新卒一括採用が廃止されて、何が変わるの?企業・学生のメリット・デメリットは?
[最終更新日]2019/07/26
日本には「新卒一括採用ルール」がありますが、これは世界的に見ると異例な制度です。
50年近い歴史を誇る新卒一括採用ルールですが、2018年9月3日に経団連の会長である中西宏明氏が、2021年春以降に入社する学生からは廃止にすると会見で述べたことで、波紋を広げています。
これは、今後の新卒採用に関わる問題なので、管理職も十分に理解しておく必要があります。
そこで今回は、新卒一括採用ルールとは何か、廃止による新卒学生のメリット・デメリットについて、お話ししたいと思います。
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目次
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そもそも、新卒一括採用とは?
まず、新卒一括採用ルールについて、説明しておきましょう。
その歴史は古く、明治時代までさかのぼります。
明治時代にあったのは「旧帝大」で、当時は真のエリート層しか通うことができませんでした。
そのため、卒業生の多くは官僚となり、一部が旧財閥系企業の幹部候補生として就職するのが一般的でした。
大正時代に入り、第一次世界大戦による好景気の影響で、民間企業の多くが高等教育を受けた人材の採用に乗り出します。
しかし、旧帝大しかなかったため人材が限られたことから、民間企業は高等小学校を卒業した優秀な若者を採用し、社内教育を行うようになりました。
それを受け、1918年に政府が大学令を公布したものの、大戦の終結や関東大震災による不況が深刻化し、民間企業への就職を希望する学生が殺到。各社で入社選考を行うようになります。
昭和初期から戦中にかけては、日中戦争が激化したことをきっかけに、軍需産業を中心として景気が回復。民間企業の初任給が高騰するようになり、1938年に国が新卒学生を企業に割り当てる制度をつくったほか、1940年には初任給の一律化を断行します。
第二次世界大戦終戦後、朝鮮戦争をきっかけに再び好景気が到来すると、新卒採用競争が激しくなりました。
そのため文部省(現在の文部科学省)が1950年に、就職あっせん開始日を定めた「就職協定」を通達します。
1968年には、現在の就職活動と同じ自由応募が一般化しましたが、新卒一括採用ルールはそのまま運用されました。
日本で、新卒一括採用がデフォルト化されてきた背景
戦後の日本で新卒一括採用ルールがデフォルトかされてきた背景には、日本特有の雇用システムがあります。
それに関わるのは、「終身雇用」「年功序列」の2つです。
そもそも戦後から高度成長期までの日本の新卒採用は、明治期のように幹部候補生としてではありませんでした。
ポテンシャルの高い若者をまず確保して、入社後に自社で教育することが前提の採用だったのです。
また、時間と費用をかけて育成した社員が流出することがないよう、勤続年数に応じて給与が上がり、退職時に多額の退職金を受け取れる年功序列が一般的でした。
さらに1980年代半ばから1991年にかけて、日本はバブル景気にわき、人手不足倒産という言葉があったほどで、新卒学生の大量採用が行われます。
しかし、バブル崩壊を受けて民間企業の業績が悪化し、景気が後退。それに伴って民間企業の大量リストラが進み、新卒採用が縮小していったのです。
そうしたなか、1996年には就職協定が完全廃止されます。その背景には、就職協定はあくまで紳士協定であり、罰則規定がなかったことから、守らない企業が多かったという事実がありました。
その後、1997年に「新規学卒者の採用・選考に関する倫理憲章」を経団連が中心となって定めますが、企業に対する制限を行うこともなく、就職協定のころと変化が見られることもありませんでした。
そのため、大学で学ぶことが本業である学生が、早期から就職活動に励む現状を憂い、2003年の改定時に「卒業学年に達しない学生に対し、面接など実質的な選考活動を行うことは現に慎む」という一文が盛り込まれ、現在の形に落ち着いたのです。
なぜ、新卒一括採用が廃止されるのか?
では、長きにわたって続いてきた新卒一括採用ルールがなぜ、いま廃止されようとしているのでしょうか。
管理職のなかにも、そうした疑問を感じる人が多いはずです。
そして、新卒一括採用ルールが廃止になることは、単に学生の就職活動や企業の採用が再編されるということではないという声も聞こえています。
そこで、新卒一括採用ルールの廃止が検討されるにいたった理由や背景について、お話ししたいと思います。
新卒一括採用が廃止されるのはいつから?具体的にどうなるの?
