職場の働き方改革で疲労感倍増! 働き改革の失敗例に学ぶ
[最終更新日]2022/12/15
働き方改革が本格的に実施されるようになり、労働観や職業観が大きく変わろうとしています。管理職の皆さんにとって、働き方改革を自社や自部署で推進するにあたって頭の痛い問題の1つが「残業時間の削減」ではないでしょうか。
残業時間の削減は「実現できることが望ましい」とは多くの人が考えていながらも、「実現するにはハードルが高い」と感じている人が少なくないようです。そこで、働き方改革の中でも残業時間の削減に焦点を絞り、うまくいかない原因とその事例について考えてみましょう。
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目次
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なぜうまくいかない?働き方改革を阻む「習慣」チェック
働き方改革は政治主導によって提言されてきました。そのため、「長時間労働をそれ以前から問題視していた」という企業と、「長時間労働に問題があるとは考えていなかった」という企業との間には必然的に温度差が生じています。労働時間の削減に多くの企業が取り組みながらも、狙い通りに実現してきた企業はむしろ少数派ではないでしょうか。
そこで、まずは働き方改革のうち「残業時間の削減」を阻む原因になる「習慣」に注目してみます。
「早く帰るなんて無理」と思い込んでいませんか?
経営陣や管理職が「残業時間の削減」を提言したところ、現場の社員から反発が起きたという事例は枚挙に暇がありません。本来、時間あたりの生産性を高め、効率よく働くことは、従業員ばかりでなく組織にとっても大きなメリットをもたらすはずです。ところが、残業時間を削減しようと試みると現場から反発が起きるのはなぜなのでしょうか。
原因の1つには、そもそも「仕事にかかる時間は削れない」「早く帰るのは無理」という思い込みがあると思われます。場合によっては、実務を担う現場の担当者のみならず、管理職自身も本心では同じように感じていることがあるかもしれないのです。
「時間がかかるのは必然」であるにも関わらず「早く帰りなさい」という指示を与えるのは、明らかに矛盾しています。指示される側にとって、理不尽な指示を受けたという捉え方になってしまうのはむしろ自然なことでしょう。まずは管理職自身が「早く帰るのは本来なら無理」という思い込みから脱却することが、働き方改革を推進するための第一歩となるのです。
「労働時間を短くすることが目的」と思っていませんか?
働き方改革の提言には、同一労働同一賃金など、長時間労働の解消以外のものも盛り込まれています。しかし、世の中の企業が最も強い反応を示したのは「残業時間の削減」でした。それだけ長時間労働が常態化してきたことの表れだったと捉えることもできるかもしれません。少なくとも、多くの企業にとって労働時間を短くするには課題が山積しているのです。
ここで注意しておかなくてはならないこととして、働き方改革の本来の趣旨は「労働時間の短縮」を主眼に置いているわけではないという点が挙げられます。従業員にとって働きやすい環境を用意し、企業として生産性を高めていくことで、競争力を取り戻していこうというのが本来の目的だったはずなのです。
労働時間を短くするという「手段」を目的と履き違えてしまうと、無理にでも時間を縮めることにばかり注力してしまう傾向があります。すると、次のような別の問題が生じてしまう可能性が高いのです。
労働時間を短くすることに偏ってフォーカスしてしまうと・・・
- 仕事の質が低下する
- 業務の過密化によりストレスや疲労感が増大する
- 仕事を持ち帰る社員が増えるなど労働時間の実態が把握しづらくなる
などの別の問題が生じる可能性大!
働き方改革を「余計なお世話」と感じていませんか?
