残業時間はなぜ減らせない?残業が多い職場を改革するには?
[最終更新日]2022/12/15
管理職の方々は、部下の残業時間をどのように把握しているでしょうか?
企業によっては、直属の部下の残業時間を把握できるよう一覧化しているケースもあるでしょう。
近年は働き方改革が本格化し、残業時間に関しても原則として月45時間、年360時間を上限とすることになりました(中小企業は2020年4月より施行)。
残業時間の削減に向けて動いている企業も多いはずですが、一方で残業がもともと多かった職場を改革するのは容易なことではありません。どうすれば効果的に残業時間を減らすことができるのでしょうか?
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目次
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残業をなぜ減らすべきなのか ——残業が多い職場の問題点とは?
残業時間削減に向けての具体的な話題に移る前に、まずは残業時間が多いことがなぜ良くないとされているのか、問題点を整理しておきましょう。
管理職の方々自身がこの点に納得していないと、「やむを得ず残業時間を減らす」「見た目上は残業が減ったように見せる」といった表面的な対応になりがちです。これでは根本的な問題解決になっていないのは明白です。
残業が多い職場の問題点はいくつかありますが、それらの中でも代表的な問題は次の2点に集約されると考えられます。
残業の多さは職場の「非効率」の表れ
残業が多いということは、時間あたりの労働成果が低いことを意味しています。
同じ仕事をこなす場合でも、1時間で終わる仕事に3時間かかったのであれば、単純計算で労働成果は3分の1になっています。時間あたりで見たとき、1人でこなすべき仕事量の3割以下しかこなしていないことになり、無駄が多いことが分かります。
下の図は、さまざまな国の労働時間と生産性(時間当たりGDP)をマッピングしたものです。
引用元:日本労働研究雑誌「日本の労働時間はなぜ減らないのか?」
左上の国ほど生産性が高く、右下に行くほど生産性が低いということになります。日本はOECD平均を下回っており、ヨーロッパの多くの国と比べると労働生産性が低いことが分かります。
「外国がどうであろうと、日本には日本の働き方がある」と考える人もいるかもしれませんが、これからはグローバル市場の時代です。
競争相手は国内だけでなく全世界にいることになりますので、生産性が低いままでは不利になることは必至と言えるでしょう。
残業時間と幸福度の関連性
長時間働いているということは、それだけ仕事に没頭している証拠と見なす人もいます。
たしかにそのような面が全くないわけではなく、繁忙期など長時間労働を余儀なくされる時期が一過的にあるかもしれませんが、コンスタントに長時間労働が続いているとすれば問題視されるべきことでしょう。
仕事にかけている時間が長いということは、必然的に余暇にあてる時間が短くなることを意味しています。
心身ともに健康な状態で暮らすためには、適度な休養も必要です。
また、子育て世帯など家族と過ごす時間が必要な場合、長時間労働に時間を費やすということはパートナーに子育てや家事を引き受けてもらうことに他なりません。
ダイバーシティの観点からも、長時間労働が常態化することには大きな問題点があるのです。
仕事は日々の暮らしの中で大切なことの1つではありますが、あまりに仕事に比重を置きすぎている生活スタイルには高い幸福度は期待できそうにありません。
いわゆるワーカホリック状態に陥ってしまったり、気持ちの余裕がなくなってしまうことで柔軟で新しい発想が出づらくなったりと、さまざまな弊害が生じることが考えられるのです。
残業を増やしているさまざまな原因について知る
残業が多い職場は、そもそもなぜ残業が多くなりがちなのでしょうか。
その原因を探り、明確にしない限りは、「残業を少なくしたい」と管理職や経営者が意気込んでみても空回りしてしまう可能性が高くなります。
そこで、残業が多くなりがちな職場によくある「長時間労働の原因」の6つの原因を挙げてみます。ご自身の職場で該当すると思われるものがあれば、その問題点を重点的に解消する方法から優先的に考えてみたほうがいいでしょう。
とにかく仕事が忙しい・業務量が多い
なぜ夜遅くまで働くのか?と聞かれたら、たいていの人は「仕事が忙しいから」と答えるでしょう。
片付けなくてはならない仕事に対して、処理にあたる人数が不足していれば、どうしても仕事にかける時間は長くなってしまいます。また、本来は処理できない量やレベルの仕事をこなそうとしている場合にも、労働時間を長くすることで凌いでいることがあります。
こうした状況にある企業の特徴の1つは「常に忙しい」ことです。
繁忙期に入ると忙しいわけではなく、1年を通じて、何年間にもわたってずっと忙しい状態が続いているのです。恒常的に負荷がかかり続けているので、従業員の「手が空く」ことはありません。
アナログな仕組みなど非効率的な働き方
メールで済む用件でも電話や対面で報告している、複数人の捺印が必要な書類が大量にあるなど、アナログな仕組みが根強く残っている職場では、仕事が非効率的になりやすく残業が増える傾向があります。次に挙げるような人を、職場で見かけたことはないでしょうか?
