「俺が責任を取る」って良くいうけれど、実際責任ってどうやって取るの?
[最終更新日]2023/11/06
会社勤めをしている皆さんがよく耳にする言葉の1つに「責任」があります。
「責任の所在を明確にする」
「いざとなったら私が責任を取る」
こうした使われ方をする「責任」という言葉——。
ところで、「責任を取る」とは具体的に何を指しているのでしょうか。「責任を取る」という言葉に込められた意味について、どこか腑に落ちないものを感じている人も多いはずです。
政治家など著名人が「責任を取るべきだ」と批判されるとき、しばしば「責任を取って辞任するべきだ」と同じことを意味している場合があります。このような責任の取り方は、果たして適切なのでしょうか。
そこで、今回はビジネスにおける「責任の取り方」について考えてみます。これまで「責任を取る」という言い方に曖昧なものを感じていた方、今まさに責任を取らなくてはならない状況にある方は、ビジネスにおける「責任の取り方」についてぜひ参考にしてください。
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Index
目次
ビジネスでの「責任の取り方」って?
ビジネスにおける「責任」は、実は意外と幅広い概念を表しています。このことが「責任を取る」という表現を分かりづらく曖昧なものにしてしまっていると考えられます。
ビジネス上での「責任の取り方」は、大きく3つに分けることができます。すなわち、「遂行責任」「説明責任」「賠償責任」という3つの「責任」を果たすことを指しているのです。
別の言い方をすれば、これらの3つの責任が何を指しているのか?を理解しておくことが、適切な「責任の取り方」へとつながるのです。
ビジネス上での「責任の取り方」
- 遂行責任
- 説明責任
- 賠償責任
遂行責任
遂行責任とは「最後までやり切る」ことへの責任、と言い換えることができます。
ビジネスにおいて、仕事を遂行する過程でさまざまな障壁が立ちはだかります。このとき、「障壁があったので仕事を完遂できませんでした」と言ってしまうと「言い訳」とされてしまいます。
たとえプランAでうまくいかなかったとしても、別のプランB、さらにプランCといったように、あらゆる手段を講じて目的達成のために尽力し、最終的に求められる成果に到達させて見せることを「遂行責任」と言います。
与えられたミッションを達成する上での責任は、肩書やポジションが上級になればなるほど大きくなります。
また、対応すべき事態に関しても不確定で未知の問題に対処しなくてはならないケースが増える傾向があります。
こうしたプレッシャーに耐え、最後までやり切るとコミットした上で、実際に仕事を完徹させることが遂行責任と言えるでしょう。
説明責任
遂行責任を果たすべく尽力する過程で、すべてが求められる結果の通りにならないことや、想定されるプロセスとは別の手段を講じて乗り切らなくてはならないことが起こり得ます。
あるいは、どうしても実現不可能だったことが出てきた場合、なぜそのような結果になったのか説明すべき相手に対して経緯や原因を説明する必要があります。
このとき、「〇〇のため、この結果になりました」「原因は△△です」と「報告」すればいいのではありません。
肝心なことは、説明された相手がその説明によって納得するかどうかなのです。
納得してもらうためには、再発防止策も含めた対応策が十分に考えられている必要があります。その意味では、事故報告書や顛末書、始末書を提出することも説明責任の1つにあたります。
場合によっては、招いた結果によって非難されたり、何らかの処分を下されたりすることもあるかもしれません。しかし、言い逃れや責任転嫁をすることなく、しかるべき処分を受ける覚悟も含めて説明し、相手を納得させることを「説明責任」と言います。
賠償責任
実際に招いた事態の重要度や立場に応じ、何らかの不利な処遇を受けることを「賠償責任」と言います。
具体的には、社員であれば減給や降格、経営者であれば法的責任を果たすことを指しています。
平たく言えば「罰を受ける」ことになりますので、金銭を差し出すことを含めてしかるべき対応をすることが「賠償」にあたると言えるでしょう。
これは、ビジネスにおいて本来遂行すべきミッションが達成されなかったことに対して、別の方法で代替すること、と言い表すこともできます。
ただし、本来であればミッションを完遂することが最も重要なのですから、社員が減給処分となったり経営者が賠償金を支払ったりしたところで、ミッションが達成されるわけではありません。
その意味では、賠償責任は単独で機能するものではなく、先に挙げた遂行責任を十分に果たそうと尽力した結果、不足があった部分について説明責任を果たした上で、それでも不足があると判断される場合に行使するものと考えたほうがいいでしょう。
「責任」とは、「なすべき(求められた)任務による結果を出すこと」
ビジネスにおける責任について考える上で、「責任」という言葉の本来の意味を理解しておくことも重要です。
辞書で「責任」という言葉を引くと、次のように説明されています。
責任
➀自分が引き受けて行わなければならない任務。義務。
②自分がかかわった事柄や行為から生じた結果に対して負う義務や償い。
③法律上の不利益または制裁を負わされること。
(大辞林第三版より)
責任という言葉は、英語でresponsibilityと表されます。この言葉はラテン語のrespondereが語源となっており、元々は「答える」「応答する」といった意味になります。
これをビジネスに置き換えると、なすべき任務において求められる結果を出すこと、と考えることができます。
責任という言葉に対して、私たちはしばしばネガティブな受け止め方をしがちです。「責任を取れ」と言われると、制裁や罰を受け入れたり、恥を忍んで謝罪したりすることをイメージしていないでしょうか?
