管理職なら知っておくべき「デザイン思考」の話
[最終更新日]2022/12/15
ビジネス関連の話題において「デザイン思考」という言葉を耳にすることが多くなっています。
管理職の皆さんは、おそらく一度はデザイン思考という言葉を耳にしたり、その概念についての解説を読んだりしたことがあるはずです。
AppleやGoogleといった名だたるグローバル企業が活用し、画期的な製品を作り出してきたと言われるデザイン思考。
これからのビジネスを考える上で欠かせない重要な思考と言われる一方で、「デザイン」という言葉がビジネスパーソンに縁遠いものに感じられたり、誤解を生じさせたりしやすい面も持ち合わせています。
そこで、この記事では管理職の方々であれば理解しておきたい「デザイン思考」の概要について解説していきます。デザイン思考について理解する上で役立てていただければ幸いです。
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Index
目次
ビジネスで活かしたい「デザイン思考」とは?
矛盾するようですが、デザイン思考を理解する上で超えなくてはならない最初のハードルが、実は「デザイン」という言葉なのです。
デザインという名称であることで、受け取る人によって印象が大きく左右されやすく、場合によっては「自分にはあまり関係ないこと」「デザイナーが考えるべきこと」といった誤解が生じてしまいかねません。
まずはデザイン思考の本来の意味と、誤解してはならない「デザイン」との違いについて確認しておきましょう。
デザイン思考における「デザイン」の意味
デザイン思考は英語でDesign Thinkingと表されます。デザインという言葉から多くの人が連想するのは、プロダクトの形状を考案したり、ユーザビリティに配慮して改良したりといった、いわゆる工業デザインのことでしょう。
しかし、デザイン思考における「デザイン」は、こうした限定的な意味で用いられているのではありません。
designとは、本来「設計」を意味する言葉です。
順序立ててプロセスを組み立て、それに沿って製作を進める概念そのものを指しています。
デザイナーがデザインを生み出す際に用いているアプローチを、ビジネスに活かしていこうというのがデザイン思考のそもそもの考え方なのです。デザインするという「行動」レベルのことではなく、そこで用いられている思考やマインドを活かそうとしていることがポイントです。
一般的な「デザイン」と混同すると誤解が生じやすい
優れたデザイナーは、ほぼ間違いなくデザインの過程においてデザイン思考を駆使していると言われています。
しかし、一般的なビジネスパーソンにとって「デザインとは何か」を深く考える機会は多いとは言えないことから、「右脳的な発想」「アートの方面の考え方」といった誤解が生じやすい傾向があります。
デザイナーがプロダクトのデザインを考案する場合、アイデアや着想は「自然と湧き出てくる」ものではありません。
ユーザーが求めているもの、場合によってはユーザー自身がまだニーズに気づいていないものを探り当て、形にしていく必要があります。
この過程において必要とされるのは、表面的な装飾ではなく本質的な課題の発見とその解決策です。このように、デザインそのものが「思いつき」や「個人的な感性」によって成立しているわけではないことを押さえておく必要があります。
デザイン思考が活用された有名な事例
デザイン思考が活用された有名な事例にAppleのiPodがあります。iPod以前の音楽プレーヤーは、ウォークマンなど小型の端末に音楽データを取り込むのが一般的でした。
Appleが既存の製品とユーザーの行動を観察・分析した結果、ユーザーはCDからPCへ音楽データを保存し、さらにプレーヤーにデータを移行した上で利用している実態が見えてきました。
ユーザーが本質的に求めている体験とは「音楽データを移し替える手間をかけず、どこでも自由なタイミングで好きな音楽を楽しめる」ことなのではないか、という仮説が成り立ったのです。
現在ではクラウドを経由してごく普通に利用されている技術ですが、当時としては「PCと音楽プレーヤーを同期させる」というアイデアは非常に画期的なもので、それまでの業界・人々の常識にはないものでした。
「こういうもの」「こうあるべき」という常識や慣習をいったん取り払い、本質的な意味でユーザー視点に徹した結果、これまでにない画期的なアイデアを創出することへとつなげるのがデザイン思考なのです。
なぜデザイン思考が重要視されつつあるのか?
