管理職が知っておきたい「交渉術」の話
[最終更新日]2022/12/15
管理職の皆さんは、こんな経験をしたことはありませんか?
「取引先の担当者がなかなか条件を飲んでくれない」
「上司や役員に意見を覆されてばかりで困っている」
「部下に指示の真意が伝わっていないと感じる」
ビジネスにおいて、人を納得させ意見を通していくことができるのは、非常に重要なスキル1つです。
もちろん、相手の理解度や性格によって、納得してもらえるまでに必要とされるエネルギーは異なります。では、「納得してもらない相手」「話を理解してくれない相手」に対して、どのように対処したらいいのでしょうか。
今回は、こうした悩みの解消につながる可能性のある「交渉術」について解説していきます。社内外で「人を説得する」方法を知りたいと感じている人は、ぜひ参考にしてください。
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Index
目次
管理職にとって「交渉術」が重要な理由とは?
はじめに、そもそも管理職にとって「交渉術」がなぜ重要なのか?について整理していきます。
交渉術と聞くと、「小手先のテクニック」「セールスマンが駆使する技法」というイメージを持ってしまう人がいるかもしれません。
【交渉】
ある事を実現するために、当事者と話し合うこと。かけあうこと。
(三省堂 大辞林 第三版)
言葉を尽くして説明したからと言って、必ずしも相手がすんなりと納得してくれるとは限りません。そこで求められるのが「かけあう」こと、つまり「交渉」なのです。
この交渉術が管理職にとって重要な理由として、とくに次の3点挙げられます。
管理職にとって交渉術が重要な理由
- 管理職は社外との折衝で会社の「顔」になるケースが多い
- 管理職は社内で決裁権を持つ人物に話を通す役割を持つ
- 管理職は部下に「気持ちよく仕事をしてもらう」必要がある
それぞれ、順を追って見ていきましょう。
管理職は社外との折衝で会社の「顔」になるケースが多い
取引先や顧客との折衝において、管理職が担当するのは「難しい条件が伴う案件」「部下の手に負えなくなった案件」であることが少なくありません。
部下は自分で解決できることであれば、最後まで自力で仕事を遂行したいと考えているものです。自力ではどうにもならないと感じたとき、上司を頼り、助けを求めるのです。
取引先にとっても、担当者だけではなく上司も出てくるということは、それだけ重要視してもらえているという印象を持ちます。
商談の相手が一担当者ではなく役職者であれば、相応のレベルの話をしなくては失礼にあたると感じることも少なくありません。
このように、管理職は社外との折衝において会社の「顔」になるケースが多い立場にあるのです。
交渉が不得手だと、不利な条件で契約を結ぶことになったり、より良い条件が望めた場面でも相手のペースに飲まれてしまったりすることが考えられます。
交渉術を身につけていくことは、管理職にとって会社の資産を守ることでもあるのです。
管理職は社内で決裁権を持つ人物に話を通す役割を持つ
管理職が持つ決裁権は限定的ですので、会社として正式な決定としてもらうにはより上級の役職者や役員といった立場の人に話を通していく必要があります。
重要な経営判断になればなるほど、経営層はリスクを加味して慎重に検討しますので、提案したことに対して懸念や反対意見が返ってくる可能性も高くなります。
こうした場面で、「承諾してもらえないのだから仕方がない」とすぐに諦めてしまうのか、粘り強く交渉して話を通していくことができるのかは、管理職として大きな手腕の違いと言えます。
部下にとってみれば、「上に反対されて話が振り出しに戻りがちな」上司と、「上に話を通して大抵のことは実現させてしまう」上司とでは、信頼度が全く違うでしょう。
このような社内での根回しや立ち回り方は、しばしば「社内政治」と揶揄されます。
しかし、通すべき話をしっかりと上に通すという意味において、社内政治を交渉術で乗り切らなくてはならない局面が必ずあるはずです。
管理職は部下に「気持ちよく仕事をしてもらう」必要がある
管理職の仕事の1つに、部下に適切な指示を出しチームをまとめていくという役割があります。
「指示を出す」と聞くと事務的な印象を持たれがちですが、同じ内容の指示を与えられたとしても、部下にとって受け取り方や印象が異なることは決してめずらしくありません。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
それは「伝え方」が異なるからです。部下にとって「本当はやりたくないけれども、上司から言われたので仕方なくこなす仕事」と、「その仕事をやるべき動機が明確で、ぜひともやっておきたい仕事」とでは、意欲や取り組み方に大きな差が開いてしまいます。
伝えたつもり・説明したつもりになるのではなく、本当に相手の腑に落ちたかどうか、納得して指示を受けているかどうかを見極める必要があります。
部下はみな感情を持った人間ですので、同じ内容を同じ言い方で伝えたとしても、人によって受け取り方はさまざまです。
チームのメンバーに気持ちよく仕事をしてもらうためにも、指示を出す相手によって適切な言い方・伝え方をしていく交渉術が求められるのです。
管理職が交渉術を身につけるメリットとは?
