管理職体験談:世の中で起きる出来事のすべてには、「因果」がある。

[最終更新日]2023/10/18

体験談
5
管理職体験談:世の中で起きる出来事のすべてには、「因果」がある。

高齢者の方に向けて、介護の仕事を行っています。

有料老人ホームといったほうが耳に馴染みあるでしょうか、いわゆる「入所型」の24時間365日、利用者の方の生活支援を行う施設です。

私の仕事は、サービスの利用を検討する高齢者に施設について説明すること。そして入所後は、本人様やご家族様が望む生活が出来るように支援をさせていただくことです。

この仕事は、利用者の現在の生活能力をきちんとヒアリングして、把握しておくことが何よりも大切です。
歳を取れば、誰だっていろんなところに不自由が出てきます。
できること、できないことを明確にして新たな住処での生活に安心と自信を持って過ごしていただくようにすることが、私の仕事です。

プライベートにおいては、どちらかというとインドア派です。
パソコンを使っての作業が好きで、インターネットを観たり、たまにプログラミングを組んでみたり。
それから、最近では婚約することができました。

こくまろさん(男性 35歳)
職業
福祉施設
職種
介護士
年収
400万円
従業員規模
10名(うち部下8人)
地域
兵庫県

Index

目次

挫折感に悩まされていた私に、友人からの「介護をしてみないか」の誘い。

悩む男性のイメージ

学生時代は、「とにかくいろんなことをチャレンジしよう」としていて。幼いころから高校生まで様々な習い事をしました。中でも空手は全国大会へ行くなどの実績を残せました。

大学生になってからは、「これまでは主に身体を動かすことに取り組んできたが、これからは変わったことをしたい。もっと知識や思考力を高めることにチャレンジしよう」と考え、電子機械科を専攻しました。

その後、新卒で入社したのはパナソニック。
そして、何年かして三菱電機に転職。

まさに大企業のエリートコース…のように聞こえたかもしれませんが、実際はその逆。
周囲の人たちと比較しての、あまりの自分の仕事の出来なさ。理解力のなさ。どれだけ働いてもそうした「自分の能力の無さ」に悩まされる日が続きました。

結局三菱電機も退職することになり、これから先どう生きていこうかと考えているときに、高校生の友人から

友人

「介護の仕事をしてみない?」

と誘われたのです。
聞けば、とにかく人手が足らず困っているとのこと。利用者や家族の方から感謝されることも多いと聞き、(やってみてもいいかな)と思い彼の紹介を受けることにしました。

介護士としてのキャリアをスタートして、はじめはやっぱり大変でした。
まさに、右も左もわからない状態。ですが、施設の先輩スタッフや管理者の方がとても丁寧かつ親切に接してくれて、決して私のことを責めずに励ましてくれるんです。

すると私も業務にだんだんと安心と自信を持てるようになっていって。ある時、あたらしい業務を任されることになったとき先輩スタッフから「君ならできる」と言われた時、

(そうだ、自分ならできる!)

と思っている私がいました。──大した変わりようです笑。

そこからまた4年間働き、ついに「管理者をやってくれないか」と経営者の方に誘われ、私は管理職として働くことになりました。

集中して仕事をする、ということ。

集中のイメージ

私の職場は、事務管理のポストがありません。ですので、書類整理をするところから仕事が始まります。

職場に事務管理がないということがどういうことかというと、殆どの業務にはマニュアルや明確なフローがないということです。
つまり、大体のことは自分の判断で動かなければなりませんし、管理職になればなおさらです。

ですので、管理職になったときは大変不安で戸惑いもありましたが、そこでもまた施設長の方をはじめ先輩スタッフの方々が力強くバックアップしてくれました。

書類整理、利用者様、ご家族様への対応、介護士スタッフへの対応、ケアマネージャーへの対応、それらの業務を「とにかく自分から行動して、早く慣れよう」と取り組んでいき、1ヶ月経った頃はそれらすべて自然と流れ作業で出来るようになりました。

それから思ったことは、管理職として仕事をしていると「時間があっという間に過ぎる」ということ。
これはもしかしたら私が歳を取ったせいなのかもしれませんが笑、集中して仕事をするということはきっとこういうものなのでしょう。

「どうして、母のお金がこんなに少なくなってるの」

謝罪のイメージ

それはちょうど1年前のことです。
とある利用者様のご家族の方が、私たちを通報したのです。

事の顛末は、こんな具合でした。

当時、Yさんという70代の女性の方が入居していたのですが、その方は「金銭管理ができない」という問題を抱えていました。
今ではスマホやパソコンがあれば、簡単にネットショッピングができてしまいますよね。

Yさんもネットショッピングが大好きでした。それで、ついついお金を使いすぎてしまう。
更には、遠くにいるご親戚からの連絡で「ちょっと振り込んでくれないか」という連絡があればすぐに振り込んでしまいます。本人から聞くところでは、それも結構な額のお金のようでした。