デザイン思考は、ともすると「ユーザー視点に立って考える」「プロセスを意識する」といった、ビジネスの世界において従来行われてきた考え方と同じもののように映るかもしれません。
では、なぜ今このタイミングでデザイン思考が注目され、これからのビジネスにおいて重要なものと位置づけられるようになったのでしょうか。
デザイン思考が重要視されつつある背景としては、主に次の3点が挙げられます。
- テクノロジーが進歩し消費行動が変化しているため
- ユーザーの深層心理に迫り潜在ニーズを発見する必要があるため
- モノではなく体験を創り、提供する必要があるため
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
テクノロジーが進歩し消費行動が変化しているため
20年ほど前まで、製造業の役割は「製品を作ること」でした。メーカーは競合他社が発表していない製品を考案し、新商品として発表することで、消費者は「○○社の新製品を試してみよう」と考えて購入していたわけです。
市場を主導していたのはメーカー側であり、消費者は「より便利になった」「従来品よりも進歩した」とメーカーが謳う製品を受動的に購入していたことになります。
しかし、現在では数多くの製品が供給され、市場に行きわたったことにより、ユーザーが「生活する上で著しく不便や不自由を感じる」といった場面があまり見られなくなりました。
ユーザーが求める「次なる体験」は個々のユーザーごとに細分化されていき、供給する側は「どのような人に何をどうやって届けるのか」を狙い定める必要に迫られるようになりました。
時々刻々と変化する消費者の嗜好やニーズを的確にくみ取るためには、徹底的にユーザー視点に立って考え抜く必要があるのです。
ユーザーの深層心理に迫り潜在ニーズを発見する必要があるため
私たち消費者は、一般的には「より便利なもの」「より快適なもの」「より楽しいもの」を得るために対価を払うと考えられています。
しかしながら、具体的にどんなものが欲しいのか、消費者自身も言語化できていないケースがほとんどではないでしょうか。つまり、消費者のニーズは顕在化していないものが大半であり、そもそも消費者が本当は何を求めているのかを見極める必要があります。
フォード・モーターの創設者ヘンリー・フォードは、次のように述べています。
“If I had asked people what they wanted, they would have said faster horses.”
「もし私が人々に何が欲しいかを聞いたとすれば、彼らは『もっと速い馬』と答えただろう」
自動車というプロダクトが存在しない時代、人々が求めるものを聞いて回っただけでは、より速い馬や馬車という答えしか返ってこなかっただろう、と言うのです。
人々が求めているのはより便利で快適、かつ速い移動手段であり、「移動する」という本質を捉えることができれば、プロダクトは馬車にこだわる必要がないことが見えてくるわけです。
モノではなく「体験」を創り、提供する必要があるため
私たちが旅行をするとき、旅先における「体験」を得るために対価を払っています。
旅行会社が提供するツアープランを利用することがあるかもしれませんが、ツアープランという商品が欲しいのではなく、そのプランを利用することで最大限の「体験」を得たいと考えるからこそ、ツアープランに申し込んでいるはずです。
このように、私たちは商品そのものが欲しいのではなく、その先にある「体験」を求めているのです。
商品を供給する側は、供給側の論理で新商品を考案しがちです。
すなわち、競合他社の商品の弱点を解消した商品、従来よりもコストパフォーマンスに優れた商品、性能を向上させた商品、といった発想に限定されやすいのです。
これらは商品という「モノ」を中心とした発想であり、商品を通じてどのような体験を提供できるかという本質的な部分の議論が抜け落ちていると言わざるを得ません。
ユーザーの「体験」にフォーカスし、商品を考案するには、ユーザーの立場に立ち、プロダクトの本質的な部分から再定義して考える必要があります。このとき重視されるのが「デザイン思考」なのです。
デザイン思考の5段階を理解しよう