管理職が身につけるべき能力やスキルは多岐にわたります。その中でも「交渉術」を身につけるメリットはどのような点にあるのでしょうか。
交渉事がもともと得意で苦にならない人と、どちらかと言うと苦手意識を持っている人がいるのは事実です。交渉する相手によって、苦手とするタイプや理解しがたいタイプの人がいるのも、ある意味で仕方のないことと言えます。
かと言って、苦手・理解しがたいタイプの相手との交渉を避けて通るわけにもいきません。
もちろん交渉術は一朝一夕に身につくものではありませんが、それでも管理職が交渉術を向上させていくメリットは確実にあります。
とくに次の3つのメリットを得られる点で、交渉術を意識的に伸ばしていくのは大切なことなのです。
社外との打ち合わせや商談がよりスムーズに進むようになる
社外の取引先や顧客との交渉事は、何の障壁もなく終始スムーズに進むほうがレアケースです。
相手方には相手方の都合や言い分があり、自社としても譲るわけにはいかない主張がある中で、妥当な着地点を見出していかなくてはなりません。
お互いがお互いの利益を主張し続けていても、交渉は平行線をたどり続けてしまいます。
どこかで打開策を提示し、双方が納得しやすい条件を提案していく必要があるでしょう。このとき、交渉術の引き出しをどれだけ持っているかが明暗を分けることがあるのです。
逆の言い方をすれば、交渉術を身につけていくことによって、社外との打ち合わせや商談がよりスムーズに進む可能性が高くなります。
結果的に話がまとまる確率が高くなり、自分自身も仕事をしやすい状況を手に入れやすくなるのです。
社内のしがらみに煩わされずスムーズに話を通せるようになる
ビジネスパーソンにとって、社内で上長や他部署にどれだけ話を通せるかは重要な力量の1つです。
会社によって、組織特有の文化や歴史的な背景があるはずですので、新しい提案を通したり上役の理解を得たりするのは容易なことではないケースもあるでしょう。
ときどき、「うちの上役は『何を言ったか』よりも『誰が言ったか』を重視している」といった愚痴を言う人がいますが、もしかしたら意見が通りやすい人は交渉術に長けているのかもしれません。
あるいは、話を聞き入れない傾向のある上役、理解を示そうとしない上役と映っている人物も、もしかしたら言い方やアプローチの仕方しだいでは耳を傾けてくれるかもしれません。
交渉術は、「不可能と思えるような事柄を通してしまう術」のことです。交渉術を身につけることによって、社内のしがらみに煩わされるのではなく、むしろ社内の人脈を活用してスムーズに話を進められるようになるのです。
人を動かす説得力が増し、部下のモチベーションを高めることができる
過去に自分自身が部下として受けた指示の中を思い返してみてください。
「この上司が言うことならその通りにやってみよう」「この人が頼んでいるのだから仕方がない」と感じたことはないでしょうか。
その上司の方は人を動かすのが上手で、交渉力に長けた人物だった可能性があります。
部下は潜在的に「納得できる指示」を期待しています。上司の指示が的確かどうかを判断する材料は「情報」です。
一般的に、現場サイドで持っている情報と管理者側が持っている情報との間には否応なく格差が生じます。
そのため、上長としては適切と判断して出した指示であっても、部下の立場からすると理不尽に感じたり、納得しがたいと感じたりすることも少なくないのです。
人を動かすには「納得感」を持ってもらうことが欠かせません。
交渉術を身につけることによって、部下に対しても納得できる指示が出せるようになり、部下のモチベーションを損なうことなく仕事を任せやすくなるのです。
社外とのやりとりで役立つ交渉術のテクニック3選
ここからは、実際に交渉事において役立つテクニックを紹介していきます。
あくまでテクニックですので、駆使することで交渉に役立つことはありますが、テクニックだけで乗り切れるものではありません。
社内外を問わず、交渉において重要になるのは相手との信頼関係を築くことです。
信頼関係ができているという前提で、次のようなテクニックを駆使することで、交渉をよりスムーズに進められるケースがある、という点に注意しましょう。
まずは、とのやりとりで役立つテクニックから見ていきましょう。
