「批評」って何? 正しい意味と、批評の意義について

[最終更新日]2023/11/06

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「批評」って何?

次のような場面を想像してみましょう。
あなたは企画会議に参加しています。同僚が新商品の企画について、重役らを前に渾身のプレゼンをしました。すると、取締役の1人がこう言ったとします。

企画の内容は分かった。ところでAくん(=あなた)、君はこの企画についてどう思った?

こんなとき、あなたならどう答えるでしょうか?

  • 曖昧に「良いと思います」と言う
  • 同僚の味方をするために企画を褒める
  • 企画に足りない視点を補う

実は、上の3つのうちどの反応を示したとしても、おそらく重役はあなたの返答を信用しないでしょう。なぜなら、これらの返答はいずれも「感想」または「批判」でしかなく、「批評」になっていないからです。

批評と聞くと難しそうな印象を持つかもしれませんが、上の例のように身近な場面でも批評する力は役立つことが多々あります。批評とは何か、どうすれば的確な批評ができるようになるのか、理解を深めていきましょう。

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Index

目次

そもそも、「批評」とは何か

批評:ある物事のよさや特性、価値などについて、根拠を持って、論じたり評価したりすること

批評の定義について理解するために、まずは言葉の意味を確認しておきます。

「批評」
物事の是非・善悪・正邪などを指摘して、自分の評価を述べること。
(小学館『デジタル大辞泉』より)

ここで非常に重要になるのが、自分の評価を述べる際に「根拠をもって」論じるという点です。

私たちは日頃から無意識のうちに、身のまわりの物事に対して何かを感じ取っています。それは「好き・嫌い」であったり、「快・不快」であったり、あるいは「共感できる・できない」や「肯定・否定」であったりします。
好きでも嫌いでもなく、肯定も否定も全くしないという状態のほうが、実は特殊な心理状態とも言えるのです。

しかし、好き嫌いや肯定・否定といった判断をしているだけでは「批評」とは言えません。
批評するには、なぜそう言えるのか、根拠を明確に示さなくてはならないからです。これは「批評」を考える際に間違えやすいところなので、「批判」「感想」と「批評」の違いについて、より深く掘り下げてみます。




混同しやすい「批判」「感想」と「批評」の違いについて

批評との違い批判:物事の悪い面を取り上げ、善悪や正邪を判定すること感想:個人の主観にもとづく「感じ方」

「批評」と聞くと、「ケチをつけること」や「好き嫌いの立場を決めること」といったイメージを持っていないでしょうか。これは非常によくある誤解ですので注意が必要です。

批評という言葉には「批」という字が使われていますが、同じ字が使われている「批判」とは根本的に異なります。

また、専ら主観によって述べられる「感想」とも大きく異なるものです。具体的に、「批評」と「批判」「感想」は何がどのように違うのでしょうか。



「批判」と「批評」の違い

批判と批評はよく似た語感の言葉ですが、意味するものは全く異なります。

批判とは、とくに物事の悪い面や非難すべき面を取り上げ、善悪や正邪を判定してしまうことを指します。この「判定」まで行う点が重要であり、自分自身は否定的な立場であると表明することも批判に含まれています。
たとえば「雨の日」について「批判」するなら、次のようになります。

「雨の日は服が濡れて乾くのに時間がかかる。洗濯物が乾きにくいのも欠点だ」

これに対して、「批評」は物事の良い面も悪い面も見ようと努めた結果、善悪や長短を指摘しながらも、その理由や背景を根拠として述べることを指します。
先ほどの「雨の日」について「批評」するなら、次のようになります。

「一定の降水量は私たちの暮らしに必要だが、雨の日が憂うつに感じるなど個人レベルではデメリットと感じる人もいる」

批評は物事を「良くない」と決めつけることが目的ではないため、良い面を指摘する批評も悪い面を指摘する批評もあります。

批評は特定の立場を強調するために行われるのではないことから、批評を聞いたり読んだりした人は、必然的に「あなた自身はどう考えるか」という問いを投げかけられることになります。



「感想」と「批評」の違い

もう1つ、批評と混同されやすい概念として「感想」が挙げられます。
感想とは、専ら個人の主観にもとづく「感じ方」のことを指します。言い換えれば、好き嫌いや快・不快といった、きわめて個人的なものの感じ方・受け取り方に立脚しています。

感想を述べるにあたって根拠は必要ありません。好きだと感じたものがなぜ好きなのか、苦手だと思ったものがなぜ苦手なのか、理由を言い添える必要はないのです。

たとえば「雨の日」について感想を述べるとしたら、「雨の日は嫌いだ」「雨の日は楽しい」など、感じ方を自由に述べて構いません。

個人の感じ方は人それぞれですので、どのような感想を抱いたとしても非難されるべきものではないのです。ただし、感想はあくまで個人的な感覚によるものであるため、他者を説得したり納得してもらったりするには不十分と言わざるを得ません。

