36協定・1年単位の変形労働時間制を正しく理解しよう
[最終更新日]2022/12/15
はじめに、下のセルフチェックに挑戦してみてください。
1つでもチェックが入った人は、この記事を読むことで36協定に対する理解が深まるはずです。
この記事では、36協定の基本的な知識に始まり、よくある疑問や注意しておきたい点についてまとめています。36協定についてポイント絞って知りたい管理職の方々は、ぜひ参考にしてください。
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目次
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36協定とは?基本の知識を確認
はじめに、そもそも36協定とは何なのか、何のための取り決めなのか、基本をしっかりと確認しておきましょう。実はこれまで、何となく「サブロクキョウテイ」というものがあるらしい、といった漠然とした認識しかなかったという方も決して少なくないはずです。
働き方改革が注目されている昨今、働く上で36協定の重要度はますます高まっています。管理職の皆さんはとくに、36協定についての基本を正確に理解しておきましょう。
36協定=時間外・休日労働の取り決めに関する労使協定
36協定とは端的に言えば「労使協定」、つまり労働者と使用者の間での約束事のことです。労働基準法第36条でこの約束事を取り交わさなくてはならないと定められていることから、一般的に36協定と呼ばれています。
約束事とは、労働時間に関することです。具体的には、法定の労働時間を超えて働く場合(つまり残業)、あるいは法定の休日に労働する場合(つまり休日出勤)について、上限時間についての共通認識を持ち、お互いに守っていきましょう、というのが36協定の趣旨になります。
たとえば、使用者側が「際限なく働き続けなさい」と命令することができないだけでなく、従業員側が「仕事が終わるまでずっと働きたい」と個人的に希望して働き続けることもできません。
このように、労使間が対等の立場で交渉できるようにし、労働者の権利を守ることが36協定の大きな目的と言えるでしょう。会社側と従業員の双方の合意があって初めて成立するのがポイントです。
36協定違反をした場合の罰則
詳しく後述しますが、36協定は労働時間の上限について取り決めています。この上限時間を超えて残業を課した事業主や、そもそも36協定をきちんと労働基準監督署に届け出ていない事業者は、労働基準法違反となり罰せられます。
科せられるのは「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」です。36協定は企業にとって「できれば締結しておいたほうがいい」などといった努力義務でもなければ、「会社が親切に用意してくれる福利厚生」でもありません。労働基準法によって定められた、企業としての義務なのです。
こういった法令関係のことは、「知らなかった」からと言って守らなくていい理由にはなりません。まして、世間一般に働き方改革が注目されるようになったことで、従業員が会社を見る目も厳しくなっています。
企業の経営者や管理職という立場である以上、36協定についてきちんと理解し、適切に運用することが求められていると考えておくべきでしょう。
36協定で時間外労働時間の上限はどのように定められている?
前述の通り、36協定とは端的に言えば「残業時間に上限を設ける約束事」のことです。したがって、最も肝心な「労働時間の上限」がどのように定められているのかを知っておくことが大切になります。
この取り決めによって過労や長時間労働が常態化するのを防ぎ、従業員の心身の健康を維持することにつながっていくのです。
36協定における時間外労働の上限時間と、労働時間の上限に例外が認められるケースについて確認しましょう。
1ヶ月45時間、1年360時間が上限
36協定によって限度が定められるのは、「時間外勤務」と「休日勤務」についてです。労働基準法によって1日の労働時間は8時間までと決められていますので、これを超えて働く場合に、1週間、1ヶ月、1年といった単位で「これ以上残業させてはいけません」といった上限時間を定めているのです。
36協定でよく用いられるのは、1ヶ月と1年単位の上限時間です。「1ヶ月45時間」「1年360時間」という数字を、まずは頭に入れておいてください。これは厚生労働省が労働基準法をもとに定めている原則の上限時間です。
ただし、業務の状況や性質によっては月45時間の残業時間ではどうしても足りないケースが出てきます。その場合、臨時的に36協定の限度時間を延長することができる協定があります。これを「特別条件付36協定」と言います。
特別条件付36協定では、限度時間を超えて残業しなくてはならない特別の事情を具体的に定めることや、限度時間を超える回数を「年何回まで」といった形で定めることなどが規定として設けられています。
時間外労働の上限には例外が認められる業種もある
36協定による上限時間が適用されない業種もあります。特定の時期に業務が集中することが明らかな業種が例外として認められています。具体的には以下の4業種です。
【時間外労働の上限が適用されない業種】
- 土木・建築など建設関係
- 自動車の運転(タクシー、バス、トラックなど)
- 新商品や新技術の研究開発
- 季節的な要因で業務量の変動が激しい業務
最後の「季節的な要因」については、会社が独自に判断するのではなく、労働基準監督署に指定された業務である必要があります。「うちの会社は繁忙期があるから、これに該当するはずだ」というわけにはいかないのです。
こうした業種はたしかに36協定による労働時間の上限は適用されませんが、かと言って36協定を結ぶ必要がないとか、労働基準監督署に届け出なくてよいというわけではありません。
あくまで「例外が認められている」だけのことですので、これらの業種に該当するとしても36協定が一切関係なくなるわけではない点に注意が必要です。
36協定でよくある疑問についてのQ & A
Q:36協定はどの企業も届け出が必要?届け出がないと罰せられる?
