管理職の定義は、時代と共に変化した?現代に求められる管理職・マネージャーの在り方は
[最終更新日]2019/08/06
「管理職っていったい何のためにあるの?」「管理職・マネージャーの定義は?」と言われて、すぐに即答できる人はそう多くいないように感じられます。
ちなみにこの管理職という言葉が使われ始めたのは今から100年程前になります。──歴史としては、結構新しい概念になるということですね。
そして、その100年の間、管理職の定義、役割の形は少なからずの変化を繰り返していきました。
もし現在、「管理職・マネージャーの意味合いを、いまひとつ掴めていない…」という方は、その「管理職・マネージャーの歴史」を知ることによって、イメージを把握しやすくなることでしょう。
それでは、これから管理職・マネージャーという概念がどのように生まれて、そして育まれていったかをご紹介していきたいと思います。是非ご覧ください!
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目次
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「管理職」が初めて定義されたのは1910年頃
「管理職」「マネージャー」という言葉が定義され使われ始めたのは、1910年頃と言われています。
1910年頃と言えば、世界はまさに「明暗を行き来する」激動の時代でした。
少し前の1900年ではパリ万国展覧会が開催され、世界中の人々が新時代の幕開けを感じ、その14年年後には第一次世界大戦が勃発し、泥沼の戦乱の時代へと突入していきます。
──同時に、アメリカをはじめとする先進諸国ではこの時代に多くの企業が活性し、資本を築いていきました。
なぜこの時代に「管理職」「マネージャー」という言葉が使われ始めたのかというと、ひとつに「企業の規模拡大」が顕著になったから、という理由が挙げられるでしょう。
これまで、企業(会社)は「経営者側」と「労働者側」という、いわば二階層的な構造で成り立っていました。
ですが、その企業の規模が大きくなれば、それだけ経営者が一元的に労働者を管理することは困難になります。
そこで登場したのが、「管理職・マネージャー」だったということですね。
さて、当時「管理職」を明確に定義した人としては、フランスの経済学者「アンリ・ファヨール」が有名です。
アンリ・ファヨールがどのように管理職・マネージャーを定義したのかを見てみましょう。
アンリ・ファヨールが定義した、「マネジメントの14の基本原則」
- 分業
- 権限と責任
- 規律
- 命令の一元化
- 指揮の一元化
- 全体利益の優先
- 集権化
- 階層組織
- 秩序
- 公正
- 組織メンバーの安定性
- 自発的努力
- 結束
「権限と責任」や「指揮の一元化」、「規律」や「秩序」など、管理職について語る際によく登場するようなキーワードやフレーズが多く見受けられます。
つまり、管理職の基本的な概念、考え方は100年以上前から培われていたのです。
ですが、ここで登場した「マネジメントの基本原則」にやや堅苦しさというか、「人に対しての思い」のようなものがあまり含まれていないように感じられた方もいらっしゃるかもしれませんね。
では、この時代から管理職に対する捉え方がどう変わっていったか、引き続き見ていきましょう。
1950年代、ピーター・F・ドラッカーが描いた「マネジメント像」は
時は進んで1950年代、二度の世界大戦を終え、先進国では目覚ましい経済成長が進みます。
特にアメリカ経済においては「未来は予測可能」と言われたほど安定した成長を見せていました。
この時代、マネージャーに新たな役割、定義づけを行ったのは、かの有名な「ピーター・F・ドラッカー」です。
ドラッカーの取り組みでもっとも知られているのは「MBO(目標管理制度)」でしょう。ご自身の企業でMBOを実施している方も多いのではないでしょうか。
ドラッカーの掲げたMBOは、「本人の自主性に任せることで、主体性が発揮されて結果として大きな成果が得られる」という考え・想いが大いに含まれています。
そして、自主性、主体性を継続していく為には「目標」と「計画」が不可欠です。
つまり、人々が目標を設定しそのための計画を建てることにより「行動」が強化され、その結果「人の成長」や「組織の成果」につながるということですね。
ピーター・F・ドラッカーが掲げたマネジメントの5つの基本的役割