小さなお願いから要求を通していく「イーブン・ア・ペニー・テクニック」
【イーブン・ア・ペニー・テクニック】
人は小さなお願い事であれば聞き入れてくれることがある。
小さな要求をはじめに通しておくことで、より大きな要求を通しやすい状況を作ることができる。
even a pennyとは「1ペニーだけ」という意味です。つまり、最初はほんの小さなお願い事からスタートする、ということです。
たとえば募金を集める際、「1円でも結構です」と言ってお願いすれば、募金箱にお金を入れてもらうというハードルは低くなります。
しかし、実際に募金をするとなると10円とか100円といったように、1円よりも高い額を寄付してくれる人は少なくありません。
最初のハードルを下げることによって、要求以上の成果をあげることができるのです。
いきなり1,000万円の請求を立ててサービスを利用してもらうことは困難ですが、少額の契約で仕事のサポートやお手伝いから始めることで、徐々に関係性を築いていくことが可能になります。
信頼関係が十分に厚くなったとき、大きな契約についての話を持っていくようにするのです。
主張を質問に変換して相手に言わせる「ソクラテス・ストラテジー」
【ソクラテス・ストラテジー】
自らの意見を主張して直接的に伝えるのではなく、質問という形を取ることで相手から答えを引き出すことができる。
たとえば、人材募集に悩んでいる企業がクライアントだとします。「とにかく人を集めないことには始まらない」と人事担当者が言っているのに対して、「いえ、集める人材の質も考慮するべきです」と主張しても、真っ向から意見が対立してしまい、聞き入れてもらえない恐れがあります。
そこで、「では、人材の質に関して今回は優先順位が低いのですね?」と質問すると、「うーん・・・、質も少しは考慮しないと、入社してもらってからが大変だろうけれど・・・」などと、より最適化された答えを先方が考えるきっかけを作ることができます。
人は他人から言われたことよりも、自分で発言した言葉に強い印象を持ちます。望む答えを相手が言うように仕向けていくことで、意思決定をスムーズに進めてもらうことができるのです。
比較対象を提示して相対化する「コントラスト(対比)効果」
【コントラスト(対比)効果】
選択肢を提示すると、人はよりデメリットが少ないほうを選ぼうとする。
あえてデメリットの大きな提案を対比させることで、少々のデメリットには目をつぶってもらえることがある。
テレビショッピングなどでもよく使われている手法です。最初から「10,000円の商品です」と言われると、人は「高い」「払いたくない」と感じます。
しかし、「定価15,000円のところ、期間限定で10,000円に致します」「いまご購入された方には、特典として○○もお付けします」と言われると、お徳感が増して10,000円という料金が安いもののように思えてくるのです。
顧客との交渉において、しばしば「コストと品質のどちらを取るか」が問題になることがあります。
顧客としては「コストを抑えて品質も維持したい」というのが本音のはずですが、「コストをあまりに抑えると品質が下がる」「すると、クレーム対応に追われてかえって管理コストがかさむ」「不良在庫を抱えてしまうリスクも増す」といった対比を提示することで、より大きなデメリットに気づいてもらうことができます。
結果的に、コストを少々かけてでも品質を保持したほうがよい、という結論を導くことができるのです。
社内でのやりとりで役立つ交渉術のテクニック3選
前述のように、交渉術は社外との折衝だけでなく、社内でのやりとりにおいても有効です。
部下に仕事を頼むとき、あるいは上役に決裁をもらうとき、ストレートに伝えると角が立つようなことでも、伝え方を工夫することでスムーズに話を進められる場合があります。
こうしたテクニックは「コミュニケーションスキル」の1つとして紹介されていることがありますが、より厳密に言えば交渉術であり、相手を説得するためのテクニックと言えます。
社内でのやりとりで役立つと思われる交渉術のテクニックにとして、とくに次の3つの手法をご紹介します。
重要な存在だと実感してもらい動機づけにつなげる「限定感」
【限定感】
