マズローの欲求5段階は、誤解されやすい?──職場・実生活での活用法は?

[最終更新日]2020/02/14

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マズローの「欲求5段階」とは

幸せでありたい——。この願いは、おそらく誰しもに共通するものと言えるでしょう。

幸せというものについて深く考えたことのある人、あるいは心理学について興味のある人であれば、おそらくマズローの自己実現理論(欲求5段階)について聞いたことがあるはずです。

世界的によく知られた理論であるのと同時に、その明快な理論ゆえに、ともすると誤解されやすい面もある理論と言えます。マズローの欲求5段階を誤解したまま実生活に活かそうとすると、理論の本筋とは全く異なるところで歪んだ認識を生じさせかねません。

そこで、今回はマズローの欲求5段階についておさらいしつつ、この理論の誤解されやすい点や実生活で上手に活用していく方法について見ていきましょう。



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目次

はじめに、マズローの欲求5段階をおさらい

「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」- Abraham Harold Maslow

アブラハム・マズローはアメリカの心理学者であり、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」とした自己実現理論を唱えた人物として知られています。

自己実現理論は、しばしば下図にある5段のピラミッドを用いて説明されます。人間の欲求を5段階に分けて示していることから、「欲求5段階」と呼ばれることもあります。

マズローは、人間の欲求を5段階に分けています。

  • 自己実現欲求
  • 承認欲求
  • 社会的欲求
  • 安全欲求
  • 生理的欲求

下図にあるように物理的欲求と精神的欲求に大きく分けることもでき、上にあるものほど高次の欲求であるとされます。

「高次」という言葉からは、「高尚」といった言葉が連想されるかもしれませんが、マズローの欲求5段階は決して欲求の「優劣」や「貴賤」をランク付けするものではありません。

人間として幸せに、自分らしく生きること——。これを実現するために、どのような欲求が満たされていったらいいのかを理論化しようと試みたものなのです。

マズローの欲求5段階



マズローの欲求5段階の、各段階の説明



生理的欲求

生理的欲求とは、文字通り生理的に必要な最低限の欲求のことを指しています。生きるために必要な食物や水、空気が得られること、あるいは睡眠や排泄といった、生き物として致し方なく生じる欲求のことを言います。

通常、この段階の欲求が満たされて十分に満足し、かつその状態が続くことはありません。

人間は社会的な生き物ですので、必要最低限の生理的欲求が満たされれば、すぐに「より健康に」「より安全に」といった次の段階の欲求を満たしたくなるからです。



安全欲求

安定や保護を得られること、恐怖や不安から距離を置いていられること。これらは「安全欲求」とされます。

安全欲求を意味通りに捉えれば、健康でありたい、危険を回避したい、事故を防ぎたいといった欲求ということになります。これをより広義の意味で捉えるならば、経済的な安定を得たいという気持ちも安全欲求の一種と考えることができるでしょう。

日本で暮らす健康な成人であれば、ほとんどの場合この欲求は満たされており、安全欲求が動機付けとなって具体的な行動に結びつくことはまれであるとされます。



社会的欲求(帰属欲求)

人は1人では生きられない、と言われることがあります。人は常に他者とのつながりを求めているのであり、集団に所属したり愛を実感したりすることで精神的な安定を得ることにつながります。

仲間が欲しいと感じたり、恋人が欲しいと感じたりする心理は、まさしく社会的欲求からくる心理です。

自分には果たすべき役割があると実感することや、他者から受け入れられているという感覚を得られることが、社会的欲求を満たすために必要とされます。社会的欲求が帰属欲求とも呼ばれるゆえんです。



承認欲求(尊厳欲求)

承認欲求は尊厳欲求とも呼ばれ、人から認められたい、尊敬されたいという気持ちとなって表れます。所属している集団の中で目立ちたい、他の人よりも優れていると思われたい、評価されたいといった気持ちのことを指します。

SNSで「いいね」をたくさん欲しがったり、実際の自分よりも良く見せた写真を投稿したりするのも、承認欲求の表れと言えるでしょう。

ほとんどの人は何らかの集団に属して暮らしていますので、承認欲求を満たして自分に自信を持ちたいと感じるであろう場面は少なくないのです。



自己実現欲求

マズローの理論の中でも中核的な概念として位置づけられる欲求です。あらゆる行動はこの欲求を満たすためになされているとマズローは考えたのです。

自己実現欲求は、平たく言えば「あるべき自分になりたい」という欲求です。承認欲求が他者に対するものだったのに対して、自己実現欲求はあくまで自分自身の中での問題に目が向けられているのが特徴です。

