リーダーシップの取り方は変化してきている? 様々なリーダーシップのあり方について
[最終更新日]2023/11/03
ビジネスパーソンに求められる資質として重要な要素の1つに、「リーダーシップ」があると言われることがあります。管理職の方になると、ごく当たり前のようにリーダーシップが求められると考えられている場合もあります。
ところで、リーダーシップとはそもそもどんな能力のことを指しているのでしょうか。リーダーシップの歴史を振り返りながら、近年変化していると言われているリーダーシップのあり方について見ていきましょう。
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目次
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そもそも、リーダーシップとは?
一般的に言われている「リーダーシップ」とは何か
たとえば、「若手社員にリーダーシップを期待する」「あの人はリーダーシップを発揮している」と言う場合、一般的にはどのような能力を指してリーダーシップと表現しているのでしょうか。
- ビジョンや目標を掲げている
- 関わる人のやる気や情熱を引き出している
- 推進力を引き出し結果につなげている
こういった人が、リーダーシップを発揮していると一般的に言われていると考えられます。
より端的に言えば、まとめ役としてアクティブに行動している人、それにより結果を出している人が発揮している能力のことを「リーダーシップ」と呼んでいるところがあります。
リーダーシップの定義は曖昧で、組織や場面によって異なる
リーダーシップについて考える前に、まず認識しておくべきこととして、リーダーシップという言葉は曖昧で抽象度が高く、所属する組織や部署、使われる場面によって意味合いが異なる可能性が十分にあります。抽象度が高いため、同じ場面で使った場合でも人によって解釈に幅が出やすく、共通認識を持ちにくいという側面があるのです。
さらに、優れたリーダーシップの定義はいつの時代も不変というわけではありません。近年はリーダーシップのあり方に変化が見られるとも言われています。
このように、リーダーシップについて考える際には「リーダーシップとはこういうもの」という固定観念に縛られず、そもそも曖昧な言葉であり、時代に応じて変化するものであることを認識しておくべきなのです。
リーダーシップの歴史
リーダーシップについて理解を深めるために、リーダーシップがどのような歴史を辿ってきたのかを確認してみましょう。そもそもリーダーという概念はどのような過程で形成されてきたのか、また、現代のビジネスシーンにおいて求められているリーダーシップの源流がどこにあるのかを知ることで、リーダーシップに対する考え方がよりクリアになるはずです。
時代は1940年代頃までさかのぼります。過去から現代へと、時代を追って見ていきます。
① リーダーとしての「資質」が重要──「特性アプローチ」時期 ~1940年代
リーダーシップ論の黎明期とも言えるこの時代には、リーダーシップを発揮する人物には共通する性格や資質といった特性があらかじめ備わっていると仮定し、リーダーと非リーダーを区別するための「特性アプローチ」が論じられました。特性アプローチでは、以下の8つの資質がリーダーに必要としています。
- 知性:敬いの念を持って周囲に迎えられる知性
- 用心深さ:迂闊な言動を取らない慎重さ
- 洞察力:物事の関係性や状況を見抜く力
- 責任感:自分事として捉える力
- 率先力:自分から率先して行動する力
- 粘り強さ:最後まで投げ出さずやり遂げる力
- 自信:自分には必ずやり遂げられると信じる力
- 社交性:意思疎通を適切に図ることができる力
紀元前500年頃に書かれたとされる兵法書である「孫子」においても、優れたリーダーの条件として「智」「信」「仁」「勇」「厳」を挙げています。智は知性、信は正直さ、仁は思いやり、勇は決断力や勇気、厳は厳しさを指しています。前出の特性アプローチにおける8つの資質とも重なる部分が多いことがお分かりいただけるはずです。
ここで注意したいのは、実際に優れたリーダーを分析した場合、こうした資質が当てはまらないケースが多々出てくるという点です。つまり、特性アプローチはごく一部のリーダーについてだけ該当する理論であり、リーダーシップ論としては不完全だったと考えられるのです。
②リーダーは「行動」で測ることができる──「行動アプローチ」時期 ~1960年代
特性理論から時代が進むにつれて、優れたリーダーシップは持って生まれた資質によるものではなく、行動によって発揮されるのではないか、といった仮説が立てられるようになりました。行動アプローチのうち有名なものにPM理論があります。リーダーシップを課題達成機能(Performance)と人間関係・集団維持機能(Maintenance)の2つの能力に分け、各能力の高低をマトリックスで定義します。
出典:トーマツイノベーション編著(2017)『人材育成ハンドブック』眞崎大輔/ダイヤモンド社
課題達成能力が高く、かつ統率力があるリーダーはPM型とされ、理想的なリーダーシップを発揮できると考えます。課題達成能力は高いものの統率力が弱いリーダーはPm型、課題達成能力は高くないものの統率力に優れているリーダーはpM型に分類されます。
Pm型、pM型はそれぞれ必要な資質のバランスを欠いていることから、弱いほうの能力を伸ばすための教育が必要と分かります。つまり、理想のリーダーを育てるために人材を教育するという発想が行動アプローチによって生まれてきたのです。
行動特性によるアプローチは必ずしも誤りではありませんが、PM型リーダーの行動を模倣したとしてもリーダーシップを発揮できるわけではないことが徐々に分かってきました。
③リーダーは状況・環境との適合にアプローチする──「条件適合アプローチ」時期 ~1980年代
時代が進むにつれて、リーダーシップとは固定的な理想像ではなく、時と場合によって使い分けが必要な能力なのではないか?といった考え方が主流になっていきます。これを条件適合理論と言います。
