管理職なら知っておきたいステークホルダー・エンゲージメント

[最終更新日]2020/06/29

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管理職なら知っておきたいステークホルダー・エンゲージメント

皆さんは、電車内や街中でB to B企業の広告を目にしたことはありませんか?
それも、「私たちは〇〇を作っている会社です」といった内容ではなく、環境問題への取り組みや慈善活動への協力について紹介する広告を見かけることがあります。

こうした広告を出す狙いの1つが、企業イメージの向上であることに疑いの余地はないでしょう。
しかし一方で、多額の広告費を投じてまで企業がこのような広告を出すのはなぜだろう?と疑問を感じたことはないでしょうか?

今回解説するステークホルダー・エンゲージメントは、この疑問を解決することに役立つ概念です。

企業にとってステークホルダー・エンゲージメントとはどんな概念なのか、なぜ注目されているのか、詳しく見ていきましょう。

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Index

目次

ステークホルダー・エンゲージメントとはどのような概念?

国際標準化機構が2010年11月に発行したISO26000(社会的責任ガイダンス規格)では、ステークホルダー・エンゲージメントは次のように定義されています。

組織の決定に関する基本情報を提供する目的で、組織と1人以上のステークホルダーとの間に対話の機会を作り出すために試みられる活動

このステークホルダー・エンゲージメントの概念を理解する上で重要になるのが、次の3つの言葉です。

 CSR活動ステークホルダー対話
  • CSR活動
  • ステークホルダー
  • 対話

それぞれどのような意味合いを持つ言葉なのか確認しておきましょう。

企業のCSR活動における重要な要素の1つ

企業は自社の製品やサービスを顧客に提供し、利益を得ています。顧客から支持を得るためには、価値のある商品を提供することが重要とされます。

しかしながら、モノやサービスを提供してさえいれば企業としての価値が高まり続けていくかと言えば、そうとも限らないのが難しいところです。

人々のニーズが多様化・細分化されていくに従って、企業は自社の利益を追求しているだけでは企業価値を維持し続けるのが困難になりつつあります。

そこで注目されるようになったのが「企業の社会的責任」です。経済・環境・社会といった広範にわたる価値を世の中に提供できてこそ真に価値のある企業である、という考え方が台頭してきたわけです。

このように、企業が社会全体に向けた価値創造を目指すための取り組みのことをCSR(Corporate Social Responsibility)活動と呼びます。

ステークホルダー・エンゲージメントは、企業のCSR活動における重要な要素の1つと考えられています。




企業にとってのステークホルダー(利害関係者)とは?

企業活動には顧客だけでなく、さまざまな立場の人が関わっています。ステークホルダーとは、企業にとってのあらゆる利害関係者のことを指します。

《ステークホルダーの例》

《ステークホルダーの例》

質の良い製品を世の中に提供している企業であっても、そこで働く従業員の労働環境が劣悪なものだったとすれば、企業としての社会的な価値が十分に高いとは言えません。

莫大な利益を生む企業活動を展開していても、その企業が活動拠点とする地域社会に迷惑や危険を及ぼしてしまうようでは、企業としての価値提供は限定的になってしまいます。

多様な立場の人から企業活動が支持され、応援してもらうには、さまざまな利害関係者がいることを十分に考慮する必要があります。

企業を取り巻く関係者にどのような立場の人がいるかを考える上で、ステークホルダーは欠くことのできない概念とされているのです。




企業のファンを増やすステークホルダー・エンゲージメント

企業活動が特定の立場の人にとって恩恵をもたらしたとしても、別の立場の人からすれば価値を感じられない、といった状況が生じないよう、あらゆる立場の人にとって存在意義のある企業にしていくことがステークホルダー・エンゲージメントの根底にある考え方です。