自分にしかない能力を高めていきたいといった欲求や、社会に貢献して人の役に立ちたいといった無償性を含んだ欲求は、まさしく自己実現欲求と言えるでしょう。

マズローの欲求5段階はここで誤解されやすい?誤解ポイント3つ

それぞれの段階の独立性(ランク付け)と同時並行性(共存と割合)の誤解

マズローの欲求5段階はピラミッド構造の図で説明されることが多く、欲求を「高次」から「低次」のものに分類していることから、しばしば安易な「ランク付け」や「レッテル貼り」に使われることがあります

「社会的欲求や承認の欲求で止まっている者は未熟」「自己実現の欲求がごく自然に湧く境地を目指すべきだ」といった論調は、その典型と言えるでしょう。

欲求5段階について、マズロー自身は次のように説明しています。
我々の社会で正常な大部分の人は、すべての基本的欲求にある程度満足しているが、同時にある程度満たされていないのである

つまり、5つの欲求はそれぞれ独立したものではなく、複数の段階を並行して感じるものであり、同じ人が同時に複数段階の欲求を持ったり、高次と低次の欲求が逆転したりすることもあり得ます。

たとえば、「貧しくても好きな人と一緒にいられて幸せ」という状態は、安全の欲求がやや満たされていなくても愛の欲求を満たせていることになり、高次と低次の欲求が逆転していますが、当人たちにとっては欲求が満たされて幸福な状態にあると言えるのです。




「承認欲求」の解釈の誤解

自己承認欲求。高次の承認欲求自分で自分を認めたい・技術を磨きたい・能力を高めたい・自分への信頼を高めたい。他者承認欲求。低次の承認欲求他人から認められたい・称賛や尊敬が欲しい・地位や名声が欲しい・注目されたい

とくにSNSが登場してからというもの、世の中で「承認欲求」という言葉がよく使われるようになりました。

自己顕示欲を満たしたい、他人から認められたいという欲求はたしかに承認欲求の一種ですが、マズローの欲求5段階における承認欲求はこうした狭義の欲求だけを指しているのではありません。

マズローの欲求5段階における承認欲求は、さらに2段階に分けられます。
すなわち、他人から認められたいという「他者承認欲求」以外に、自分で自分を認めたいという「自己承認欲求」も含まれているのです。自己承認欲求とは、自分に対する信頼や自信となって表れます。

言い換えるとすれば、「等身大の自分を誇りに思いたい」という欲求のことです。

また、他者承認欲求についても、外見や肩書、経済力といった属性によって他者に認められることではなく、あるがままの自身を人に受け入れてもらいたい、本当の意味で愛されたいという思いのことを指しています。

このように、承認欲求という言葉にまつわるイメージにとらわれず、承認欲求が指し示す本来の欲求を理解しておく必要があります。




「自己実現」の解釈の誤解

承認欲求と同様、「自己実現」という言葉も近年よく耳にするようになりました。

一般的には、自己実現と言う場合には「自分のやりたいことで生きていける」「社会的に成功する」といったことを指している場合が多いのではないでしょうか。
しかし、マズローの欲求5段階における自己実現はこれとは異なります。

一見すると自己実現の欲求のように思えても、実は他者承認欲求と混同しているケースがあります。「自己実現のために仕事に邁進している」と思っていても、実はその根底にあるのは「他者からの評価・賞賛を得たい」という思いなのかもしれません。

マズローが唱える「自己実現」とは、自分自身の状態が「ありたいと思う姿」に近づけていると実感しているかどうか、という点に重きが置かれています。

他者から見た評価や社会的な指標ではなく、あくまで自分自身の中での事実が重視されているのです。
人間的により成熟し、人格を磨いていくことが行動の動機づけになれば、他者からの評価や名誉を得るために行動する必要はなくなるというわけです。

マズローの欲求5段階を有効に活用していく為に

ここまで見てきたように、マズローの欲求5段階はともすると誤解されやすく、本来の主旨とは異なる解釈をされてしまう恐れがあります。

一方で、少し踏み込んで本質的な部分を理解することによって、自身の行動や考え方の指標として永続的に持ち続けたり、定期的に省みたりするために活用できる奥深い理論でもあるのです。

