オーセンティック・リーダーシップって何?メンバーから求められる新しいリーダータイプ
[最終更新日]2023/11/03
リーダーとはどうあるべきか?といったリーダーシップ論は、マネジメントを考える上でしばしば話題になるテーマです。リーダーシップという言葉は組織の中でよく使われる身近なキーワードであるだけに、そもそもリーダーシップとは何か?という本質の部分を考えることの重要性は増していると言っていいでしょう。
近年、リーダーシップのあり方として「オーセンティック・リーダーシップ」が注目されています。オーセンティック・リーダーシップとは何か、どうすればその能力を開発することができるのか、詳しく見ていきましょう。
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目次
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オーセンティック・リーダーシップとは?
オーセンティック・リーダーシップとは「自分らしさをもったリーダーシップ」のことを言います。ハーバード・ビジネス・スクール教授のビル・ジョージ氏によって提唱された新しいリーダーシップ論であり、これまでのリーダー像にはなかった概念として注目されています。
ジョージ氏は、オーセンティック・リーダーシップを発揮するリーダーとして次の5つの要素を挙げています。
- 自分の目標を明快に理解している
- 自身のコア・バリューに忠実である
- 情熱的に人をリードする
- 人とのリレーションシップを構築する
- 自身の規律を守る
端的に言えば誠実で、人との関係性を大切にし、情熱的にチームを引っぱっていくリーダーということです。自分の人生にとって重要なことは何であるかを深く考え、地位や名誉に目を奪われることなく真の意味での成功を追求するリーダー像こそが、オーセンティック・リーダーシップと言えるでしょう。
オーセンティック・リーダーシップが新しいリーダー論として注目されているのは、従来のリーダーシップ論とは大きく異なる特徴を持っているためです。そこで、まずはリーダーシップ論の変遷について確認しておきましょう。
リーダーシップ論は時代と共に変わってきている
リーダーシップ論の歴史は長く、古くは1800年まで遡ります。
1800年頃から1940年頃まで、リーダーシップとは天賦の才であり、生まれながらの天才がリーダーとしての能力を発揮すると考えられていました。カリスマ性やヒーロー像がリーダーシップと同列に語られていたわけです。
20世紀半ば頃になると、リーダーシップとはスキルの一種であり、学ぶことで体得できるものと考えられるようになっていきます。これまでは「才能」で片付けられてきたリーダーシップは、努力しだいで体得可能なものとされるようになったのです。
20世紀後半には、環境によってリーダーシップの型はさまざまであると考えられるようになり、リーダーシップの多様性が唱えられ始めます。そして、21世紀初頭にかけて、平時と変革におけるリーダーシップは異なるものと考えられるようにもなりました。
このように、リーダーシップ論はカリスマ型リーダーというステレオタイプから脱却し、徐々に多様性を帯びていることが分かります。リーダーシップ論は時代と共に変わってきているのです。
なぜ今、オーセンティック・リーダーシップが重要視されているのか
リーダーシップ論においては、リーダーはしばしばあまりに理想的な偶像として語られがちです。あらゆる方面で理想的な能力を持ち、人格的にも優れたリーダーはたしかに存在するのかもしれませんが、そのようなリーダー像を掲げられたとしても、大多数の人にとってそれは「理想」でしかありません。
現実の世界には多様な人間がおり、各人が個性や特徴を持って働いているのですから、1つの理想像にリーダーとしての能力を押し込めてしまっていては、どうしても無理が生じてしまいます。
また、世界を変えてしまうような圧倒的なイノベーションを起こしてきたリーダーが、必ずしも理想像の条件を満たしているわけではないことも分かってきました。むしろ、見方によってはわがままだったり、情熱を追い求めるがあまり自己中心的にも見えたりするリーダーが成功している例が少なくありません。
そこで、より柔軟で現実的なリーダーシップ論として、オーセンティック・リーダーシップが重要視されるようになってきたのです。
どういう行動・振る舞いがオーセンティック・リーダーシップになるの?