しかし、本来の「責任」の語義から考えた場合、ビジネスにおいては任務を完遂し、求められる結果を出すことこそが「責任」を取るということなのです。
このように考えると、「謝罪」「制裁」「不利益」といった代替手段によって責任を果たしたものと見なすのは、かえって本来の責任の意味から離れてしまう恐れがあります。
少なくともビジネスにおいては「結果を出すこと」に責任を取ることの主眼が置かれる点に注意しておく必要があります。
勘違いしていることも多い、「間違った責任の取り方」
ここまでで見てきたように、「責任を取る」という言葉を使うにあたって、いくつか注意しなくてはならない点があります。
《責任を取るとは?》
- ビジネスにおいては「遂行責任」「説明責任」「賠償責任」を指す
- とくに説明責任は重要であり、相手を納得させる必要がある
- 相手を納得させるには、しかるべき結果を出すことが重要になる
しかしながら、実際には「責任を取る」という表現は多くの場面で間違った使われ方をされていることが少なくありません。勘違いしやすい「間違った責任の取り方」について確認しておきましょう。
「責任を取って、辞職します!」は正しいこと?
経営者や政治家など、立場のある人物が失態や失策によって批判されるとき、よく「責任を取って辞任するべきだ」といった言い方を耳にすることがあります。
しかし、ここまで見てきたように「責任を取る」ことの主眼は罰や制裁を受けることにあるのではなく、しかるべき説明責任を全うし、結果を出すことに置かれるべきです。
たとえば、ここに経営者Aさんがいるとします。Aさんが経営する会社は市場の縮小に伴って苦戦を強いられてきましたが、ついに資金繰りが悪化し従業員の一部をリストラしなくてはならない状況に追いこまれました。
このとき、「解雇される従業員がいるのに、社長が留まるのはおかしい」「経営者として責任を取って辞任せよ」といった批判の声が聞こえてきました。
しかし、果たしてAさんが辞任することによって、この会社の業績は即座に改善されるでしょうか?リストラされる従業員を雇い続けることができるでしょうか?ほとんどの場合、答えは「No」のはずです。
むしろ、ここで社長を退くことは、Aさんにとって非常に楽な選択となるでしょう。
自身が去った後は誰かが会社を立て直してくれるかもしれませんし、そのまま倒産してしまうかもしれません。
しかし、ひとたび社長を退任すれば、Aさんはこの会社とは「無関係」の人物になれるからです。
むしろ、改善策を練って経営改善に尽力し、業績をV字回復させるほうがよほど骨の折れる苦しい選択となるでしょう。
結局のところ、それは「自己防衛」でしかない
間違った責任の取り方は、辞任だけではありません。
「休み返上で1日18時間働きます」
「家族を顧みず自分の時間を100%仕事に注ぎます」
こうした自己犠牲を払うような責任の取り方は、一見すると悲壮感が漂い、覚悟を決めて責任を全うしようとしているかのように思えます。
しかし、見方を変えればこれらの行動は「自分に罰を与えることで責任を薄めたい」という自己防衛の表れではないでしょうか。
人は自分に罰を与える(と周囲に分かってもらう)ことで、いかに責任を重く受け止めているかを周囲に知らせようとします。
つまるところ、これは自分自身のネガティブな感情を少しでも緩和し、周囲の人々から許してもらうための代替手段と見ることができます。
もちろん、このような自己防衛のための手段によって、問題の本質が解決されるわけではありません。
「犠牲を払った」という事実が残るだけですから、周囲の人にできるだけ早く「許されたい」「忘れてもらいたい」といった感情による行動とも言えるでしょう。
社会人が意識しておくべき「責任」についての3つのポイント
企業や役所等に勤務されている方は、組織の中で一定の責任を負うべき立場にあります。だからこそ、間違った責任の取り方に走ってしまうことなく、しかるべき責任の取り方をすることで本当の意味での「貢献」を実践する必要があります。
そこで、私たち社会人が意識しておくべき「責任」についてポイントをまとめました。これらの点を意識することで、責任を追及された場合に適切に対処し、正しい行動に結びつけることができるはずです。
- 「責任の所在」を明確にしておく
- 責任は「対策を講じる」ところまで
- 責任は「取る」ものではなく「果たす」ものだと考える
「責任の所在」を明確にしておく