- 目標を設定すること
- 組織として行動・機能させること
- 動機づけを行い、その為のコミュニケーションを行うこと
- 評価測定すること
- 部下を育成すること
前述のファヨールの掲げた「マネジメントの原理原則」と比べると、より現在の私たちがイメージする管理職の在り方に近づいてきている感があります。
実際、ドラッカーの活躍した時代は、その数年前からも様々な経済学者、心理学者たちが「リーダーシップ」や「モチベーション」といったキーワードを研究していくなど、「人の内面的な働きかけ」が大いに注目された時期でもありました。
「日本人に学べ」1970年代、デミングは「品質管理」にフォーカス
「予測できる未来」と謳われた1950年代ですが、その後は1960年後半あたりから、アメリカをはじめ先進諸国の企業でだんだんと市場の行き詰まり感を持つようになります。
一方で、同時期にすさまじい速度で経済成長を果たす国も出てきました。──その代表ともいえる国が、日本です(高度経済成長期)。
そして、日本の経済成長に注目し、実際にトヨタなどの日本企業への支援・サポートを行いながら、日本ビジネスの「品質マネジメント」を世界に紹介していったアメリカの経済学者がいました。──ウィリアム・エドワーズ・デミングという人です。
デミングが提示した、ビジネス効率を向上させるためのマネジメントの14の原則
- 製品やサービスの改善に向けて、常に安定した目的を持つこと
- 新しい考え、哲学を取り入れること。現状の課題が常にある状態に満足しないこと
- 欠陥は完成後に見つけるのではなく、製造の過程で防止すること
- 価格のみを基準を取引するのではなく、価格と品質を基準にして選定すること
- 問題を見逃さないこと。計画、生産そしてサービスの全プロセスを繰り返し、絶えず向上させること
- OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を制度化すること
- リーダーシップを採用し、制度化すること。かつ、職場リーダーは数値ではなく品質で評価すること
- 社員が効果的に作業できるよう、不安を取り除いていくこと
- 部署・部門間の垣根を取り除くこと。各部門の人々は様々な問題に一丸となって対応すること
- 労働者へのスローガン、説教、目標を取り除くこと。生産性の向上だけをノルマとしないこと
- 数値割り当てを規定するような作業標準を排除すること
- 作業員から技量のプライドを奪わないこと。毎年の評価制度を除去すること
- 全社員に、しっかりとした教育プログラムや自己啓発プログラムを設置すること
- 変革を成し遂げるために、全社員を巻き込むこと
「OJT」や「改善活動」、「全社員を巻き込む」など、ここでも今多くの企業で扱われるキーワードがたくさん登場します。特に、「品質」に対する考え方、こだわりが深いのも印象的です。
今でも世界中で扱われる「品質マネジメント」の概念は、この時代に形成されたと言っても良いでしょう。
──さて、ここまでお読みになられて、「管理職、マネージャーの役割って、結構色々あって大変だな…」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
または、「1970年代以降は、管理職、マネジメントの役割としての考え方は変わってないの?」と思った方もいらっしゃることでしょう。
実は、1970年から現代においても、管理職・マネジメントの役割・概念としての捉え方は非常に大きく変化してきています。
ですが、ここまででもかなりの情報量でしたので、一度小休止したいと思います(スマホ、PCから少しの間視線を離して、遠くを見ながら深呼吸しておくと良いかもしれません)。
そして、(もし皆さんが現在管理職・マネージャー業務に従事されているとしたら)一度ご自身がこれまで携わってきたマネジメント業務を振り返ってみると良いでしょう。
◇ ◇ ◇
──いよいよ、現代における管理職・マネージャーの概念、役割についてです。
ご自身の見方、考え方と照らし合わせつつ、ご覧ください。
現代社会では、「継続的に学習し、成長・変化できる」組織体制が求められている
章の初めに、まず私たちが生きる現代社会について考えてみましょう。
インターネット普及に伴い情報化社会が促進され、製品・サービスのみならず企業自体の新陳代謝のペースは非常に早まりました。