別の表現をすれば、「あの会社は良い会社だ」「価値のある活動をしている」と感じてもらえるファンを増やすことがステークホルダー・エンゲージメントとも言えるでしょう。

ステークホルダー・エンゲージメントは一見すると本来の事業内容とは直接的に関わりのない分野の活動として映ることがあります。

しかし、長い目で見れば世の中に広く価値を提供できる企業へと成長を遂げることによって、総合的に企業の価値を高め、根強いファンを増やし、結果的に「価値のある企業が提供する製品・サービス」の価値を高めることへとつながります。

このとき、「私たちの会社は素晴らしい取り組みをしています」と一方的に主張するのではなく、ステークホルダーとの「対話」を通じてニーズを把握することが重要です。

さまざまな立場の人々との対話を通じて、より幅広いニーズに応えるべく高い理想を掲げる企業が増えつつあるのです。

なぜ今、ステークホルダー・エンゲージメントが重要なの?

企業活動の根本には利潤追求という目的があります。
世の中から求められるモノやサービスを提供し、その対価として利益を得ることで企業活動を継続・拡大することにより、さらなる価値を提供し続けることこそが、企業活動の本来の意味と言えるでしょう。

一方、ステークホルダー・エンゲージメントは利潤追求に留まらない、より広い意味での社会貢献を志向する考え方です。

なぜ今、ステークホルダー・エンゲージメントが注目され、重要な概念として捉えられるようになっているのでしょうか。




広義の社会貢献が企業イメージ・企業価値の向上につながるから

高度経済成長期に日本企業はめざましい発展を遂げていきました。その過程でもたらされたものは利益だけなく、さまざまな社会問題も含まれていました。

たとえば、工業製品を大量生産する中で大気汚染や水質汚染といった環境問題が指摘されるようになりました。

長時間労働によって従業員が心身の健康を損なっていくことが、社会的に悪影響をもたらしていると指摘されることもあります。

現代においても、企業が売上や利益を追求していくことと、企業の社会的な存在意義が相反するものになるのは健全な状態ではないと考える人は決して少なくありません。

特定の企業がもたらす社会的価値は、本来であれば限られた範囲の人に恩恵をもたらすものです。

裏を返せば、企業が提供する価値に直接の恩恵を感じられない人にとっては、自社の利益を貪る存在でしかない場合もあり得ます。

ところが、もしある企業の活動が直接の顧客や取引先以外にも恩恵をもたらし、世の中に広く貢献するものであったとすれば、直接の関係者以外にとっても存在価値のある会社ということになります。

このように、より多くの人にとって「なくてはらならない企業」「価値のある企業」として認知されることが、結果的に企業イメージの向上へとつながっていきます。




社会的ニーズの理解と経営へのスピーディな反映に役立つから

現代の市場は「モノを作れば売れる」という単純な構造ではなくなりつつあります。
消費者のニーズが細分化された現代においては、特定の商品が汎用的な価値をもたらすと認められ、熱烈に支持されるという状況がなくなりつつあるのです。

このような状況において、次なる社会的なニーズを把握するのは容易なことでありません。

単に「今、何が欲しいですか?」と直接的な問いかけをしても、当の消費者自身が潜在的なニーズや解決すべき課題に気づいていないケースが少なくないからです。

ステークホルダー・エンゲージメントは、あらゆる利害関係者を想定し企業に求められる価値を包括的に捉えることに役立ちます。これによって、さらに広い意味での社会的ニーズを理解し経営へとスピーディに反映させることへとつながるのです。

会社が良い意味で「変わる」ための契機をもたらすのがステークホルダー・エンゲージメントとも言えるでしょう。




従業員が帰属意識や職場への誇りを持つきっかけになるから

企業にとってのステークホルダーは社外にだけ存在するわけではありません。企業内部で働く従業員もステークホルダーに含まれています。

かつては、勤務先の業績に貢献することと従業員自身の暮らしが豊かになること、世の中に貢献できることは相互に矛盾しない時代がありました。

しかし、現代においてはある企業の活動が特定の層の人々にとっては迷惑なものになってしまう可能性は十分にあり得ます。一時期、ソーシャルゲーム業界で「ガチャ」が問題視されたことがありました。