A:「法定労働時間を超えた時間」「法定休日」に労働を課さないのであれば、届け出の必要はありません。
36協定は時間外労働について上限を定める協定ですので、そもそも時間外労働が発生する可能性がないのであれば、36協定を結ぶ必要はなく、労働基準監督署に届け出る必要もありません。
ただし、時間外労働が発生する可能性が少しでもあるのならば、発生したときのことを想定して36協定を結んでおかなくてはなりません。
年間を通じて残業が一切発生しない企業はかなりのレアケースと考えられますので、実質的にはほぼ全ての企業において36協定を結び、届け出る必要があると考えていいでしょう。
Q:36協定の届け出をしているので、残業はどれだけしても問題ない?
A:労働時間を延長できる限度が定められています。上限なく残業できるわけではありません。
36協定は「残業させ放題」の協定ではありません。むしろ時間外労働の上限時間を約束するためのものですから、「上限なく残業できる」と捉えるのは本末転倒です。
まれに、この点を誤解(悪質な場合は従業員の誤解を会社側が悪用)して、「36協定を結んだのだから、もっと残業しなくてはならないのではないか?」と取り違える人がいますが、36協定の目的を正確に理解することによって、こうした誤解を解いていくことが大切です。
Q:裁量労働制にしている職種には、36協定は適用されない?
A:みなし労働時間を含めた時間外労働時間が36協定の範囲内に収まるようにする必要があります。
裁量労働制とは、営業職など場外労働時間が多い職種について、みなし労働時間を織り込んで時間外手当を規定する仕組みのことです。
内勤の従業員のように「会社にいた時間=勤務時間」といった判断をしにくいために裁量労働制にしているわけですから、裁量労働制だからと言って労働時間に上限を定めない理由にはなりません。
みなし労働時間を含めた時間外労働時間について、36協定における上限時間の範囲内に収まるようにしましょう。
Q:36協定の届け出をしていれば、残業手当は支払わなくてもいい?
A:36協定は労働時間の延長に関する協定です。残業手当は法定通りに支給しなくてはなりません。
36協定は時間外勤務の上限を約束するための協定ですから、残業手当を支給しない理由にはなり得ません。残業手当の支給は労働基準法で定められた企業の義務であり、「支払わない」という選択肢はないと考えましょう。
なお、36協定を結んだ上で、上限時間を超える場合はサービス残業とする、といった対応は極めて悪質です。36協定の趣旨に反するばかりか、サービス残業を課すこと自体が法令違反となり罰せられますので、絶対にやめましょう。
Q:36協定は労基局に一度届け出れば、その後は何もしなくていい?
