なぜ「新規事業」はうまく行かないのか。あなたがはじめて新規事業立案に立ち会った際に。
[最終更新日]2022/12/15
新規事業は、成長意欲のある企業ではどこかのタイミングで検討が必要になることがらです。
新規事業を企画し、収益化に至れば、企業の大きな成長が見込めますし、それに携わった社員の評価も向上することが期待できます。
一方で、新規事業は新たなことに挑戦する分、リスクが高いプロジェクトとなることが一般的です。今回は、新規事業の失敗要因にも触れながら、新規事業をスムーズに立ち上げるポイントについて紹介します。
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目次
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多くの新規事業がうまく行かない理由とは
まずは、新規事業がうまくいかない理由について考えてみましょう。
新規事業はそもそもリスクが高く、「失敗がつきもの」のプロジェクトです。そもそも市場環境の悪さ、タイミングの悪さなど、外部環境が原因で失敗してしまうことも多々あります。
一方で、企画自体の不備によって失敗することもしばしばあります。その場合の失敗の理由は様々ではあるものの、大きくまとめると、以下の3点に概ね集約されます。
- コンセプトや企画骨子を曖昧なまま進めてしまう
- 途中で担当者・チームメンバーの情熱が低減してしまう
- 当初の企画のまま、軌道修正せずに進めてしまおうとしてしまう
それぞれ、順を追って見ていきましょう。
コンセプトや企画骨子を曖昧なまま進めてしまう
新規事業の成功のためには、まずコンセプトや企画骨子を明確にし、かつ、それらを新規事業に関わる構成員が皆で共有していることが重要となります。
おそらく新規事業の立ち上げに際しては、何かしらの事業の「アイデア」を形にしていくことになるかと思いますが、客観的に見て、例えば以下のポイントが明確で、かつ共通認識を持っていることが重要です。
- 何をターゲットに稼ぐか
- いつまでに収益化するか、どれくらいの収益になるのか
- それまでにどのようなスケジュールで進めていくか
- 資本(お金はもちろんですが、ヒト、社内設備など)をいつどれくらい投入する必要があるのか
- 既存事業との親和性はどのようになるか
- 難しいと判断した場合にいつ撤退するか
- 撤退した場合のマイナスインパクトは何が、どれくらい想定されるか
多くの一定規模以上の企業であれば、企画骨子を作成することは当然行いますが、上記のポイントが曖昧であったり、認識ギャップがあったりすると、企画倒れになるリスクが高まり、失敗の原因となります。
途中で担当者・チームメンバーの情熱が低減してしまう
新規事業というのは、大抵の場合は数年単位の長いプロジェクトとなります。まず立ち上げまでに一定の資本を定期的に投入しながら準備を進めていく必要がありますし、立ち上げ直後から目標通りの収益に至ることは決して多くなく、立ち上げ後に収益化までのメンテナンスも必要になるのが一般的です。
そのような息の長いプロジェクトなので、担当者のモチベーションを維持することは重要である一方、難しい課題となりがちです。プロジェクトの進行中は収益が出ず、コストだけがかかる状況ともなりがちで、収益が出ないプレッシャーと焦りでやる気を失う社員はしばしばみられます。
また、そもそもプロジェクト半ばで人事異動などが発生し、途中でプロジェクトに参画するメンバーなどが発生する場合も多々想定されます。こうしたメンバーは企画時点からかかわっていない分、よりモチベーションの維持が困難となります。このようなメンバーのやる気低減により、新規事業が企画倒れとなってしまう事例もしばしばみられます。
当初の企画のまま、軌道修正せずに進めてしまおうとしてしまう
これもまた、新規事業の立ち上げが息の長いプロジェクトであることに端を発するのですが、当初の企画骨子をしっかりと組み立てることは大切なのです。しかし、それに固執しすぎて軌道修正をできないのもまた問題です。
市場環境も社内環境も刻一刻と変わっていくので、当初の企画通りにプロジェクトを進めることが困難になることは当然想定されます。その場合は、改めて現状に合った計画を練り直し、それを改めてメンバーで共有したうえで、プロジェクトをリスタートしていければいいのですが、当初の計画が確りしていると、逆にそうした柔軟性が損なわれてしまう場合が多々あります。
こうした場合は、外部環境が合わなくなって当初想定の収益が出なかったり、はたまた社内の資本を投入することを新規事業立ち上げチーム以外のところから通達されるなど、様々な形でプロジェクトが途中で途絶えてしまう原因となります。