ユーザーが課金することで会社に利益がもたらされたとしても、ユーザーにとって、あるいは社会にとって多くの人を幸せにしていないのではないか?という点が社会問題になったのです。誰も幸せにできない事業を営んでいても、そこで働く従業員が自社の事業に誇りを持つことは難しいと言わざるを得ません。

ステークホルダー・エンゲージメントに取り組むことで企業の社会的価値や存在意義が高まれば、そこで働く従業員は「この会社で働いていて良かった」「もっと多くの人に喜んでほしい」と、帰属意識や職場への誇りをいっそう強くするでしょう。

これが結果的に、優秀な人材の採用や流出防止へとつながっていくのです。

ステークホルダー・エンゲージメントの3つの事例

博報堂DYホールディングス:「生活者発想」と「パートナー主義」

博報堂DYホールディングスは国内外を問わず幅広くCSR活動を展開しています。このうち、「持続可能な開発目標(SDGs)」への取り組みとして「安全な水とトイレを世界中に」を啓蒙するイベントを開催した実績があります。

2017年8月に開催された「Road to Water」にて、生活に不可欠な水を得るために大変な思いをしているマダガスカルの子どもたちを取り上げ、センサーを内蔵したバケツでマダガスカルの子どもたちの生活を疑似体験してもらうイベントを開催しています。

重要な情報を多くの人にリーチさせために広告事業の強みが存分に生かされており、主力事業との連携という点においても優れたソーシャルアクションと見ることができるでしょう。

参考記事:http://ungcjn.org/sdgs/archive/1802_hakuhodo.html

同社はこのほかにも、震災復興事業におけるメディア・コンテンツ制作や活動支援といった、広告事業の特性を生かした数多くの活動に取り組んでいます。

高い理想を掲げながらも「生活者」としての目線を大切にし、実効性のある施策を実現させている点が、ステークホルダー・エンゲージメントを具現化する上で非常に参考になる事例と言えます。

博報堂DYホールディングスHPより

博報堂DYホールディングスHPより




エーザイ株式会社:「ヒューマン・ヘルスケア企業」としての取り組み

医薬品メーカーとして知られるエーザイですが、hhc(ヒューマン・ヘルスケア)企業を掲げ、CSR活動やステークホルダー・エンゲージメント強化に取り組んでいます。

世界には、十分な医療や医薬品が届いていない国や地域も存在します。エーザイは「顧みられない熱帯病」の1つとして知られるリンパ系フィラリア症の制圧活動に乗り出し、リンパ系フィラリア症が蔓延する地域への薬剤の無償提供や診断キットの提供を行ってきました。

また、現地に薬剤を届けるだけでなく、感染予防に役立つ蚊帳の配布や疫病に関する啓蒙活動を現地で行うなど、病気そのものに罹る人を少しでも減らすための策を講じています。

こうした活動をエーザイの本社スタッフが視察する機会も設けられており、ヒューマン・ヘルスケア企業としての一連の取り組みが従業員のモチベーション向上にも寄与していることが推察されます。

エーザイ医薬品アクセス向上への挑戦—リンパ系フィラリア症への取り組み—(動画)




ヤマハ株式会社:音楽を通じた地域貢献・青少年育成支援

本業の特性を生かした地域貢献や教育分野への貢献も、ステークホルダー・エンゲージメントの具現化につながることがあります。

ヤマハでは「音楽の街づくり事業」として、千葉県柏市や東京都渋谷区などと協業で音楽イベントを開催しています。地域の商店や住民と自治体の連帯感を強めることにより、持続可能な社会基盤の下地づくりに貢献しているのです。

また、AMIGO Projectと題された活動では、中南米で深刻化している貧困、犯罪、格差の問題に取り組んでいます。

各地の青少年によるオーケストラバンドの結成と参加をヤマハは長年にわたって支援しています。
子どもたちに好きなこと・やりがいのあることを見つけてもらい、犯罪や非行、暴力から守っていく上で音楽の力が寄与しているのです。

