合併・M&Aは何のためにやるのか?企業同士の合併・M&A時にマネージャーが意識したいポイント3つ!
[最終更新日]2022/12/15
大型案件などですと新聞を賑わせることもあるM&Aは、企業の組織構造や将来の在り方に大きな変革をもたらす企業の転換点です。
しかし、M&Aには様々なリスクや留意点があり、これらを上手にクリアしていかないと、うまく組織が一体化せず、M&A後の相乗効果(シナジー)が起きないどころか、却って企業を衰退させる原因になることもあります。
今回はそうならないために、M&Aを実施するうえでマネージャー層が意識すべきポイントを説明します。
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目次
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そもそも、M&A(合併・買収)とは?
まずはM&Aの意味と目的について簡単に説明します。
M&Aとは「Merger and Acquisition」の略で、日本語に置き換えるとMergerが「合併」、Acquisitionは本来獲得・取得といった意味ですが、ニュアンスとして近いのは「買収」に当たります。
つまり、企業合併や企業買収のことを指します。
M&Aを行う目的は企業の状況において様々ですが、主に以下のようなものが挙げられます。まず買い手、吸収合併の場合に存続する側の場合です。
- 既存事業の成長
- 事業の多角化
- 新たな技術獲得
- 人材確保
- 海外進出
上記の目標を達成する場合に、自力では目的達成に時間がかかることが懸念される場合に、M&Aという手法が選択されます。
さて、一般的な説明では買い手の事情にのみスポットが当たりがちですが、もちろん売り手にも事情があります。
- 不採算事業/子会社の切り離し
- 投資の選択と集中
- 企業の生き残り戦略
- (中小企業の場合)オーナーの引退
M&Aはこうした買い手・売り手お互いの目的が合致することで成立するものと言えます。
「合併」か「買収」かによって、その性質は異なる
続いて「合併」と「買収」は非常に似ているものではありますが、その性質は微妙に異なりますので、こちらで説明します。
まず「合併」とは2つ以上の企業が1つになることを指します。合併には「新設合併」と「吸収合併」があります。
- 新設合併:旧企業が全て解散し新たな一つの企業になること
- 吸収合併:1社が存続企業となり、それ以外の企業が消滅すること
現実では旧企業が解散するより、いずれかの企業を存続させた方が、手続きが簡単なので吸収合併が選択されることがほとんどです。いずれにしても、旧来の組織体が「消滅」するのが合併のポイントです。
続いて「買収」はその名の通り、売り手の企業や事業の一部を買い取ることです。大きく分けて以下の方法があります。
- 株式取得:売り手企業の株式を買い取り、経営権を取得する
- 事業譲渡:契約の中で定められた範囲の事業を譲渡する
この場合、株式の購入比率や、事業譲渡の範囲により買い手の支配力・支配範囲が変わりますが、いずれにしても売り手企業も存続する点が合併との最大の違いです。
企業がM&Aを行うメリットは?
- 成長速度を速めることができる
- スケールメリットを高めることができる
- 事業の総合効果が得られる
- 同業他社のライバルを減らすことができる
- 事業継承の心配がなくなる
- 倒産・清算を回避できる
代表的なM&Aのメリットとしては上記があげられます。
まずM&Aは「時間を買う戦略」ともいわれることがあるように、企業が自前で行うと時間がかかる成長を短時間で実現することができます。また多くの事業ではスケールメリットといって、大規模に経営した方がコスト面で優位に働く側面がありますが、M&Aで規模を拡大することで、この効果を高めることができます。
その他、人材面・技術面・事業ロケーションなどの面で統合企業お互いの特徴を併せ持ち高めあうことで、統合効果(シナジー)を得ることも期待できます。同業他社同士の合併の場合には、ライバル企業を減らすことができるという点もメリットです。
一方売り手側としてもメリットはあります。事業継承先に悩んでいる中小企業等にとっては、後継ぎ問題から解放されることになります。また成績が思わしくない企業では倒産・清算といった最悪の事態を回避することができます。
実際のM&Aでこうしたメリットうちどれか、もしくはいくつかを享受することを期待して、M&Aの実施が検討されます。
M&A(合併・買収)のデメリット・注意点は
前章に書いた通りM&Aはさまざまなメリットがある一方、デメリットや注意点も多数あります。