リーダーシップの概念が移り変わってきたことは前項で述べた通りですが、では昨今注目されているオーセンティック・リーダーシップとは具体的にどういった行動・振る舞いのことを言うのでしょうか。オーセンティック・リーダーシップが行動や振る舞いとして表れてきた場合の例について、大きく分けて4つの視点から見ていきましょう。
- 周囲・環境に影響されすぎず、自身が正しいと思える価値観・倫理観に沿って行動できる
- 周囲のメンバー(上司・部下関わらず)に本音で語りかけ、自分を偽らず本音でリードしていく
- 周囲との建設的なリレーションシップを作り、大切にしていく
- 自分を尊重し信じており、同時に自分を律し学び続ける(成長し続ける)姿勢を持ち続ける
それぞれ、順を追って見ていきましょう。
周囲・環境に影響されすぎず、自身が正しいと思える価値観・倫理観に沿って行動できる
オーセンティック・リーダーシップを発揮するリーダーは、端的に言えば自身の「個性」を押し殺すことなく、自分が正しいと信じられる価値観や倫理観に沿って行動しています。
組織の中で働いていると、大多数の人は少なからず周囲に合わせるために自分の主張を差し控えたり、和を乱さないよう遠慮したりするものですが、度が過ぎると「自分らしさ」を失ってしまうことにもなりかねません。
周囲の意見や置かれた環境に染まってしまわない個性を持ち続け、自分が心から正しいと信じられる価値観・倫理観に沿って行動できることは、オーセンティック・リーダーシップにおいて重要な要素と言えます。
周囲のメンバー(上司・部下関わらず)に本音で語りかけ、自分を偽らず本音でリードしていく
理想のリーダー像を体現しようとするあまり自分本来の感覚や考えを偽っていると、周囲のメンバーにも「熱」が伝わりません。どんなにうまく繕ったとしても、本音から出ていない言葉や行動に込められる熱量は限られていますので、誰かに影響を与えて強烈にリードしていくようなエネルギーは生まれにくいのです。
自分を偽ることなく、ときに摩擦や軋轢が生じたとしてもひるむことなく語りかけていく姿勢こそが、周囲に影響を与えリードしていくことにつながるのです。
周囲との建設的なリレーションシップを作り、大切にしていく
自分の信念に従って行動し、本音を偽らないと言っても、強引に自己主張ばかりして傍若無人に振る舞っているようでは、人はついてこないでしょう。信念を持ち、本音で語りかけていくのは、周囲との強固な信頼関係を構築するためなのです。
単に毎日顔を合わせて一緒に仕事をするチームではなく、ゴールを共有した上で、達成に向けて共に高め合っていけるような活気に溢れたチームを作っていくために、オーセンティックなリーダーは周囲と建設的なリレーションシップを作り、しかもそれを大切にしています。
自分を尊重し信じており、同時に自分を律し学び続ける(成長し続ける)姿勢を持ち続ける
オーセンティックなリーダーは自分自身のことが好きであり、大切にしています。だからこそ、信念を貫いたり自信をもって本音をぶつけたりできるわけです。自分自身を尊重することは、他者と建設的な関係を築いていく上でも非常に重要な要素です。
同時に、オーセンティック・リーダーシップを発揮するには自分を律し学び続ける姿勢が必要です。謙虚さや学びに対する貪欲さを失うことなく、常に一段上を目指し続ける姿勢を持っているからこそ、周囲も「この人が言うのなら」と動いてくれるようになるのです。
オーセンティック・リーダーシップを開発するためには?
