アンラーニング(学習棄却)が必要になるのはどんな時?メリット・デメリットと具体的な実施方法を解説
[最終更新日]2023/11/06
昨今、社会人の「学び直し」が注目を集めています。
変化の激しい現代において、学びが必要なのは学生だけではありません。
社会人となりキャリアを重ねてからも、新たな情報に触れ知識を体得していくことの重要性が増しているといわれています。
一方で、一定のキャリアを重ねていくと、全く新しい情報や考え方を先入観なく受け入れていくのは困難になることもあります。
そこで意識しておきたい言葉の1つに「アンラーニング(学習棄却)」が挙げられます。
アンラーニングとはどのような考え方なのか、実践するメリットやデメリット、具体的な実践方法について見ていきましょう。
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Index
目次
そもそもアンラーニングとは?
これまでの価値観や習慣から必要なものを取捨選択し、新たな知識も取り入れること
アンラーニングは日本語で「学習棄却」「学びほぐし」などと訳されます。
知識を習得していく「ラーニング(学習)」と対をなす概念で、経験から得た知識や築いてきた価値観をいったん白紙に戻すことを指します。
多くの人にとって、自分がこれまで積み上げてきた経験や体得した知識を白紙に戻すのは容易なことではありません。
社会経験が豊富になればなるほど、今までに得た経験を頼りに判断を下す場面が増えていくからです。
アンラーニングを実践するには、これまでの価値観や習慣をいったん意識的に白紙に戻さなくてはなりません。
資料でいっぱいになった引き出しへさらに資料を追加するには、古い資料を整理し、必要に応じて処分する必要があります。
私たちの頭の中も、定期的に整理して古い情報を廃棄することによって、新たな知識を取り入れることができるのです。
このように、知識や経験をアップデートしていく過程で、現状の知識や経験を意識的に白紙に戻すのがアンラーニングと捉えてください。
アンラーニングが必要になる時とは?
アンラーニングが必要とされる最も顕著な場面は、環境の変化に直面したときでしょう。
たとえば、異動や転職に伴って働く環境が大きく変わったとき、あるいは市場の動向や社会情勢が激しく変化していくとき、自分自身も周囲の変化に合わせて変わっていく必要があります。
しかし、「以前はこうだった」「今まではこうしていた」といった固定観念が残っていると、どうしても従来の習慣や考え方に囚われてしまい、新たな環境に馴染む上での障壁となりがちです。
アンラーニングを実践することによって、自分でも気づかないうちに築き上げていた常識や習慣、価値観にあえて疑いの目を向け、検証することが可能となります。
そうすることで、変化に対して柔軟に対応しやすくなり、自身の変化を実現するための素地を作ることができるのです。
なぜ今の時代にアンラーニングが注目されているのか
世界の政財界のリーダー3000人余りが集まる世界経済フォーラム(ダボス会議)では、「これからの社会で求められるビジネススキル」の調査結果が公表されることがあります。
以下は、その2016年および2020年のトップ10の情報です。
順位 | 2016年 | 2020年(カッコ内は前回からの順位変動) |
---|---|---|
1位 | 複雑な課題の解決 | 複雑な課題の解決(→) |
2位 | 他者との協調協業 | 論理的思考(↑2up) |
3位 | 人材マネジメント | クリエイティビティ・創造性(↑7up) |
4位 | 論理的思考 | 人材マネジメント (↓1down) |
5位 | 交渉力 | 他者との協調協業 (↓3doown) |
6位 | 品質管理 | 心の知性(EQ) (↑New) |
7位 | サービス指向 | 意識決定能力 (↑1up) |
8位 | 意識決定能力 | サービス指向 (↓1down) |
9位 | 聴く力 | 交渉力 (↓4down) |
10位 | クリエイティビティ・創造性 | 認知的柔軟性 (↑New) |
引用元:The 10 skills you need to thrive in the Fourth Industrial Revolution | World Economic Forum
上記表を見ると、わずか4年でありながら大きな変動があることが見て取れます。
例えば、「クリエイティビティ・創造性」は前回の10位から今回3位に7ランクアップしています。
その他「心の知性(EQ)」や「認知的柔軟性」といったスキルが新たにランクインし、2016年にランクインしていた「品質管理」や「聴く力」はランク外になっています。
こうした変動は、AIやビックデータなどの技術・サービス発展をはじめとする「現代社会の絶え間ない変化」からの影響によるところも大きいでしょう。
