最近話題の「ワークライフインテグレーション」は、どうやって実践できる?
[最終更新日]2023/11/06
ここ数年、日本人の働き方にさまざまな変化が生じています。従来のような仕事中心の人生観から、もっと多様で柔軟性のある働き方や仕事の捉え方をしてもいいのではないか?といった考え方が提唱・推進されつつあるのです。
今日はそのうちの1つ、ワークライフインテグレーションについて見ていきます。これからの時代に合った仕事観として注目を集めている言葉ですので、一度は耳にしたことのある人も多いはずです。
ここで質問です。
・ワークライフインテグレーションとはどんな考え方ですか?
・ワークライフバランスとの違いはどういった点にありますか?
・ワークライフインテグレーションを推進するメリットは何ですか?
・ワークライフインテグレーションを導入している企業の事例を聞いたことがありますか?
言葉を聞いたことはあるけれど、詳しいことはよく知らない——。
そう感じた人は、ぜひこの記事を参考にしてください。
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Index
目次
そもそも、ワークライフインテグレーションとは?
ワークライフインテグレーションとは、「仕事と私生活を柔軟かつ高い次元で統合し、両方の充実度を高める」という考え方です。従来の仕事観と比べると、仕事と私生活をそれぞれ独立したものと見なしておらず、どちらも人生の一部を成すものと考えるのが特徴です。
出典:http://www.m-pa.net/about/worklife/
上の図で、従来の仕事観においては「仕事」か「生活」のどちらかを選ばなくてはならないと考えられていたため、仕事と生活は常にトレードオフの関係にありました。「仕事を取るか家庭を取るか」といった問いは、その典型と言えるでしょう。
一方、ライフワークインテグレーションにおいては、仕事と生活をいかに統合させ、人生全体の質や充実度を向上させられるかを重視します。
仕事と生活の比重は固定化されるのではなく、時と場合によって柔軟に判断できるという考え方に基づいています。
たとえば、同じ人であっても「仕事に集中したいタイミング」と「家族との約束を優先させたいタイミング」があることを、ごく自然なあり方として受け入れる考え方なのです。
「ワークライフインテグレーション」と「ワークライフバランス」の違いは?
ワークライフインテグレーションと混同されやすい概念の1つに「ワークライフバランス」があります。言葉は似ていますが、ワークライフインテグレーションとワークライフバランスは異なる考え方です。
出典:http://www.m-pa.net/about/worklife/
ワークライフバランスは「仕事と生活のバランスをうまく取りましょう」という考え方ですので、仕事を優先するか生活を優先するかはそのときどきの仕事の状況などに左右されやすく、自分で決められない要素が少なくないという問題点がありました。
たとえば、「本当は家族との約束を優先させたいけれども、仕事が忙しくてそれどころではない」といったことが起こりやすかったのです。
ここで注意しておきたいのは、ワークライフインテグレーションが「仕事と生活を区別しない」=「私生活に仕事を持ち込む」という考え方ではない、という点です。プライベートに仕事を持ち込んだ結果、仕事が生活に浸食してしまい、生活の質が下がるようでは元も子もありません。
仕事と生活を高い次元で統合させた結果、人生全体を見た場合に充実度が高まる良い循環が生み出されることこそが、ワークライフインテーグレーションが目指す生き方なのです。
陰陽論のイメージで、ワークライフインテグレーションを読み解いてみる
ワークライフインテグレーションの考え方を理解する上で役立つこととして、東洋思想の「陰陽論」が挙げられます。古代中国の書物「易経」に記された考え方で、「陰陽対極図」と呼ばれるシンボルで表現されることがあります。
陰陽対極図でまず目に留まるのは、中心部分の特徴的な曲線です。陰(黒色の部分)と陽(白色の部分)は同じ面積に塗り分けられているのですが、両者の面積は連続的に変化していて、あるところから急に「陰」または「陽」が増えたり減ったりすることがありません。あくまで滑らかに、継ぎ目なく変化しているのです。
これがもし、下のような図だったとしたらどうでしょうか。
この図では、陰なのか陽なのか二者択一で選ばなくてはならないように感じてしまいます。
一方で、陰陽論の「陰陽太極図」を見てみましょう。
