「成長」のカギを握るマインド「グロース・マインドセット」
[最終更新日]2023/11/06
「グロース・マインドセット」と「フィックスト・マインドセット」という言葉を聞いたことがありますか?
スタンフォード大学の心理学の権威、キャロル・S・ドゥエック博士によって提唱されたこの思考は、ビジネスでの人材育成にも大いに役立てられています。
この記事ではそれぞれのマインドについて詳しく解説していきます。
また、自分が今どちらの思考に傾いているかを正しく認知することによって、今後の対策や成長するためのヒントが見えてくるかもしれません。
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目次
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グロース・マインドセットとフィックスト・マインドセット
グロース・マインドセットとフィックスト・マインドセットは、それぞれ対極的な思考をしています。
ビジネスの場で置き換えれば、難しい課題に直面した際にその違いが表れやすいかと思います。
下記の図をご覧ください。
フィックスト・マインドセットの思考を持ち合わせている場合、難しい課題に直面した時に、「どうせ自分にはできっこない」などと難題から背を向けてしまいやすい傾向にあります。
一方でグロース・マインドセットが身についていると、難しい課題でも自分から積極的に挑戦していき、自分自身の成長や、会社の利益に繋げることができます。
他にもさまざまな性質の違いがありますが、大きく「成長しやすい思考」か「成長しにくい思考」という認識で間違いないかと思います。
では、それぞれのマインドについて、さらに深く掘り下げていきましょう。
フィックスト・マインドセットとは
フィックスト・マインドセットとは、直訳すると「硬直した思考」という意味になります。
言葉の通り、一つの凝り固まった考えに執着するあまり、物事を別の側面から眺める、ということが難しくなります。
たとえば仕事において、上司から厳しめのフィードバックを貰ったとします。
フィックスト・マインドセットが習慣化してしまっていると、「厳しめの評価」=「自分は出来が悪いというレッテル」と受け取ってしまう傾向にあります。
フィックスト・マインドセットは失敗を必要以上に恐れ、他人からの評価に感情を支配されやすい思考です。
上司としては、部下の成長を願っての行為なのに、毎回落ち込んでしまっては、成長できるものもできなくなってしまいますよね。
グロース・マインドセットとは
反対にグロース・マインドセットは「しなやかな思考」と言えます。
同じように厳しめのフィードバックを貰ったとしても「成長のチャンス」と捉え、挑戦し続けます。
物事を多角的に見つめることができるため、思わぬところからアイデアや解決策を見つけることができます。
また、フィックスト・マインドセットとの大きな違いは、「集中力の持続」です。
難題に直面した際に、それを避けて通ってしまうフィックスト・マインドセットに対し、正面からぶつかり、できるまで何度でもトライ&エラーを繰り返すのがグロース・マインドセットの特徴です。
管理職という立場ならば、自分自身の成長はもちろんですが、部下の成長も促していく必要があります。
なぜ人は、フィックスト・マインドセットになるのか?
社会人として求められているスキルはグロース・マインドセットで補うことができます。
しかし、難題に直面した際に、常に前向きに取り組み続けることはなかなかできるものではありません。
そういう意味では、多くの人がフィックスト・マインドセットを持ち合わせていても不思議ではないのです。
では、どうして人は壁にぶち当たった際にフィックスト・マインドセットに陥ってしまうのか。
その原因をご紹介します。
多くの人は、フィックスト・マインドセットとグロース・マインドセットを行き来している
ここで明らかにしておきたいのが、「フィックスト・マインドになりがちな人=ダメな人」ということでは決してないということです。
誰もがフィックスト・マインドセットの側面を持ち合わせており、同時にグロース・マインドセットの側面も持ち合わせていると考えた方が自然です。
たとえば高校から大学へ、新しい職場へ、引っ越しで新しい街へ、といったふうに新しい環境に身を置く場合、多くの人が「うまくやっていけるかなあ……」と不安を抱くと思います。
この不安はフィックスト・マインドセットから来るものですが、これは人としてごく当たり前な感情の流れと言えます。
反対に自分の好きな分野(ある人にとってはそれが映画であったり、スポーツであったりするかもしれません)の知識や技術に関しては、もっともっと知りたい!という意欲が湧いてきますよね。
このように人の思考はグロース・マインドセット、フィックスト・マインドセットのどちらか一方にだけ割り振るということは不可能で、誰しもが両方の要素を兼ね備えながら生きているのです。
そして意外なことに、フィックスト・マインドセットになりやすい人の方が今の世の中には多数いらっしゃるのです。
一体それはなぜなのでしょうか。
ストレスや疲れを感じているとき、人はフィックスト・マインドセットになりやすい
社会人として働かれている方の中には、相次ぐ残業や、こなさなければならない作業の多さに疲れを感じてしまっている方も多いのではないでしょうか?