私たちがこの表から学ぶべきことは、世間で求められるビジネススキルとはこのように「短期間のうちに移ろいでゆく」ということです。
2016年のランキングにて6位に位置付けられていた「品質管理」は、1970~80年代では非常に注目されたビジネススキルでした。
ですが、現在のビジネスシーンにおいて「最も大切なスキルは品質管理である」と考える人は少数派です。(※ もちろん、品質管理そのものは重要なスキルですが、現代社会ではそれ以上に「新しい変化に対し柔軟に対応しうる能力」として、複雑な課題の解決や他者との協調協業、認知的柔軟性などが重視されている傾向にあります)
こうした変遷は、スキルだけでなく「知識」も同様です。
変化が激しい現代社会においては、一度体得したスキルや知識を最大限有効に活かせる期間が急激に短くなっているといわざるを得ないのです。
体得したスキル・知識が陳腐化するまでの期間が短くなっている以上、私たち自身の知識や経験も随時アップデートしなければ時代の変化に取り残されてしまうでしょう。
そうした知識や経験をアップデートしていく上で、アンラーニングが注目を集めているのです。
アンラーニングのメリット・デメリット
アンラーニングで得られるメリット
- 新しい知識・価値観を習得し、成長し続けることができる
- 固定概念に縛られず新たな発想を生み出せる
- 業務やコミュニケーション上での改善点を見つけやすい
アンラーニングによって得られる効果として、固定観念を打破しやすくなることが挙げられます。
スマートフォンを初めて手にしたとき、多くの人は「携帯電話は通話とメールのためのツール」という固定観念をいったん捨て去ることで新たなツールに馴染んでいったはずです。
既存の知識や価値観をいったん「なかったこと」にすることで、新しい知識・価値観をゼロベースで体得できるのがアンラーニングのメリットといえます。
固定観念に縛られることがなくなれば、既存の習慣からは出てこなかった新たな発想も生み出せるでしょう。
「会社で働くには全員がオフィスに出社しなくてはならない」という旧来の習慣から自由になることで、テレワークやサテライトオフィスでの就業といった発想が可能となったのです。
アンラーニングは、知識や習慣を抜本的に見直す際にも役立ちます。
慣れ親しんできた業務の進め方や習慣化しているコミュニケーションのあり方を見直すとき、「仕事はこのように進めるもの」「コミュニケーションとはこうあるべきもの」といった考えをいったん棄却する必要があります。
新たな視点で現状を分析することにより、これまで問題視されてこなかった改善点を見つけやすくなる効果が期待できるでしょう。
アンラーニングで考えられるデメリット・注意点
- 熟達した知識・スキルを持っている人ほど、抵抗感が生まれやすい
- 「今の知識・スキルが最新のものか」を俯瞰視するのは難しい
アンラーニングを実践するデメリットとして、「抵抗感が生まれやすい」ことと「俯瞰視するのが難しい」ことが挙げられます。
「抵抗感」とは、アンラーニングに際して現状の知識・スキルを根本的に見直すことへの心理的なハードルを指します。
ある分野で熟達した知識・スキルをすでに持っている人ほど、これまでに積み上げてきたものを根本的に疑ってかかるのは難しいはずです。
すでに体得した知識・スキルを活かしたほうが直近の成果につながりやすいケースが多いため、現状維持を指向しがちになることもあるでしょう。
アンラーニングを実践するには、積み上げてきたものを根本的に疑うことへの抵抗感を乗り越えなくてはならないのです。
「俯瞰視するのが難しい」とは、アップデートすべき知識・スキルが最新のものかどうかを判断するのが容易ではないことを指します。
現状持っている知識やスキルを刷新するにはタイミングが早すぎるのかどうかを自分で判断しなくてはならないのは、アンラーニングのデメリットといえるでしょう。
アンラーニングの具体的な進め方・実践方法
ここまで述べてきた通り、変化の激しい時代に知識・スキルをアップデートしていく上でアンラーニングは重要なカギを握っています。
一方で、現状での常識や価値観を自ら疑い、刷新していくのは決して容易ではありません。
では、アンラーニングを実践するにはどのような方法で進めればいいのでしょうか。具体的には、次の3つのステップを踏んでいくことが大切です。
- #1 内省する
- #2 自分を外の世界にさらす
- #3 新しい価値観のもと、取捨選択を行う
その1 内省する(振り返り)
アンラーニングを実践する上で、自分自身を客観的に振り返るプロセスは欠かせません。
このとき重要な役割を果たすのが「内省(振り返り)」です。
内省(振り返り)とは、出来事(行った業務やその結果)について、そのときの環境・周囲の状況、そしてそこにいた自分自身について「客観的」に(ポジティブ・ネガティブかかわりなく、ニュートラルに)見つめなおすことです。
