クリティカルシンキングとは?身につけるメリットと活用法
[最終更新日]2022/12/15
社会人として仕事をしていると、経験したことのない未知の事態や状況に対応しなくてはならない場面に遭遇することがあります。
昨今は世の中が変化するスピードも速くなりつつありますので、対処しなくてはならない課題もますます多様化・細分化されていくことが予想されます。
そのような状況下で仕事での成果を出し続けていく為には、ものの捉え方や考え方について視野を広げていくことが重要になります。
いつの間にかものの見方・考え方が凝り固まっていないか、定期的にセルフチェックすることが大切なのです。
今回は、ビジネス用語としても定着しつつある「クリティカルシンキング」について取り上げます。
クリティカルシンキングという言葉自体は聞いたことがある人も、どのような考え方なのか概要は知っている人も、クリティカルシンキングに対する理解を深め、日々の仕事に生かしていきましょう。
<スポンサーリンク>
Index
目次
クリティカルシンキングとは?基本の理解度をチェック
はじめに、クリティカルシンキングとはどのような考え方なのか、基本的な事項について理解度をチェックしてみましょう。
次の5つの質問に答えることができるでしょうか?
- クリティカルシンキングを日本語で表すと?
- クリティカルシンキングの基本的な考え方は?
- クリティカルシンキングが発展してきた背景とは?
- クリティカルシンキングはなぜ注目されている?
- クリティカルシンキングとロジカルシンキングの違いは?
とっさに答えが思い浮かばない質問があったとしても大丈夫です。基本的な事項についてまとめましたので、復習を兼ねて振り返っておきましょう。
クリティカルシンキングとは「批判的思考」のこと
クリティカルシンキング(critical thinking)は、日本語では「批判的思考」と訳されます。
「批判」という言葉は日本語ではネガティブなイメージを持たれがちですが、物事に対して批判ばかりするということではなく、「問題点がどこにあるのか」「何が問題なのか」を特定して分析に役立てるための視点を指しています。
私たちは常日頃、物事に対して経験や先入観をもって捉えがちな面があります。
たとえば、昔話の「桃太郎」の話は誰もが知っているはずですが、「桃から生まれた桃太郎が成長して鬼退治をした」というストーリーは、角度を変えてみるとさまざまな検証を試みることができます。
桃太郎の物語に対する批判的志向の例
- 川に流れてきた巨大な桃を拾って持ち帰るのは一般的な行動だろうか?
- 桃に赤ん坊が入っていたことに恐怖や不気味さを感じないのだろうか?
- 鬼は退治すべきものとされているが、退治する以外の方法はなかったのか?
- 桃太郎が味方につけた犬、猿、雉は鬼退治という目的に対して適切だったのか?
- きびだんごを与える行為は、報酬として必要十分だったのか?
このように、私たちが「常識」「当たり前」と考えている事象であっても、角度を変えて観察することでさまざまな考察が可能になります。このとき生かせる思考方法の1つがクリティカルシンキングなのです。
クリティカルシンキングが発展してきた背景
クリティカルシンキングの歴史は意外に長く、1930年代にさかのぼります。当時、アメリカの教育学において、批判的思考を持つことの重要性が唱えられました。
1960年代に入ると教育が現代化されていき、クリティカルシンキングも注目を集めることになります。
このように、クリティカルシンキングはもともと教育界において、子どもの発達段階に応じて導入が議論されてきた思考法だったのです。
近年、ビジネスの世界においても固定観念や先入観にとらわれない柔軟な発想が重視されるようになり、クリティカルシンキングの有効性が注目されつつあります。
「今まで問題なかったのだから、今後も大丈夫だろう」「有力者が言っていることだから間違いないはずだ」といった思い込みによって仕事を進めるのではなく、自分の頭で考え、判断を下すことの重要性が見直されているのです。
ロジカルシンキングと何がちがう?
