「働き方改革」を上辺で把握してる管理職は要注意!働き方改革の本当の意味と注意点
[最終更新日]2019/07/26
日本人の働き方を変えて、より多くの人が活躍できる社会をつくろう。 働く人の視点に立った改革を行い、労働生産性を改善して、より多くの人が豊かに生きていける社会を作ろう。
そんな目標から、政府内に「働き方改革実現推進室」が置かれ、発足したのが2016年9月のことでした。
働き方改革によって、私たちの職場はどんな風に変わっていくのでしょうか?会社にはどんな対応が求められるのでしょうか?解説していきたいと思います。
Index
目次
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働き方改革とは──概要と背景
働き方改革は、つまりどういうもの?
働き方改革とは、ひと言でいうと、日本が豊かでありつづけるための改革です。
人口が減り、それとともに労働人口も減少していく中、自ら生産に参加して収入を確保し、価値を創造できる働き手を一人でも増やしていく。
そのことによって、この国を豊かであり続けさせようとする施策です。
ですが、自ら生産に参加する人を増やすとはいっても、いまの私達の社会には、その障害となる要因がいくつも存在しています。
また、働く人一人ひとりが生み出す価値の量、すなわち生産性も、欧米先進国などに比べると低く抑えられているのが現状です。
人口は少なくても、多くの人が生産に参加し、ワークライフバランスが整った環境のもと、効率よく働いて価値を生み出せば、市場は大きく膨らみます。
豊かで活力のある市場はさらなる生産を求めます。
それが働く人の収入となることで、次の豊かさを生み出します。
「働き方改革」は、そんな好循環が実現する社会を国の目標に掲げています。
働き方改革が産まれた背景
働き方改革は、どんな背景から生まれたものなのでしょうか。
まずは、内閣府が公表している日本の将来推計人口のグラフを見てください。
ご覧のとおり、出生率などが現状のまま推移した場合、2048年には日本の人口は1億人を割り、2060年には対2013年の比率で7割ほどに減ると予想されています。
またそうした中で、より深刻な問題になると見られているのが労働力人口の急激な落ち込みです。
国立社会保障・人口問題研究所の資料によれば、日本の生産年齢人口(15~64歳)は、2010年には8,173万人だったのが、2027年には7,000万人を割り、2051年には5,000万人を割ってしまいます(出生率が今後大きく上がらず、また大きく下がらないと仮定した場合)。
こうした予測の中、女性も高齢者も誰もが働きやすい社会をつくらなければ、日本の将来の働き手はどんどん減っていくのみだという危機感が、働き方改革の背景のひとつにあるわけです。
働き方改革の「狙い」
政府が働き方改革のスローガンに掲げているのが、「一億総活躍社会」の実現です。
日本の人口減少が避けられない中、なるべく国民皆が働いて、モノやサービスを生産し、価値を創り出していける社会にしようというものです。
ですが、そこで働く会社や仕事が、働く人の健康を害するつらいものだったり、子育てもできない過酷なスケジュールに追われるものだったりしては、働き手はなかなか活躍の場を求められません。
そのため、- 仕事と家庭の両立が困難になるような長時間労働
- 働く意欲を失わせる正規、非正規労働者の不当な処遇格差
- ライフテージに合わせた仕事選びや転職・再就職がしにくい日本の単線型キャリアパス
これらの問題をまずは解消し、働きやすい環境をつくりながら、国民の労働参加率の上昇を実現化していくというのが、働き方改革のねらいです。
政府は、一億総活躍社会の未来を切り拓くことで、少子高齢化に伴うさまざまな課題を克服したいともしています。
働き方改革とは──概要と背景
働き方改革の指針として示されているのが、「働く人の視点に立った改革」です。
政府は、働く人一人ひとりが、より良い将来の展望を持ち得るようにすることをこの改革の意義であるとしています。
では、私達日本の働く者にとって、より良い将来展望を持ち得るような仕事環境とは、どんなものになるのでしょうか。
そこで示されているのが、日本の働き方に存在する3つの課題です。
先ほども挙げた「長時間労働」「正規・非正規の不合理な格差」「単線型キャリアパス」の解消が、まず必要であるとされています。
なお単線型のキャリアパスとは、終身雇用偏重の結果、転職や再就職が不利となり、特に女性や高齢者の労働参加が妨げられやすい現状などを指しています。
長時間労働の改善
長時間労働が、働く人本人だけでなく、家庭や社会に多くの負担や悪影響を与えていることについては、働き方改革が唱えられるずっと前から叫ばれ続けてきました。
