キャリアアップ、キャリアパスってそもそもどんなもの? 「キャリア」という言葉・概念の捉え方
[最終更新日]2022/12/15
管理職の方が自身や部下の成長について考えるとき、必ずと言っていいほど登場する言葉の1つに「キャリア」があります。「キャリアアップするにはどうしたらいい?」「部下のキャリアパスをどう描けばいいだろう?」と悩んだことがある人も少なくないことでしょう。
ところで、そもそもキャリアとは何でしょうか?私たちは日頃、何をもって「キャリアアップ」と定義しているのでしょうか。キャリアとは何か。その根本に立ち返って考えてみましょう。
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Index
目次
そもそも、「キャリア」とはどんなもの?
キャリアという言葉を聞いて、次のようなイメージを持ったことはありませんか?
「課長から次長、部長へと昇進する」
「給与が上がって年収が増えていく」
「人から尊敬されるような地位に登りつめる」
たしかに、いずれもキャリアの一側面を表しているかもしれません。ただし、こうしたキャリア観は「人の評価はどうであるか」「他者からどう見られるか」を基準にしているところがあります。では、「キャリア」とは自分以外の誰かが判断するものなのでしょうか。
キャリアアップやキャリアパスについて考える前に、まずは「キャリア」とはどんなものかを問い直してみます。
「キャリア」とは、生涯においてその人が果たす、一連の役割
一生に一度だけ、タイムトラベルが可能だとします。あなたは50年後の世界を見たいと思い、未来へタイムスリップすることにしました。あなたは50年後の自分自身となり、これまで歩んできた道を振り返ります。このとき、どんなことを感じるでしょうか?
「会社で評価されて、部長になれて良い人生だった」
「平均年収よりも多く稼げて素晴らしかった」
「名誉のある地位に登りつめることができて幸せだった」
・・・果たして、本心からこんなふうに振り返ることができるでしょうか?
一方で、自分がどのように働き、どんな役割を担ってきたかは、厳然たる「事実」として記憶に残っているはずです。そのときどきの運や周囲の評価など流動的なものとは違った、「自分の中での事実」は誰にでも存在することでしょう。
「キャリア」という言葉は、この「自分の中での事実」に近いと言えます。ある人が生涯を通して果たしてきた役割のことであり、特定の組織や他者の評価が基準になっているわけではないのです。
「キャリア」は、他人が評価するものではなく、個人が「有する」もの
プロティアンキャリア理論で知られるアメリカの心理学者ダグラス・T・ホールは、次のように言っています。
「キャリアを有しているのは個人である。」
「キャリアとは、生涯にわたる期間において、仕事に関する諸経験や諸活動と結びついており、個人的に知覚された一連の態度や行動である」
ここには「評価」や「昇進」「出世」といった言葉は一切出てきません。自身が携わってきたあらゆる経験や活動と切り離せないものであり、自身が見聞きしてきたあらゆることがキャリアに関わっていると言うのです。キャリアとは「その人自身」と言い換えることもできるでしょう。
強い目的意識や使命感を持って組織に貢献し、結果的に評価される人もいます。あるいは、家族との時間やライフワークを充実させることを重視する人もいます。キャリアという観点で見た場合、どちらが成功した人と言えるかを他者が決めることはできません。本人にとって納得感の高いキャリアであるとすれば、どちらのキャリアも成功と言えるのです。
「キャリアアップ」・「キャリアパス」の意味
キャリアアップとは、携わっている仕事の分野でより専門性の高い知識・技能を身につけていき、能力を高めていくことで結果的に仕事の幅が広がったり、より高度な役割を担えるようになったりすることを意味します。
キャリアパスとは、キャリアアップを積み重ねていくことによって将来どのようになっていきたいか、その指針となる道筋のことを言います。
狭義では、キャリアアップが特定の組織内での昇進や昇給を意味しているように思えたり、キャリアパスが「どのポストを狙うか」といった意味に聞こえたりすることもあります。
しかし、より広い意味でこれらの言葉を捉えるとすれば、やはり「自分にとってのキャリア」が根本にあるのです。自身や部下のキャリアアップやキャリアパスを考えるとき、狭義の捉え方に囚われてしまわないよう注意が必要です。
