失敗を認めない上司・部下には 「自己奉仕バイアス」が働いている?
[最終更新日]2023/11/06
完璧な人間なんて、どこにもいません。
大切なのは、犯した失敗をどう活かすか。「失敗は成功のもと」とはよく言ったものです。自分や他人に対して「優しい」や「厳しい」といった言い方をしますが、厳しいとは決して「許さない」ということではありません。
求めるレベルや理想に向けていかに努められるかが大事なのであって、そのためお第一歩が「失敗を認める」ことなのです。
今回は、それを阻む要因が「自己奉仕バイアス」である可能性について探ります。
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目次
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「自己奉仕バイアス」とは?
こんな有名な詩があるのをご存知ですか?
人が時間をかけるのは、要領が悪いから
自分が時間をかけるのは、丹念にやっているから人がやらないのは、怠慢だから
自分がやらないのは、忙しいから言われていないことを人がやるのは、でしゃばりだから
言われていないことを自分がやるのは、積極的だから人がルールを守らないのは、恥知らずだから
自分がルールを守らないのは、個性的だから人が上司に受けがいいのは、おべっか使いだから
自分が上司に受けがいいのは、協力的だから人が出世したのは、運がよかったから
自分が出世したのは、頑張ったから
『「人を動かす人」になるために知っておくべきこと』(ジョン・C・マクスウェル著/三笠書房)
ここに見られるのは、まさに「自己奉仕バイアス」。自己奉仕バイアス(Self-serving bias)とは、成功は自分の能力のおかげで、失敗は自分ではどうしようもない外的要因のせいだと思い込む考え方のことです。
これは、成功時であれば自信に繋がりますが、失敗時には的確な自省が成せず同様の失敗を繰り返すという危険性を秘めています。そもそも「バイアス」とは、偏り・偏見・傾向・斜めということであり、多くは「先入観」という意味で使われます。
自己奉仕バイアスに似ている症状
数あるバイアスの中には、自らのことを棚上げにする自己奉仕バイアスとよく似た思考傾向が存在します。例えば、「ダニング=クルーガー効果」。これは、能力が低い人ほど自己を過大評価することです。
まさに「井の中の蛙」状態で、能力の低い人は未知ゆえに、正しい自己評価ができないと考えられています。
自分がデキるという思い込みはときとしてモチベーションとなり、スキルアップに有効ですが、行き過ぎると「努力しているのに評価されない」といった苛立ちを生むことも。
また、結論が妥当であればその議論や過程も正しいと考える「信念バイアス」も厄介で、結果が良くなければ過程も否定され、結論が間違っているだけで人格さえも否定してしまう怖さがあります。
そのほか、他人の動機は不純だと判断する「外部誘因バイアス」といったものもあり、これらは無意識のうちに我々の思考や行動を制限しているのです。
バイアスがかかれば、不自由になることは否めません。可能な限りフラットかつニュートラルに物事に対峙できるよう、バイアスに左右されないようにしたいものです。
人はなぜ「自己奉仕バイアス」に陥るのか?
では、そもそもどうして人は自己奉仕バイアスに囚われてしまうのでしょうか。
いくつものバイアスの中でも、「自己奉仕バイアス」が生まれてくる背景には、自尊心を維持したいという気持ちがあると考えられます。
同時に、自分の気持ちをポジティブに保つため、また、他人からどう見られるかをコントロールするための仕組みという見解もあります。要は「自己保身」――これは人間として、極めて根源的かつ普遍的な感情です。だからこそ、そこから脱却することは容易ではありません。
判りやすい例を挙げれば、交渉が妥結に至らないケースです。トラブルが生じた際の損害賠償において、被害を受けた側はどうしても被害額を過大に評価しがちである一方、加害側はその損害額を低めに見積もってしまいます。
それぞれが己に都合のいい根拠ばかりを主張することは決して珍しくなく、ある程度の乖離が生じるのは往々にしてよくあることでしょう。
この自己奉仕バイアスは、上司と部下の間にも存在します。目標管理において、上司は部下に原因を求めようとする傾向があるのに対して、部下は顧客・クライアントや同僚・上司といった自分以外を言い訳にしようとするからです。
かくいう自らにも自己奉仕バイアスが働いているかも……
そんな危惧を抱いたら、下記の診断を試してみてください。
- 反省することよりも周囲を責める気持ちになることが多い
- 恋人や配偶者から「あなたから謝ったことが(あまり)ない」と言われたことがある
- 他人より自尊心が強い方だと思う
- なんとなく自分は「運のめぐりが悪い」と感じている
- 最近、周囲から理不尽なことを言われる経験が度々ある
いかがですか?