日本は過去に国連からも改善の勧告を受けています。
それでもなかなか解消できないでいるうちに、過労死や過労自殺による悲劇が数多く顕在化してきました。
そこで今回の働き方改革では、時間外労働の上限を定める法改正を大きな目玉としています。
- 時間外労働(残業)の上限は、原則、月45時間かつ年360時間
- 繁忙期など特例を適用する場合でも月100時間未満、2~6カ月平均で80時間以内
- 違反した企業への罰則
などの規定が盛り込まれています。
非正規と正社員の格差是正
正規雇用と非正規雇用の処遇格差も、働き方改革が解消を目指すポイントです。
「同一労働・同一賃金」という言葉がたびたびクローズアップされますが、働き方改革で目標とされるのは、賃金も含めた不合理な処遇格差の一掃です。
少ない賃金や、低い待遇から来る非正規労働者の将来への不安は、彼らが消費を抑えることで、デフレからなかなか脱却できない日本経済の一因をかたちづくっているとされています。
雇用者全体の4割を占めるといわれるパートタイマー・派遣社員・契約社員などの待遇が改善されなければ、女性や高齢者の労働参加意欲も、増すことにあまり期待はできないでしょう。
日本のパートタイムで働く人々の時間当たり賃金は、フルタイムで働く労働者に対して6割程度にとどまるとされています。
働き方改革では、そうした状態のまま両者が同一労働に就いているようなケースを解消、働く人のモチベーションを高め、労働生産性を上げていくことが目標に掲げられています。
高齢者の就労促進
2014年に行われた内閣府の調査によると、仕事をしている60歳以上の約4割が「働けるうちはいつまでも働きたい」と回答しています。
「70歳くらいまで」以上の年齢を答えた割合を合わせると約8割にものぼり、高齢者やそれに近い人々が抱く、高い就業意欲が示される結果となっています。(平成29年版高齢社会白書)
こうしたせっかくの意欲が、無駄になってしまってはいけません。
そのため、働き方改革で政府は、定年の延長や継続雇用の延長を行う企業への支援、高齢者と仕事とのマッチングの支援などにも取り組んでいくとしています。
定年の延長などにより、高齢者の雇用機会を広げることは、能力や人柄をよく知る人材が対象となりやすいため企業にとってもハードルが低く、実現が容易に可能ともいえるでしょう。
もちろん、すでにふれた長時間労働や正規・非正規の格差、単線型キャリアパスの解消も、高齢者の就労促進に対し大きなプラスとなる改革です。
「働き方改革」の推進はうまく行かない?働き方改革の問題点は
働き方改革に対しては、実際に上手くいくのだろうかと、一方で疑念も示されています。
特に大きなものが、改革によって改まった制度が、働く人のためでなく企業側によって都合よく利用されてしまうのではないかという懸念です。
さらには、働く人も企業もひっくるめて、働き方改革に合わせた意識改革が行えるのかという疑問です。
働き方改革で豊かになれる会社と個人、逆にそうなれない会社と個人という色分けも生じてくるかもしれません。
「裁量」型雇用への疑念
2018年6月に成立した働き方改革関連法には、「高度プロフェッショナル制度」が盛り込まれています。
今法案では削除された「裁量労働制の拡大」とともに、議論の的となっていたものです。
高度プロフェッショナル制度も裁量労働制も、働く人に対して、自らの裁量による時間に縛られない働き方を選んでもらいやすい制度となっています。
ですが、企業と労働者の力関係によっては、「残業代をもらえない残業」を企業が労働者に押し付けることが容易になる制度になってしまうのではと、疑念の声も上がっています。
同一労働・同一賃金は機能するのか
正規・非正規の不合理な格差を解消するための「同一労働・同一賃金(処遇)」については、多くの会社が対応に悩まされそうです。
大きな理由は2つあります。そもそも同一労働とは何か、定義が難しいということです。
さらには年功に対して無条件にインセンティブが付く給与体系を採る会社などの場合、正社員同士であっても、同一労働・同一賃金は実現できていません。
加えて「たしかに当社では正規・非正規の待遇に不合理な差があるが、非正規労働者の給与を上げるための原資がない」といったケースでは、現状の格差を維持するための逃げ道が、逆に探られてしまうかもしれません。
メンタルからの変革は可能か
内閣府が示す、働き方改革の基本的考え方の中には、「長時間労働を自慢するかのような風潮が蔓延・常態化している現状を変えていく」と明記されています。
とはいうものの、日本社会にまだ根強く残っている長時間労働を美化するメンタルの一掃は、もうしばらく世代交代を経なければならないくらいのハードルかもしれません。
