部下の妊娠や出産、育児にどう対応する?産休制度・育休制度の仕組みから、対応法について
[最終更新日]2019/07/26
総務省統計局が発表した「労働力調査(基本集計)」によると、夫婦がいる世帯で共働きしている割合は48.4%にのぼります。
働く女性が増えるにしたがって、産休や育休を申請する女性社員も増加しています。
産休・育休は雇用形態を問わずに申請できると、労働基準法にも明記されています。
そのため、妊娠・出産の可能性がある女性社員を部下に持つ管理職は、いつ相談を受けても大丈夫なように、きちんと産休・育休制度を理解しておく必要があります。
そこで今回は、産休・育休制度の仕組みをはじめ、部下から相談を受けた場合の対処法などについても、お話ししたいと思います。
Index
目次
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社員が出産・育児のために会社を休める期間は?
いわゆる産休・育休といわれているのは、「産前産後休業」「育児休業」と呼ばれている制度です。
産前産後休業は権利として労働基準法で定められているため、出産する女性であれば誰でも請求することができます。
産前休業は、出産予定日の6週間前(ただし双子など多胎妊娠の場合は14週館前)から取得可能です。
産後休業は、出産をした翌日から8週間取得することができます。
産前産後休業期間は給与の支払いはありません、申請をすれば出産手当金を受け取れます。
一方の育児休業は、育児・介護休業法によって定められた制度で、一定の条件を満たしていなければ申請ができません。
条件を満たせば、産後8週間を過ぎてから子どもが1歳の誕生日を迎える前日までの間であれば、希望する期間休むことが可能です。
また、両親揃って育児休業を取得す場合は、子どもが1歳2カ月になるまで期間が延長されます。
そして、育児休業が認められれば、育児休業給付金を雇用保険から受け取ることが可能です。
これらは別々の制度なので、労働者は会社に対して両方の休業申請を行いますが、会社がその後に手続きする際には、申請書の提出先が変わります。
次章では、産前産後休業と育児休業の具体的な内容を詳述します。
産休制度(産前・産後)・育休制度について
まず、産休制度と呼ばれる産前産後休業について説明しましょう。
産前産後休業は、妊娠中の女性が刺激によって早産したり、産後の体力低下による健康被害といったリスクを避けることを目的に制定されています。
産前休業については、労働者が申請した場合に取得できるもので、会社が無理に休ませる必要はありません。
ですが産後休暇は、出産後の体力回復のための期間ですので、会社は原則的に取得させる義務を負います。
ただし、医師の診断書を提出することで、産後6週間を過ぎれば職場復帰することは認められています。
そして、産前産後休業は正社員や契約社員、パート、アルバイトなどの雇用形態に関わらず、誰でも取得可能です。
一方の育児休業は、取得条件があることは前述しました。
その条件とは
- 原則として1歳に満たない子どもを養育していること
- 同一の事業主に引き続いて1年以上継続雇用されていること
- 子どもが1歳6か月になる日の前日までに、労働契約期間が満了することが明らかでないこと
の3つです。
そのため、正社員だけでなく、契約社員やパート、アルバイトであっても、雇用期間と労働契約によっては、育児休業は取得可能です。
ただし、日々雇い入れられる労働者や、労使協定で定められた一定の労働者は、育児休業の対象にはなりません。
また、育児休業の取得については、休みに入る1ヵ月前までに期間を示したうえで、会社に申し出をする必要があります。
事情が変わって育休期間を延長したい場合は、延長開始予定日の2週間前までに申請する必要があります。
平成29年度改正法に伴い、育児休業が最長2年間に
育児休業期間は、原則的には子どもが1歳に達するまでと定められています。
しかし待機児童問題が解決されていない地域も多く、保育園に入園できない子どもを抱える労働者が増加していることから、2017年10月より育児休業が最大で2年に延長されるという改正が行われました。
ただし、いきなり2年の育児休業が取得できるわけではなく、子どもが1歳6カ月になった時点でまだ、保育園の入園目処がたたなかった場合に限り、再延長できるという仕組みになっています。
この育児休業の改正により、企業側にも努力義務が課せられています。
それは
- 従業員が妊娠・出産をすると知った時点で、育児休業制度について個別に知らせる
- 未就学児を育てている従業員が子育てしやすくなるよう、育児に関する休業制度を設ける
の2つです。
管理職の方は、この企業側の努力義務を念頭に置き、部下の方と接する必要があります。
非正規雇用(パート等)でも、産休・育休は取れる?