その結果、Yさんは施設に払うお金までも使い込んでしまったのです。
「すみません、施設の利用料は少し待ってもらえませんか」と言われることが数か月間も続きました。
節約すればまあなんとかなるだろうと思っていたのですが、状況は全く変わりません。
Yさんは年金支給の日からほんの2~3日でその大半のお金を使ってしまうのです。

そこで私たちが取った決断は、「施設の利用料金を先に預かる」ということでした。──そして、これが問題でした。

Yさんのご家族の方が、私たちのやり方がおかしいと役場に通報されたのです。
通報内容は、「施設がお金を管理するのはおかしいのではないのか」ということ、そして「なぜ、母のお金がそこまで無いのか」ということでした。

たしかに、私たち施設が利用者様の財産を管理する権利などありません。
ご家族の方が言われることはごもっともなことでした。

まず役場に行って状況の説明を行い、その後、ご家族のところへ何度も謝罪に行きました。
会うたびに経緯を聞かれ、詳細な顛末書を作成し説明に伺いました。

謝罪しながらも、「母のお金がそこまでない理由」──それについては、ご家族の方々が要求した結果であったはずです。でも、それを言ってしまえば状況はもっと炎上してしまうでしょう。
ただただ謝罪し、ご家族の方の言い分を聞いて、そんなやりとりが1ヶ月続いて、ようやく和解に至りました。

「責任を持つ」ということは、因果を断ち切るということ。

考えているイメージ

今思い返しても、大変でしたね。

当時よく思ったことは、「反省と理不尽とが入り混じると、こんなにも辛い気持ちになるのか」ということです。

利用料を確保しようと、Yさんのお金を管理してしまったことはたしかに軽率でした。
ですが、そもそもの問題の一端を持つご家族の方から「なんで母の金がこんなに少ないんだ」と疑われたことについては、辛かったですね。なかなか割り切れませんでした。

和解が決まりそれからしばらく経ってもそのことはしこりのように心の中に残り続けていましたが、あるときに先輩スタッフの方が話してくれた一言で、ようやく気持ちがふっと収まったことをよく覚えています。

先輩

「すべては、こちらの判断から始まったことだから」

──たしかに、そうでした。
私たちがYさんの資産を預かろうとしたときに、この問題が発生したのです。

もちろん、もっと前から問題があったという考え方もできます。
でも、そうやって問題や原因を辿っていても、きりがないのです。Yさんとご家族の方の関係や状況であったり、それからYさんの生い立ちや境遇であったり。

世の中のことの殆どは、やろうと思えば「自分以外の誰かのせい」にできてしまうんですよね。
ですが、誰かのせいにすることなく、自分の行いに責任を持つこと。それが、仕事です。ましてや管理職は、そのことを他のスタッフやサービスを利用する方に示していくべきでしょう。

厳しい考え方かもしれません。ですが私は先輩からそう伝えられたときに、不思議と気持ちが楽になりました。

あの時こうすれば良かったな、など後を絶たない後悔をしても仕方ありません。

世の中の出来事にはすべて「因果」があります。そのなかには良くない因果があって、そうした因果を断ち切ることもきっと、私たちのようなサービス業の仕事の一つなのかもしれません。

ただひとつだけ、「金銭に関すること」は、非常にシビアだということ。これからは絶対に気を付けようと思いました。

私が思う、管理職として大切なこと。

管理職のイメージ

管理職として大切なこと、それは先にも触れた通り「責任を持つこと」だと思います。

そのためには、私の目線ではなく常に第三者目線で物事を捉えることが必要です。

偏った意見は信頼を失います。

例えば、「この人には逆らわないほうがいいな」という感情は、自分自身の目線です。
その感情を基点にした行動は周囲からの信頼を失い、いずれは施設全体の損失に繋がってしまうでしょう。

日々仕事をしていると、いろんなところでいろんな人の感情の摩擦や意見のぶつかり合いが起きます。
そのときに、「自分がこう感じた」ではなく、「客観的な視点としてどうか」のスタンスで両方の話・意見を聞くことが、管理職としてうまく仕事をこなす技だと思います。

どうせ働くなら、楽しい方が良い。
「なんで俺ばっかりこんな大変な目に」だったり、「どうしても納得できない」と感じながら働くのはあまり幸せとは言えないでしょう。
もちろん、私だけが楽しければ良い訳ではなく、利用者の方、そしてスタッフ全員がふとした楽しさを感じられる──そんな職場にしていきたいです。

ひとりひとりが責任を持つこと。そして、相手の話を聞いてあげること。この2つを意識するだけで、環境は変えていけると思います。
まずは私が管理職として、そうした手本を周囲の人たちに見せられればいいなと思っています。