M&Aにおいてはこれらデメリット・注意点を理解したうえで、それらを抑える、或いはデメリットを上回るほどの効果が期待できるM&AとなるようにM&A手法や統合・買収先を選定することが肝要です。さもなければ、M&Aは単に企業のコストを圧迫するだけの戦略に終わってしまうことになります。
- 期待した統合効果(シナジー)が発揮されない
- 多額のコストがかかる
- 株価への悪影響
- 人員増加によるコスト増
- 社内ルールや組織統合が必要
- システム等インフラ統合が必要
期待した統合効果(シナジー)が発揮されない
過去M&Aを行った企業はいずれも分析・検討を重ねたうえで実行されたはずのものですが、それでも当初期待された統合効果が発揮されなかった事例が後を絶ちません。
前もって「どんな統合効果を狙ってM&Aを行うのか」を明確化したうえで、統合先の選定やM&A実施手法等は全て、「効果を発揮するうえで最善か」を軸に分析・検討を進めることで徹底することが肝要です。
また、どんなに分析を重ねても、いざ統合してみないと効果のほどはクリアにならない、という部分はどうしてもあります。統合効果を想定するうえでは不用意に高い期待を持たずに保守的に見積もるように徹底することも重要です。
株価への悪影響
大きな企業になるとM&Aは株式取得や株式交換、また厳密には手法が違いますが第三者割当増資など株式を伴って実行されるケースがほとんどです。こうしたことからM&Aは株価に大きな影響を与えることがしばしばあります。株式のやり取りの中で既存株主の権利が希薄化するということであればそれだけで大幅な株価下落要因になります。
また、多額のコストがかかるM&Aの効果に疑問符がもたれた場合においても、やはり株価にはネガティブな要因となります。もちろん、M&Aの効果が市場に好感されれば株価上昇要因となることもありますが、現実にはM&Aを実行する時点で多額のコストがかかる以上、M&Aは一時的な株価下押し要因となることが多いです。
M&Aを実行する上では、こうした株価の動きについても注意する必要があります。
社内ルールや組織統合が必要
M&Aが新聞などを賑わせるときは大抵、「契約上会社が統合・買収された」時ですが、実際にはその後に長い時間をかけて組織や社内ルールを一本化していく作業が発生します。
実際にはこのフェーズで行き詰まり、効率的な組織が出来上がらないリスクがあります。例え近い業種だったとしても組織構造や社内ルールは企業の歴史やマインドなども背景に大きく異なっていることが多く、これを非効率にならないように一つにしていかなければなりません。
M&A後の目指すべき組織体系を明確化した上で、「そのゴールに近づくうえでベストな構造・ルールを作り上げること」を徹底していくことが重要です。
組織でM&Aがあったときに、マネージャー・管理職が意識したいポイント3つ
さて、このようにメリットもデメリット・注意点も多数あるM&Aですが、実のところ企業のM&Aが成功し、企業が成長できるかどうかは、現場の組織の在り方に大きくかかっています。
ここではマネージャー・管理職向けに、自身の属する企業がM&Aを実施し、他社と組織統合が実施される際に、マネージャー・管理職として組織運営を円滑にする上で意識しておくべきポイントについて3点説明します。
- 企業のM&Aの「目的・狙い」を認識し、部下に説明できるようにする
- PMI(ポストマージャーインテグレーション)について知っておく
- 俯瞰的な視点と対話の機会を大切にする
それぞれ、順を追って見ていきましょう。
企業のM&Aの「目的・狙い」を認識し、部下に説明できるようにする
まず大切なのはM&Aがどういう目的や狙いを持って実施されるものなのか、部下に説明できるようにし、部内で共通認識を持っておくことです。その前提としては、マネージャー・管理職自身がM&Aを実施する目的や狙いをしっかりと理解しておく必要があります。
M&Aというのは買い手側であろうと売り手側であろうと、普段の業務とは異なる対応や、業務フロー・ルールの変化などにより部下に多くの負担を強いることになります。組織統合により急に多くの新たな社員と業務を実行する場面も多くなり、社員のストレスも高まりやすい状況です。
こうした状況でも円滑に組織運営をしていくためには、現場の負担が大きい「M&A」が企業にとって意義深いもの、企業の成長に必要なものであるということを、現場社員に浸透させておく必要があります。従って、組織の管理職・マネージャーにおいてはM&Aの目的や狙いを部下に説明できるようにしておくことが必要となります。
PMI(ポストマージャーインテグレーション)について知っておく