デザイン思考の源流は、1996年にアメリカの政治学者、認知心理学者、経済学者であるハーバード・サイモン教授が発表した『システムの科学(The Sciences of the Artificial)』と題された論文にあります。
その後、SAP社の共同創業者であるハッソ・プラットナー氏が投資したことで知られるスタンフォード大学デザインスクール「d.school」において、「デザイン思考の5段階」が提唱されました。
上の図のように、デザイン思考は次の5段階のプロセスを経ると定義しています。
- Empathize:観察・共感
- Define:問題定義
- Ideate:概念化
- Prototype:プロトタイプの作成
- Test:検証による課題解決
各プロセスの意味するところを見ていきましょう。
観察・共感(Empathize)
ユーザーの立場になって、ユーザーの行動とその心理を理解するプロセスです。
理解するためには、まずユーザーをよく観察し、どのような行動を取っているのかという事実を確認ことが大切です。このときただ観察するのではなく、1つ1つの行動に共感することによって、ユーザーの行動の背景にある心理を理解することにつながります。
このプロセスを踏むことで、業界の常識や慣例の枠組みを取り払って発想することに役立つだけでなく、ユーザー自身も気づいていない潜在的なニーズをくみ取ることへとつながっていきます。ユーザーの信条や価値観といった深いレベルで行動・心理を理解することが大切です。
問題定義(Define)
問題定義とは、ユーザーの行動を観察し共感した結果、見えてきた課題を抽出し、何を解決すべきなのかを明確化するプロセスのことです。
ユーザーが解決すべき課題や直面している困難に対して、どのようにテコ入れすれば解決あるいは改善できるのかを見出し、問題定義します。
問題定義のプロセスは、この後に続くアイデアの発想やプロトタイプの作成へと直結しますので、非常に重要な位置を占めています。
問題定義によって解決すべき課題を絞り込み、何を課題と捉えるのかという方向性を定めることになります。ユーザーの行動を観察した結果、「なぜそうであるのか」と自問自答をくり返しながら問題を絞り込んでいく手法がよく用いられます。
概念化(Ideate)
問題が定義されると、多くの人は「その問題を解決するためのプロダクトを創ろう」といった考え方に行き着きます。
しかし、本当の意味でユーザーの課題を解決するのであれば、ユーザーが抱えている課題と1対1で対応する解決策を提示することが最適解とは限りません。
前出のヘンリー・フォードが「速い馬車」を創ろうとしなかったように、より根本的で本質的な解決策があるという前提で考えます。
選択可能な限りアイデアの幅を押し広げ、従来の発想に囚われずにアイデアを探究するのです。ありきたりな解決策からはいちど離れ、ゼロベースで解決策を摸索することが重要です。
プロトタイプの作成(Prototype)
プロトタイプは「試作品」と訳されることがありますが、完成に向けた原型を製作することがプロトタイピングの目的ではありません。最速で具現化し、いったん形にすることで、より具体的に考えるために作るのです。
プロトタイプは、概念化されたアイデアが形として現実の空間に現れたものです。
100の言葉を使って議論を尽くすよりも、100枚の絵や画像を見ながら議論したほうがチームの対話が活性化するように、具体的なものの形にすることでチームの議論が加速したり、ユーザーに直接感想を聞いたりしやすくなります。
プロトタイプはスピードが命です。1つのプロトタイプを作り込み過ぎて愛着が湧いてしまうと逆効果ですので、長い時間をかけることなく形にしてしまうことが大切です。
検証による課題解決(Test)
検証とは、プロトタイプを実際にユーザーに使ってもらい、フィードバックを得ることを指します。
実際にユーザーに触れてもらうことにより、提供しようとしている解決策の軌道修正を行ったり、場合によっては問題定義に立ち戻ったりする必要性に気づくことができます。
さらに、検証は貴重な観察と共感の機会でもあります。ユーザーについていっそう詳しい情報を得るチャンスであり、予期していなかった着想を得たり、新たな気づきを得たりする機会になり得るのです。
そのため、検証においてはプロトタイプに関する仔細な説明をあえて行わず、ユーザーにただ手渡して使ってもらうといったユーザー主導の進め方にすることがポイントです。
