私の管理職体験談:「お前がそこまでそう言うなら、俺は辞めるよ」と言われた日

[最終更新日]2023/10/17

体験談
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私の管理職体験談:「お前がそこまでそう言うなら、俺は辞めるよ」と言われた日

旅行運送業(ツアーコンダクター)の会社に勤めている、今年で55歳の中年男性です。

仕事内容はいわゆる管理業務で、具体的には乗務員さんの出勤時の点呼業務、健康状態のチェック、入庫時の健康状態のチェック、事故苦情の有無の確認、営業所内の施設の管理、車両チェック、スピード違反等のチェックなどなど。
それから、乗務員さんの指導、接客や運転技術の向上についての指導も行います。

本音を言うと、人に指導や教育をするのが大の苦手です。
今の仕事よりも、一人で黙々と作業する仕事の方が向いていると自分では思っています。
やりがいもあまり感じられませんしね。

「この仕事は、生活のためだから」と自分に言い聞かせながら、毎日仕事をしています。

かなりの中年オヤジさん(男性 55歳)
職業
旅客運送業
職種
運行管理者(主任)
年収
約500万円
従業員規模
約2,000人
地域
大阪府

Index

目次

仲間からの誘いがなくなったのは、私が「管理する立場」になったから

管理する側とされる側

思えば、昔はそんな風じゃなかったんですよね。
現場で乗務員をしているときは、もっと楽しかった。

先輩や後輩の乗務員たちと1ケ月に一度程度、飲みに行ったり、またお誘いもそれなりにありました。趣味の釣りやゴルフにも皆で年に数回行き、それなりに楽しい職場生活を送っていました。

ところが会社の指示により乗務員から本社勤務に変更になって、まあいわゆる昇進だったのですが、 それ以降はこれまで気さくに声をかけてくれていた先輩たちが急によそよそしくなり、飲み会や釣りなどのお誘いがトンと無くなりました。

どうして誘いがなくなったのか──。本人たちに訊いていないので確かなことはわかりません。
おそらくは、私が「管理する側の立場」になったことで、「管理される側の自分達とは相反する立場の人間だ」という印象を持たれたのでしょう。

かつての同僚との、「指導面談」

指導面談

管理職になって、数年が経過しました。

あるとき、上司から「この乗務員を指導するように」という指令を受けました。

その乗務員(ここでは「Aくん」とします)は「事故や顧客からの苦情が多く、かつ態度が悪い」ということでした。そして私の役割は、そのAくんの態度を改めて、真面目に乗務してもらうように取り計らうことでした。

上司

「本人が態度を改める気が無いのであれば、自主的に退職を促すように」

──上司からそう言われた時に、ズシンと胃が重たくなるのを感じました。

私はAくんとは以前から交流もあり、彼のことは上司以上には理解しているつもりでした。
「苦情が多く事故が多い」という評価のAくんでしたが、現場で同僚として乗務していた時の印象からすれば、根は素直なのですが、やや要領が悪い、といったタイプでした。

事故もたしかに何回かあったのですが、よくよく話を聴くとAくんに100%の非があるわけではなく、またどれも軽微なものでしたし、顧客からの苦情というのも常習的なクレーマーからのものがほとんどでした。

まったく気乗りしませんでしたが、だからといって命令無視をするわけにはいきませんでしたので、私はAくんと面談の席を設けました。

すると、私はその面談でAくんの新たな一面を知ることになったのです。

Aくん

「──お前の言いたいことはよく分かったよ。でも、態度を改めることはできないね」

「え…。どうして?」

Aくん

「だって、俺には一切非はないから」

たしかに、Aくんを擁護すべき事柄はいくつかありましたが、 だからといって「一切非がない」かというとそういう訳でもなく、経験を積んだ乗務員なら回避していただろう落ち度もいくつか見受けられました。
でも、彼はそれをまったく認めませんでした。

丁寧にそのことを伝えましたが、まったく無駄でした。
最終的に、彼は私にこう伝えてきました。

Aくん

「そこまでお前が会社の立場で言うなら、お望みどおり辞めるよ」

去っていくAくんに、何もできずにいた私。

去っていく

Aくんとの面談後、彼は有言実行を果たし、自主退職されました。

Aくんがどんな気持ちだったか──。面談以降彼と話すことはありませんでしたのでわかりません。ただ、私自身もなんとも言えない、いやな気分でした。

私は、Aくんの自主退職を止めることもできたでしょう。
でも、それをしなかった。

それは、Aくんの内面にある自己本位的な態度に、私も気づいてしまったからです。
同じ乗務員だったら、以前のような友達の関係だったら、きっと私はそれに気づかなかったでしょう。

そしてそこに気付いてしまった以上、Aくんを庇うことも助けることも、できませんでした。

人を管理するのは会社?それとも人?

人を管理するのは会社か人か

Aくんとの一件はもう10年以上前のことですが、今から振り返ってみても気持ちが暗くなります。

何というか、「自分自身のしたことが、一人の人の人生を狂わしてしまった」──そんな想いになります。

会社組織とは、そこで働く人を管理・指導しますよね。でも、実際に管理・指導するのもやっぱり人です。人が人を管理することは、果たして正しいのでしょうか?──私の考え方がおかしいのでしょうが、よくそんなことを考えます。
すくなくとも、私の狭量な器でそれをすべきではないのでしょう。

(ずっと乗務員のままでいればよかった)とよくよく考えたりしますが、それでも生活のためには働かなくてはいけませんし、あまり考えこまないようにしようと思っています。

「生活のため、我慢して働く」

恐らく、私はこれから定年までずっとこのスタイルでいるでしょう。

最近はそれにも慣れてきましたが、一方でここ数年お酒の量がかなり増えています。

それでも、また明日はやってくる。これから先、私が目指していきたいことは。

私が目指していきたいこと

私の尊敬する人物は、父親です。
10年前に亡くなりましたが、生前は何事においても全く文句を言わず、何でも一生懸命する人でした。
それなりの大きな企業の役職についてましたので、きっと私が経験したのとは比べ物にならないほど多くの苦難を受けていたんだと思います。
父親を超えることは、死ぬまで出来ないだろうと思っています。

ただ、ひとつだけ受け継ぎたいと思っていることがあります。それは、「文句を言わない」こと

そして、私自身は「乗務員さんの心に寄り添える管理職」を目指したいと思っています。

できれば仕事以外プライベートで悩んでいることに少しでも助けられるような管理職、上司からはあまりいい目ではみられなくても、乗務員さんから慕ってもらえる管理職になる方が自分自身仕事をしていても楽しいでしょうから。

仕事を離れても乗務員さんと一人の人間として付き合ってもらえるようになるのが、これから定年を迎えるまでの私自身の目標です。

人生一度きりですので後悔のない人生を送りたいものです。 そして私にとっての後悔のない人生とは、「出世すること」よりも「これまでの仲間を大切にすること」です。
それがどこまでできるかは自信がありませんが、とにかく頑張っていこうと思っています。