ダイバーシティ・マネジメントとは?誤解されやすい本当の意味と導入のメリット
[最終更新日]2022/12/15
ダイバーシティという言葉は近年よく聞かれるようになりました。
企業においても「ダイバーシティを重視した企業経営」が重視され始めており、企業においても積極的にダイバーシティに関する情報発信が行われるようになりました。
管理職の皆さまにおいてもダイバーシティを意識した「ダイバーシティ・マネジメント」を行うことが望まれます。しかし、そもそも「ダイバーシティ」とは何か正確に理解していない方も多いようです。
今回はダイバーシティそれ自体を説明するとともに「ダイバーシティ・マネジメント」のあり方について紹介します。
Index
目次
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そもそも、ダイバーシティとは?
まずはダイバーシティというものについて説明したいと思います。ダイバーシティとは「多様性」という意味ですが、企業経営において「ダイバーシティ」と言われる場合は、厳密には「多様性を受容すること」を意味します。
つまり人々における多様性を認め、それを前提とした経営を行うことを意味します。
ここでいう「多様性」ですが、世間でよくテーマとなるのは、外国人・日本人など人種や国家の違い、男女に加え性的マイノリティまで考慮したジェンダーの違い、世代間格差などを年齢の違いなどがあります。
しかしながらこれらはあくまで多様性が明確になりやすいから話題になりやすいだけで、本来これらを受容するだけでは不十分です。
多様性とは、すべての人それぞれの特性や特徴が「異なる」ことを受容し、それを前提として企業経営を行うことを指します。世間で話題になるテーマだけに流され、安易に「ダイバーシティが充分達成されている」と妥協しない姿勢が大切です。
なぜ組織にとって、ダイバーシティが重要なのか?
ダイバーシティは大きく分けて「社会からの要請」と「企業経営を強靭にする」上で重要です。
まず1点目の「社会からの要請」ですが、国連を筆頭に社会・世界全体が多様性を受容すべきという風潮に変化してきています。
これは人権意識が高まればごく自然な流れです。日本はもともと民族の多様性が限定的であったこともあり、「多様性の受容」が先進国としては進んでいない地域と言われていて、近年急激に多様性を受容することが要請されております。
企業もまたこの流れに乗ることを余儀なくされており、企業が大きくなればなるほど、ダイバーシティの達成は企業が永続する上で欠かせない要素となっています。
ただし、このダイバーシティは企業にとってもマイナスになるものではありません。変化の激しい現代社会において、一つの味方、タイプの人間が集まっていても企業の成長や高い経営目標の達成は難しくなってきています。
企業がより強靭になり、継続的に成長していくためには、ダイバーシティを達成し、さまざまな人間のさまざまなスキルや性質、考え方を吸収していくことが肝要なのです。
以上二つの観点から、いま企業においてダイバーシティの重要性が高まっています。
「女性活躍推進」や、「障がい者雇用推進」は、見方によってはダイバーシティの「一部」になる
最初に説明した通り、ダイバーシティの達成のために行うことは無数にあります。例えば女性の活躍推進は、旧来の男性中心になってしまっていた企業体質を男女の多様性を受け入れることになります。
また、障害者の雇用推進も、身体的ハンディキャップを受容する企業のあり方として、これもまた多様性を受容していることにつながります。
このようにダイバーシティはさまざまな形で具現化することが可能ですが、一つの方策で完璧なダイバーシティが達成されるということはありません。
究極的にはダイバーシティの「ゴール」というものはなく、企業は常にダイバーシティ達成に向けて不断の努力や対応が必要なのです。
ダイバーシティを掲げる、3つの要素
先に説明した通り、ダイバーシティのための具体的な方策は無数にあるわけですが、ダイバーシティの研究が近年進むうち、大きく分けて三つの類型に分けられるようになりました。
ダイバーシティを体系化して理解した上で方策を策定することは、より高次のダイバーシティの達成につながりますので、しっかりと理解することが大切です。さて、その三つのダイバーシティとは、以下の通りとなります。
- デモグラフィー型ダイバーシティ
- タスク型ダイバーシティ
- オピニオンダイバーシティ
それぞれ、順を追って見ていきましょう。
デモグラフィー型ダイバーシティ
まずはデモグラフィー型ダイバーシティとは性別、国籍、年齢など基本的には目に見える性質によるダイバーシティを指します。ただし「性別」については近年は性的マイノリティまで目を広げると必ずしも「目に見える」とは言い切れないので、この点は注意が必要です。
おそらく日本においても比較的前からダイバーシティ達成の努力がなされているのはデモグラフィー型ダイバーシティです。
男女の雇用機会を均等にする、外国人を積極的に受け入れるなどの方策はさほど新しい取り組みではなくなってきました。