共働き世帯のなかには、女性の雇用形態は契約社員やパート、アルバイト、派遣社員というケースも含まれています。
産前産後休業は働く女性すべてが取得可能ですが、育児休業については条件を満たしている必要があることは前述しました。
では、契約社員やパート、アルバイト、派遣社員などの非正規雇用者が育児休業を取得するための条件を整理しておきましょう。
それは、
- 育児休業を申し出る時点で、同一事業主に1年以上雇用されている
- 子どもが1歳6カ月になる時点でも、引き続き雇用される見込みがある
の2つです。
1つめの条件をクリアする非正規雇用社員は多いと思いますが、2つめについては企業の判断になるので、申請してもスムーズにいかないケースがあるのも事実です。
権利はありますが、勤務先が対応してくれるかどうかは未知数なので、上司や先輩など正社員とのコミュニケーションを日ごろから大切にし、相談・協力してもらえる関係をつくっておくことをおすすめします。
産休・育休中の「お金」の話
産前産後休業や育児休業を取得する場合、期間中は無給と就業規則に明記している企業が大多数です。
給料が支払われないことで、労働者の生活に悪影響が及ぶケースも考えられます。
そうした事態を避けるために、産前産後休業や育児休業中に申請することで受けられる給付金が用意されています。
そうした給付金の内容について、まとめておきましょう。
出産手当金について
産前産後休業期間の生活保障として、健康保険から支給されるのが「出産手当金」です。
ただし、給付を受けられるのは会社の健康保険に加入している人だけで、国民健康保険の加入者は対象外となります。
出産手当金として支給されるのは、出産のために休業し会社から給与を受けられなかった日数分の給付金です。
支給額は、標準報酬月額1日あたりの金額×2/3×日数で計算します。
産前休業は本人の請求によって、産後休業は全員が取得する義務を負いますが、実際に休む期間は人によって異なります。
そこで、産前休業を6週間(42日)、産後休業を8週間(56日)取得すると想定し、1ヵ月の総支給額が20万円の場合の計算例をご紹介しておきましょう。
まず、出産予定日通りに生まれた場合は、産前休業が42日、産後休業が56日、計98日が対象期間となります。
総支給が20万円だと、標準報酬月額1日あたりの金額が4,447円になるので、計算式に当てはめると98日分で435.806円給付されることがわかります。
次に、出産予定日より1週間早く生まれた場合ですが、産前休業は出産日を基準として計算します。
そのため、産前休業が35日、産後休業が56日、計91日が対象期間となります。
計算式にあてはめると、4,447円×91日なので404,677円が給付されます。
では、出産予定日より5日出産が遅れた場合について、考えてみましょう。
出産日までが産前休業に含まれるので47日、産後休業が56日は対象期間となります。
計算式にあてはめると、4,447円×103日なので458,041円が給付されます。
インターネットで検索すると、自分の総支給額を入力するだけで金額を算出してくれるツールが用意されたウェブサイトがヒットしますので、アクセスして試算してみるのもよいでしょう。
育児休業給付金について
育児休業給付金とは、1歳または1歳2カ月(支給対象期間の延長に街頭する場合は2歳)未満の子どもを養育するために育児休業を取得した、雇用保険の被保険者が受け取ることのできる給付金です。
育児休業給付金の支給金額は、育児休業開始日からの期間によって異なります。
育児休業開始日から180日目(6カ月)までは月給の67%、181日目から最終日までは50%が給付されます。
ただし、
そして、育児休業給付金には支給上限があり、毎年8月に改訂されます。
2019年7月31日までの1ヵ月あたりの支給上限は301,299円、支給下限が74,400円となっています。
では、育児休業給付金の計算方法を具体的に説明しておきましょう。
まず、基本となる月給は、産前産後休業ならびに育児休業が開始する前の6カ月分の給料を基準に算出します。
育児休業開始日から180日目(6カ月)までは、賃金月額×67%という計算になります。