そこで、日常生活や仕事においてマズローの欲求5段階を有効に活用していく方法として、3つの提案をしてみたいと思います。




「自分らしく生きる」為の指標として活用する

マズローの欲求5段階は、自己実現の欲求を最も高次の欲求とする理論です。ここで言う自己実現とはあくまで「自分らしく生きる」ことを目指すものであり、社会的な成功や高みを目指すことを促しているわけではありません。

もちろん、高みを目指すためには人間的な成長や成熟も必要ですので、自分らしさを追求する上で高みを目指すのは必ずしも間違いではありません。

しかし、自分らしく生きることとは無関係のところで成功や賞賛を求めてしまうと、まるで雲を掴むように、いつまで経っても本当の意味での自己実現を実感できないままになりかねないのです。心から満足し、納得するためには、「自分らしく生きることができている」と思えることが非常に重要です。

自分には似合わないようなものを理想に掲げていないか?
物欲や金銭欲に目がくらんでいないか?
世間一般に言う「成功」の定義に惑わされていないか?

こうした振り返りを定期的に行い、「いま進んでいるこの道は、自分らしく生きることを目指すほうへと進んでいるのだろうか?」と確認する上で、マズローの欲求5段階の理論が役立つはずです。




「承認欲求」からの脱却を目指す際に活用する

真面目な人や繊細な人ほど、他人からどう見られているのか、自分がしたことや言ったことを人はどう受け取るのか、といったことが気になってしまう傾向があります。

こうした感覚は、一見すると周囲のことを気づかって遠慮しているように見えますが、実は「人に嫌われたくない」という思いの表れであり、「認めてほしい」という承認欲求の一種であることも少なくありません。

人の受け取り方はさまざまである上に、他人の本心がどうであるかは想像の域を出ない部分がほとんどです。

そのため、「人からどう見られるか」を気にし過ぎていると、自分らしさよりも人に合わせることを優先する消極的な生き方に終始してしまう可能性があります。

マズローの欲求5段階は「自分らしく生きたい」という、実は非常にシンプルな欲求を中心に据えた理論です。

他人の視線や世の中の一般論にがんじがらめになってしまいそうなとき、それが承認欲求からくるものであることをマズローの理論は教えてくれるかもしれません。そして、承認欲求から脱却し、本当の自己実現へと向かっていく際にも、マズローの欲求5段階の考え方は役立つのではないでしょうか。




他者の幸せ・よりよい状態を願う際の意識・行動として活用する

マズローの欲求5段階は自身がより自分らしく生きるために役立てることができる理論ですが、同時に周囲の人々がよりその人らしい人生を送れるようにと働きかける場合にも活用することができます。

身近な人が何らかの内面的な問題を抱えているとき、どの欲求が満たされずに鬱屈した思いを抱えているのかを考え、より良い状態を目指せるよう働きかける上での指標になるかもしれないのです。

意欲をなくしかけているように見える部下は、もしかしたら承認欲求が満たされない状態が長く続いてしまったために、そのような心理状態に陥っているのかもしれません。

上司としては、もっと自信をつけられるように小さな成功体験を積んでもらったり、役割を与えて活躍してもらったりと、より高次の欲求にも目を向けてもらうための働きかけができるはずです。

このように、マズローの欲求5段階を自分以外の人に対しても応用していくことで、他者が置かれている状況や心理状態をより深く洞察し、理解するためのヒントとなる可能性があるのです。

まとめ)マズローの自己実現理論への理解を深め、実生活で活用していこう

マズローの自己実現理論は、言葉の表層や理論の一部を切り取った理解をしてしまうと、理論の全体像を欠いた誤解を含んだ解釈となってしまう恐れがあります。

その反面、自己実現という言葉の背景にある「自分らしく生きる」というシンプルな目的を中心に据えて捉えることができれば、生涯を通して生きる指標とすることができるほどの普遍的な理論にもなり得ます。

マズローの理論を実生活や職場で活用することで、自分の生き方や目指すべきものを見失わないために役立つだけでなく、身近な人にもより良い状態で暮らしてほしい・働いてほしいという思いを少しずつ具現化することができるかもしれません。

マズローの自己実現理論への理解をいっそう深め、実生活でも活用してみましょう。