- Excelで作成した表の数値を電卓で検算している
- 同じ相手から不在時に何度も電話があり、伝言メモを何度も置かれる
- 文書の体裁(罫線の太さ・行頭の字下げなど)にこだわって何度もプリントアウトする
- メールを確認する/送信するためだけに帰社する
- 手書きの議事録をWordで打ち直し、プリントアウトしたものを上司が赤ペンで直す
「それは仕方がない」「そんなことは当たり前」と感じたのであれば、職場で改革を進められる余地があると言えるかもしれません。
残業手当を必要としている従業員の存在
残業時間の削減を進める上でやっかいなのは、残業が少なくなることで残業手当が減ることを快く思っていない従業員が一定数いるかもしれない点です。
ひと昔前、あるテレビCMで大物タレントが一般男性に対して「若いのに家を買ったんだって?残業代、しっかり稼がないと!」と激励するシーンがありました。このように、残業手当を給与の一部と捉え、生計を維持することに充てている従業員が全くいないとも限らないのです。
このようなタイプの従業員にとって、残業は賃金を増やすための手段です。したがって、効率化によって生産性を高めるといった発想よりも、「稼ぎが減る」ことへの懸念が先立つ可能性があります。
帰りづらい・長時間労働を善と見なす空気がある
古くからある企業では、年配の上役が「長時間働いている=仕事に対する熱意がある」と捉えているケースがあります。
あるいは、残業そのものの良し悪し以前に、現場を見ていない経営層にとって、従業員の働きぶりを知る根拠が勤怠の記録ぐらいしかない場合もあるでしょう。
そういった職場では、必然的に遅くまで人が残って働いている光景が日常化します。
上長も遅くまで残っているので早く帰りづらいと感じる部下が出てきたり、早く帰るとやる気がないと思われるではないか?と危惧する社員が増えたりします。
こうした雰囲気は職場の「空気」として固定化されがちなので、いったん「帰りづらい」状況が生まれると、それを打破するのは容易なことではありません。
無駄な業務ルールやプロセスがいたる所にある
組織の規模に関わらず、残業が多い職場には無駄な業務ルールや業務プロセスがいたる所に見られることが少なくありません。一例を挙げると、
- 必要かどうかに関わらず定期的に開催する会議がある
- 決裁が下りるまでに複数の上役に同じ説明を何度もしなくてはならない
- 目的がよく分からない雑務の当番が回ってくる
- 同じ作業を別の部署で複数人が行っている
- 仕事が進まない「待ち」の状態が多い
こうした無駄なルールやプロセスは、やろうと思えばなくせるものがほとんどです。しかし、「以前からそうだったから」「ルールとして決まっているから」といった不明確な理由でズルズルと続いているケースが多いとも考えられるのです。
参考:残業が減らない理由は──
引用元:WORK STYLER SALON 「あなたの会社の残業はなぜ減らない? 残業の本音を100人に聞きました」(n=100)
残業が多い職場を改革するヒントになる事例集
かつて残業が多かった職場で、残業を減らすために実施した改革で効果的だった3つの事例を紹介します。
どの事例も、残業そのものを減らすよう社員に強制するのではなく、残業が多くなっている原因の解消や長時間労働が善とされがちだった空気を変えることを主眼に置いていることが分かります。
残業時間の多い・少ないは、根本的なところではマネジメントの問題ということが確認できるはずです。
これから職場の改革に取り組み、残業時間を削減しようと考えている管理職の方々は、ぜひ参考にしてください。
事例1:上長が自ら早く帰る姿を見せ、早く帰る空気を作った
