管理職にも広がる「ジョブ型雇用」とは?働き方はどう変わる?
[最終更新日]2023/03/11
近年、「ジョブ型雇用」という言葉をよく耳にするようになりました。大手企業が続々と導入を発表したことを受け、今後の働き方にも影響を及ぼすのではないかと言われています。
ジョブ型雇用とは、従来の雇用形態とどういった点が異なるのでしょうか。
また、ジョブ型雇用の導入が進むと私たちの働き方はどう変わっていくのでしょうか。
ジョブ型雇用によって従業員・企業それぞれが得られるメリット・デメリットとあわせて、ジョブ型雇用をどう捉えたらいいのか考えていきましょう。
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Index
目次
ジョブ型雇用とは?なぜいま注目されている?
ジョブ型雇用の特徴について知るには、これまで日本企業の多くが採用してきた雇用の考え方について理解しておく必要があります。
日本企業では長きにわたって終身雇用を前提とした働き方を基本としてきました。このような従来の働き方は「メンバーシップ型雇用」と呼ばれ、ジョブ型雇用と対をなしています。
そこで、ジョブ型雇用とメンバーシップ雇用のちがいを比較しながら、ジョブ型雇用がいま注目されている理由について見ていきます。
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用のちがい
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用のちがいを大枠で捉えるとすれば、「職務」に合わせるのがジョブ型雇用であるのに対して、「人」に合わせるのがメンバーシップ型雇用と考えることができます。
新卒で入社した会社で定年まで働き続ける終身雇用では、従業員のパーソナリティや資質・能力を入社後に総合的に判断した上で人事異動が行われるのが一般的です。これはメンバーシップ型雇用の特徴の1つと言えます。
これに対してジョブ型雇用では、求められる職務やポジションで力を発揮できると思われる人材を採用します。
そのため、メンバーシップ型雇用では当たり前だった転勤やジョブローテーションといった措置が不要となります。
採用方法に関しても、ジョブ型採用では特定のスキルや経験を持った人材を採用することが前提となりますので、新卒採用枠を設けず中途採用のみとなるのが一般的です。
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の比較
ジョブ型雇用 | メンバーシップ型雇用 | |
---|---|---|
人材に対する考え方 | 職務に人材を当てはめる | 人材に職務を当てはめる |
人材採用の方法 | 中途採用 | 新卒採用(または中途採用) |
求められる能力・資質 | スペシャリスト | ゼネラリスト |
転勤・異動 | 基本的になし | あり |
ジョブローテーション | なし | あり |
報酬の決定基準 | スキルレベルや成果 | 在籍年数や年齢 |
働き方 | 転職や複業も十分にあり得る | 一社で働き続けることが前提 |
ジョブ型雇用が注目されている主な理由
従来のメンバーシップ型雇用とは対照的なジョブ型雇用ですが、なぜいま注目を集めているのでしょうか。その背景には、主に次の3つの要因があると言われています。
現役時代の長期化と終身雇用の崩壊
2013年に改正高年齢者雇用安定法が改正され、希望者は65歳まで働けるようになりました。
この制度は2025年にはあらゆる企業に適用されることになっており、実質的に現役時代が長期化しています。
将来的には年金支給開始年齢がさらに引き上げられる可能性もあることから、新卒から定年まで一社で勤め上げることはますます困難になっています。
また、企業側としても終身雇用を維持することは難しくなりつつあります。
日本を代表する企業の1つであるトヨタの社長自ら「一生雇い続ける保証を持っているわけではない」と発言したことは記憶に新しいでしょう。
このように、終身雇用を前提としていたメンバーシップ型雇用は時代や社会情勢の変化に伴って維持することが難しくなっています。
日本企業の国際競争力向上
アメリカにおいては、そもそも終身雇用という考え方はなくジョブ型雇用が一般的です。
そのため、企業が事業戦略や経営状況に応じて適した人材を採用しやすくなっています。
一方、日本企業では長らく終身雇用を前提としたメンバーシップ採用が続いており、ビジネス環境の変化に応じて柔軟に人材を採用するのは困難なことも多いのが実情です。