2018年10月現在、新卒一括採用ルールでは会社説明会は3月、面接は6月に解禁されることになっています。
予定通り2021年春に採用される学生に対して、新卒一括採用ルールが廃止されるとなると、2019年以降の就職活動に影響が出ます。
では、新卒一括採用ルールが廃止になると、何が変わるのかと考える人もいることでしょう。
考えられる変化として
① 通年採用や早期選考が増える
② インターンシップや説明会への参加が選考に関わる影響が明確化される
ことがあげられます。
通年採用や早期選考については、すでに楽天株式会社やYahoo!株式会社、株式会社ファーストリテイリング、ソフトバンク株式会社などで行われていますが、まだ募集職種は絞られる傾向にあります。
それが専門職から総合職に広がる可能性があるのです。
これまで企業が学生を対象に行うインターンシップは、あくまでも職業体験の域を出ないものでした。
しかし、新卒一括採用ルールが廃止になることで、インターンシップや説明会に参加する学生が、それ自体が採用活動であることを自覚して臨むことができるようになるかもしれません。
新卒一括採用が廃止される理由・背景
過去にも新卒一括採用ルールについて、いろいろな批判や指摘がありましたが、改訂を行うにとどまっていました。
それなのになぜ、今回は新卒一括採用ルールの廃止という発言がなされ、国や有識者による議論に発展したのでしょうか。
その理由や背景について、一緒に考えてみましょう。
理由1:廃止された就職協定と守られない倫理憲章
1953年には就職協定、1997年には新規学卒者の採用・選考に関する倫理憲章が定められたことは前述しました。
しかし、これらは紳士協定であり、罰則規定があるわけではありませんでした。
ことに新規学卒者の採用・選考に関する倫理憲章は経団連が中心となって定めたものですが、賛同したのは加盟企業の半数にあたる644社にとどまっています。
そのため、制度はあっても形骸化しているのが実情だったのです。
実際、面接は行わなくても、リクルーター制度によって早期に面談を行うなど、採用活動を早期化される企業は増加傾向にあります。
日本の大手企業のなかにも、横並びの採用活動をやめるところが出てきたほか、インターンシップが実質の採用活動となる会社も少なくないようです。
理由2:新卒か既卒かで採用機会に差が出る日本の採用事情の弊害
若者のポテンシャル採用思考が高まったことで、新卒学生を対象とする就職活動の早期化が進みました。
その結果として起こったのが、既卒者が新卒者より採用されにくくなるという風潮です。
能力が同じであっても、既卒というだけで新卒採用枠に応募できないことで、大きな差が生まれたのです。
その解消のために2007年の第1次安倍内閣では、「労働ビックバン」を閣議決定します。
これは、デフレが長期間に及んだことでの就職難や経済的な困窮からの脱却のために、新卒一括採用ルールを抜本的に見直すとともに、平等な雇用機会の確保を行うことを目標として提唱されました。
当時はそれに基づいて制度が変わることはありませんでしたが、近年は新卒一括採用では欲しい人材がとれず、ハイスキルの中途採用をする企業が増加しており、それもルール廃止に舵を切る理由の一つと考えられます。
理由3:3章による未内定就活生への就職支援の成功
労働ビックバンでも新卒一括採用ルールが変わらないことを受け、日本政府は2010年に青少年雇用機会確保指針を改定しました。
そこに「卒業後、少なくとも3年間は新卒者として応募できるように」と盛り込まれたこともあり、2011年には厚生労働大臣・文部科学大臣・経済産業大臣が連名で、需要経済団体に通年採用の拡大を図るよう要請しました。
さらに厚生労働省と文部科学省、経済産業省の連携により、2013年には「未内定就活生への集中支援」を開始。その成果が出ていることが、就職率としてあらわれるようになりました。
こうした実績ができたことで、より新卒一括採用システムの見直しを後押しする流れが生まれたといえるでしょう。
理由4:経済産業大臣の見解発表による影響
2007年の労働ビックバンを閣議決定から9年後の2016年8月、世耕弘成経済産業大臣はNHKのインタビューで、「新卒一括採用を見直す時期にきている」と明言しました。
その理由として、新卒一括採用により短期退職率が増えており、採用する側にもされる側にも負担になっていることをあげていましたが、その後の入社3年以内の離職率を調べたところ、その因果関係は否定されています。
とはいえ、経済産業大臣がメディアで見解を述べた例が過去になく、これが日本経済に影響したことは疑いの余地はありません。
これまでの歴史と日本の雇用構造の変化、さまざまな理由と背景が、新卒一括採用ルールの廃止という流れをつくったのです。
新卒一括採用が廃止されると、学生にはどんな影響がある?