オーセンティック・リーダーシップに該当する行動・振る舞いは、一見すると個性のかたまりのようにも見え、その能力を開発するのは困難な印象を抱くかもしれません。しかし、オーセンティック・リーダーシップは決して天賦の才ではなく、意識して開発することができるのです。
大きく分けると、次の4つのことを心がけていくことが大切です。
- 自己理解を促進する
- 自身が持つ「道徳性」を理解する
- 自分の行動を振り返る
- 関わる人たちと「公平」かつ「透明性」のある関係を目指す
それぞれ、順を追って見ていきましょう
自己理解を促進する
オーセンティック・リーダーシップは、「すべてにおいて平均以上」を目指していてはなかなか体現できません。誰にでも強みと弱みがあり、それらの特性の総体が人をその人たらしめているわけですから、自分の強みと弱みについて徹底的に考え、どちらかと言えば強みを活かして周囲をリードしていったほうがうまくいくケースが多いはずです。
自身を客観視することで、自分の行動や発言が周囲にどのような影響を与えるのか、先回りして考えやすくなるでしょう。
自身が持つ「道徳性」を理解する
オーセンティック・リーダーシップにおいては、自分自身を律することも重要とされています。周囲の人や属する組織、さらには社会全体に対して正しい形で貢献できるよう、自身の根底の部分にどのような道徳性があるのかを考え抜く必要があります。
この部分がしっかりしているリーダーは、周囲に「信念を持った人」「軸がブレない人」として映るのです。自身の強みを最大限に発揮しつつ、その発露が利己的なものにならないようにするためにも、自身の道徳性を理解しておくことは重要です。
自分の行動を振り返る
部下や同僚の反応を気にし過ぎたり、人の意見や考えに影響され過ぎたりすることは、オーセンティック・リーダーシップを発揮する上で妨げになる恐れがあります。常に「そもそもの目的な何なのか」「ゴールはどこなのか」を自問自答し、そこへ向かうまでのプロセスとして適切な行動・考え方ができているかを振り返ることが大切です。
目的から外れてきていると気づいたらすぐに軌道修正を図るためにも、行動を振り返る習慣を身につけるべきでしょう。
関わる人たちと「公平」かつ「透明性」のある関係を目指す
オーセンティック・リーダーシップにおいては「本音」で接することが欠かせません。相手によって話す内容や態度を変えたり、言えないような秘密や嘘があったりするようでは、本音で周囲と接していくことは困難でしょう。
伝えるべきことは率直に伝え、ときには感情の発露もためらわないオープンな態度を貫くことが、周囲からの信頼の源泉となっていくのです。こうしたことの積み重ねが、周囲との建設的なリレーションシップの構築へとつながっていきます。
オーセンティック・リーダーシップの事例
Uさんは入社3年目の若手で、入社したての新卒社員FさんのOJTを担当しています。
Uさんは新人のFさんに対して、常に丁寧語で話しかけています。当初、周囲の人から「先輩なんだから、いちいち敬語なんか使わなくていい」と言われたこともありましたが、Uさんは「相手は大人ですから、失礼のないようにしたいんです」と丁寧語で話すことをやめませんでした。
また、UさんはFさんに仕事を教えているとき「この作業は私も苦手」と、率直に自分の感じ方を伝えています。そして、「私もよく間違えるから、一緒にチェックリストを作って運用してみましょう」と提案することもあります。
Uさんの上司であるS課長は、当初こういったUさんの対応を快く思っていませんでした。新人なのだから厳しく指導したほうがいい場合もあるわけで、もっと先輩らしく自分の弱みなど見せないようにするべきではないか、と。
ところが、S課長の思いは杞憂だったことが、Fさんとの社員面談のとき分かったのです。「Uさんのことはとても信頼していて、尊敬しています。いつも本音で話してくれていると感じるし、一緒に成長しようと言ってくれるのがとても励みになります」とFさんは言ったのです。
S課長は、自分が若手だった頃や今現在の部下への指導を振り返って、こんなふうに下の人から言ってもらえたことは一度もなかったかもしれない、と思ったのでした。若手ながら、Uさんはオーセンティック・リーダーシップを地で行く人物なのかもしれません。
リーダーとして活躍するために「自分ではない誰か」になる必要はない
リーダーシップを発揮しなくては、と思ったとたん、自分らしさを失ってしまう人がいます。急に厳しくなったり、態度が高圧的になったりする人を見かけることがありますが、チームのメンバーが求めているリーダーシップはそういうものではないことの方が多いはずです。
オーセンティック・リーダーシップの考え方では、自分らしくあり続けることとリーダーシップを発揮することが矛盾しません。リーダー自身も、本音で話していたほうが疲れにくく、仕事のやりがいをより感じられるはずです。リーダーとして活躍するにあたって、借り物のリーダー像に近づこうとする必要はないのです。
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