人それぞれの働くことへの価値観が多様化してきた現代ですが、それでもなお根強く残っているのが、こうした仕事への抑圧された思いです。
これもある意味で、今の日本社会の特徴と言えるでしょう。
仕事に対する疲れや不満は、フィックスト・マインドセットに繋がりやすくなります。
仕事への不満を抱えていても、それを解消する術がない。その結果、仕事の効率も悪くなり、どんどんとネガティブな感情が押し寄せて来てしまう、そんな悪循環に陥ってしまう可能性があります。
ですが、必ずしも「仕事が忙しい=フィックスト・マインドセットになる」ということではありません。その忙しさが未来に向けての投資になりえるものだとしたら、忙しさの中にもグロース・マインドセットを見出していくことはできるでしょう。
気を付けたいのは、忙しさのあまり「他のことを考える余裕がなくなっている」状態の時です。そうすると、人は自ずとフィックスト・マインドセットになっていく傾向にあります。
忙しい時ほど、自分自身を落ち着かせ、余裕を見つける工夫をすること。そのために、今できる改善策はどんなことがあるか、一度立ち止まってじっくり考えてみるのもいいかもしれません。
フィックスト・マインドセットは「ポジティブコメント」の中に含まれることもある?
「こんなに早く仕事ができるなんて、〇〇さんはやっぱりセンスがあるね」「さすが〇〇さん!」
字面だけを見たら、ほめられているように感じるかもしれません。
しかし、こうした一見ポジティブに見える言葉にも、受け手によってフィックスト・マインドセットを引き起こしてしまう可能性があるので注意が必要です。
一体どういうことかというと、上記のセリフを「Aさんの仕事の成果」に対し「Aさんの上司が言った」ものと仮定しましょう。
Aさんの上司からしてみれば、Aさんの成果を褒め称えているほかに特別な理由は無いように見えます。
しかし一方で受け取り手であるAさんからすると、「これだけのことをしないと、センスがあると認めてもらえないんだ」と思って、やる気をなくしてしまう恐れがあるのです。
上記はあくまで一例ですが、その他にも不用意に発言した一言が、相手に深い影響を及ぼしてしまう危険性は往々にして起こり得るのです。
これらを回避するには、やはりAさんにグロース・マインドセットを習得してもらうのが一番なのですが、どのようなアプローチを行えばグロース・マインドセットへの働きかけが可能なのでしょうか。
グロース・マインドセットへの働きかけを意識していく為に
先にお伝えしたように、社会人として成長していくにはグロース・マインドセットを意識的に取り入れていくのが効果的です。
しかしフィックスト・マインドセットが根付いてしまっている方からすると、「そんな簡単に言われても……」なんて気持ちもあるかもしれません。
ですがご安心ください。
グロース・マインドセットを取り入れていくことは可能です。
気になるその方法をお伝えしていきます。
「意識する」だけでもグロース・マインドセットへの働きかけは強まる
グロース・マインドセットは意識するだけでも育てていくことができます。
「そんな簡単なことで?」と疑問に思われるかもしれませんが、これがなかなか一筋縄ではいきません。
なぜなら、自分自身が「変わろう!」と強く願って行動し続けない限りグロース・マインドセットを育むことはできないからです。
しかし反対に、自分自身の考え方ひとつで、物事を良い結果に繋げられると考えることもできます。
あなたは難しい課題に直面した時に「どうせ無理だから」と諦めてはいませんか?