条件適合アプローチのうち有名なものの1つにフィードラー理論があります。組織の状況を「上司と部下の関係性」「仕事の構造・複雑さ」「リーダーのポジションパワー」の3要素に分け、これらの各要素の良し悪しや高低の組み合わせによって、組織のパフォーマンスが良くも悪くもなる、という理論です。
他にも、条件適合アプローチの代表的な理論に「パス・ゴール理論」があります。リーダーシップを適切に発揮し望ましい結果へと導くには、リーダーの行動が環境や部下の特性と調和している必要があるという考え方です。
つまり、「リーダーシップとはこうあるべきもの」という一典型を押し通すのではなく、必要に応じて柔軟に使い分け、結果へとつなげられるリーダーこそが優れていると考えられるようになってきたのです。パス・ゴール理論は代表的なリーダーシップ理論の1つとして、現代においてもマネジメント分野で活用されています。
出典:ハウスのパス・ゴール理論
こうした柔軟なリーダーシップ論は、時代が変化するスピードの加速も相まって、さらに進化していくこととなります。
④絶え間ない変化と混乱、そして個性や価値観の多様性にアプローチする──「変革型アプローチ」時期 ~現代
現代では、経営環境はめまぐるしく変化し、ときには企業が経営危機に陥るケースもないとは言えない時代になってきました。そこで、リーダーシップの意味合いも「組織を変革的に発展させられる」ことへと軸足が移っていき、いわゆる変革型のリーダーが求められるようになっていきます。
ただし、変革型と言っても強烈なカリスマ性を持つ1人のリーダーがいて、周囲が付き従っているというものではありません。「リーダーはまず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」という考えに基づくサーバントリーダーシップや、高い倫理観や道徳観がリーダーには必要とするオーセンティック・リーダーシップが提唱されるなど、リーダーという立ち位置から「人の上に立って牽引する存在」の意味合いが薄れていきます。
上図はシェアード・リーダーシップと呼ばれるリーダーシップのあり方を図示したものです。シェアード・リーダーシップでは特定の人物がリーダーである必要すらなく、相互に得意分野や能力を発揮し合いながら、組織としてのパフォーマンスを最大化していくという発想です。一人ひとりがリーダーとしての当事者意識を持ち、相互に敬意を払い合って仕事を進めることが重要になります。
これからの時代、組織・チームでリーダーシップを発揮するために大切なことは
かつて理想とされていた「強いリーダー」ではなく、現代においてはより柔軟なリーダー像が求められるなど、多様なリーダーシップのあり方が必要とされていることが分かってきました。リーダーシップと言っても、時代が進むにつれて進化し、リーダーに求められる資質や能力も変化しているのです。
それでは、これからの時代にリーダーシップを発揮して活躍していくためには、どのようなことが大切になってくるのでしょうか。さまざまな視点が考えられますが、ここでは特に重要な2つの点について確認しておきましょう。
ビジョン・目標を共有し、情熱を高めていくこと
人は「正しそうに聞こえること」「もっともらしいこと」に突き動かされて行動するのではありません。人が行動することにつながる強い動機は、多くの場合「心」にあります。リーダーシップを発揮するのであれば、「正しいことを正確に伝える」だけでは人を動かすことはできません。これから取り組むべき仕事に対する情熱を伝え、周囲に伝播させることができて初めて、組織やチームを突き動かしていく原動力となり得るのです。
情熱を伝える上で欠かせないのがビジョンであり、目標です。ビジョンとは「もしできたらいいと思う」というレベルのものではなく、「今まさにその状況を見てきたかのように」感じ、必ずそうなるとメンバーや部下に対して伝えられるレベルのものではなくてはなりません。
そのビジョンから具体的な目標設定を行い、かつ設定した目標をメンバーが重要事項として共有していることが大切です。シェアード・リーダーシップを実現したいのであれば、なおさら一人ひとりがビジョンに向けて同じ方向を見ていることが重要になります。
チーム内の「対話」の機会を大切にしていくこと
これからの時代のリーダーシップにおいてやってはいけないこととして、一方通行のリーダーシップが挙げられます。リーダーからメンバーに対してやるべきことや理念を伝えるばかりで、メンバー側に響いていなかったり、トップダウン型の指示出しになってしまっていたりするようなケースです。
これではメンバーにとって、その仕事は「やらされている」ものにしかなり得ず、チームとして高いパフォーマンスを発揮することは望めないでしょう。
掲げたビジョンや目標を達成するための強いチームを形成するには、チーム内で常に円滑にコミュニケーションを図ることができる環境を整えておくことが重要です。メンバー同士は性格が異なる人の集まりですが、仕事においては互いを尊重し合い、同じ目標に向かって進んでいるという感覚を育んでいくのです。
そのためには、チーム内で「対話」の機会を持つことを大切にし、互いの違いを認め合える関係性を構築しておくことが欠かせないのです。
「リーダーシップ」に対する固定観念から距離を置いてみよう
リーダーシップとは何か?と問われれば、多くの人は自分なりの考えを持っているはずです。ところが、歴史を紐解いてみるとリーダーシップは時代とともに変遷し、求められる資質や能力が変化していることに改めて気づかされます。
もし「リーダーシップとはこうあるべきもの」といった固定観念を持っていたところがあれば、まずは自身の固定観念から距離を置き、さまざまなリーダーシップの形があることを受け入れることから始めてみてはいかがでしょうか。そのことが、自身のリーダーシップにいっそう厚みを持たせるきっかけになるかもしれません。
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