A:36協定の有効期間は最長1年が望ましいとされています。毎年、労使間で締結し届け出る必要があります。
36協定はいったん届け出ればずっと有効ではなく、毎年労使間で締結し、届け出る必要がある点に注意しましょう。これは義務というより、「1年間とすることが望ましい」という指導方針ですが、1年ごとに締結し直して届け出けるようにしたほうがよさそうです。
仕事の繁忙度は業務内容や業務に携わる従業員数など、さまざまな要因で変化するため、少なくとも1年に1回は見直すほうがよいといった判断が働いているものと考えられます。
36協定について確認しておくべき3つの注意点
ここまで、36協定についての知識を確認してきました。時間外勤務という、たいていの職場が関わることになる事柄であるだけに、管理職としては「知らなかった」では済まされない面があります。
さらに、36協定は2019年4月から一部のルールが変更されています。記憶にあるのが古い情報のままだと、思わぬところで現行制度とは異なる対応をしてしまい、問題になる可能性もあります。
最後に、36協定についてとくに確認しておきたい3つの注意点を挙げます。見落としがちなところですので、要点をしっかりと頭に入れておくようにしましょう。
新様式は一般条項のみと特別条項付に分かれている
36協定には「特別条項」があります。時間外労働時間の上限を定めるとはいえ、事情によってはどうしても上限時間で収まり切らないケースが出てくることがあるからです。特別条項とは、年6回までに限り上限時間を延長できることを前もって約束しておくための条項なのです。
特別条項付きにしたからと言って、際限なく残業を課してよいわけではありません。特別条項付きであっても、年720時間、月100時間を超えることはできません。また、複数月平均で80時間以内でなくてはなりません。
2019年4月より、36協定の届出様式が改訂され、一般条項のみと特別条項付が別々の様式となりました。時間外労働の上限を厳格化するための措置であり、法令遵守を強く意識した様式と言えるでしょう。
なお、特別条項を定める場合、健康確保措置を導入する必要があります。労働時間が一定時間を超えた場合に行う医師による面接指導や、心とからだの健康問題についての相談窓口の設置など、さまざまなことが義務づけられています。
1年単位の変形労働時間制を適用すべきか
業種や職種によっては、年間で忙しい時期が偏っているケースがあります。忙しい時期が決まっていて、かつ季節性があれば、1年単位の変形労働制を適用することを検討してもいいでしょう。
1年単位の変形労働制を適用することで、業務の繁閑状況に合わせた労働時間を設定することができるからです。
具体的には、繁忙期には労働時間の上限を1日10時間、週52時間に引き上げることができます。ただし、繁忙期だからと言って休みなく働かせ続けてよいわけではなく、連続勤務は6日まで、休日を1週間に1日は確保する、といった条件付きになります。
1年単位の変形労働時間制を適用すべきかどうかを迷った場合、繁忙期の時期が1年の中で明確になっているかを基準にするといいでしょう。
繁閑状況が季節性のものではなく、「お客様の都合しだい」「仕事の入り具合による」といった事情から来るものであれば、1年単位の変形労働時間制を適用するメリットはあまりないと言えます。
時間外労働の上限規制開始はいつから?
今回この記事で紹介した時間外労働の上限規制は、大企業は2019年4月施行、中小企業は2020年4月施行となります。自社がどの時期から対象になるかをきちんと確認しておきましょう。これ以降は時間外労働の上限を守らず残業させてしまうと罰則の対象となりますので、十分に注意が必要です。
なお、管理職は労働基準法上の管理監督者にあたりますので、労働時間についての定めはなく36協定も適用されません。36協定を結んだ通りに適正な労働時間に収まっているかを管理する側になります。
そのため、実際の運用においては「残業時間を減らすように」という指導になりがちですが、現場で働く部下としては「ただ早く帰るように言われても、仕事が終わらないのだから仕方がないのでは?」と不満を抱く原因にもなり得ます。
労働時間の上限規制が厳格化された分、実際にその時間内に終えられる業務内容になっているかどうか、より効率化を図ることができる点はないか、部下と共に考えていくことが大切です。
まとめ)36協定を正しく理解して、働きやすい職場を目指そう
36協定について詳しく見てきましたが、どのように感じたでしょうか?「上限時間が厳しくなって大変だ」と感じた人もいるはずです。
36協定のそもそもの趣旨は、過重労働を防いで働きやすい環境を守っていくことにあります。
管理職の皆さんは、「会社側から指示があったから」と義務的にしぶしぶルールに従うのではなく、これを機により36協定について正しく理解し、仕事の進め方や効率化できそうな面について見直してみるのもいいでしょう。
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