それが、育児休業181日目から最終日までになると、賃金月額×50%という計算式に変わるのです。
標準報酬月額が20万円として、こどもが1歳になるまで育児休業した場合の給付金を試算してみましょう。
育児休業180日目までの給付金は、月額200、000円×67%×6カ月で768,000円となります。
181日目からお子さんが1歳になる前日までの給付金を算出する際には、給付日額を計算しなければなりません。
給付日額は、月額200,000円×50%÷30日で計算します。
給付日額3,333円×120日分にあたる399,960円が181日目からお子さんが1歳になる前日までの給付金額です。
合わせて、1,167,960円が給付される計算となります。
こちらも、必要事項を入力するだけで育児休業給付金を自動計算してくれるウェブサイトがたくさんあるので、インターネット検索してみましょう。
産休中・育休中は社会保険料が免除
産前産後休業あるいは育児休業中は、会社から給料が支給されないところが多いです。
通常は社会保険料の個人負担分は給料から天引きされていますが、それがどうなるのか、気になる人もいることでしょう。
産前産後休業あるいは育児休業中は、社会保険料の支払いは免除されます。
これは、健康保険や厚生年金、介護保険、雇用保険すべてが対象です。
支払いが免除されている期間も、保険料を納めたとして記録されるので、きちんと手続きをしておく必要があります。
住民税については、基本的には支払う義務があるのですが、産前産後休業あるいは育児休業で所得が前年の半分以下になった場合や、災害により住宅や家財に大きな損害を受けた時には減免制度が受けられることがあります。
「全額免除」「50%免除」「30%免除」の3段階があるので、該当しそうな場合は問い合わせてみることをおすすめします。
部下から産休・育休の相談を受けたときに、意識したいポイント3点
管理職が部下から妊娠の報告を受け、産前産後休業や育児休業について相談を受ける際に、念頭においておくべきポイントがあります。
相談者の雇用形態や体調によって対応が変わることがあるので、これから紹介する3つのポイントについては、意識して話を聞き、確認することをおすすめします。
なかには人事部との相談が必要なケースもあるので、相談された段階では安請け合いしないようにしてください。
ポイント1 産前産後休業前のフォロー体制を整える
まず、部下から妊娠の報告を受けたらすぐに「おめでとう」と声がけするのを忘れないでください。
そのうえで部下本人が、「出産を機に退職」「育児休業を取得希望」「育児休業期間をどのくらいとりたいか」など、自分の仕事についてどう考えているかを確認しましょう。
仕事を続けることを希望する場合は、現在の業務が続けられるのか、軽易な作業に転換されるのかを、本人ともよく話し合って決める必要があります。
また、産前休業に入れるのは出産予定日の6週間前と定められており、妊娠初期などに多く見られるつわりを理由に取得することはできません。
妊娠の経過によっては自宅安静や入院を余儀なくされることもあるので、その場合は医師に診断書を書いてもらい、傷病手当金を申請するのか、有給休暇で対応するかを相談しましょう。
合わせて、ラッシュ時の通勤を避けるため、時差出勤や時短勤務の制度があれば、その手続きをしてあげるのがおすすめです。
そして、所属部署のメンバーにも妊娠したスタッフの状況をきちんと説明しておき、サポートしてもらえるようお願いしておくと後のトラブルを避けやすくなるはずです。
ポイント2 育児休業の対象者かどうかを確認する
部下から育児休業を取得したいと相談された場合はまず、雇用形態に関わらず、条件を満たしているかどうかを確認しましょう。
育児休業の申請は、育児休業に入る1ヵ月前に行わなければなりませんが、その時点で1年以上雇用されていることが条件となっています。
さらに、契約社員やパート、アルバイト、派遣社員の場合、書面で取り交わしている労働契約期間と、その部下の子どもが1歳6カ月になっても引き続き雇用しようと会社が考えているのかどうかを、確認しなければいけません。