デザイン思考において誤解されやすい3つのポイント
ここまで見てきたように、デザイン思考は深いレベルでユーザーの認知・行動を知るために駆使されることから、一般的な考え方や認識とは違ったプロセスを経ることがあります。
そのため、デザイン思考は一歩間違えると単なる「プロセス」「仕事の進め方」といったものになってしまいがちです。
デザイン思考は「思考」という名称の通り、方法論ではなくマインドセットです。デザイン思考の5段階に示されたプロセスを誤解することなく、本質を理解してビジネスに活かすことが大切なのです。
そこで、デザイン思考において誤解されやすい3つのポイントについて確認しておきましょう。
ユーザーの顕在化したニーズを「調査」することではない
ユーザー目線、ユーザーの立場に立つ、といった言葉は、ビジネスの現場においてよく聞かれます。
一般的にユーザーを理解するためには、市場調査を行うなどユーザーの声を聞くのが最も効果的と考えられています。
しかし、ユーザーにヒアリングを行って得られる情報は、すでに顕在化しているニーズに他なりません。
ユーザーは自分自身が何を求めているのか、具体的なプロダクトの形で伝えることができません。iPodの発表前に「どんな音楽プレーヤーが欲しいか」とユーザーに聞いてもiPodという答えが返ってくる可能性はゼロだったように、ユーザーへの綿密な調査がニーズに応えるための最適解を導いてくれるとは限らないのです。
ユーザーの立場に立って考えることを「お客様の要望を一言一句実現する」などと誤解してしまうと、かえってユーザーの本質的なニーズを見失ってしまう恐れがあります。
概念化やアイデア創出よりも「問題定義」こそが重要
デザイン思考という呼称から、「創り出す」ことに重きを置いて考えている人もいるかもしれません。
しかし、概念化やアイデア創出の段階でユーザーの本質的なニーズを捉えた着想を得るには、そもそも前段階での「問題定義」が的確に行われている必要があります。
問題定義はデザイン思考の要と言ってもいいほど重要な位置を占めており、ここで課題の方向性を見誤らないことが優れたアイデアやイノベーティブな発想へとつながるのです。
そのため、チームで問題定義について話し合う際には「奇妙に聞こえる意見」を潰さないことが大切です。
一般的な考え方ではピントがずれていると思えるような指摘であっても、ユーザーの課題解決においては最適解へとつながる指摘である可能性も捨てきれないのです。
デザイン思考の5段階はプロセスを厳守するためのものではない
デザイン思考には5段階のプロセスが存在することについては前で触れました。
プロセスと聞くと、1つ1つの工程を順に進めていく直線的なイメージを持つかもしれませんが、デザイン思考における各プロセスは相互に関わり合っており、異なる段階を行き来することもあれば、前のプロセスへと何段階も飛ばして立ち戻ることもあり得ます。
「プロセスがあるのだから、その通りに厳守すべきではないのか」と思う人もいるかもしれません。
重要なのはプロセスを守ることではなく、今現在どの段階にあるのかを意識しておくことなのです。
チームが今どのフェーズに位置しており、プロダクトの開発までにどのような段階を踏む必要があるのかを共有できていることこそが大切です。
まとめ)デザイン思考をビジネスの問題解決に役立てよう
デザイン思考は、従来の発想では解決策を見出せなかった困難な課題に対峙する際、突破口を見つけることにつながり得るアプローチです。
伸び悩んでいる事業や部門においてはとくに、問題解決に役立つ新しいアイデアを創出するために役立つ可能性がある考え方と言えます。
ただし、この記事で触れてきたように、従来の一般的なビジネス論とは異なる思考を要する部分も多々あることから、デザイン思考についてしっかりと理解した上でビジネスに役立てることが大切です。
「デザイン思考の5段階」の各プロセスをはじめ、その活用方法に関しても、誤解によって方向性を見誤らないよう注意しながら活用する必要があります。
デザイン思考は業種や職種の縛りのない汎用的な考え方です。デザイン思考をビジネスの問題解決に役立て、新しいアイデアの創出へとつなげていきましょう。
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