有給取得義務化」です。では、なぜ法改正によって有給取得を義務化する必要があったのでしょうか。この原因として、従来の有給制度で指摘されていた問題点が挙げられます。

機械的に「法改正されたから従う」という理解で運用するよりも、改正された理由や従来の問題点を理解しておいたほうが実態に即した運用をしやすくなるはずです。具体的な問題点としてどういったことが言われてきたのか、詳しく見ていきましょう。

取得してもしなくても自由=実質的に取得できないケースが多発していた

これまで、職場で次のような会話を耳にした(あるいは自分が言った)ことはありませんか?

そういえば、有給っていま何日ぐらい残っているんだろう?
・・・覚えていないなあ。残っていたとしても使えないんだから、別にいいんじゃない?

この会話には、従来の有給制度の大きな問題点が表れているのです。

(有給が)残っていたとしても使えない、ということは、実質的に有給休暇が用意されていないのと同じことです。有給の元来の目的は、前述のように心身を休め、生活にゆとりを持たせることだったはずなのですが、これでは目的を果たしているとは言いがたい状況です。

有給は取得してもしなくても自由だったことから、実質的に取得できない状況だったとしても「従業員本人が申請していない」という扱いになっていたわけです。そのため、多忙で担当者が抜けられない状況が慢性化している職場や、有給を取得する習慣が根付いていない職場においては、有給制度が形骸化していたのです。

仕事の状況から有給を年5日取りづらい場合どうしたらいい?

管理職の皆さんの中には、「うちは年中忙しいのに、年間で5日間も社員を休ませられない」と悩んでいる人もいるかもしれません。こうした場合、どう対処したらいいのでしょうか。

検討すべき点は2つあります。1つは「本当に5日間休めないかどうか」、もう1つは「その状況自体がリスクになっていないか」という点です。前者については、次のことをぜひ検討してみてください。

年間5日間休めない状況のとき検討しておきたいこと

  • 担当者を複数名にできないか
  • シフト制や交代制にできないか
  • 削減・省略できる業務はないか
  • 効率化が可能な業務はないか
  • 必ず当日に対応が必要な業務か

組織として見たとき、実はより深刻なのが2つめの検討事項です。年間5日間休んだら仕事が回らない状況になっている、そのこと自体がリスクになっている可能性があります。

有給取得義務化というきっかけがあって表面化した問題ではありますが、義務化を差し引いて考えたとしても、部下の誰かが急な病気やケガで出勤できなくなる事態が絶対にないとは言い切れないのです。有給取得義務化をきっかけとして、組織のリスクヘッジに取り組んでみるのも1つの考え方かもしれません。

年次有給休暇と取得義務化に関するQ&A

最後に、有給制度そのものと、取得義務化に関するQ&Aをご紹介します。取得義務化に伴ってさまざまな問題や課題点が浮上することが予想されますので、必ずしもここに挙げるQ&Aで全ての疑問が解消されるわけではないかもしれません。

取得義務化について実務上どのように対応するかは、企業ごとに業務の状況を見ながら判断することになるはずです。厚生労働省や労働基準監督署が公表している有給休暇取得義務化に関する資料にぜひ一度目を通し、理解を深めておくことをおすすめします。

Q:従来から設けていた夏季休暇を有給休暇に振り替えてもよい?

A:従業員との合意の上であれば問題ありません。

もともと5日以上の長期休暇を設けている企業であれば、その期間を有給に振り返ることで年5日取得という基準をクリアすることができます。

ただし、有給休暇は従業員に与えられている権利ですので、会社側が従業員に許可を得ることなく休業日を有給に振り返ることは禁じられています。事前に十分な話し合いを行い、会社側と従業員の双方が納得した上で有給に振り返るのであれば問題ないでしょう。

Q:有給取得義務化の対象となるのは正社員のみ?

A:所定労働日数に応じて、パートタイム労働者など非正規従業員にも適用されます。

有給取得義務化の根拠となるのは労働基準法です。労働基準法はあらゆる労働者を対象としている法律ですので、有給取得義務化についても正社員に限らず、あらゆる労働者が対象となります。

注意しておきたいのは所定労働日数に応じて、という箇所です。所定労働時間が週30時間未満、週所定労働日数が4日以下の労働者の場合、労働日数に応じて比例付与する必要があります。具体的には次のようになります。

パートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者に対する付与日数●パートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者は、年次有給休暇の日数は所定労働日数に応じて比例付与される。●比例付与の対象になるのは、所定労働時間週30時間未満、かつ週所定労働日数が4日以下、または所定労働日数が216日以下の方

Q:繁忙期で担当者不在では困る時期に有給を申請してきたら?

A:時季変更権を行使することが認められています。

有給休暇には労働者が希望した日に取得できるというルールがあります。そのため、上司の恣意的な判断で有給の取得日を変更したり、取得すること自体に難色を示したりすることはルール違反となります。

しかし、実際には従業員が希望通りに休んでしまうと業務に支障をきたすケースもないとは言えません。その場合、労働者の意に反する場合でも有給取得時期を変えてもよいという時季変更権が認められています。

ただし、時季変更権の行使が認められるのは「事業の正常な運営を妨げる」ことが明らかな場合に限られており、単に多忙という理由で行使することはできません。

Q:有給取得の申請時、取得の理由をたずねても問題ない?

A:有休取得に理由を添える必要はありません。なぜ休むのかを訊ねるのはNGです。

有給休暇は労働者に認められた権利ですので、その権利を行使する理由を明らかにする義務はありません。つまり、「なぜその日に休まなくてはならないの?」「何か用事でもあるのですか?」と訊ねること自体がルール違反にあたります。

有給申請の書式に「理由」欄が設けられているとしたら、仮に「私用」と書けばよいことになっていたとしても理由を訊ねていることになります。従業員のプライバシーを侵害していると捉えられる可能性もあるため、こうした行為はやめましょう。

Q:有給を取りづらい雰囲気がある部署で取得を促進するには?

A:まずは管理職自身が適切な有給取得を実践しましょう。

有給を取得するようアナウンスしても、現場では休みづらい雰囲気が蔓延しており、結局誰も申請してこないといったケースは少なくないと思われます。管理職の方は部下に対して法令の改正や取得義務化について丁寧に説明し、有給取得を促していきましょう。

同時に、管理職自身が適切に有給を取得する姿を見せることで、「本当に取得していいんだ」と部下は実感します。まずは管理職が実践することによって、部署の空気を変えていくことが大切です。

まとめ)有給取得義務化は部下とのコミュニケーション増加のチャンス

仕事を休まなくてはならないと言われるのは、どことなく奇妙な感じがするかもしれません。しかし、これまで慢性的に忙しかった職場ほど、見えないところで部下の不満やストレスが鬱積しているものです。

有給取得義務化をきっかけに、部下がそれぞれどのような働き方を望んでいるのか、望ましい働き方についてお互いの理解を深めてみてはいかがでしょうか。

罰則を伴う義務化ということもあり、渋々従わざるを得ないと考えていた人も、せっかくの機会ですのでプラスの方向に活かして部下とのコミュニケーション増加のチャンスと捉えてみてはいかがでしょうか。これまで聞けなかった部下の本音や、望んでいる働き方について話し合うことができるかもしれません。

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