またヨーロッパ各国などと違い、日本の職場では、社員は任せられた「仕事」のために会社にいるのではなく、「会社」のために仕事をしている傾向がつよいともいわれます。
そうした部分での意識改革がないと、残業している同僚をおいて帰宅しにくいといった空気はなかなか解消されないでしょう。
管理職・マネージャーが「働き方改革」を推進する際の3つのポイント
働き方改革実現の最前線に立つのが、企業の管理職・マネージャーといった立場に立つ皆さんです。
場合によっては、実現しなければならない職場環境の変革と、会社全体が持つ意識や条件との矛盾に、大いに苦しむことになるかもしれません。
ですが、矛盾があるならばそれを克服しながら目標に向かって進み、調整を繰り返しつつ全体利益を向上させる仕事は、一人の人間としても大きな成長の糧となるものです。
ここでは3つのポイントを掲げます。
働き方改革の「目的」について理解を深める
働き方改革の実践に取り組むことになる管理職・マネージャーにとって、ぜひ理解しておきたいこと。
それは、この改革の正しい目的と本質です。
働き方改革の目指すものは、高い生産性と働きやすさの両立です。
一部を端的に挙げると、それはたとえば「部下に残業をさせずに成果を上げる」ということになります。
残業代として支払われていた給与が本給になれば、働く人は収入を減らさずに、自由な時間をいまよりも増やせることになるわけです。
働き方改革の隠れた本質も知っておきましょう。
働き方改革は、会社や上司のマネジメント能力が厳しく試される関門です。
考えてみてください。
サービス残業をしてくれる社員がいる会社や、部下をもつ上司は、本来やるべきマネジメントをサボらせてもらっているのです。
限られた時間や条件の中での人や仕事のやりくりこそが、マネジメントそのものなのですから。
そうした理解をまず深めた上で、現場での働き方改革を進めることが大切です。
働き方改革の他社事例を知っておく
政府による働き方改革の推進を待たず、働き方改革を自ら進めている企業はたくさんあります。
管理職やマネージャーの皆さんが工夫に行き詰ったときは、インターネットや本、あるいは人脈を通じて、他社の事例を知ることがとても効果的です。
たとえば、1日単位、半日単位の休暇のほかに、「時間休」の制度を設けている会社があります。
「朝の家庭の用事をこなすため、遅刻を避けるには半日休を取るしかない」といった会社がこの時間休を導入すれば、かなり効果的な改革になるかもしれません。
同業他社に人脈があれば、同じような業務プロセスを踏む中でのルーティーンの違いを聞かされ、驚くこともあるはずです。
「ウチにも導入すれば大幅な時間短縮につながる」といった、働き方改革につながるヒントを得られることも多いでしょう。
発注先、下請けといった立場の人々も、取引先の行っている仕事の非効率な部分にしっかりと気付いていることが多いものです。
自組織、自チームに合った働き方改革の実施を
働き方改革の目的は一定でも、そこを目指すやり方は会社や組織によって違ってきます。
たとえば多くの下請けを使う元請けの立場にある会社と下請け会社、顧客を持つ組織の現業部門とそうではない管理部門。
立場、立場によって、何をどう変革し、働き方改革の実現につなげていくか、切り口やプロセスは自ずと違ってくるはずです。
しかし、そうであっても、大事な共通点は存在しています。
現場の人は現場のことをよく知っているということです。
たとえば、自身の残業の原因を本人は大抵よく知っています。
尋ねれば、「現場からの日報が上がるのが夕方近く。なかなか定時までに処理できない」など、すぐに答えが返ってくるでしょう。
では、どう作業の枠組みを変えれば、効率性を失わずに残業を避けることができるのか。
管理職・マネージャーと、現場の部下とがアイデアのキャッチボールをしていくことで、組織・チームに合った選択肢はかならず見出されていくはずです。
まとめ{働き方改革をイノベーションの源泉に}
朝から夜遅くまで、外の世界を見ず会社に入りびたりの人材からは、イノベーションはあまり生み出されないでしょう。
既婚・独身の男性のみならず、女性・高齢者・外国人、さまざまな立場の人が働く個性の多様な職場からは、おそらくイノベーションは生まれやすいはずです。
成長する企業は、大小のイノベーションをつねに起こし続けられる企業です。
多様な働き方を選ぶ人生それぞれを充実したものにさせられる組織こそが、これからは社会に価値をもたらします。
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