数年前まで国を代表するような大企業であった会社が経営破綻に陥ったり、はたまた振興のベンチャー企業が驚異的な速度で成長したり、その移り変わりの激しさは目を見張るものがあります。
ちょうど2つ前の章で紹介しました「1950年代は未来を予測できた」というフレーズを借りるなら、現代社会はまさに「予測できない未来」と言えるでしょう。
そして、そのような現代において、「企業・組織はどのような状態にあることが望ましいか」というテーマに対して、多くの経営学者やコンサルタントが議論してきました。
その中で、「組織・チームは時代の変化に合わせて、『学習』し、変容していく必要がある」という考えをもとに、「学習する組織」の概念をまとめた人がいました。
マサチューセッツ工科大学の上級講師 経営学者の、ピーター・センゲです。
「学習する組織」の理論自体が登場したのは1990年とやや少し以前ですが、現代においても非常に多くの経営者や組織コンサルタントが意識しています。つまり、それだけ価値を感じられる概念だということでしょう。
そして、「組織の在り方」を考え実践することは管理職・マネージャーにとっても、とても重要なテーマです。
「学習する組織」の3つの柱
ピーター・センゲの言う、「学習する組織」とはどのようなものか、見ていきましょう。
「学習する組織」では、組織・チームの学習能力を向上していくうえで、以下の3つの観点が大切と言います。
- 志の育成
- 共創的な会話の展開
- 複雑性の理解
一つ目の「志の育成」とは、以下を指します。
- 成長のための絶え間ない継続的な学習、活動を行うこと (自己マスタリー)
- 組織・チームの在りたい姿、目指したい将来を共有し描いていくこと(共有ビジョン)
二つ目の「共創的な会話の展開」とは、「共創的な会話」によって以下が実現されるイメージです。
- 個人・あるいは組織が根幹に持っているイメージや価値観、マインド等を認識し、変化させていくこと(メンタルモデル)
- 組織・チームの在りたい姿、目指したい将来を共有し描いていくこと(共有ビジョン)
そして、最後の三つ目、「複雑性の理解」については、現在の複雑化した環境や事象を表面的にではなく複合的に、そして静的にではなく動的に捉えて、対応していくこと(システム思考)を指します。
- 環境や物事を静的にではなく動的に、断片的ではなく全体的に捉えて、対応していくこと(システム思考)
端的に言えば、組織と人々は世の中の変化に合わせて、そして自分たちの在りたい姿・目指したい将来に向けて、「変化・成長していく」必要があるということですね。
これまでは管理職・マネージャーの役割・あり方としては「正していく」「規律・統制していく」という側面が強かったのに対して、「学習する組織」で求められる働きかけはよりフレキシビリティ、変動性への訴えが強まっています。
「管理職・マネージャーとはこういうものだ」といった固定的な観念を持ちすぎることなく、状況と関わる人たち、そして自身の価値観の変化にも併せて柔軟に対応していくことが、現在では求められてきているのでしょう。
まとめ 管理職・マネージャーとして、より充実した働きかけをしていくために
ここまでお読みになられて、いかがでしたでしょうか。
1910年ごろに管理職・マネージャーが定義されて、もうすぐ110年が経とうとしています。
そして、これまでの管理職・マネージャーの役割に対する考え方の変遷を見てきて、変化感の大きさに「結局、管理職・マネージャーとはどんなものなのか、わからなくなってきた…」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。
ですが、それもひとつの真実としてみることもできるのかもしれません。
つまり、管理職・マネージャーの概念・役割というものは、「常に変化していく」ものだということです。
それは、時の流れによってもそうですし、環境や状況によっても変わっていくことでしょう。
そして、その変化に対して敏感に察知して感じていき、求められる管理職像・マネジメント像を柔軟に変化していきながら対応していく──それが、これからの管理職・マネージャーに求められる働きかけなのかもしれません。
本記事が、皆様の日々の業務の遂行に向けて、少しでも参考になることを、心より願っております。
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