T社の営業部は、「当月の営業成績が芳しくない社員は早く帰りづらい」「遅くまで残っていることがやる気を示すことにもなる」といった空気になっていました。
働き方改革を断行していくにあたって、営業部長のMさんは「帰りづらいのは我々管理職がそういう空気を作ってきたからではないだろうか?」と考えました。そこで、管理職自らが早く帰る姿を見せ、部下たちが帰りやすい雰囲気を作ることにしました。
これは効果てきめんでした。これまでMさんは業務後の時間に、ふと「そういえばR社への訪問、その後、進展はあったか?」「先月、目標に届かなかった分は、どうにか挽回できそう?」と部下に聞いていたのですが、部下にとっては急に聞かれるこれらの質問に対してプレッシャーを感じていたらしいのです。
「M部長は数字を見て気になったことを聞いてくるから、説明するためにもとくに月末近くの夜は残っていたほうがいい」と部下同士が言っていたと聞き、Mさんはショックを受けました。
Mさんが率先して早く帰るようになると、部下も気兼ねなく早い時間に退勤するようになりました。結果的に仕事への集中力が高まったのか、ここ数か月は営業成績が好調な部下が多くなっています。
事例2:仕事の進め方を見直して「時間泥棒」にテコ入れした
T課長が「リーダーミーティングを取りやめましょう」と提案したとき、制作部の社員はほぼ全員が反対しました。
「制作部にとって、作業進行の確認は何よりも重要なこと。その確認の場であるミーティングをなくすなど、言語道断ですよ!」と声を荒げた担当者もいました。その3ヶ月後、実際にリーダーミーティングは取りやめとなりましたが、とくに業務に支障をきたしていません。なぜなのでしょうか?
パンフレットなどの印刷物を制作しているU社にとって、制作部は心臓部とも言える部署です。中でも制作進行については、遅れが生じればクライアントに損害を与えることにもなりかねないため、全員が細心の注意を払っていました。
各制作チームのリーダーは、午前と午後、そして夕方の1日3回、進行状況を進行表に手書きで記入し、リーダーミーティングで報告していました。それぞれのチームが持ち寄った進行表は全部で10枚以上にものぼり、チームごとに進行を確認していくため、ミーティングには1回あたり40分ほどを要していました。
T課長は、「1日3回、合計すると2時間がミーティングに費やされている。Googleスプレッドシートを活用して、常時進行状況を共有できるようにしておけば、わざわざ集まって報告し合う必要はない」と考えたのです。
スプレッドシートに移行してからは、ミーティングの必要がなくなり残業時間が削減できただけでなく、進行を随時確認できるため、問題が起こりそうな予兆を見つけやすくなり、素早い対応ができるようになりました。
事例3:仕事の効率に注目し、効率よく成果を上げた社員にインセンティブを用意した
残業時間の合計が多かった社員に対して、半期ごとに社長から功労賞として金一封を贈る——。
これは、ほんの数年前までK社で実際に行われていた表彰制度です。当然の成り行きとして、現場では残業時間が膨らんでいき、労基局の指導が入る事態にまで発展してしまったのです。
労基局の指導が入ったことと、世の中が働き改革ムードになっていたことも相まって、K社は長時間労働の是正に取り組み始めました。その施策の1つが、当時社内で「逆・表彰制度」と呼ばれた制度でした。
これまでは残業時間が多い社員が表彰されていたのに対して、高い成果を少ない残業時間で上げた社員にインセンティブを用意したのです。
この制度が導入されたことで、現場の社員の関心は「残業時間稼ぎ」から「効率化」へと一気にシフトしました。