一般的に言うM&Aとは契約上企業が統合・買収された状態を指し、その時点では企業の資産・人材・組織・ルールといったあらゆるものはバラバラの状態です。現場組織のマネージャー・管理職に位置する方々は、M&A実行後の企業の組織体の統合である、PMI(ポストマージャーインテグレーション)について理解しておく必要があります。
企業が大きくなればなるほど、二つの組織体はただ株式を交換したり、キャッシュの授受があったからといって簡単に統合することはできません。お互い組織構造が異なる、人材構成が異なる、基幹システムが異なるなど、両企業には無数の差異が存在しているのが当然だからです。
これらを放置しておいてはただ非効率な組織になり、M&Aの統合効果など得られようもありませんから、必要に応じて専門のコンサルタントなども交えながら長い検討期間・実行期間をかけてPMIが実施されることで、ようやく二つの企業は効率的な一つの組織に生まれ変わることができるのです。
俯瞰的な視点と対話の機会を大切にする
最後に重要なのは俯瞰的な視点を常に持つこと、そして現場のコミュニケーションを密に取るように心がけることです。慣れない社員同士であったり、または新たな仕事のやり方であったり、様々な原因により、M&A直後には小さなトラブルの発生は避けられないものです。
マネージャー・管理職においてはこれら小さなトラブルにとらわれ過ぎず、新しい自分の管理する部署が、M&A後の新たな企業の円滑な運営に資するように、高い・広い視点を持って部署のマネージメントを行うことが肝要です。
また、最後に組織運営の成否を握るのは部下同士のコミュニケーションです。M&Aを機会に新たな人間同士のかかわりも増えるでしょうが、そのタイミングだからこそ、お互いの対話を積極的に行うように意識することも重要です。
必要に応じて食事会やリクリエーションなど業務外の交流機会などもセッティングしながら、新たな組織の一体感を醸成していくことが望まれます。
異なる文化が融合する際は、必ず混乱・衝突が発生するもの
M&Aにおいては異なる歴史や文化を持つ複数の企業が突然一本化されることになります。企業というのは意外なほどにそれぞれの企業により異なる文化を持っていて、そこに所属する社員も文化に強く染まった状態となっていることが普通です。
それら異なる文化を統合しようとする上で、混乱・衝突の発生は避けることはできません。従って混乱・衝突が発生すること自体をネガティブにとらえる必要はありません。
大切なことは、発生した混乱や衝突をマネージャー・管理職としてどのように対処し、部署をより効率的で一体性を持った部署にしていくのかという点です。M&A後の混乱・衝突はマネージャー・管理職の手腕次第ではその部署をより強化するチャンスにもなりえるのです。
混乱・衝突を「除去」するのではなく、「受けとめる」マインドと体制構築が重要
この時注意したいのは、混乱・衝突を除去しようとしないことです。
文化の違いによる混乱・衝突を除去するためには、究極的には「文化を一つにする」しかなくなってしまいますが、そもそもこれまで異なる文化の下運営されていたものを一つに均一化することは困難ですし、そもそも「異なる企業同士の統合」により効果を発揮するのがM&Aなので、この異質な文化も企業の成長の源泉であったはずです。
従って管理職・マネージャーとしては、この混乱・衝突を取り除くのではなく、そこに異質な文化が併存していることを受け止め、お互いの文化を尊重する仕事のやり方や体制を模索し、構築していくことが重要です。
初めのうちは小さなトラブルが頻発するかもしれませんが、対話を繰り返しながら、お互いのベストなやり方を探していくことで、いずれ「新企業の組織の在り方」が構築されていきます。その際、文化についてもお互いの異質な文化が上手に統合され、「新企業の文化」へと昇華されていくことでしょう。
M&Aのデメリットを受け止めたうえでマネージャー・管理職として正しい行動を
M&Aはここで説明したように、メリットだけでなく様々なデメリットがあり、多くは現場組織に負担を強いるものとなっております。油断すると現場からは「なぜM&Aを行ったのか」といった否定的な声や批判が上がってしまうリスクもあります。
マネージャー・管理職の皆様においては異なる文化の企業が突然一つになったという事実を受け止めたうえで、M&A目的達成の上でベストな組織の在り方はどのようなものか常に意識しながら、部下との積極的な対話を以て新組織を運営していくことが肝要です。
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