誰でもいいわけではなく、「あなただから」「あなたしかできない」と伝えることで、相手に自身の存在意義や特別感を持ってもらい、気持ちよく承諾してもらうことにつながる。
部下に仕事を頼むとき、業務を分担する管理者の立場としては、「各々が責任を持って自分の担当する仕事を遂行してくれる」ことを当然と考えがちです。
しかし、頼まれた側としては「他の人でもできそうな仕事」「別に私がやる必要がない仕事」を任されるのは、場合によっては損な役回りと感じることもあるかもしれません。
組織で仕事をしていく以上、本質的には誰がやっても同じ結果になる仕事の進め方が求められます。マニュアル化や手順書の作成は、その最たるものでしょう。
ところが、仕事を任される側にとっては自分の存在意義を実感したいと潜在的に思っているため、仕事を任せる際には「動機づけ」を意図的に行う必要があるのです。
「あなたの適性を考えると、向いている仕事だと思う」「信頼しているので、ぜひお願いしたい」と伝えられることで、相手は自分自身がその仕事を担う意義を見出だすことができるのです。
選択肢を提示して相手に選ばせる「二者択一法」
【二者択一法】
選択肢を提示し、選ばせることで「NO」という答えを選びにくくなる心理が働く。
どんな仕事でも自分でやってしまったほうが早い、と考えるタイプの部下がいるとします。
チーム内で分担してもらいたいという意図で仕事を任せても、結局は1人で抱え込んでしまうタイプの人です。本人の能力が高いので仕事は早く終わるのですが、これではチーム内でノウハウが共有されず、組織としてのリソースになりません。
そこで、仕事を任せる際に「○○くんと2人で分担してもらうか、もしくはチーム全員で分担してもらうか、どちらがいいだろう?」と選択肢を提示しておくのです。
「では、○○くんと分担します」と答えることはあっても、あえて「いえ、私が自分1人で進めます」とは言いづらい状況になるはずです。
この手法は、そもそも「断られてしまう」という可能性がある依頼をする際にも有効です。
結果的にどちらもYESの答えになる選択肢を提示することで、相手は少しでもメリットが大きいと思われるほうを選びたくなる心理が働きます。
結果的に「そもそもNOと回答する」という選択肢を排除することができるのです。
多くの同意者がいることを認識してもらう「ソーシャルプルーフ」
【ソーシャルプルーフ】
社会的証明のこと。大多数の人が同意見と知ると、そちらが正しい判断と考えがちになる。
自分だけが特殊な考えの持ち主だと思われたくない、という横並び意識を利用した手法。
十分に議論された提案を持っていっても、簡単に提案をはねのけてしまうタイプの上役がいるとします。
なぜ簡単にはねのけてしまうかと言えば、「提案した本人の個人的な意見」に過ぎないと思っているからです。
このような場合、提案する本人の背後には同意見の人が大勢いることを暗に伝えるソーシャルプルーフの手法が有効なことがあります。
「部署の皆さんにはすでにご意見を伺っており、皆さん同意見でした」「○○課長もこの案がいいと仰っています」といったように、他にも大勢その意見を推す人物がいることが分かると、あえて反対意見を述べるには相応の根拠が必要になります。
結果的に、大勢の人と同じ判断を下したほうが無難である、という結論に至りやすく、交渉を有利に進めることができるのです。
まとめ)交渉術を身につけて頼られる上司になろう
交渉術とは「駆け引き」のことです。多様な考え方の人がいる中で目的を持って意見を通していくには、ある程度の交渉が必要であり、目的を達成する上で交渉が欠かせないのは疑う余地がありません。
交渉術に長けた上司は、部下にとって非常に頼りになる存在です。また、仕事を頼む際にも頼まれる側の受け取り方に配慮していることが伝わり、思慮深い上司として映ることでしょう。
こうしたヒューマンスキルは普遍的なものですので、一緒に仕事をする相手や時代が変わったとしても通用していくはずです。
交渉術を身につけることで、社内外を問わず多くのメリットを得ることができます。交渉術を身につけて、ぜひ「頼られる上司」を目指してください。
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