最も根本的な問題は、実は働き方改革を進める上での「意識」の持ち方にあるのかもしれません。働き方改革はもともと政治が主導して始まったものですが、「うちの会社はこれまで問題なく成果を出してきたのだから、残業を制限するようなことをされては困る」「余計なお世話だ」といった捉え方をしていると、罰則を回避するためだけの表面的な対応に終始してしまう恐れがあります。
今このタイミングで働き方改革が提言されているのは、国際的に見て日本の生産性が明らかに低いためです。日本の生産性は先進国中で最下位とも言われてきた上に、今後は労働人口が減少していくため、人海戦術に頼った経済活動を維持することは難しくなると考えられます。
こうした傾向は、各企業においても今後加速していくでしょう。手遅れになってから手を打つのではなく、先が危ぶまれると予想された時点で対策を取り、持続可能な組織や経済活動へとシフトしていく必要があります。働き方改革は決して対岸の火事ではないことを、管理職が認識しておくことが大切です。
疲労感倍増! 働き方改革の失敗例
働き方改革を進めることで労働時間が短くて済むようになり、働く側にとっての負担感は軽減されるはずですが、かえって「疲労感倍増」という矛盾した結果になってしまうことがあります。
なぜそのようなことが起きるのか、どうすれば防げるのかを考えるために、3つの事例を紹介します。それぞれ、働き方改革の典型的な失敗例と言っても過言ではないでしょう。失敗してしまった原因がどこにあったのか、どうすれば解決できるのか、といった視点で読んでみましょう。
失敗例➀ 「早く帰るようになって部下の様子が分からなくなった」
S社で管理職を務めるYさんは、先月のマネージャー会議で「働き方改革の推進」を議題に挙げました。まずは自部署で成功例を作り、その上で全社へと展開する計画でした。しかし、Yさんは早くも働き方改革推進を言い出したことを後悔していました。
自部署で「できるだけ早く帰ろう」「だらだらと残業しないように」と言い続けてみたところ、たしかに社員は早く帰るようになりました。かと言って手を抜いているわけでもなく、やるべきことをこなしている社員ばかりでした。
しかし、「やるべきことはやっている」のが必要十分とは限らないとYさんは感じています。事実、部下たちが早く帰るようになってからというもの、以前であれば夜の時間帯に対面で報告を受けていたところを、メールだけで済ませるようになっていました。部下と言葉を交わす回数が目に見えて減り、部下が何を考えているのか分からないと感じることが増えていました。
メールでの報告だけなら、やろうと思えば虚偽の報告もできてしまいます。対面なら、嘘をついているときの部下のわずかな目の泳ぎ方や表情のこわばりを見抜く自信がYさんにはありました。
「やはり、遅くまで残って仕事をしてもらっていただけの価値はあったのかもしれない。早く帰せばいいというものでもないな・・・」
Yさんは、次回のマネージャー会議で「働き方改革」を実施したデメリットを報告するつもりです。
失敗例② 機能しなかった「NO残業デー」
Webアプリの開発会社であるA社は、半年前から週1回のNO残業デーを実施しています。NO残業デーは全員が定時の30分後には退勤するルールになっていました。管理職が自ら「今日はNO残業デーだから帰るように」と煽り立ててくるので、たとえ仕事が途中の人がいても帰らなくてはなりません。
NO残業デーの翌朝、顧客から強烈なクレームが入りました。「やるべきこともやらずに誰も電話に出ないとは何事だ」と言うのです。聞けば、そのお客様は開発を依頼しているアプリについて問い合わせをしたところ、何日待ってもメールが返ってこないので電話をかけたそうなのです。ところが、担当者は会議中で不在という答えばかりで返答が全くなかったとのこと。
それもそのはずで、NO残業デー実施前と後では、仕事の進め方はほぼ全く変わっていなかったのです。会議が立て込んでいる社員は会議室から別の会議室へ移動してばかりで自席へ戻れない、営業は訪問先の件数を減らすしかない、返信が必要な連絡事項も翌日に回さざるを得ない、といったことが立て続けに起こっていたのです。
もっと会議そのものを減らせないだろうか?必要な仕事はこなしてから帰れるようルールを柔軟に運用できないのだろうか?と皆が思っていました。ただ、現場のトップである事業部長は労務時間だけを見て「NO残業デーの実施は一定の効果があった」と考えているため、組織として仕事のやり方そのものを見直すチャンスを逃し続けているのでした。
失敗例③ 納得感のない半強制的なルール化
小売業を営むT社では、社長自ら指揮を執り業界で働き方改革の先陣を切っていこうとしていました。社員の労働時間は総じて長く、定時の何時間も前に出社する社員や深夜まで残業する社員が後を絶ちませんでした。
そこで、社長は次の施策に打って出たのです。
- イントラネットで勤怠管理を行う
- 店舗に到着後、イントラにログイン・ログアウトした時刻を出退勤時刻と見なし、記録する
- 労働時間が長くなりそうな社員がいたら、エリア長にアラートメールが送られるようにする
- アラートメールに対応しないエリア長は、部下の指導が不十分と見なされる可能性がある
これらのルールが実施されて3ヶ月間、順調に社員の労働時間が短くなっているように見えました。しかし、それは表面的な見方でしかなかったのです。
現場の社員としては、PCがなければ仕事になりません。そこで、イントラに接続しなくても片付けられる仕事は勤務時間中にできるだけ手をつけず、退勤後と出社前にこなす人が増えていました。中には、私物のPCで処理できる作業を増やし、自宅に戻ってから延々と仕事を続けていた社員もいたそうです。
さらに悲惨だったのは管理職です。実際に労働時間が長くなっている社員だけでなく、長くなりそうな兆候がある社員についてもアラートメールが自動的に飛んでくるため、エリア長のメールボックスには何十通もの未読メールが常に溜まるようになっていました。エリア長は自らも店舗を運営していますが、目を通さなくてはならないメールが急増したことで、自分の担当店舗の仕事を圧迫していることは明らかでした。
働き方改革に挑むなら覚えておきたい3つのポイントとは?