上記の質問にひとつでも当てはまったら、自己奉仕バイアスが働いているかもしれないと疑ってみてください。
人は誰でも、自身の惨めさや矮小さを認めたくないと思ってしまいます。とくにそういった気持ちは、大切な人の前であればより強く働くもの。自分にとって都合の悪い出来事が生じた時、自らを守るために原因や理由を婉曲して認識してしまう姿勢を、一概には責められないでしょう。
自己奉仕バイアスによる認識のズレが描かれた『フレンチアルプスで起きたこと』という映画があります。
常識や偏見などが複雑に絡み合う中、鋭い洞察力と優れた観察力によって描写される人間行動が、軽妙なトークとスリリングな展開で表現されていて、きっとバイアスについて考えるいいきっかけとなるはずです。もしご興味ある方は、是非ご覧になられると良いでしょう。
自身の「自己奉仕バイアス」に向き合う場合
まずは自己奉仕バイアス自体を意識する
自己奉仕バイアスを認識し、理解し、振り回されないこと。
そのためには、ビジネスだけでなく、様々なシーンでの自分の行動を辿り、「振り返ってみる」ことが必要です。
「振り返る」という行為は、過去に自分とその周囲にあったことを客観的に見つめ直すことです。
「客観的」になることによって、「自己」を奉仕しようという働きかけは弱まり、冷静かつ適切な見解や判断を持ちやすくなるのです。
そして、そこから得られた気付きや教訓をこれからの行動に活かしていきます。
グロース・マインドセットを意識する
ここで、もうひとつ知っておきたいのが、「グロース・マインドセット」と「フィックスト・マインドセット」という思考についてです。
前者は「しなやかな思考」、後者は「硬直した思考」と訳すことができます。
グロースマインドセットとは、知性や才能が固定的なものだと決めつけず、人は変われるという立ち位置から失敗を恐れず、他人からの評価を気にしすぎることなく、学びを重ねていくことで能力を高めていく――所謂、成長を左右する思考傾向のことです。
フィックスト・マインドセットでは、困難な課題に直面した際に、「どうせ無理」という思考回路に陥りがちですが、グロース・マインドセットが身についていると、どんな局面でも自ら積極的に挑戦して、自分自身の成長や会社の利益に繋げられます。
どんなことも「成長のチャンス」と捉え、集中力を持続させて、トライ&エラーを繰り返して解決策を見つけ出すことを意識するだけで、働きかけは強まり、グロース・マインドセットが育まれていくのです。
「過去や現在の自分」より「将来どうなっていたいか」を意識する
自己奉仕バイアスが働くとき、奉仕の対象は主に「過去・現在の自分」になります。
一方、「(自分は)将来どうなっていたいか」を考えるとき、そこに自己奉仕バイアスは働きにくくなります。
なぜかというと、人々が描く「望ましい将来像」は、いわばその人の「理想」になります。そして、理想を適えるためには現実とのギャップ(課題)を埋める必要が出てくるでしょう。
理想に向けてギャップを埋める(課題に向き合う)働きが高まると、自然と自己奉仕バイアスの働きかけは低減されます。これは、は前述の「グロース・マインドセット」にも通ずるところです。
自身の自己奉仕バイアスに悩まれた際は、自身の「望ましい将来像」をしっかりと描いてみると良いでしょう。
相手の「自己奉仕バイアス」に向き合う場合
誰にでもバイアスはかかる可能性があります。
そして、もし相手に自己奉仕バイアスを感じた際は、それを「指摘する」のではなく、「向き合う」ことを意識してみましょう。
そこで重要なのは、何よりも話をよく聞くことです。そして、理解するよう努めてください。