もし、本当に新卒一括採用ルールが廃止されると、学生にはどんな影響が及ぶのでしょうか。
実際に廃止されれば、多くの企業が通年採用を取り入れることになります。
そこにはデメリットだけでなく、メリットもありそうです。
そこで、予測される学生への影響について、考えてみたいと思います。
情報収集が重要に。「情報を集められる学生」と「集められない学生」と二分化が進む
大きな懸念事項としては、情報収集のスキルが学生間の格差を生む可能性が高まることがあげられます。
近年の就職活動はインターネットが中心ですが、それで情報収集のすべてが完結するわけではありません。
積極的にOB・OG訪問をしたり、インターンシップや説明会に数多く参加するなど、情報収集に余念がない学生とそうでない人に、2分化することが予想できるのです。
インターンシップや説明会への参加が採用選考に加味される場合、その情報を必要なタイミングで集められなかった学生は、チャンスを失うことになります。
さらに新卒学生にとっては企業の採用活動期間がばらつくことで、同業他社と並行して比較・検討する機会が奪われることも予想されます。
情報収集のタイミングや内容によって、就職活動における結果に差が出ることは、決してよいとはいえないと思います。
自身の生き方、働き方について、考える機会が増える
学生にとっては、新卒一括採用ルールの廃止がメリットになることも多いです。
まず、企業が通年採用を行うことで、自分に都合のよいタイミングで就職活動を行えるようになります。
就業前の資格取得や留学など、学生が長期的な活動を行いやすくなります。
また、インターンシップや説明会の参加が選考に影響するようになれば、その機会を逆手にとって、自分の適職といえるのか、働き心地のよい職場かどうかを、体験的に知ることができます。
自分の生き方や働き方について、外部の刺激を受けながら考えることは、就職のミスマッチを避けるうえで重要です。
ただし、通年採用になれば、企業側は安易に採用通知を出してくれなくなることが予想されます。
その結果、就職活動期間が長期化するリスクもあるのです。
また、新卒学生は既卒者だけでなく、中途採用者と同じ採用試験を受けるケースも増えるでしょう。
そうしたメリット・デメリットを理解しておく必要があります。
新卒一括採用が廃止されると、企業にはどんな影響がある?
そして、新卒一括採用ルールの廃止が決まると、影響を受けるのは学生だけではありません。
人事部を中心に、企業にもさまざまな影響が及ぶことが予想されます。
そこで、予測される企業への影響について、まとめておきたいと思います。
中長期のインターンシップを経ての採用がスタンダードに?
企業側の立場から見ると、通年採用をすることで、採用情報の周知や応募受付、選考、採用、入社後の教育という採用コストが増えます。
これまでは、新卒採用にあたり年度に何人という目標設定を行うのが一般的で、応募総数に関わらず、上位から内定通知を送ることができました。
しかし、通年採用になれば1人あたりの採用コストがあがってしまうため、採用判定を厳しくせざるを得ず、新卒学生の採用合格率が下がる可能性が高くなります。
そのため、新卒学生の採用ラインの設定に苦戦する企業もありそうです。
また、大手企業のように広報予算がない中小企業の採用情報が、埋没してしまう危険性があります。
そう考えると、予算をかけて採用広告を掲出できる大手企業に新卒学生が集中し、中小企業の採用が難しくなるかもしれません。
求職者である学生の情報収集スキルに依存するのではなく、中小企業が自ら学生と関わる機会を増やすなど、対策をたてることが重要になると予想されます。
採用活動の常時化と、それに伴う業務負担
新卒一括採用ルールがあると、内定通知が届いてから辞退を申し出るまでの期間の目安がわかるので、万が一採用目標に足りなかった場合、再度採用活動を行い、翌年度に備えることができました。
しかし、通年採用にした場合、内定辞退のタイミングと採用活動がリンクしなかったり、募集しても思うように求職者が集まらず、採用活動が常時化する可能性があるのです。
また、予算内で新卒採用を行うために、最初から人数を制限する企業も出てくることでしょう。
その場合、採用した新卒学生が早期離職してしまえば、かけた時間と費用が無駄になってしまいます。
そのため、新入社員の早期離職を避けるために、メンター制度や管理職のアサーショントレーニングの導入など、体制の見直しを行うなど、業務負担が増えるケースもありそうです。
そう考えると、人事部だけでなく、新入社員が配属される部署の管理職の負担も、増大するかもしれません。
新卒一括採用ルール廃止の動きを注視しよう
今回は、新卒一括採用ルールとは何か、廃止による新卒学生のメリット・デメリットについて、お話ししました。
この記事をまとめると
- 終身雇用制度と年功序列が前提だった新卒一括採用ルールは、現代では形骸化している
- 新卒一括採用ルールの廃止には、新卒学生と企業それぞれにメリットとデメリットがある
の2つに集約されます。
一方で学生の本分は学業であることから、就職活動の早期化につながる新卒一括採用ルールの廃止に苦言を呈す人がいるのも事実です。
管理職のみなさんがこの記事により現状を踏まえ、その動きに注視することで、今後の採用活動の準備に役立ててくれたら幸いです。
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