内省(振り返り)を行うことによって、関わっている仕事への更なる理解や、今後同様の(または類似した)事態に直面したときにどう対応するかについての知見を広げる効果を得られます。
内省(振り返り)は、以下のプロセスで行うと良いでしょう。
- #1 どんな出来事があったかを振り返る(身の回りで起きたこと、体験したこと、環境変化など)
- #2 その出来事に対して、自分はどう感じ、受けとめたかを振り返る
- #3 その後、自分はどんな行動を取ったかを振り返る
- #4 #1~4を丁寧に振り返ったあとに、改めて今思うことや感じることを探求する
内省においては、まず最近身のまわりで起きた出来事や体験したことを事実ベースで振り返る必要があります。
「どう感じたか」「何を考えたか」といった主観から入ると、自分にとって都合の良い細部に目を向けがちになるため、できるだけ事実をありのままに振り返ることが大切です。
事実を振り返ったら、次にそのときの状況を思い出していきましょう。
ここで重要なのは、周囲の人々の反応や行動、感情の表出です。思い出せる限り詳細に回想し、誰がどんなことをしていたか、どんな反応が見られたのかを振り返っていきます。
そして、最後に自分自身がその場面で何を感じたのか、どのような振る舞いが適切だったのかを考えていきます。
こうした思考から、当時は「自分としては正しい・自然だ」と感じていたはずの常識が必ずしも最適とは言い切れないと気づくことが、アンラーニングが必要な自分自身の一面を見つける上で重要なヒントとなり得るのです。
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その2 自分を外の世界にさらす
アンラーニングを実践する上で内省(振り返り)は重要なプロセスですが、自分自身が見聞きしてきたことを完全に客観視するのは困難な場合もあります。
そこで、自分の内にある価値観や常識とは異なる人と交流を図ったり、他部署の人員と会話したりといったことを実践してみましょう。
前項で記した「内省のプロセス」に沿って、あなた自身の考えを伝えてみるのも良いと思います。
ものごとの捉え方・受けとめ方とは、大抵自分と他人とで異なるものです。
自分自身のそれとは異なる常識や価値観に触れることで比較対象ができ、自分の考えや価値観が絶対的なものではないと気づくきっかけを得られるはずです。
こうして自分を外の世界にさらしていくと、ときに自分が大切にしてきた価値観を否定されているように感じたり、あまりにも考え方が異なっていてストレスを感じたりすることもあるでしょう。
しかし、「どちらが正しいか」「どちらがより優れているか」を安易に判断するべきではありません。
多様な考え方や価値観に触れていくことによって、自分にとっての「当たり前」を相対化し、比較・検証可能な状態へと徐々に近づけていくことができるのです。
その3 新しい価値観のもと、取捨選択を行う
これまで想像もしていなかった新しい価値観に触れると、従来の自分の価値観が限られた範囲の常識に囚われていたことに気づかされたり、バイアスがかかっていたことを思い知ったりすることもあるはずです。
ただし、アンラーニングを実践するといっても、自分がこれまで抱いてきた常識や価値観を根底から全否定する必要はありません。
新しい価値観のうち、取り入れられそうな部分や役立ちそうな要素を取捨選択し、少しずつ自分のものにしていけばいいのです。
また、いったん取捨選択した知識やスキルが永続的に有効であり続けるとは限りません。
別の価値観に触れた際には改めて取捨選択を行い、ブラッシュアップしていくことも可能でしょう。体得したスキルや知識、価値観は、大切に保管しておくだけではいずれ古くなっていき、価値が薄れてしまいます。
むしろ、躊躇することなく外気にさらすことで磨きがかかり、より価値を高めていくことができるのです。
アンラーニングは一度きりで完結するのではなく、継続的に取捨選択を繰り返し、アップデートし続けることを意識しましょう。
まとめ)アンラーニングで価値観の新陳代謝を促進させよう
私たちの身体はおよそ60兆個の細胞で形成されていますが、そのうちの約1兆個が毎日更新されて入れ替わり、およそ2ヶ月間ですべての細胞が新しくなるといわれています。
見方によっては、私たちの身体は常に変化し続け、2ヶ月周期で新しく生まれ変わっているのです。
一方で、長年にわたって体に染みついた習慣や価値観は、自然に更新されていくものではありません。
むしろ、放置しておくことで特定の価値観に凝り固まってしまい、新たな考え方を受けつけなくなってしまう恐れもあります。
意識的に新たな情報や知識を取り入れ、自分とは異なる価値観に触れていくことで、ようやくアップデートが可能な状態となるのです。
アンラーニングで価値観の新陳代謝を促進し、変化の激しい現代社会に適応する柔軟な思考を手に入れましょう。
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