楽器メーカーとしてのヤマハの強みが存分に生かされたステークホルダー・エンゲージメントの強化活動と言えるでしょう。

YAMAHAホームページより

YAMAHAホームページより

ステークホルダー・エンゲージメントを具現化するプロセス

ここまで、ステークホルダー・エンゲージメントの重要性と具体的な事例について見てきました。ステークホルダー・エンゲージメントの重要性は理解できても、実際に自社でその取り組みを行うとなると、何から始めればいいのか分からないという人も多いのではないでしょうか。

そこで、ステークホルダー・エンゲージメントを具現化するプロセスについて概要を確認しておきましょう。




ステークホルダーの洗い出しと再認識

自社に関わりのあるステークホルダーにどのような立場の人がいるのか、おそらく多くの方々は「当然知っている」「理解していて当たり前」と感じるのではないでしょうか。

しかし、ステークホルダー・エンゲージメントを具現化するための第一歩は、「どんなステークホルダーが存在するのか」「気づいていないステークホルダーがいるのではないか」という洗い出しから始まります。

「顧客」「株主」といった立場の人のことはすぐにイメージできても、「従業員もステークホルダーに含まれる」「地域社会もステークホルダーである」といったことになるとイメージしづらくなるかもしれません。

イメージが漠然としているということは、自社にとってエンゲージメントがまだ弱い証拠かもしれません。

ステークホルダーとのエンゲージメントを強化するためには、そもそも自社に関わるあらゆる立場の人をしっかりと理解・把握し、認識しておく必要があるのです。
このプロセスは「もう十分に分かっている」と思っても、スキップすることなく必ず実施するべきでしょう。




最適なアプローチやスケジュール、必要なリソースの設定

エンゲージメントを強化したいステークホルダーが明らかになったら、アプローチのために最適な方法や具体的なスケジュールを決めていくことが重要です。

ステークホルダー・エンゲージメント強化の取り組みは、高い理想を掲げて社会貢献を目指すことが求められるため、高邁な理想を掲げても具体的な施策について何も決まっていない、といった状況になりやすいからです。

掲げた理想がどんなに優れていたとしても、実現するための時間やキャパシティ、企業としてのリソースが確保できなければ机上の空論になってしまいます。

「できること」「取り組みたいこと」の落としどころを探り、まずは地に足をつけて始められることから着手していくことが大切です。




総括から新たな課題を抽出しPDCAを回す

ステークホルダー・エンゲージメント強化のための活動は「継続」することが何より重要です。1回きりの活動が世の中に与えるインパクトには限りがあります。
長く続けることでより多くの人に知ってもらい、賛同してもらうことができるようになるのです。

また、活動から得られた知見や新たに発見された課題を整理し、次の活動へとつなげていくPDCAを回していくことも大切です。

総括することで課題の抽象度を高め、より本質的に解決すべき問題へと注力することができる場合があるからです。

こうして得られた課題解決のためのノウハウやステークホルダーが潜在的に抱えている問題意識の発見が、本業において将来的に企画立案やサービス向上に還元され、役立てられていく可能性も十分にあるのです。

まとめ)顧客だけではない・売上だけではない「企業価値」の創出へ

「働くのは収入を得るためだけれど、それだけではない」
「せっかく働くのだから、世の中に役立つことをしたい」

このような思いを抱いたことのある人は、きっとたくさんいることでしょう。

こうした思いは、管理職や経営者だけでなく、一般社員も同様です。勤務先の企業が世の中に役立っている場面や、多くの人から感謝されている場面を目の当たりにして、嫌な気持ちがする人はいないでしょう。

企業にとって、売上や収益が重要であることは言うまでもありません。
しかし、顧客へのサービスやその対価としての売上確保だけに留まらない、真の「企業価値」を創出するための活動も今後の企業活動において重要な位置づけとなることは間違いありません。

皆さんもご自身の職場で、ステークホルダー・エンゲージメントを意識した活動を提案してみてはいかがでしょうか。




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