ワークワイフインテグレーションは、ちょうどこの陰陽対極図のように「白黒つけない」「全体としてのあり方を重視する」という考え方に基づいています。
考えてみると、このようなあり方は人間としてとても自然な状態です。たとえば、次のようなことは誰にでも思い当たるのではないでしょうか。
陰陽対極図に象徴される人間の姿
- 明るい考え方と暗い考え方が同居する
- 強さと弱さが混在する
- 男性的な一面と女性的な一面がある
- 緻密さと大雑把さのどちらも併せ持つ
- 悲観的なときもあれば楽観的なときもある
このように、人間は同じ人でも多面性を持った複雑な存在です。
仕事と生活という切り口に関しても、双方が複雑に統合されたワークライフインテグレーションのような考え方が表れるのは自然な流れと言えるのかもしれません。
ワークライフインテグレーションで意識すべきは、「生産効率性」と「幸福度」
ワークライフインテグレーションを実践するとき、1つのハードルとなるのが「私たち1人1人の意識」です。
当然のことながら、会社の上層部が「当社では今月からワークライフインテグレーションを導入することに決定した。ついては仕事と私生活に境界を作ってはならない」と指示・命令することで、ワークライフインテグレーションが実践できるようなものではありません。
私たちがワークライフインテグレーションを実践していくためには、どのようなことを意識しておいたらいいのでしょうか。主に次の2点がポイントとなります。
ワークライフインテグレーションを実践する際に大切となる要素
- 生産効率性
- 幸福度
生産効率性について
これまで日本の労働観は「毎日、定刻に出社して遅くまで残業する」といった、会社に自分の時間をどれだけ差し出すかによって忠誠心を表していたところがありました。
しかし、ワークライフインテグレーションを実践するのであれば、重視すべきは仕事に費やす時間の長さではありません。できるだけ少ない時間でより大きな成果を出すことを意識する必要があるのです。
仕事と私生活の境界をあえて作らないということは、場合によってはプライベートの予定のために仕事の時間を短縮するケースも出てくるということです。
このとき、「労働時間が半分になったので、成果も半分です」ということでは、ただ単に「自分の好きなタイミングで働きたい」というわがままを押し通しただけのことになってしまいます。
時間対効果を意識し、極限まで生産効率を高めることによって、仕事と生活のどちらも充実させられるだけの余裕が生まれるのです。労働時間が長い=頑張っている、といった意識が少しでも残っているとすれば、ワークライフインテグレーションの実践にあたって見直しておきたい考え方の1つと言えるでしょう。
幸福度について
ワークライフインテグレーションを実践する中で、「プライベートの時間を確保するために仕事を早く終えたい」といった考え方に陥るのは本末転倒です。
なぜなら、仕事と生活の片方を取るともう片方を犠牲にしなくてはならないという発想は「ワークライフバランス」のそれだからです。
むしろ、仕事が充実することで私生活も楽しむことができ、私生活が楽しめることで仕事に役立つアイデアや活力が湧いてくるような、双方が良い影響を与え合う相乗効果が生まれるのが理想です。
オフタイムに仕事以外の学びを取り入れたり、視野を広げるために普段は行けないような場所へ行ったりすることで、仕事だけに取り組んでいたのでは得られなかったであろう経験や学びを体得することができるはずです。
こうした、経験や学びにおいて仕事と生活を分けない考え方は、長い目で見たとき人生の幸福度を向上させることにもつながっていくでしょう。
日々の仕事や暮らしを通じて人間的に成長しているという実感を持つことができれば、自己実現に向けて仕事も生活も大切にしていくことができるからです。
ワークライフインテグレーションに取り組んでいる企業の事例
ワークライフインテグレーションを自分の勤務先でもぜひ取り入れたいと感じた人もいるのではないでしょうか。
前項でも触れた通り、ワークライフインテグレーションは「制度」や「指示」として導入するものではなく、働く私たち1人1人の意識を変えていくことから始めなくてはなりません。
そのため、実践するにはハードルがあるように感じる人もいることでしょう。いざ導入すると言っても、一体何から始めたらいいのか迷ってしまうかもしれません。
そこで、ワークライフインテグレーションを実践している企業の事例をご紹介します。これからワークライフインテグレーションの導入と実践を検討していきたいと考えている人は、ぜひ参考にしてください。
ワークライフインテグレーションの事例#1 日本IBM株式会社