クリティカルシンキングとよく似た呼称の思考法に「ロジカルシンキング」があります。名前こそ似ていますが、クリティカルシンキングとロジカルシンキングは根本的に異なる概念です。
ロジカルシンキングとは? | 物事に筋道を立てて論理的に考えること。 物事を段階や要素ごとに分類し、各段階・要素に論理的矛盾や誤りがないことを検証しながらロジックを組み立てていく思考法。 |
---|---|
クリティカルシンキングとは? | 物事の前提について検証し、その本質について見極めをすること。 事象の根底にある考え方や経験則によって培われた先入観が働いていないか十分に検討した上で、本質を追究する思考法。 |
ロジカルシンキングは「前提が正しい」ことに基づいて論理を組み立てていくのに対して、クリティカルシンキングではそもそも「前提は正しいか」を検証することに重点を置きます。
このように、クリティカルシンキングとロジカルシンキングは相互に補完し合う関係にあり、どちらが欠けても結論に不足や見落としが生じる可能性があります。
クリティカルシンキングが注目されている理由
物事の前提にあえて疑いの目を向け、真に正しいと言えるか検証するクリティカルシンキング。なぜ今、クリティカルシンキングは注目されているのでしょうか。ここには主に3つの理由があります。
クリティカルシンキングが注目されている主な理由
- 世の中の価値観が多様化し、柔軟なものの見方が求められているから
- 経験則にとらわれず時代に即した意見・判断が必要とされているから
- 物事の本質を見極める力の重要度が増しているから
順を追って見ていきましょう。
世の中の価値観が多様化し、柔軟なものの見方が求められているから
世の中の価値観は、近年急速に多様化が進んでいます。これはビジネスの世界も同じです。
かつてはモノを造り、市場に投入すれば一定の需要が見込めた時代がありました。
人々はまだモノを持っていなかったので、まずは需要を満たすことが優先されていたからです。
しかし、市場にモノが行きわたり、私たちは個々の要望を満たしてくれる製品やサービスをより個人的なレベルで、ある意味でわがままに求めるようになりつつあります。
こうした世の中にあって、「かつて成功してきたビジネスモデル」や「成功のセオリーと言われてきた方法論」が通用するとは限らない時代になっています。
過去の事例がどうであったかではなく、今まさに目の前にある問題の本質を見極め、何が求められているのかを的確に見抜いていく必要があります。
固定観念や先入観をいちど取り払って物事に向き合い、本質を見抜いていく上で、クリティカルシンキングは有用な考え方の1つとされているのです。
経験則にとらわれず時代に即した意見・判断が必要とされているから
私たちは日ごろ、知らず知らずのうちに経験則に基づいた行動を取っています。ある行動が良い結果をもたらした場合、次も同じように行動すれば同じ結果が得られると考えがちです。
しかし、この思考には致命的な落とし穴があります。それは「前提が変わっていないとすれば」という条件付きであるという点です。同じ条件下で同じ行動を取れば、以前と同じ結果が得られるのは自然なことです。
ただし、前提そのものが変化して異なったものに変わっていたとすれば、同じ行動を取っても得られる結果は違ったものになる可能性が高いでしょう。
自分自身が経験し、体得してきた知見を疑うのは容易なことではありません。
価値があると信じてきた経験であればあるほど、いったんその考え方を否定した上で別の視点を取り入れるのは勇気が要るはずです。
この「視点の切り替え」をする際に、クリティカルシンキングが生かせると考えられているのです。
物事の本質を見極める力の重要度が増しているから
ビジネスには表層的・副次的な事柄が折り重なるように付随していきます。一見すると、目の前の現象そのものは表層的な部分を見て理解しておいたほうが現実に即しているように映ることもめずらしくありません。
しかし、物事の本質は表層的な現象とは異なる部分に隠されていることも多いものです。
物事をただ眺めていたのでは気づかないような本質を見抜いていくには、ときに前提そのものを疑ってかかる批判的なものの見方が必要になります。
まして、昨今のビジネス環境は複雑化しており、消費者のニーズも時々刻々と移り変わっていきます。
「今、何が求められているのか」を追いかけているだけでは、刻々と変化するニーズに応えるのが困難になっているのです。そのため、現象のより奥深くにある本質を追究し、概念化する力が求められるようになっています。
クリティカルシンキングでは物事の前提を批判的に捉え、検証することに重きが置かれます。本質を見極めていく上でクリティカルシンキングは欠かせないものになりつつあるのです。
