現代社会で求められるOJTとは?新しい「現場育成」の形
[最終更新日]2023/11/03
新入社員教育の一環として、OJTを取り入れている企業は多いです。
新人や実際の指導にあたることが少ない管理職にはメリットが大きいOJTですが、トレーナーを務める先輩社員たちは負担に感じるケースも少なくありません。
そのため、OJTをより意義のあるものにするために、進め方などを見直す動きもあるようです。
そこで今回は、OJTとは何かをルーツからお話しするとともに、現状の課題やそれでも必要とされる理由、成功事例などを交えて、ご紹介したいと思います。
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目次
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そもそも、OJTとはどんなもの?
OJTは、正式名称を「On-The-Job Training」といいます。
新入社員が実際に働く現場で業務に携わりながら行う、教育訓練を指します。
日本企業では、新入社員研修の方法として多く実践されているものの一つです。
実際には、職種には関係ない集合研修を行ってから、担当部署でOJTを始める企業が多いようです。
OJTでは、トレーナーと呼ばれる先輩社員が指導にあたります。
具体例をあげると、営業職の新人が先輩社員に同行したりその指導の下で業務を行ったり、エンジニア職ではトレーナーが過去に担当したプログラムを参考に自分でも作成することなどです。
新人が業務を経験しながら学べるよう、研修内容が体系化されているため、実務を行いながらトレーナーから新人へと必要な知識やスキル、ノウハウが継承されていく研修スタイルです。
なぜOJTを取り入れる企業が多いかというと、
- 新人をより早く戦力にできる
- 組織内で新人が自律的に行動できるようになる
という、2つの役割を担っているからです。
OJTのルーツ(起源)について
OJT制度の発祥については諸説ありますが、1910年後半にアメリカで生まれたというのが有力のようです。
当時はアメリカと西欧諸国の交易が加速度的に盛んになっていたため、国内にある主要造船所ではそれまでの10倍の従業員を増員する必要に迫られていました。
しかし、それだけの人数になると、経験者だけを採用するというわけにはいきません。
そして、スケジュールや作業工程を守る義務もあります。
そこで、未経験の作業員でも業務を遂行できるように考えられた訓練プログラムが、OJTだったのです。
考案したのは、チャールズ・R・アレン氏で、「4段階職業指導法」を開発しました。
4段階職業指導法とは
- やってみせる(Show)
- 説明する(Tell)
- やらせてみる(Do)
- 確認・追加指導(Check)
という段階を踏み、学びを深めさせるというものです。
そのOJTが日本で浸透したのは、高度経済成長期の1960年ころといわれています。
当時は終身雇用制度の企業がほとんどで、徒弟性という思考があり、勤勉な日本人にはなじみやすい社員教育方法だったのでしょう。
OJTは何のために行われるか
では、OJTの目的とはいったい何なのでしょうか。
それは、「社員教育による即戦力の育成」と「新人の実践力の定着」の2つです。
その背景には、日本企業の体質の変化があります。
終身雇用制度が当たり前だった時代は、職場は年功序列で、新入社員を自社で時間をかけて育成することができました。
しかし、終身雇用制度が崩れ、日本企業の離職率が高まると、それを補う新人の育成を急がざるを得ません。
そして近年は新人だけを育成する教育ではなく、ある程度のキャリアを身につけた社員に対してもOJTを行い、経験しながらの学習を通して自発的に実践力の定着をはかるよう、促す企業も増えているのです。
そう考えると管理職から見るOJTの目的は
- 部下の能力開発の促進(主にスキル面への働きかけ)