日本IBM社は、ワークライフバランスが注目され始めていた時期から、いち早くワークライフインテグレーションの重要性を訴えてきました。
優秀な人材を確保するには多様性への理解が不可欠であり、ワークライフインテグレーションはダイバーシティを実現するための重要な要素と捉えているからです。
同社では、チャットツールなどの利用により情報共有のあり方を見直し、働く場所や時間を選ぶことなく情報が共有される仕組みを整備してきました。
また、本社をはじめ事業所をフリーアドレスにし、サテライトオフィス、カフェ、ターミナル駅、空港ロビー、在宅といった多様な場所で仕事をすることを推進してきました。
こうした取り組みによって、管理職が部下を管理するのではなく、業務目標に向かって共に歩むコーチングに徹するようになったとのことです。
優秀な女性が能力を発揮できる社会になれば、現在の就労人口に820万人の頭脳が加わり、経済全体として15%の拡大が見込めるという経済レポートの試算もあります。
女性のライフステージの変化にも柔軟に対応できる職場の実現に向けて、同社は現在も挑戦を続けています。
ワークライフインテグレーションの事例#2 オリンパス株式会社
オリンパス社では、育児や介護といった事情のある従業員が能力を十分に発揮できるよう、従業員の仕事と生活の両立支援を図っています。
育児・介護の両立支援施策として、在宅勤務制度、リエントリー制度(事情で退職した社員の再入社を認める制度)、役割フレックス制度、労働時間短縮制度を導入・実践し、ワークライフインテグレーションの推進に取り組んできました。
2017年度の在宅勤務制度利用者は118名、労働時間短縮制度の利用者が254名となるなど、制度を積極的に利用して仕事と生活の両立を図る社員が増えています。
また、女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画では、ワークライフインテグレーション実現のための方針として、「経営トップによる女性活躍推進宣言の発信」「マネジメント層への教育や啓発を実施」「全社WLI推進体制の立ち上げと啓発活動の推進」を掲げています。
このように、制度を整備するだけでなく、経営トップや管理職が自ら変わろうとする姿勢を見せているのが特徴的です。
ワークライフインテグレーションの事例#3 MSD株式会社
製薬会社であるMSD社では、社員が会社での仕事以外にも育児や家族の介護、さらには社会貢献や地域社会での活動といった役割を持っていることを重要視し、仕事と生活の双方を充実させ相乗効果を高めるためのさまざまな施策を実施しています。
実際に行われてきた施策の一例として、「妊娠中の通院 の付き添い」「父母学級への参加」を事由とした有給取得を促したり、外部講師を招いてのセミナー「仕事も育児も楽しむ、パパの新しい働き方」を開催したりと、男性労働者にも育児休業を取得することを促進する試みを積極的に行っています。
また、ジェンダーダイバシティに関する管理職研修やワークショップの開催、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)に関する研修の実施など、これまでの日本社会で続いてきた職場優先の意識や固定的な性別役割分担意識の是正を目指す情報提供・研修を行っています。
社員1人1人の無意識に根づいているかもしれない固定観念に対して、きめ細やかにさまざまな試みをしていることが分かります。
まとめ)ワークライフインテグレーションを阻む障壁は私たちの「内」にある
冒頭で述べた通り、ここ数年で日本人の働き方や労働観に大きな変化が起きていることは間違いありません。
かつての「仕事があっての家庭」「仕事が最優先」といった考え方に固執することなく、社会に暮らす1人1人がより幸福に、自分の人生を充実させるための生き方を選べるようになっているのは良い傾向と言えるでしょう。
ただ、人の意識や習慣は短期間で急激に変わるものではありません。
気をつけているつもりでも、無意識のどこかに「仕事を早退することに罪悪感がある」「少し我慢して仕事を優先させたほうがいい」といった気持ちが残っていないでしょうか。
多様性を受け入れる社会に変わりつつある今、職場におけるワークライフインテグレーションの動きは今後も進んでいく可能性があります。まずは私たちの内に、意識していない固定観念や思い込みが残っていないか、絶えず自問自答していきたいものです。
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