3つの事例で見てきたように、働き方改革への取り組み方によっては、現場を混乱させることにつながったり、かえって疲労感や負担感を増やしてしまったりする結果になりかねません。職場で働き方改革に取り組むのであれば、まずは管理職が意識のレベルから変えていく必要があります。
働き方改革に挑む場合、覚えておきたいポイントを3つにまとめました。これらのポイントを意識して働き方改革を推進することで、弊害を最小限に抑えましょう。
労働時間の短縮は「現場もメリットを感じられる工夫」とセットで実施する
長時間労働抑制のために、良かれと思って導入した制度がかえって現場の負担になることは十分にあり得ます。忙しい職場ほど、「早く帰らなくてはならない」「残業は〇時間以内」といったガイドラインがプレッシャーと感じられる可能性が高くなるのです。
労働時間の短縮を目指すのであれば、時間だけを縮めようとする制度設計にしないことが重要になります。日常業務において無駄が生じていないか、より効率的に進められることはないかを、ていねいに洗い出していくのです。
具体的には、次のようなことから見直していきましょう。
- 会議の頻度と所要時間
- 会議で取り上げる議題の質(その場で結論が出ないことを話し合っていないか、など)
- 会議の議事進行(各議題にかける時間を決めているか、など)
- 移動や出張の用件見直し
- 電話の頻度と用件の重要度
多くの人が無駄だと感じていた業務をスリム化することで、各自の負担が軽減されることが伝わりやすくなります。現場にとってメリットが感じられる工夫と残業時間抑制をセットで進めていくことで、納得度を高めることにつながります。
「残業代で稼ぐ」という発想の根底にある「歪み」を意識する
残業時間の抑制を複雑にしているのが、「残業代で稼ぐ」という習慣です。残業代も込みで月給の手取り額を考えている従業員は、その収入額を想定して生活設計をしている可能性も否めません。そのため、「残業時間を抑制する」という方針を快く思わなかったり、反発を招いたりするケースもあるのです。
残業代で稼ぐという発想の問題点は、労務費の膨張だけに留まりません。仕事の成果やプロセスを評価してもらえると部下が感じておらず、単純に時間を差し出すことで対価を得ているという感覚に慣れてしまっている場合もあるからです。いったんこうした発想になってしまうと、同じ時間内でより早く効率的に仕事を進めようといった考え方をしなくなってしまい、結果的に時間あたりの仕事量だけでなく仕事の質までもが低下していく原因になりかねないのです。
もし「残業代で稼ぐ」という考えの部下が少なくないようであれば、評価の仕方そのものを再考する余地があるかもしれません。人事評価制度そのものを急に変えることができなくても、管理職の伝え方1つで部下の意欲を引き出すことにつなげることはできるはずです。残業代で稼ぐという発想の根底には、働くことそのものに対する「歪み」が根付いていることを意識しておきましょう。
労働時間(拘束時間)と意欲を関連付ける発想をやめる
最後に、管理職自身のマインドを変える必要性について挙げます。
管理職の中には、「若手の頃は深夜までかけてプレゼン資料を作り込んだ」「時間を惜しまず顧客のために働いたから、評価を得ることもできた」といった考え方が無意識のうちに根付いてしまっている人がいます。そのため、頭では「労働時間≠意欲」と分かっていても、感覚の上ではどこかで「早く帰る人からはやる気が感じられない」などと捉えていたりすることがあります。
労働時間と意欲を完全に切り離すための具体的な行動としては、管理職自身が率先して早く帰る姿を見せることが挙げられます。「上司が残って仕事をしている」ことは、思いのほか部署内の「帰りづらい」雰囲気を助長してしまっていることがあります。管理職自身が早く帰ることを習慣化することで、「だらだらと残って仕事をするものではない」「早く帰る人は効率よく仕事をしている証拠」といった空気が伝播しやすくなります。管理職の発想が変わることで、部下の行動にも影響が及んでいくのです。
まとめ)働き方改革は「働く意識改革」から
働き方改革は、しばしば組織の制度上の問題として取り上げられています。しかし、実際には組織としての風土や習慣に根ざしている部分が非常に大きいと言えます。長時間労働問題の解決が思うように進まないのは、実は制度設計の問題以前に「働く上での意識」に問題を抱えていることが少なくないからです。
働き方改革に着手するのであれば、ちょうど良い機会と捉えて「働く意識改革」を進めるつもりで取り組むようにしましょう。真の意味で効率化を実現することができれば、結果的に事業の成長や継続性に寄与することになるはずです。
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