新規事業を進める際は、「失敗」を積み上げることが重要
そもそも、新規事業の成功率は低い
さて、冒頭に社内内部に起因する新規事業の代表的な失敗要因を3つ挙げましたが、実際にはこれに「単に運が悪かった」「タイミングが悪かった」といった外部要因に帰すべき失敗要因が考えられるというところです。
企画も組織もほぼ完ぺきでも失敗することがある、それだけ新規事業というのはそもそも成功率の低いものであるということを認識することが肝要です。当初より「成功必達」の精神で取り組むべきものではなく、この点は新規事業に携わるメンバーはもちろん、社長以下全社的に理解しておく必要があります。
文字に起こしてみると簡単なのですが、知らず知らずのうちに新規事業に対して成功期待をかけすぎている企業は多いです。携わるメンバーについて新規事業の成否によって大きく評価を分けたり、会社の経営に影響が出るほどの資本を傾けてしまったりと、いつの間にか新規事業に「成功」を要求してしまっていて、失敗のダメージを大きくしているという会社が散見されます。
トライ&エラーを繰り返し、そして「エラー」からどれだけ学んでいくかが重要
中長期的に新規事業を立ち上げ、事業を拡大させていくためには実際には「トライ&エラー」の精神が肝要と言えます。前章に書いた通り、新規事業立ち上げは「失敗可能性が高いもの」であると認識し、失敗それ自体に固執するのはそこに携わったメンバーにも、会社自体にも望ましくない考え方と言えます。
中長期的に新規事業を成功させることのできる組織になるためには、失敗を許容し、失敗から学びまた新たな新規事業のアイデアを練って実行に移す、こうしたトライ&エラーのサイクルを回すことが重要です。アイデア→プロトタイプの構築→トライのデータ分析→新たなアイデアを創出するサイクルをリーンスタートアップと言いますが、新規事業にはこのサイクルを高速化することが必要なのです。
ワンチャンスの新規事業がうまくいくことは多くないですし、その成功が次の新規事業立ち上げでも続く可能性はもっと低いです。そのようなリスクの高いプロジェクトとなることを始めから認識し、「失敗から学ぶ」スタンスを徹底していくことが、中長期的には新規事業の成功をもたらします。
新規事業を推進していく為に必要なポイント1 スタンス編
まずは情熱を持つこと、そして周りを巻き込むこと
新規事業を推進させていく上でまず大切なのは、何より「新規事業を成功に導く情熱を持つこと」が第一です。立案者の情熱が全ての始まりになります。これがなければ新規プロジェクトを強く推進する者がなく、遅々として新規事業プロジェクトは進捗しません。
次に周りを巻き込んでいくことが重要です。大抵の新規事業プロジェクトはとてもではありませんが一人で完結するものではありません。まずは同じ新規事業の企画立案部隊のメンバー、ひいてはその周りで新規事業立ち上げにかかわる社内の各部署のやる気を引き起こし、プロジェクトに巻き込んでいくことが、プロジェクトを強力に推進していく上では必要となります。
最後は巻き込んだ周囲も、自身も、「推進する熱意」を持続するよう徹底することです。皆でゴールに向かって一丸となって新規事業の収益化まで進めていくマインドを持ち続けなければ、プロジェクトを着々と進めていくことは難しいといえます。
小さな失敗を重ねて育てていくこと
前述のトライ&エラーではプロジェクト成否自体の「大きな失敗」に触れましたが、プロジェクトを進めていく上で小さな失敗やトラブルはつきものです。「新規立ち上げは失敗できない」というマインドにかられると、どうしても日々の細かい失敗・トラブルについても気にしてしまいがちですが、起こってしまった失敗やトラブルを引きずらないようなプロジェクト運営が重要です。
「失敗から学び繰り返さないように」しながらも、失敗・トラブルによってモチベーションを下げないように自身も、各メンバーに対しても徹底していく必要があります。
プロジェクトを揺り動かさないほどの小さな失敗やトラブルを重ね、そこから学んでいくことで、「プロジェクト自体のとん挫」という大きな失敗を回避できる可能性は徐々に下げることができます。最終的には新規事業立ち上げを成功に導く「強いチーム」が育っていくのです。
新規事業を推進していく為に必要なポイント2 プロセス編
- STEP1 アイデアとコンセプトを「可視化」する
- STEP2 これから「周囲の人々の理解とサポート」を得ることを意識したビジネスプラン・基本計画を立てる