自分のキャリアを「創り上げる」方法は。──キャリア・デザイン
キャリアアップを図ったりキャリアパスを描いたりするために、大枠で見通しを立てることをキャリア・デザインと言います。よくキャリアプランという言葉を耳にしますが、キャリア・デザインはさらに大きな枠組みでの方向づけを意味すると考えていいでしょう。
キャリア・デザインとは、端的に表現すると「自分は何をしていきたいのか」を思い描き、具現化に向けて行動していくことを指します。キャリアアップやキャリアパスを考える上でキャリア・デザインは極めて重要な考え方となりますので、しっかりと確認しておきましょう。
キャリアを考える際に、役立つ「キャリア・アンカー」の概念について
「今後どんなふうに働いていきたいですか?」と問われると、具体的にどの企業で働きたいのか、どんなポジションで活躍したいのか、を考える人もいるはずです。
ところが、就業する企業や就任するポジションは、そのときどきによって「人材を募集しているかどうか」「ポジションが空いているかどうか」といった事由に影響を受けますので、必ずしも希望を叶えられるとは限りません。
このとき役立つのが「キャリア・アンカー」の概念です。アンカー(Anchor)とは船の錨のことで、自分にとって外せない価値観や動機、欲求、能力のことを包括的に表しています。
希望条件とキャリア・アンカーの違い
希望条件 | キャリア・アンカー | |
---|---|---|
視点 | 短期的 | 長期的 |
動機 | どんな仕事に就きたいか | どう働いていきたいか |
価値 | 仕事内容・待遇 | 何を大切にして仕事に取り組むか |
キャリア・アンカーとなり得る8つの指標
キャリア・アンカーの主軸をどこに置くかは、その人の価値観によって異なります。次に挙げるのは、キャリア・アンカーの代表的な指標の例です。
・専門・職能別コンピタンス
専門性を高め、特定の分野で活躍していくことに充実感や幸福感を覚える。
・全般管理コンピタンス
組織を統率する管理職など、権限をもって全体を管理する責任を負うことにやりがいを感じる。
・保障・安定
収入源を確保し、生活の保障と安定の基盤が築かれていることに幸福感を覚える。
・アントレプレナー的創造性
これまでにない新しい発想でクリエイティブな仕事をし、ときにリスクテイクすることに充実感を覚える。
・自律と独立
自ら考え、既成のルールにとらわれず自身の責任で仕事を進めることに喜びを感じる。
・社会貢献
世の中のためになるかどうかを価値基準とし、貢献することにやりがいを感じる。
・ワーク・ライフ・バランス
家族との時間や自由な時間と仕事とのバランスが良好に保たれていることが重要と考える。
・純粋なチャレンジ
強力な競合に挑んだり、困難な課題を解決したりすることにやりがいを感じる。
もちろん、これら8つのタイプにあらゆる人が当てはまるわけではありません。こうした多様な価値観がキャリア・アンカーになり得るのであり、キャリアに「正解」がないことの表れと言えるのです。
キャリアを創る(デザイン)するうえでの、3つのステップ
キャリア・デザインは一足飛びに実現できるものではなく、1つ1つのステップを踏んで着実に実現していくことが重要になります。具体的には、次の3つのステップを意識するといいでしょう。
・市場を理解する
現在、どのような市場で自身が働いているのかを理解するとともに、今後必要とされる人材・能力はどういったものであるかを考えます。
・自身の能力・価値を理解する
自分がどのような能力を発揮でき、どのように働いていきたいのかを明確にします。やりたいことだけでなく、「これだけはやりたくない」といったネガティブな面も明確にしておくことが大切です。
・市場と自身の接点を摸索する
現実の市場の中で、自身の能力や価値を発揮できそうな方法を考えます。実現するために必要なことや、アプローチするための具体的な方策についても考えておきましょう。
とくに重要なのは最後のステップで、あまりに現実を見過ぎて自身のやりたいこととはかけ離れてしまったり、反対に自身がやりたいことに偏って現実味のないキャリア・デザインになったりするようでは本末転倒です。妥協点を見出そうとするのではなく、自分にとって納得度の高いキャリア・デザインにしていくことが重要なのです。
キャリアプランを固めすぎるのはNG? 「計画された偶発性理論」とは
キャリア・デザインした通りに全てが実現する?