クリティカルシンキングを身につけるメリット
クリティカルシンキングが世の中で注目されつつあるのは前述の通りですが、「自分自身が管理職としてクリティカルシンキングを身につけたほうが良いのかどうか」が気になっている人もいるはずです。
そこで、クリティカルシンキングを身につけることによって具体的にどのようなメリットがあるのか、ビジネスにおけるさまざまなケースを交えながら考えてみましょう。
クリティカルシンキングを身につけるメリット
- 意見の客観性を高め、問題解決の精度を上げることにつながる
- すでにある知見や教訓を実態に即して活用・応用しやすくなる
- 検討している事項の漏れや矛盾を見つけやすくなる
意見の客観性を高め、問題解決の精度を上げることにつながる
事例1:業務効率化のためにシステムを導入して欲しいと部下から要望された場合
部署内の定型業務を効率化するため、RPAの導入を部下から提案されたとします。
RPA導入によって業務をスリム化することは可能なように思えますが、それはあくまで個々の担当者レベルでの話です。
仕事の効率が向上しない原因は、実は担当者間の連絡が十分でなかったり、担当者間で作業が重複していたりすることにあるかもしれません。
この場合、「個々の担当者がどのように仕事をしているか」といった「点」の見方だけではなく、「部署全体として仕事の目的を効率的に達成できているか」といった「面」の視点が必要になります。
そもそも無駄な作業はないか、重複している業務はないか、といった視点で全体を俯瞰することで、「RPAを導入すべきか否か」以前の本質的な問題点に気づくことにもつながります。
検討の結果、RPAを導入することになったとしても、導入前の下地作りとして既存の業務内容を整理しておくことは必要不可欠です。
問題の本質をクリティカルシンキングによって追究することで、問題解決の精度をより高める効果がもたらされるはずです。
すでにある知見や教訓を実態に即して活用・応用しやすくなる
事例2:自部署の売上が芳しくない原因分析をする場合
自部署の売上が芳しくない場合、管理職としてその原因を分析し改善策を講じなくてはなりません。
このとき、管理職としての経験や知見が問題解決に役立つ場合もありますが、かえって経験が妨げとなり実態と乖離した結論に至ってしまう恐れもあります。
たとえば「売上が低迷しているのは客先への訪問数が不足しているからだ」と過去の教訓に基づいて判断したとしましょう。
訪問数を増やして活動量を確保することによって、ある程度は効果が見込めるかもしれません。
しかし、仮に市場のニーズそのものが変化しつつあるとすれば、活動量の増加に対して期待したほど効果が表れず、来期も業績が伸び悩むことも考えられます。
このようなケースでは「訪問数が多い担当者が好調に契約数を伸ばしている」といった事実に着目しがちですが、中には「訪問数が目立って多くないにも関わらず、毎月安定して成約している」という担当者もいるかもしれません。
全体の中では特異な事例だったとしても、その担当者が客先でどのような話し方・アプローチ・提案の仕方をしているのかヒアリングすることで、より少ない訪問数で効率的に売上を伸ばす方法が見つかる可能性もあります。
このように、すでにある知見や教訓を鵜呑みにするのではなく、より実態に即した形で活用する上で、前提をいちど疑ってかかるクリティカルシンキングが真価を発揮する場合があるのです。
検討している事項の漏れや矛盾を見つけやすくなる
事例3:新卒採用に苦戦したため、中途採用へと舵を切ることにした場合
優秀な新卒生の確保は年々厳しさを増していると言われています。新卒の大手志向が強まる中、中途採用の通年採用への切り替えを検討する企業も増えているのではないでしょうか。
ただし、「新卒採用に苦戦したのは新卒生の大手志向が原因」と結論づけてしまうのは性急かもしれません。
求人広告の打ち方や広報に課題点はなかったか、そもそもどのような人材の採用を目指すのか採用方針がきちんと固まっているのか、ていねいに見直しておかなければ中途採用でも同じ轍を踏む可能性があります。
新卒にとって魅力的に映らない求人は、転職希望者から見ても魅力的でない場合があるからです。
人材採用のように多くの企業が同じ問題を抱えやすい事柄の場合、「世の中全体がそうであるから」「どこの企業も苦戦しているので」といったように、外部に原因を見出しがちです。
しかし、自社の内部での問題が本当にないのかどうか、方針の漏れや矛盾を見つける上でクリティカルシンキングを活用することができるのです。
クリティカルシンキングを習得・実践するには?