年齢についても年功序列の廃止や新卒要件の緩和、中途採用の積極化などは間接的ながら年齢の多様性を受容することにつながっています。
タスク型ダイバーシティ
続いてタスク型ダイバーシティはデモグラフィー型ダイバーシティが一定程度達成された後に意識されることが一般的です。
タスク型ダイバーシティは人の知見や経験、能力などといった「目には見えない」ダイバーシティを指します。
こちらのダイバーシティは制度などでの達成はデモグラフィー型より難しいと言えます。企業理念の設定や採用で多様な能力の社員を雇うなどで一定程度達成はされますが、知見・経験・能力などは人それぞれ全く異なるものですので、最後は現場が異なる性質の社員たちを認め合うカルチャーを作り上げるほかありません。
一方で、多様な社員の性質を活かすことで、より世の中の変化に打ち勝てる持続的で柔軟な企業に成長することができます。タスク型ダイバーシティの追求はこれからの企業成長においても必要なものなのです。
オピニオンダイバーシティ
さて3つ目のオピニオンダイバーシティは、特に日本において課題とされているところです。
日本特有の性質として、無言のうちに集団に個々の意見を合わせにいくところがあります。
これは一見スムーズに物事を進めているのですが、その実集団の流れと合わない異質な意見を表明しづらい雰囲気を形成していることになります。
対してオピニオンダイバーシティとは所属する人々、企業であれば社員がそれぞれの意見を自由に発信できるようにするカルチャーを指します。
オピニオンダイバーシティがなければ、先に紹介した2つのダイバーシティを受容しているようでも、「異なる考え」を持つものは自身の主張を話すことができないのですから、真にダイバーシティを達成しているとは言えません。
また、せっかく多様性を企業内に内在させていても、異なる考えが外に出ることがなく、企業のあり方に影響を与えないため企業の成長には繋がらなくなってしまいます。
つまりダイバーシティを真に達成するためには、このオピニオンダイバーシティの徹底が肝要となるのです。
3つの型のダイバーシティを駆使する、「ダイバーシティ・マネジメント」とは
ダイバーシティ・マネジメントとは
さて、ここまでダイバーシティそのものについて紹介してきました。今、企業においてはこのダイバーシティの不断の追求が求められてきていますが、先にも紹介した通り、ダイバーシティは本来企業の成長にも資するものなのです。
せっかく社会の要請で多様性を受容するのですから、せっかくならばそれを企業の資本として活用し企業の成長に生かしていきたいものです。
ここから紹介するダイバーシティ・マネジメントとは、先に紹介した三体系のダイバーシティを最大限活用することで、企業の成長につなげていくための経営方法をさします。
ここからは、これからの企業の持続的成長の鍵となるダイバーシティマネジメントについて、具体的な活動方法について説明していきます。ダイバーシティはただ人々の多様性を甘受するだけでは不充分で、それらを活用した企業経営が徹底されてこそ、真に達成されているとみることができるのです。
具体的な、ダイバーシティ・マネジメントの活動
- ダイバーシティへの理解を深めること
- メッセージを発信していくこと
- 人事・評価制度をはじめとした労働環境の改革
ダイバーシティへの理解を深めること
まず大事であるのはダイバーシティについて理解を深めていくことです。マネジメント層自身もそうですし、社員の方々への啓蒙活動も積極的に進めていくことが必要です。
ここまで説明したように、男女平等や外国人受入など表面的な理解に止めるのではなく、一人一人の「違い」を受容することが真のダイバーシティであることや、ダイバーシティは企業にとってコストになるものではなく、ダイバーシティを活かして企業成長につなげていかなければならないということを知らしめる必要があります。
まずダイバーシティを企業の構成員全員がしっかりと理解することが、ダイバーシティ・マネジメントの第一歩です。
メッセージを発信していくこと
続いてポイントとなるのが、企業がダイバーシティの推進を行うことを積極的に発信していくことです。
おそらくグローバル企業や日本を代表するような企業は積極的にダイバーシティの推進を企業のホームページなどで発信している例が多いかと思います。
これには端的にいって二つの意味合いがあって、一つはもちろん社会に対して企業がダイバーシティに取り組んでいることをアピールするためです。
そしてもう一つは、企業構成員に対して「自社はダイバーシティを積極的に推進していく」ということを認識させるためです。これにより社員一人ひとりがダイバーシティを積極的に推進する方向に意識が向くようになります。
人事・評価制度をはじめとした労働環境の改革
ダイバーシティの根幹は、結局は企業の社員の取り扱い方、つまり人事・評価制度や労働環境のあり方にあります。
ダイバーシティ推進を具現化するためにはこれらを多様性を受容するかたちで積極的に変革していく必要があります。