そもそも会社員・公務員は、「組織」に属することで、責任の範囲が限定されています。全うすべき任務や負うべき責任は「ここからここまでの範囲」と定められているのが本来のありかたなのです。
たとえ経営者であろうとも会社が有限責任事業である以上、仮に倒産したとしても問われる責任の範囲は法で定められています。
まして、従業員が「全人生をかけて」「自分の暮らしや将来を犠牲にしてまで」何らかの責任を負う必要はないことが分かるはずです。
中間管理職であれば次長や部長といった、より上位の役職者がいるでしょう。
上級の管理職であっても、その上には経営陣がいます。より上位の役職者が決裁し、会社は運営されていく仕組みになっています。
逆に「全ての責任を自分が負うべきだ」と意気込んだとしても、実際にありとあらゆる責任を1人で負えるとは限らないのです。
上位の役職者に相談や報告をこまめにし、少しずつ責任を負ってもらうことで「私はあのとき報告して判断を仰ぎましたよね?」と責任の一端を担ってもらうことができます。
真面目な人ほど、こうした行動を「無責任だ」と感じる傾向がありますが、むしろ組織として責任を負っていく上で、責任の所在を明確にすることは重要な視点となり得るのです。
責任は「ミスの原因を探り」、「対策を講じる」ところまで
先に挙げたAさんの例で、Aさんが辞任したとしても責任を全うしたことにならないのは、その行動によって組織が抱える問題を解決に導けるわけではないからです。
真の意味で責任を取るのであれば、なぜそのような事態に陥ってしまったのか、ミスをしたのであればなぜミスが発生したのか原因を探り、再発防止策などの対策を講じる必要があります。
このとき、できるだけ失敗した経緯やそのときの状況を詳らかに伝え、説明責任を果たすべきでしょう。その上で、失敗の原因に再現性があることを突き止め、次に同じ事態に遭遇した場合はどう対処すれば同じ過ちを防ぐことができるのか、対策を講じるのです。
人は弱い生き物なので、どうしても「誰か1人のせいにしておきたい」「あいつが無能だった、ということにしておけば考えずに済む」と無意識のうちに計算が働いてしまいやすいところがあります。
もし周囲がそのような対応に徹していたとしても、当事者であるあなた自身は問題から逃げてしまわず、原因の探求と再発防止策の提示までを責任を持って行うべきです。
責任は「取る」ものではなく「果たす」ものだと考える
責任を誰に取らせるか、といった思考になってしまうと、組織の中で多くの人が「責任を問われたくない」「できれば責任を負わないようにしたい」と考えるようになります。
その結果、仕事をしていてもどこか他人事のように振る舞うようになり、問題が発生しても「私の責任ではない」「私がやったことではない」と口をそろえて言うようになってしまいます。
これは、責任は「取る」べきもの、と考えていることに原因があります。責任は、何らかの不利な処遇や制裁によって「取らせる」べきものではありません。本来であれば、しかるべき責任を「果たす」ことで初めて全うされるのです。
責任は「取る」ものではなく「果たす」ものです。もし責任を取らなくてはならない状況になったときは、「どう責任を取ればいいか」ではなく「どうしたら責任を果たせるか」を考えるようにしましょう。
こうすることで、過去の失敗の埋め合わせをするという思考から、未来の失敗を未然に防ぐという思考へと変わることができるはずです。
まとめ)「責任の取り方」を捉え直せば社会人としてもレベルアップできる
一見すると重々しく、覚悟が込められているように聞こえる「責任」という言葉——。
しかし、安易に「責任を取る」という言葉を使い回していると、間違った責任の取り方をすることになり得ます。これでは、むしろ責任を薄めたり曖昧にしたりする結果にもつながりかねません。
責任の取り方について深く考え、その意味を捉え直すことは、ビジネスにおける本質的な「責任」や「任務」について考えることにも結びつきます。
責任の取り方について捉え直しをすることでより本質的な「責任」を考えることにつながり、社会人としてのレベルアップにもつながるはずです。
ぜひ、「責任」という言葉の捉え方や「責任の取り方」が意味することについて、ご自身でも考えを巡らせてみてください。
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