最後に、クリティカルシンキングを習得・実践するための具体的な方法について確認しておきましょう。
クリティイカルシンキングを習得するには、3つの要素からなる基本姿勢が求められると言われています。
クリティカルシンキングを習得するための基本姿勢
- 目的は何かを常に意識する
- 自他に思考の癖があることを前提に考える
- 問い続ける
それぞれどのような点に留意しながら実践すればいいのか、意識するべきポイントをまとめました。
物事の目的・ゴールは何か?を常に意識する
私たちは常日頃、すでに顕在化している出来事や現象に目を奪われがちです。
しかし、目的を達成するには可視化されている個々の問題に対処するだけでは不十分なことが少なくありません。
事象のより奥深くにある本質を捉え、何が根本的な原因を形成しているのかを考えることによって、結果的により効果的な解決策が見つかることは十分にあり得るのです。
クリティカルシンキングを実践する上で、物事の目的やゴールを見据えておくことは非常に重要です。
ビジネスの現場で解決すべき課題は多くの小さな問題が複雑に入り組んでいることが多く、ともすれば議論のための議論がなされてしまったり、目的の達成とは無関係の議論に終始してしまったりすることにもなりかねないのです。
クリティカルシンキングを実践するには、そもそもの目的や理念に立ち返って考えることが求められます。
目の前の問題(らしく見える事象)に振り回されることがないよう、中長期的な目標や事業理念、組織として目指しているあり方といった原点に立ち返り、根本的に問い直していくことを常に意識しましょう。
自分や他者の思考には癖や偏りがあることを前提とする
物事を俯瞰的・客観的に考えることはクリティカルシンキングを実践する上で重要なことですが、人の思考にはそもそも個々の癖や偏りがあることも忘れるべきではありません。
これは自分自身についても同様で、いかに客観性をもって考えようと試みたとしても、その思考には主観が入っていることを前提に考えていくべきなのです。
クリティカルシンキングを実践する上で、自身の考えに自信を持つことは時として思考の妨げになる場合があるのです。
同様に、他者の主張や意見についても(立場やキャリアによらず)主観に基づいている面があることは、しっかりと認識しておく必要があります。
実践しやすい方法としては、できるだけ立場を入れ替えて考える習慣を身につけることです。
上司と部下、自社と取引先、顧客と供給者といったようにそれぞれの立場を入れ替えて考えた場合、どのように利害関係が変化するのか仮説を立てていくのです。立場が固定化されれば視点も固定化されがちになります。
複数の立場から事象を検証するよう心がけておくと、思考の柔軟性を維持することに役立つはずです。
思考をストップせず、問い続ける・考え抜く
ここまで見てきて分かる通り、クリティカルシンキングには終わりがなく、決定的な正解も存在しません。
どのような緻密な思考であっても必ず主観が入り込んでいますので、主観や先入観を隈なく探そうとすれば、まるで終わりのない「粗探し」や「揚げ足取り」のようになってしまうような気がするかもしれません。
クリティカルシンキングはそもそも「正解」に到達するための思考法ではなく、視点が固定化されることを防ぎ複数の視点を持ち続けることを目指す思考法です。
つまり、思考を止めることなく問い続け、考え抜くことこそがクリティカルシンキングを実践する上で求められる姿勢なのです。
クリティカルシンキングを実践し続ける限り、出された結論を批判的な視点で検証し続けなくてはなりません。
たとえその繰り返しの中で決定的に「正しい」と思える結論が出なかったとしても、物事を多面的に捉えて検証を重ねてきた成果は、思考の深さとなって実を結んでいくはずです。
まとめ)クリティカルシンキングを理解して管理職としてレベルアップを図ろう
クリティカルシンキングの訳語である「批判的思考」からは、あたかも物事を批判的に論じる批評家のような、ネガティブな思考をイメージしがちです。
しかし、今回紹介してきたクリティカルシンキングの意味やメリットを知ることで、批判的思考とは決して「批判」に終始するような思考法ではないことがお分かりいただけたのではないでしょうか。
むしろクリティカルシンキングを実践することによって、物事を画一的に捉えてしまったり、先入観によって判断を下してしまったりするリスクを抑えることができるのです。
クリティカルシンキングを理解し、実践を試みることによって管理職としての思慮や思考の深さに磨きがかかり、マネジメントスキルのレベルアップを図ることにもつながるはずです。
クリティカルシンキングを日々の仕事で実践し、管理職としてさらなる成長へとつなげていきましょう。
おすすめ記事
こんなお悩みはありませんか?
- 今のままキャリアを積んで行くべきか迷っている
- もっと活躍できる場所がある気がする
- 転職するか、今の会社に留まるかどうするべき?
満足できるキャリアパスを見つけるためのヒントをご紹介します。
<スポンサーリンク>