日本の場合は解雇規制も厳しいため、企業はいったん採用した従業員を容易に解雇することもできません。
このように、新卒一括採用でゼネラリストを育てる日本型雇用は、ビジネス環境の面でグローバルスタンダードと乖離しているとしばしば指摘されてきました。
ジョブ型雇用を導入する企業が増えている背景には、日本企業の国際競争力を高める目的もあるのです。現に、下記のような大企業がすでにジョブ型雇用の導入を進めています。
《ジョブ型雇用を導入した企業の一例》
- 日立
- 富士通
- 資生堂
- 花王
- Sky
働き方の多様化
2017年に「働き方改革実行計画」が閣議決定され、テレワークや副業、複業(兼業)といった多様な働き方を推進していく目標が示されました。
これを受け、2018年には企業が就業規則を作成する際の指針となる「モデル就業規則」が改正、さらに2020年9月には「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が改定され、副業や兼業のルールが明文化されています。
一社でずっと働き続けるワークスタイルではなく、従業員が自らのスキルを生かして複数の企業で働くことは、すでに珍しくなくなっているのです。
また、高度な専門スキルを持つ人材が子育てや介護といったライフステージの変化に合わせて柔軟な働き方を選びやすくすることも、優れた能力や資質を埋もれさせないために必要な施策となっています。
こうした多様な働き方を可能にすることによって、企業は優秀な人材をより確保しやすくなるでしょう。
従業員と企業にとってジョブ型雇用のメリット・デメリットとは?
ジョブ型雇用が導入されると、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
このことを考える上で、従業員と企業それぞれの立場から整理しておく必要があります。
企業にとってのメリット・デメリットが、必ずしも従業員にとってのそれとは一致していないことがあるからです。そこで、従業員と企業の立場から、それぞれのメリットとデメリットについて整理しておきましょう。
ジョブ型雇用導入によるメリット
従業員にとってのメリット
- 専門分野を絞ったキャリア形成がしやすい
- テレワークや副業・複業など多様な働き方が可能となる
- 異動や転勤がなくなる
- 人事評価や報酬の根拠が明確になる
- 企業と従業員の関係がより対等なものになる
企業にとってのメリット
- 採用基準が明確になりミスマッチを防ぎやすい
- 報酬・評価の制度を設計しやすい
- 人員の調整が容易になる
高度な専門性を持ち成果を挙げることのできる人材にとって、ジョブ型雇用にはメリットが数多くあると言えます。
企業と従業員が主従関係ではなく、企業が必要とするスキルを提供する対等な契約関係となるため、多様なワークスタイルを実現することも可能となります。
企業にとっては、職務に応じて人材を採用・評価することになり、人事面での判断をシンプルにできるケースがほとんどでしょう。
必要な時期に必要な人材を配置しやすくなることから、人員の調整が容易になるのも大きなメリットの1つと言えます。
ジョブ型雇用導入によるデメリット
従業員にとってのデメリット
- 組織への帰属意識やチームの連帯感が薄れることがある
- 長年同じ企業に勤めているだけでは昇給しなくなる
- 何らかの専門性がないとリストラの対象になる可能性がある
企業にとってのデメリット
- 高度な専門性を持つ人材が見つかるとは限らない
- 詳細な職務記述書(ジョブディスクリプション)を作成する必要がある
- より待遇の良い企業に人材を引き抜かれるリスクがある
ジョブ型雇用のデメリットとして、従業員はリストラの対象となるリスクが増すという点が挙げられます。
同じ会社に長年勤めてきた事実そのものが評価されるのではなく、現時点での成果が問われることから、従来のメンバーシップ型雇用とは評価軸が一変することを理解しておく必要があります。
優秀な人材ほど転職や兼業をためらわなくなり、特定の組織への帰属意識は希薄化する可能性があるからです。
企業としては、優秀な人材を好待遇で迎えやすくなる反面、いったん採用すればずっと働き続けてくれるとは限りません。
より待遇の良い企業が見つかれば従業員はいとも簡単に転職していきますので、人材の流出を防ぐための施策を講じる必要があるでしょう。
ジョブ型雇用の導入が進むと働き方はどう変わる?