「やればできる!」の精神で挑み続けることで、思ってもいなかった成長が待っているかもしれません。
頑張りすぎてしまうと、今度はフィックスト・マインドセットに傾いてきてしまうので、少しずつでも自分のペースで変えていってはいかがでしょうか。
グロース・マインドセットの意識は伝播する
実はグロース・マインドセットもフィックスト・マインドセットも、その人個人の考え方だけでなく、周囲の人にも伝播していくのです。
常に成長意欲を持ち合わせ、積極的に課題に臨んでいける人は、たとえば同じ部署のメンバーにも同様に前向きな気持ちを分け与えることができます。
特に管理職やマネージャーといった立場の方は、考え方一つであっても部下への影響は大きいと考えるべきでしょう。
今の自分の考え方が、どのように部下に伝わるのか、自分自身を客観視することも時には必要な作業です。
実際にチームでグロース・マインドセットを共有し、業績が上がったという例も多数見られています。
ご自身の成長だけでなく、組織としての向上にも繋げられるような環境づくりも大切です。
組織でのグロース・マインドセットの向き合い方
オープンに話し合える環境づくりを
個人レベルでグロース・マインドセットに働きかけることは可能だとお伝えしましたが、周囲との関係性も加味することで、より効果的に成果を生むことが期待できます。
そういった意味で、周囲との信頼やコミュニケーションは不可欠と言えるでしょう。
ただ、組織としての向上を目指すためには、質の高いコミュニケーションを行う必要があります。
コミュニケーションの「質」とは、言い換えれば「互いを認め合い、足りない部分は補い合える」ような関係性の構築になります。
個人で行っているグロース・マインドセットへの働きかけが、果たして正しく作用しているのか、間違った解釈で進めてしまっていないかの判断は、当の本人では難しいと思います。
そんな時に周囲のアドバイスやフォローがあることで、軌道修正も可能になるのです。
職場の環境は良い状態か、質の高いコミュニケーションを行えているか、今一度振り返ってみるのもいいかもしれません。
「ラーニングゾーン」の風土を形成していく
「ラーニングゾーン(学習ゾーン)」という言葉をご存知でしょうか?
ラーニングゾーンとは、その人の学習意欲が高まっている状態を指します。また、人はラーニングゾーンを維持することで成長されやすくなると言われています。
ラーニングゾーンに入るためには、その人に一定の「責任」(業務等が「任されている」状態)が与えられていること、更に「心理的安全」が確保されている環境であることが不可欠です。
心理的安全とは、その人が心理的な苦痛やストレスを感じずにいられる状態のことです。批判や否定などの恐怖から離れ、自分の意見をリラックスした状態で言える環境下にいることで、心理的安全は保障されます。
もし、職場で自分の意見が言えず困っている方がいたとすれば、その原因は何なのでしょうか?
様々な要因はあるかもしれませんが、一つ可能性として考えられるのが、「自分の意見を否定されるのを恐れて口を閉ざしてしまっている」ということです。
しかし、そのような恐れを持ち続ける限り、自分の意見は言い出せず、ひいては成長にも繋がりません。
逆に、心理的安全が確保されて、かつやりがいのある仕事が任せられた環境では、その方は積極的に自分の意見を発信するようになるでしょうし、「成長しよう」という意識も掲げやすくなるでしょう。
つまり、ラーニング・ゾーンに入ることで人はグロース・マインドセットにもなりやすくなるのです。
組織内でグロース・マインドセットを育んでいく為には、関わる人たちの心理的安全が確保でき、ラーニング・ゾーンにアクセスしやすいような環境・風土を形成していくことが重要です。
まとめ 「成長」は周囲と思考を「共有」すること
いかがでしたか?
管理職という立場は、自身の成長だけでなく、チームのメンバー全員のやる気や成長も促していかなければいけない責任ある仕事です。
組織で考えたときに、成長のカギ=グロース・マインドセットは誰か一人だけが備えていても実現できません。
チームのメンバーでグロース・マインドセットを共有することが、すなわち組織としての成長にも繋がるのです。
組織内のコミュニケーションの質を高めることや、しなやかな思考を共有すること。
それが「成長」への第一歩です。
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