これに対して、批評は「他者にも理解可能な言葉」で示される必要があります。根拠や背景を言い添えるのは、客観的な事実を積み上げた上で「なぜそう言えるのか」を示すためなのです。このように、批評は他者に理解してもらうことを目的としている点が「感想」とは異なります。

実際に、批評をしてみよう!「批評の進め方」

批評が「批判」や「感想」とは異なることについて前項では見てきました。では、実際にどんな手順で物事を考えていけば的確な批評ができるのでしょうか。

まれに批評がもともと得意な人がいますが、多くの人にとって批評は「意識しなければ難しい」ものです。そこで、批評に必要な要素をプロセスに分解し、2ステップで批評を進めるようにするといいでしょう。
具体的には、次のプロセスを踏んでいくのがポイントです。

批評のプロセス(進め方)

1.対象を多角的に見て、評価・考察する2.評価・考察した内容を分かりやすく伝える
  • 1.対象を多角的に見て、評価・考察する
  • 2.評価・考察した内容(批評)を、分かりやすく伝える

各プロセスについて詳しく見ていきましょう。




1.対象を多角的に見て、評価・考察する

□QCT□3C□UXハニカム構造

物事を批評するにあたって重要なのは客観性や根拠です。直感や感覚に頼って判断しようとすると、批判や感想に終始してしまいやすいため注意が必要になります。

批評しようとしている対象は、見方や捉え方によってさまざまな側面があるはずです。ある一面だけを見て考えるのではなく、対象を多角的に観察し、評価・考察することが重要なのです。

こ物事を多角的に見るために役立つさまざまなフレームワークがあります。
複数のフレームワークを知っておくことによって、物事をいろいろな面から見る目を養うことができます。次に挙げるのはフレームワークの一例です。



QCT

Quality(品質)・Cost(原価)・Time(時間)の頭文字を取った用語。特定のサービスや商品の品質を多角的に捉え、検証する際に役立つフレームワークです。

「品質は良いが原価がかかりすぎている」「原価は低減できているが、作るための時間が膨張してしまう」といった捉え方をすることで、対象の長所と短所をバランスよく捉えやすくなります。



3C

Customer(市場)・Competitor(競合)・Company(自社)の3つのCを指す用語。自社やその商品を取り巻く外部環境を客観的に分析し、戦略を立案する際に役立ちます。
事業を成功させるための必要条件(KSF:Key Success Factor)を見つけ出すためによく使われます。



UXハニカム構造

UXハニカム構造

引用元:https://www.asobou.co.jp/blog/web/ux-honeycomb

主にWebサイトやアプリの開発において、ユーザー体験を6つの要素から分析・改善するためによく使われます。

6つの面が成立して初めて、ユーザーにとって価値のある体験を提供できるという考え方です。ユーザー視点に立ち返って企画やコンテンツ設計を見直したいときに有用なフレームワークと言えます。

これらのフレームワークを使うことが重要なのではなく、目的はあくまでも対象を多角的に見て評価・考察することにあります。

さまざまなフレームワークがあることを知り、基本的な考え方や活用方法を把握しておくことによって、物事を多角的に捉えるトレーニングにもなるはずです。




2.分かりやすく伝える

◇頭括型◇尾括型◇双括型

的確な批評をするには、「自分の中では理解できている」だけでは不十分です。

せっかく対象を多角的に捉えることができていても、言葉にして人に分かりやすく伝え、理解してもらわなければ批評にはなりません。批評はアウトプットの一種であり、分かりやすく伝えることとは切っても切れない深い関わりがあるのです。

そこで、分かりやすく伝えるためのパターンを知り、いずれかのパターンに合わせて伝えるべきことを構成するようにしましょう。

物事を分かりやすく伝えるための代表的な構成として、尾括型・頭括型・双括型があります。
これらはよく論文など文章を書くときに引き合いに出される考え方ですが、批評する場合においても分かりやすい伝え方を実現するために役立てることができます。



頭括型(とうかつがた)

説明をする際に、「初めに結論を述べなさい」と教わった人は多くいるのではないでしょうか。
そして、冒頭で結論を述べる構成を「頭括型」と呼びます。

身近な例として、ニュースや書籍で見出しが冒頭に掲げられ、その見出しについての内容が本文で詳しく綴られているのは頭括型の構成と言えます。

はじめに言いたいことの要旨を伝えることから、聞き手にとっても主張が分かりやすく、端的に伝わるという利点があります。一方で、全く異なる意見を持つ相手は冒頭から「自分とは考え方が合わない」と感じ、興味を失ってしまう可能性もあります。