実際には人事・評価制度の改革はそう難しくありません。もうロールモデルも出てきていますし、「変えてしまえばいい」部分が大きいからです。
難しいのはむしろ労働環境の改革です。これは制度をいじるだけではどうしようもなく、最後は社員一人一人にダイバーシティを真に推進することを意識づけなければなりません。
継続的な研修の実施やトップシニアからの段階的な啓蒙を組合わせて、マイノリティが自然に働け、また特殊な能力や考えが自然に企業に活かされていく状況を形成していかなければなりません。
ダイバーシティ・マネジメントを推進していく為に意識したい3つのポイント
ダイバーシティ・マネジメントを推進していくうえでの取り組みとしての方法論は先で説明した通りですが、現実には多様性を受容し、そしてそれを成長に繋げるというのは簡単なことではありません。
特に日本人は自分と異質な性質や考え方などを受け入れづらい傾向があるので、なかなかダイバーシティが進んでいかないものです。ここでは、それでもダイバーシティ・マネジメントを実践していくうえでの管理職が意識すべき3つのポイントを説明します。
self-awareness(自分らしさ、自己認知)への理解
ダイバーシティ・マネジメントを主導していくうえでは、まずは管理職自身が自己をよく認知することが大切です。
自分をよく理解することは、ダイバーシティの第一歩であると言われています。
──なぜならば、自己をしっかり認識することで、他者の「自分との違い」もまた理解できるようになりますし、また自己をしっかりと知っていることで、自分に自信を持つことができるようになるからです。
そうすれば、自分と異なる他者のことを受容できるようになりますし、自分を客観視して相手と補い合えるところを見つけやすくなりますので、お互いの、また部署や企業の成長へと繋げられるようになります。
この自己認識は究極的には社員全員が高めることが望まれますが、まずはダイバーシティ・マネジメントを推進する管理職自身が自己認知を高めて、自分に自信を持った状態で積極的にダイバーシティを推進する姿勢を示すことがポイントです。
組織・チーム間での相互理解を深めるための仕組みを創る
続いてチームにダイバーシティを根付かせるためのポイントは、多様性を受容する仕組みを創ることです。
大切なのは、組織・チーム間、チームメンバー間が「異なる」ことを理解させ、またその異質性をおたがい受け入れられるような環境を整備することです。
これは究極的にはコミュニケーションの深化によって達成されるものです。社員のプライベートにも配慮しながら社員間のコミュニケーションを深める機会を設けたり、ダイバーシティをテーマとした、コミュニケーションを深めるためのグループワークを実施するのもいいでしょう。
理想はチームメンバーが自発的にコミュニケーションを取ってそれぞれの異質性を認識し、相互理解を深めていくことなのですが、現実はそう簡単にダイバーシティが自発的に進んでいくということはなく、一定程度トップダウンでコミュニケーションを深める仕組みを設定することが必要となるでしょう。
well-being(組織・チームのありたい姿、望ましい状態)への探求
そもそも、ダイバーシティを高めることで、企業を、もしくはそこに所属する一人一人の社員に何をもたらしたいのかを明確し、それに向かって推進する姿勢が大事です。
ダイバーシティはややもすると企業にとってコストであるように受け取られがちですが、企業や社員にとってプラスになるのが真のダイバーシティといえます。
その際に知っておきたいのが、「Well-being(ウェル ビーイング)」という言葉です。
「Well-being」とは、人々(社員)が心身ともに、さらに社会的にも健康な状態を指し、満足した生活を送れる状態にあることを指します。
多様性を受容することで社員一人ひとりが心身ともに幸福で過ごすことができる「Well-being」を達成し、それにより社員それぞれが各々異なる能力や強みを発揮したり、積極的に社内外に発信することで、企業の持続的な成長につなげていくことがダイバーシティの理想です。
ダイバーシティ・マネジメントを推進するうえでは、このように社員一人ひとりがWell-beingの状態となり、企業にポジティブな効果をもたらしていき続けるという「ダイバーシティの理想形」を組織で具現化していこうとする探究心を持つことが大切です。
ダイバーシティを活かして社員の幸福と企業成長を両立
ダイバーシティは旧来の日本的組織からすればやや異質な概念ですので、最初は導入や推進を煩わしく、大変に感じる人も多いでしょう。
しかし、ダイバーシティを推進することで異質な性質を持つ社員同士が幸福に企業生活を送ることができるようになりますし、企業の成長にも寄与します。
これからの変化の激しい社会のなかで社員の幸福と企業の持続的成長を両立するうえで、ダイバーシティの推進は重要なキーファクターとなっていきますので、管理職の皆さまが率先して推進していくことが望まれます。
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