会社として「効率よく働くこと」を善と考えていることが明確になったことで、社員の側としても「だらだら残業しないで効率よく働こう」と大っぴらに言えるようになったのです。
残業時間削減に向けた改革で生じやすい弊害を知っておこう
世の中が働き方改革の流れに乗るムードになってくると、「とにかく残業時間を減らさなくては」といった義務的な改革を行いがちです。
しかし、残業時間削減に向けた改革に取り組むことで生じやすい弊害がいくつかあるのも事実です。
職場の状況によってどのような弊害が生じるかは千差万別ですが、とくに生じやすい弊害について知っておくことで、事前に対策を練ることができるかもしれません。ここでは、想定される弊害として2つの典型的な例を挙げておきます。
「望まれていない改革」を一方的に断行するべきではない
残業時間削減をトップダウンで指示した場合、次のような考えから反感を抱く部下がいる可能性があります。
- 「そもそも終わらない仕事量を抱えているから残業せざるを得ない」
- 「人手が足りないのに残業だけ短縮せよ、とは酷い」
- 「顧客の都合で遅くまで作業しているだけだ」
- 「残業時間が減るということは残業手当が減ってしまう」
- 「経営陣が現場の実態を分かっていないからだ」
社員がこのような感情を抱いている状態で残業時間削減に踏み切ってしまうと、「タイムカードの退勤を打刻してからサービス残業する」「仕事を家に持ち帰る」などイレギュラーな行為に走る社員が出てくることで、かえって労働時間の実態が見えにくくなってしまう恐れがあります。
一方的に残業時間削減を掲げてしまうと、現場の社員に負担を強いることになりかねません。何が原因で残業時間が膨れあがっているのか、ていねいなヒアリングを行うなどして問題の本質を見抜こうとすることが大切です。
残業時間削減が「絵に描いた餅」になってしまわないよう注意
残業時間削減を掲げても、最初の数か月だけ残業時間がわずかに減った程度の効果しかなかったり、最悪のケースでは業績悪化に直結したりといった逆効果を生むようでは意味がありません。
その手の失敗をしてしまうと、今後「残業時間削減と上が言い出しても、ただの絵に描いた餅だから結局しばらくすると元に戻る」といったネガティブな認識を社員に植え付けることになります。
一度社員に植え付けてしまったネガティブな感情を払拭するのは非常に難しいことですので、最初に方針を打ち出す際には「絵に描いた餅」にしないために細心の注意を払う必要があります。
実際に残業時間を削減するのは一人一人の社員自身なのですから、部下の協力なくして残業時間削減は実現できないのです。
部下に協力してもらうためにも、方針を示すだけでなく、実務レベルで一緒になって課題を解決していくという「協力」の姿勢を上司の側が見せるべきでしょう。そうすることで、部下自身も残業時間削減の方向性にメリットを感じ、歩み寄ってくれるようになるはずです。
まとめ 残業時間を減らしたいなら残業「以外」の問題に目を向けよう
残業時間削減は一筋縄にはいかない改革です。
残業時間がなかなか減らない背景には、実務レベルで複合的な課題を抱えていると考えるべきでしょう。
逆説的なようですが、残業時間を減らしたいのであれば、残業「以外」の問題に目を向け、本質的な解決策を摸索していくことを心がけたいものです。
仕事の進め方が効率的になり残業時間が少なくなることは、本来であれば企業側だけでなく社員一人一人にとって大きなメリットがある歓迎すべき変化のはずです。
一方的な押し付けと捉えられないよう、自社や自部署の課題と慎重に照らし合わせながら、具体的な解決策の立案に向けてじっくりと取り組んでみてください。
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