- 部下の自己啓発の促進(仕事に対するスタンスや考え方への働きかけ)
- 組織の目標達成への貢献(組織に対する価値を発揮するための働きかけ)
- 部下の自律・自走の促進(OJT後の自律・自走への働きかけ)
の4つといえるのではないでしょうか。
現代社会における、OJTの課題
広く取り入れられているOJTですが、実践されている現場ではさまざまな課題が指摘されています。
特にトレーナーを務める先輩社員たちのなかには、深刻な悩みを抱える人もいるようです。
そこで、現代社会で見られるOJTの課題について、3つの視点から掘り下げてみたいと思います。
スキル面での課題
日本企業でOJTが盛んになった背景には、ルーティンワークが多いことがありました。
その時代のOJTの目安は、新人が先輩社員と同様に仕事がこなせるようになることでした。
ですが近年は、ルーティンワークのほとんどが機械化され、人が行う業務は専門化・高度化が進んでいます。
それに伴い、求められるスキルの難易度が上がっているのです。
また、人間が予想するより速いスピードで時代が変化しており、企業の成長・発展につながるイノベーションを起こすことを、従業員に求める傾向が強まっています。
さらに、入社した社員が独り立ちするまでの期間はより短く、組織では短期間での成果を求められる企業が増加しています。
そのため、OJTを行う期間と実際に新人が独り立ちできる期間のギャップが広がっているのです。
また、OJTを行うトレーナーである先輩社員に対するマインドセットや知識・スキルの付与が十分でないため、指導への不安が残るだけでなく、新人の成長にバラつきが出るという課題もみられます。
スタンス面での課題
OJTが導入された時代の日本企業は終身雇用が原則だったため、組織のビジョンと社員自身のキャリアイメージはリンクするのが一般的でした。
しかし、一部上場企業の倒産やリストラが当たり前の現代、終身雇用制度はすでに崩壊し、会社員でいれば安泰という時代ではなくなっています。
将来に対する安心材料がなく、先が見えない時代になったことで、生き方や働き方の価値観は多様化しています。
キャリアアップを望まずプライベートを優先したり、会社での経験を生かして将来の起業を目指したりと、部下たちの働き方や将来に対する考え方・スタンスが異なるので、企業で継承してきたOJTの内容ではフィットしないケースが増えているのです。
受ける側の新人が自分のキャリアのイメージが描けるようになることがOJTの目的の一つであり、それを組織のビジョンを重ね合わせるからこそ、社員の自律が促されます。
しかし、価値観が多様化する今、この自律を育むベースが失われつつあるといっても、過言ではないのです。
組織面での課題
管理職である中高年と、トレーナーを務める先輩社員、OJTを受ける新人では、育ってきた社会環境が違います。
管理職である中高年の多くは、努力することで成果を得て昇給・昇進したり、目標を達成する充実感がモチベーションにつながるなど、成功体験を持っているものです。
キャリアアップすれば自分の裁量で仕事ができるようになりますし、それが社内での昇進につながるなど、自分のキャリアイメージと組織のビジョンは無理なくリンクする時代だったということです。
しかし、不景気が長く続く中で、努力に見合うだけの報酬が得られないという現実をみて育った若者たちは、長期的に自分のキャリアをイメージしにくいのが現実です。
日本の人事部が2015年に発表した「人事白書」によると、2014年に退職した若手社員の理由で最も多かったのが、「他のやりたい仕事につくため・次のステージへの挑戦」でした。
これが、入社した若手社員が勤務先で自分のやりたい仕事やキャリアイメージをつかめなかった現実をあらわしています。
社員の自律意識が低い職場では、OJTが思うような成果をあげられない現実がみえてきています。
一方で、なぜ現代社会でもOJTが求められるのか?