尾括型(びかつがた)

頭括型とは逆に、最後に結論を述べる説明手法(構成)もあります。これを、「尾括型」と呼びます。

「序破急」や「起承転結」という構成を聞いたことがある人も多いでしょう。
「序破急」は3段構成、「起承転結」は4段構成になりますが、いずれも最後にまとめとして結論を述べていることから尾括型の構成にあたります。

批評の最も言いたいことに向けて聞き手の関心を惹きつけていく必要がありますので、一定以上の技術が必要な構成とも言えます。最後まで関心を惹くことができれば印象に残りやすい反面、端的に伝えにくいという短所があります。



双括型(そうかつがた)

尾括型と頭括型のデメリットを補い合うことができるのが「双括型」です。双括型では冒頭で主題・主張を述べたのち、締めくくりでも主題・主張を繰り返します。

これによって、聞き手は何についての話がこれから始まるのかが分かるだけでなく、最後に改めて要点を振り返ることによって理解が深まります。

話し手の言いたいことが繰り返されるため、印象に残りやすいという効果もあります。

ただし、同じことの繰り返しに聞こえてしまうと「くどい」「しつこい」といった印象を与えてしまうこともあるので注意が必要です。

「批評」は何のためにあるのか

批評の具体的な進め方について理解が深まってきたでしょうか?

バランスの取れた批評ができるようになることで企画や事業戦略に対して客観的な意見が言えるようになるだけでなく、自らビジネスアイデアを考案する際にも有益な提案をしやすくなるメリットがあります。

一方で、批評は何のためにあるのか、という根本的な部分での目的を見失ってしまうと、単なる「批判」「揚げ足取り」のようになってしまう危険性も孕んでいます。そこで、批評は何のためにあるのか改めて整理しておきます。




「批評」とは相手の良い所を見つけること

批評は批判とはちがい、相手の短所や弱点を探し出してあげつらうために行うものではありません。むしろ、相手の良い所を見つけて共有するために言語化するプロセスと考えてください。

一見すると取りに足りないようなアイデアでも、よく検証してみれば重要な観点が含まれているかもしれません。

あるいは、当たり前のように見過ごされている事象の中にも示唆に富んだアイデアが隠れているかもしれないのです。

このように隠れた良い所を見つけるためには、物事を仔細に観察し、掘り下げて考えることが大切です。
多角的な視点で物事を捉え、さまざまな可能性について検証する習慣を身につけることによって、単なる批判や感想とは一線を画した「批評」を試みることができるのです。

また、批評することは評論家になることではありません。
他人事のようにコメントするのではなく、当事者意識を持って自分から課題となるテーマに飛び込んでいき、相手の立場に自分を置き換えて捉える姿勢が求められます。




批評を忘れることは、可能性を忘れること

批評することは、自分自身の世界観を拡張することと密接な関わりがあります。
ある物事に接したとき、自分の捉え方や感じ方の範疇で思考が処理されているうちは、世界観が広がっていくことはまずありません。

「好きか嫌いか」「興味があるかないか」といった主観が先立つため、「嫌い」「興味がない」と判断した時点でそれ以上の考察を試みることがなくなってしまうからです。

完璧な人がいないように、完成された発想や思考といったものも存在しません。

一見すると自分と全く意見を異にする人がいたとして、「自分とは考え方がちがう」と判断して思考を止めてしまうのか、「なぜそう考えるのだろう?」「何か根拠があって言っているはずだ」といった可能性を模索するのとでは、得られる情報量に大きな差が開くでしょう。

もしかしたら、異なる意見について考えることで自分が見過ごしていた観点や捉え方を学び取る重要なチャンスが得られるかもしれないのです。

このように、批評の視点を意識することは世界観の拡張に寄与することがあります。裏を返せば、批評を忘れることは可能性を放棄することにもなりかねないのです。

まとめ)批評の意義を理解して思考を深めるチャンスを獲得しよう

私たちは日頃、多かれ少なかれ主観にもとづいて物事を判断しています。
自分なりの考えや意見を持つことは重要ですが、一方で個人の思考は有限であり、新たな視点や感性を取り入れ続けていかないと一定の思考パターンに陥ってしまいがちです。

物事に対して批評の視点を持つことで、自分自身の思考の偏りや傾向に気づくチャンスを得ることにもつながります。

意識していないところで「批判」や「感想」に終始してしまっていないかを点検する意味でも、批評は効果を発揮するのです。

批評の意義を理解し、物事に向き合っていく際のヒントにしてみてはいかがでしょうか。批評の視点を取り入れることで、結果的に自身の思考を深め、世界観を広げていくチャンスを手にできるはずです。

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