ジョブ型雇用が従来のメンバーシップ型雇用とは大きく異なることがご理解いただけたでしょうか。
企業がジョブ型雇用に移行する場合、まずは管理職から導入が進むとも言われています。管理職の皆さんにとって、ジョブ型雇用は「待ったなし」の避けられない変化となる可能性も十分にあるのです。
では、今後ジョブ型雇用を導入する企業が増えていくと、私たちの働き方にはどのような影響があるのでしょうか。予想される3つの大きな変化についてまとめました。
一社に縛られない働き方が当たり前に
ジョブ型雇用の導入によって、仕事の評価は成果主義へと転換していく可能性が高くなります。
別の見方をすると、成果を挙げられる人にとって1つの企業で働くことにこだわる必要はなく、複数の企業を掛け持ちして働く複業(兼業)も増えていくと考えられます。
働き方の自由度が増すとともに、キャリア形成やリスク分散といった点でも、働くことに対する大きな意識の変化が訪れるでしょう。
一方で、メンバーシップ型雇用の環境下で育成されてきたゼネラリストタイプの人材にとって、厳しい雇用環境になっていくことも考えられます。
単に勤続年数が長いというだけでは評価されなくなっていくため、特定の専門スキルを持ちあわせていないことを理由にリストラの対象となるケースもないとは言えないからです。
一社でずっと働き続けていくことを前提に人生設計を描いていた場合、キャリアプランやライフプランの再考を促されるでしょう。
企業と従業員はより対等な関係に
ジョブ型雇用では、ある職務に関するスキルを十分に有していると判断された人材が特定のポジションで採用されます。
そのため、企業と従業員は主従関係ではなく、よりフラットで対等な関係へと変化していくと予想されます。企業側としても難度の高い専門的な業務をこなせる優秀な人材を確保し続けるには、相応の待遇や働きやすい環境を整える必要があるでしょう。
評価に関しても、メンバーシップ型雇用でありがちだった「社内での振る舞い」「立ち回り方」といった社内政治的な文脈ではなく、純粋に成果やパフォーマンスによって評価されるようになっていきます。
見方を変えると、期待される成果さえ挙げられれば働く場所を問わないため、自宅やサテライトオフィスでのリモートワークがいっそう浸透していくと考えられます。
採用する人材の居住地を問わないため、日本全国さらには海外の人材も含めて、多くのビジネスパーソンの競合相手となっていく可能性があります。
属する組織を問わない専門性が求められる時代に
ジョブ型雇用への移行は、ビジネスパーソンに求められるスキルセットの傾向にも影響を及ぼすでしょう。
特定の組織内で通用するローカルなスキルや業務知識よりも、属する組織を問わない専門性が求められるようになります。
優秀な人材ほど、より好待遇の職場へのアンテナも高くなるため、働く環境が変わっても通用するポータブルスキルへの関心が高まっていく可能性が高いでしょう。
とくに管理職は、従来のメンバーシップ型雇用ではOJTによって部下の育成・指導にあたるのが一般的でした。しかし、今後は業務の細分化と専門化がいっそう進み、管理職は社内での仕事の進め方を指導する立場から、専門スキルを持つ人材をマネジメントするパートナー型のリーダーへと変化していくと思われます。
また、管理職自身のスキルに関しても、何らかの専門性を追究していくことが求められるようになるはずです。肩書やポジションに安住するのではなく、自己研鑽やスキルアップを志向するマインドがさらに求められていくでしょう。
まとめ)働き方が多様化していく大きな流れの中でジョブ型雇用を捉えよう
ジョブ型雇用への移行は、私たちにとって大きな環境の変化となることは間違いありません。
ただし、多くの企業では従来のメンバーシップ型雇用の長所を残しつつ、ジョブ型雇用を部分的に導入するケースが多いようです。これまでの働き方に加えて、ジョブ型雇用で採用される人材が増えていくイメージを持つと変化を捉えやすくなるでしょう。
副業・兼業の解禁やリモートワークの推進など、私たちの働き方は急速な変化の時期を迎えています。ジョブ型雇用の導入も、働き方が多様化していく大きな流れの一環として捉えることが大切です。
メンバーシップ型雇用の働き方に固執することなく、多様な働き方があることを知り、変化に適応していきたいものです。
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