前章では現代社会でOJTを行ううえでの課題についてお話ししましたが、それでもその需要が低くなることはありません。
産労総合研究所が公表した2017年度の教育研修費用の実態調査によると、「OJT指導員教育」を実施している企業は、調査企業の約半数にのぼっています。
そこで、なぜ現代でもOJTが求められるのかについて、ご紹介しておきましょう。
若手社員のモチベーション低下や離職への防止に
OJTでは、実際に職場で働く上司や先輩の仕事ぶりを、新人がその目で見ながら実践的に知識やスキルを学ぶことができます。
そして、OJTでトレーナー役を担うのは、入社3~5年の若手社員であることが多いです。
そのため、新人と若手社員両方を共育するというOJTを行う企業が増えているようです。
新人からみると、実際に仕事を体験しながら上司や先輩から指導を受けることで、即戦力としての成長を実感しやすくなります。
また、トレーナーを担う社歴が浅い若手社員にとっても、新人の育成をすることで自分が成長できる機会になるのです。
仕事のなかで自分の成長を実感できた若手社員には、早期離職が少ないといわれています。
また、身近に目標とするモデルがあることで、モチベーションを維持しやすい点も、OJTの人気が高い理由と考えられます。
若手社員のモチベーション低下や、早期離職を防ぐことができれば、組織の成長につながるはずです。
OJTトレーニングでの、トレーナーと部下との関係はそのままチームワークに繋がる
OJTの目的は新人の教育だけでなく、トレーナーを務める先輩社員の成長でもあることを、前章でお話ししました。
OJTを行う部下を持つ管理職は、両方が共育できる環境を整える必要があります。
組織として、OJTの仕組みや目指すべきゴールを設定し、その育成状況を把握したうえで、必要に応じた対処を管理職が行うのが、あるべき姿といえます。
そうした連携のとれた組織がOJTトレーニングを行えば、管理職とトレーナー、新人は良好な関係を維持できます。
いかに業務や専門化・複雑化しても、所属部署内で協働することで成果を出すことに変わりはありません。
組織内に良好な人間関係ができ、報告・連絡・相談をしながら業務を円滑に行えるチームワークがあれば、自ずと業績はあがっていきます。
管理職として、OJTトレーニングを組織活性化につなげることを意識し、部下をサポートすることで、よりチームワークが深まるはずです。
OJTを上手く進められた事例紹介
OJTの進め方は、企業や業種、職種によって異なります。
ですが、OJTが成功した組織は、それが踏襲されて若手社員が成長する傾向が強いようです。
そこで、私が体験したOJTの成功事例を紹介しておきたいと思います。
編集・ライティングのOJT事例
平成元年、私は就職や進学に関する情報誌を制作・無料配布している会社に入社しました。
支社での採用で、配属されたのは進学情報誌の制作課でした。
幼稚園教諭になるために短大に進学したものの、友人の紹介でアルバイトをした会社で仕事の面白さに目覚め、お声がけいただくままに入社を決めた私には、編集・デザインなどの知識はまるでありませんでした。
入社して2カ月目、制作課のチーフに「進学Q&A」という編集記事を書くように指示されました。
5冊ほどの資料とともに、
- 上司
-
「そのなかから高校生が進路選択するために知りたい、知っておいた方がよいと思うことを50個ピックアップして、それをQ&A方式で説明して」
とのことで、重複している内容をピックアップしたり、当時高校生だった弟やその友だちにアドバイスをもらいながら、骨子を固めて原稿を書き、提出したのです。
国語が得意で作文にも自信がありましたが、原稿をチェックしたチーフから返ってきたのは「面白くない」の一言でした。
その際にアドバイスされたのは、
- 上司
-
「設問の文章が面白くなければ、本文を読みたいとは思わないし、文章表現が固すぎる。資料と同じような表現や文章のままではいけないよ」
など、原稿を書く基本です。
当時は、
- 私
-
「ライター養成講座に通ったこともない素人の私が、いきなり原稿を書けるわけがないじゃん。書き始める前に伝えておいてくれたら、やり直さなくて済んだのに」
と、不満を抱えたものです。
ですが、そこで失敗したことで、私は次から企画や原稿を制作する際に、同じ不注意をくり返さないよう意識できるようになったのです。
その制作チーフはその後退職してしまうのですが、その後も仕事で関りを持ち続け、
- 上司
-
「この間の仕事を見たけれど、面白かったね」
といわれて、胸がいっぱいになりました。
未熟な私の失敗とやり直しを見込んでスケジュールをたて、常に的確なアドバイスをくれたチーフがいてくれたから、今の私があると感謝しています。
組織にプラスになるOJTを実践しよう!
今回は、OJTとは何かをルーツや現状の課題、それでも必要とされる理由についてお話ししました。
この記事をまとめると、
- OJTとは、新人が実際に働く現場で業務に携わりながら行う教育訓練である
- 生き方や価値観が多様化する現代では、OJTにも課題がある
- OJTの進め方を工夫すれば、組織力アップにつなげることもできる
という3つに集約されます。
若手社員を教育する意味でも、管理職が自分の部署に合うOJTを行う環境を整える際に、この記事を参考にしていただけたら幸いです。
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