キャリア・デザインを考え、見通しを持っておくことはとても重要ですが、一方でキャリア・デザイン通りにならなくてはいけないわけではありません。
成功を収めたビジネスパーソンでさえも、8割程度の人が予期せぬ偶然によってキャリアを実現してきたと感じているほどなのです。つまり、「狙い通りのキャリアを実現できることのほうがめずらしい」と考えられます。
現代は変化が激しい時代です。中長期計画を立てたとしても、5年、10年というスパンの中で世の中が変化していくことは十分に考えられます。そのとき、何年も前に立てた計画にこだわり過ぎてしまうと、かえって目の前の状況に対応するための柔軟性が失われてしまう場合があります。
キャリアプランを立てる上で知っておきたい「計画された偶発性理論」
キャリアプランを立てる上で知っておきたいのが「計画された偶発性理論」です。スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱したキャリア理論で、「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」としています。
たしかに、私たちが働いていく中で経験することの多くは予測不能な事態で、その都度ベストを尽くして対処し、乗り越えていくことを通じて経験を積んでいる面があります。今この瞬間に目の前で起きている事態に全力で対処していくことが、後で振り返ってみると結果的にキャリア全体にプラスに作用していた、といったことは十分にあり得ます。
このように、固定化されたキャリアプランに固執せず、長いキャリアの中では何が起きるか予測不能であることを前提にキャリアをデザインしておくことも必要なのです。
事例:私のキャリアパスについて
記事下のプロフィールにも書いている通り、私はかなりの回数の転職をしてきました。にも関わらずライターとしてキャリア関係の記事を書いているのは、転職してきて結果的に良かったと感じているからに他なりません。
身をもって「計画された偶発性理論」を実証できた、とまでは思いませんが、この理論に共鳴するものは感じています。そこで、もし少しでも参考になればという思いで、私自身のキャリアパスを紹介させていただきます。
職を転々とし、キャリアが分断されてしまったと感じた30代
20代の終わりに予備校講師を辞めた私は、漠然とモノづくりに憧れていました。教育サービス業は人から人へと伝えることが仕事ですので、形として残るものが何もないように感じていたのです。
そこで、全く畑違いの印刷業界へと飛び込むことにしました。(実際には、予備校の仕事に飽きており、求人を見かけて応募してみたところ採用された、と言ったほうが正確な状況でした。)
全くの未経験業界でゼロから仕事を覚えるのは、想像以上にキツいことでした。結果的に印刷会社に定着することができず、それからDTPデザイナー、営業職、書籍編集など、文字通り職を転々としました。
30代の終わり頃にはもはや完全に、世間で言うところのジョブホッパーになっていました。経歴に一貫性がなく、何の関連性もない仕事に次々と手を出す人、と見なされるようになっていたのです。応募書類を送っても、書類選考で落とされてばかりいました。
「もう世間並みの人間には戻れない・・・」と感じていた私は、これほどまでに分断されてしまったキャリアが良い方向に向かう予感など、微塵も感じることができませんでした。
思わぬところで経験が活かされ、点と点が線でつながった40代
40代を目前にして、私はまたも失業していました。もはや派遣会社に登録して食いつなぐしかない、と感じていた頃、ある教材出版社の求人が目に留まりました。さほど期待することなく応募したところ、面接を実施してもらえるようでした。一次は採用担当者との面接と聞いていたのですが、一次面接の会場に行ってみるとそこには社長も同席されていました。
「教材出版社も、昔ながらの紙の教材だけを作っていればいいというわけにいかなくてね。あなたのようにいろいろな経験をしてきた人に来てもらいたい」――狐につままれたような感じでした。職を転々としてきたことを「いろいろな経験をしてきた」などと前向きに受け取ってもらえるなど、夢にも思っていなかったからです。
その後、私はその出版社に入社しましたが、社長の言葉通り仕事内容は実に多彩でした。DTPソフトを扱えることが重宝されたこともあれば、取引先との折衝を担当した際には営業経験を活かせたこともありました。
教材以外のジャンルの書籍編集を経験していたことで、一般書籍に近い案件のディレクションを一任されたりもしました。そして何より、20代の頃に講師として教えていた経験が、受験生向けの問題集を作る上で非常に役に立ったのです。
30代で職を転々としていた頃、「この経験をのちに活かせるはずだ」などとは全く考えていませんでした。思わぬところで経験を活かすことができ、点と点が線でつながっていくのを感じることができたのは、まさしく偶然の産物だったとしか言いようがありません。
まとめ)キャリアは自分で創っていくもの。「正解」はどこにもない。
キャリアアップやキャリアパスについて、ビジネス書やネット記事などでさまざまなことが言われています。いかにも「正解」らしく見えるものもありますが、実のところ万人に通じるキャリアの「正解」などどこにも存在しません。
キャリアは自分で創っていくものです。それも、計画通り順調に築いていけることはまずなく、予測不能な事態に見舞われるのが当たり前と考えておく必要があります。
自分にとって納得度が高いキャリアを築くためにも、他人や組織の評価ではなく、自分自身にとってのキャリア観を育むことを意識しましょう。自身にとって、また部下にとって、そのようなキャリア観こそが人生を豊かにすることへとつながっていくはずです。
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