自己奉仕バイアスが減少すればするほど、他者との意思疎通はスムーズになり、相乗効果も実現しやすくなります。そうすると、自ずとパフォーマンスは上がり、結果として手応えややりがいを得やすくなります。
まずは相手の良いところを「承認」する
しっかりと相手の意見や主張に耳を傾け、理解を示すこと。多くの人は、他人に認められたいという「承認欲求」を持ち合わせています。
他人から褒められたり、信頼されたり、尊敬されることに喜びを感じるのは、誰でも同じです。
相手への承認について、文芸評論家の谷沢永一氏は自書「人間通」において以下のように説明しています。「承認」がいかに生成的で大切な行為であるかが、とても良く伝わってくるのではないでしょうか。
「理解され認められれば、その心ゆたかな自覚を梃子として、誰もが勇躍して励む。
それによって社会の活力が増進し誰もがその恵にあずかる。
この場合、世間とは具体的に自分に指示を与える人であり働きをともにする同僚である。
この人たちから黙殺または軽侮されるのは死ぬより辛い。
逆に自分が周囲から認められているという手応えを得たときの喜びは何事にも替え難い。」
相手を「正そう」とせず、より良くなることを「願う」こと
自分の思うように相手を動かそうとせず、共に考え、問題点を見出し、改善策について話し合うのも効果的です。
その際、忘れてはならないのが、向き合う相手がより良くなることを願う気持ちです。
この願いは、希望や期待と言い換えてもいいでしょう。良くなるための助言や協力はいいですが、苦言を呈するだけでは人は成長しません。
何より、自分が正しいと思っていることが必ずしもそうとは限らないこともあります。希望を見出してもらえれば純粋に嬉しく、期待を寄せられればそれに応えたいと思うのが人情。それはモチベーションやヤル気として、一層の力を発揮することに繋がると考えられます。
くれぐれも独自の道徳や正義を振りかざすことのないよう気をつけたいものです。
責任感の育成をサポートする
帰宅しようとしたら雨が降り出し、傘立てに置いていたはずの自分の傘を探したけれど見つからない。
そんなとき、人は得てして「誰かが持って行ってしまったんじゃないか?」と疑いがちです。自分がどこかに置き忘れたのかもしれないと思い返すよりも、です。
こういった自己奉仕バイアスは、「責任逃れ」の状態とも言えます。成功は受け入れるのに、失敗の責任は取らない人に心当たりはありませんか?
とくにビジネスの現場において、無責任な人間に仕事を任せようとは思えないもの。だからこそ、自身の言動に責任を持てるよう部下を導いていくのも上司の務めです。
「人の振り見て我が振り直せ」という言葉の教えにあるように、常に自問自答を繰り返し、視野を広く持ち続けることを心がけ、それを部下にも示していきましょう。「他人のせい」や「不可抗力」といった解釈で成長を妨げることがないよう、部下からのサインを見逃さずにいたいものです。
「自己奉仕バイアス」から解放されよう!
仕事がデキる優秀な人ほど、良い結果が出たのは周囲のおかげだと考える傾向が強いといえます。
いかに自分を客観視できるか、物事を俯瞰視できるか――それこそが、バイアスの克服には有効です。
自己奉仕バイアスが思考の基本になってしまうと、他人への感謝や労りの気持ちが欠落してしまいます。
そうすればどうなるか? 信用は失われ、他人が離れて行き、仕事におけるパフォーマンスを下げる結果となってしまうことは想像に難くありません。
自らを振り返り、バイアスと上手く付き合うスタンスを身につけましょう。
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