もし、育児休業の前後に労働契約期間が満了になる場合は、契約を延長するかどうかの判断を迫られる可能性があります。
男女雇用機会均等法の第9条で、労働者の妊娠・出産を理由に解雇など不利益な処分をすることは禁じられていますので、安易に契約満了にすることはおすすめできません。
人事部とも協議を重ねながら、慎重に対処しましょう。
ポイント3 出産手当金や社会保険料の減免、育児休業給付金の手続きがスムーズになるよう準備する
出産手当金や出産一時金、育児休業給付金を受給するためには、手続きを行わなければなりません。
これは本人が行うことも、会社が申請を代行することもできるので、産前産後休業に入る前に、どう進めるかを管理職と部下とで相談しておきましょう。
本人が手続きを行う場合は、休業期間中の所在地や連絡先を知っておく必要があります。
里帰り出産した部下の出産手当金や出産一時金の申請書を、実家ではなく自宅に送ることで給付が遅れる可能性があるからです。
また、育児休業給付金を受けるためには、休業開始時賃金月額証明書の提出が必要なので、育児休業給付金受給資格確認票と初回の育児休業給付金支給申請書を、部下から会社に送ってもらわなければなりません。
さらに、社会保険の減免制度も期限内に申請しなければ適応されませんので、そうした手続きの不備がないかどうか、管理職が確認・サポートしてあげましょう。
私の事例──会社で初めて産休・育休を取得した思い出
3人目の子どもを出産した翌年、私は新卒で入社した会社の元上司が経営する制作プロダクションに転職しました。
保育料で給料のほとんどが飛ぶような状態でしたが、仕事でキャリアを積むことを優先し、同居する母の全面協力のもと、残業・休日出勤もいとわずに働いていました。
その後、上の子3人を幼稚園に入園させたタイミングで、4人目を妊娠したのです。
当時は社長を除くと既婚者は私だけ、後は未婚のスタッフが3人の小さなプロダクションで、これまで女性スタッフは結婚を機に退職というのが通例だったようです。
ですが、個人的な付き合いが長かったこともあり、社長に状況を報告。すでに自分のクライアントを持っていたので、産前産後休業と短期間の育児休業を取って職場復帰したいと訴え、認めてもらいました。
出産ギリギリまで働く予定だったのですが、取材が多く思いのほか身体に負担がかかったようで、ドクターストップがかかり、出産予定日の1ヵ月前から産前休業に入り、予定日より2週間早く出産。
産後休業後、育児休業に入りました。
とはいえ、自分のクライアントに関わる雑事も多く、電話やメールで対応できない時は、生後1~2カ月の乳児をオフィスに連れていき、1~2時間作業して自宅に戻ったこともあります。
そして繁忙期に入る前、産後4カ月で職場復帰を果たしました。
私は双子の妊娠・出産を経験しており、4人目だったことから、自分である程度体調管理ができたうえ、つわりも軽く、自宅でも仕事ができる環境を整えていたので、周囲にはあまり迷惑をかけずに済みました。
ですが、友人にはつわりや切迫流産、切迫早産で自宅安静や入院を余儀なくされた人も多く、周囲の冷たい視線に耐え切れず退職を選んだ人がいたのも事実です。
私は会社で産前産後休業と育児休業を初めて取得した社員だったからこそ、自分の後輩が妊娠・出産を機にキャリアを断念することがないよう、いろいろなアドバイスを会社にもスタッフにもできると自負しています。
いま働く職場にも、既婚者がいますので、いざという時に力になりたいと思っています。
管理職としての対応を考えておこう
今回は、産休・育休制度の仕組みや部下から相談を受けた場合の対処法などについて、お話ししました。
この記事のポイントは
- 産前産後休業は雇用形態に関係なく誰でも取得できる
- 育児休業は取得するための条件がある
- 管理職が部下に妊娠の報告をされた場合の対処法は知っておいた方がよい
の3つです。
この記事を、部下から妊娠報告を受けた際に、管理職が会社との橋渡しをスムーズに行う参考にしていただけたら幸いです。
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