- STEP3 事業の本格スタートに伴い、「助言者・協力者を増やすこと」「振り返りの場を設けること」を意識する
それぞれ、順を追って見ていきましょう。
STEP1 アイデアとコンセプトを「可視化」する
新規事業立ち上げの第一段階として、まず新規事業の「アイデア」と「コンセプト」を可視化することが重要です。この背景には、前章にもありました通り、新規事業の円滑な運営においてはアイデアとコンセプトをチームや関係者皆で共有し、それらに従って新規事業を進めていくスタンスが肝要となるためです。
可視化の仕方は、皆が共通認識を持てる形であれば自由でいいとは思いますが、例えば、下記のようなフレームワークの利用が考えられます。下記の事業ドメインのイメージ例では新規事業の立ち上げにおいて「真の顧客」「その顧客のニーズ」、「ニーズを達成する上での自社の独自能力」を定義しています。
これらを定義し可視化することで、新規事業のターゲット・ニーズ・自社の能力を明確にして進めることができるため、新規事業立ち上げの成功可能性が向上します。判断に迷ったとき、方針だてに迷ったときは、常にこのフレームに立ち返るようにします。
STEP2 これから「周囲の人々の理解とサポート」を得ることを意識したビジネスプラン・基本計画を立てる
何かしらのフレームワークに則って定義されたアイデア・コンセプトを基に、ビジネスプラン、基本計画を立案していきます。基本計画では「5W2H」が明確になるように意識しながら、また少なくとも新規事業立ち上げにかかわる人は皆が理解できる形で、計画をまとめていきます。
またこの時ポイントとなるのは、新規立ち上げチーム外の人々の理解を得て、サポートを得られることを意識する必要があります。新規事業立ち上げに対する「想い」をしっかりと伝えて共感を得ることももちろん重要です。
さらに、コスト面(他部署に過剰にかかっていないか)スケジュール面(急過ぎないか)など基本計画が周囲の人々がサポートするうえで無理がない現実的なものであることにも留意する必要があります。新規事業に対する思い+無理がなく現実的な基本計画の組み合わせによって、周囲の人々を巻き込んでいくことが、新規事業立ち上げには重要です。
STEP3 事業の本格スタートに伴い、「助言者・協力者を増やすこと」「振り返りの場を設けること」を意識する
基本計画が固まり、新規事業立ち上げチームをコアに社内のサポートしてもらうリソースも確保できたところで、いよいよ新規事業がスタートします。
おそらく初めは収益にもならない、ややもするとコストになるような事業ですから、事業を回すうえで必要最低限のリソースで進められることでしょう。事業を回しながら徐々に協力者や、投入する社内リソースを増やすこと念頭に周囲とは交渉を進めていく必要があります。
また、チーム内では定期的に振り返りの場を設けていくことが肝要です。振り返りの場で新規事業が当初のコンセプトと乖離していないか、正常に回っているか、小さな失敗・改善策の整理などをチェックすることで、そこから新規事業はこれまでより強靭なものになっていきます。
これらのサイクルを繰り返していくことで、新規事業は着実に拡大します。やがて投入リソースから見て申し分のない収益貢献ができるようになれば、新規事業の立ち上げは成功裏に終えたといえます。
ポイントを確実に押さえることが新規事業立ち上げの成功率を高める
最後に私の知る失敗事例を紹介します。これは集団学習塾を営むとある会社の話なのですが、一時期「個別指導塾」の立ち上げプロジェクトが持ち上がった時期があります。
個別指導の生徒は、集団対比生徒一人当たりの単価が高く、収益性が見込める、またもちろん業務内容として「学生に勉強を教える」という点では親和性が高いと判断し立ち上がったプロジェクトですが、実際には個別指導用のスペース(パーテション付きの指導スペース確保)や、個別=1対1のため講師を大量に雇う必要がありましたが、この辺りのリソースを割く点で、社内の理解が得られず頓挫しました。
立ち上げチームメンバーは「思ったより集団とは異なるリソースの確保が必要で、事前の社内の巻き込みが足りなかった」と振り返っていました。
この記事で紹介したように、新規事業はリスクの高いもので、失敗はつきものですから、失敗を恐れないマインドの醸成が、新規事業立ち上げチーム内はもちろん、全社的にも重要です。そのうえで成功率を上げるためには、コンセプトの統一や綿密な計画、そして新規事業に対する情熱による周囲の巻き込みが必要になってきます。
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