なぜ組織は変われないのか?全ビジネスパーソンが知っておきたい「組織変革」
[最終更新日]2022/12/15
会社の業績をアップするためには、それを支える組織が強くあることが不可欠です。
目標に向かって前向きに取り組むという雰囲気がない部署の場合、達成するのは難しいのが現実です。
管理職のなかには、自分が率いる組織を変えたいと努力している人もいるはずですが、実際に成果が出るのはごく少数であると言われています。
そこで今回は、なぜ組織が変われないのか、そして組織を変革するためには何をすべきなのかについて、お話ししたいと思います。
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目次
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なぜ組織・チームは変われないのか?
時代の流れが速くなり、ビジネスでも多様化が求められる現代、会社組織もそれに即して変化することを余儀なくされています。
人間の脳は一生を通じて環境に適応することがわかっていますが、そのレベルには個人差があり、すべての組織やチームが状況に応じて変われるとは限りません。
では、なぜ変われない組織やチームがあるのでしょうか。
まず、その理由を考えることから始めてみましょう。
組織が「変わらない」5つの理由
企業の業績アップのために、経営陣から結果を出す組織運営を求められた場合、管理職はそれを部下と共有し、組織変革を進めようとします。
ですが、部下のすべてがその方針に賛同し、協力してくれるわけではありません。
2013年、アメリカのハーバード大学の教授であるロバート・キーガン氏が、「なぜ人と組織は変われないのか」という本を出版しました。
そのなかに「人は変革を望みながら、無意識に変革を拒んでいる」という一節があります。
そして変革を拒む際に人は、さまざまな理由づけを行うのです。
組織が変わらない理由の例を、いくつかあげてみましょう。
- 日々の業務が忙しい(ほかのことを考えている暇がない)
- 意見交換のコミュニケーションが少ない
- 長期的なビジョン・ロードマップが不透明
- 官僚主義、社内派閥といった企業風土がある
- 多くの人に「現状維持バイアス」が働いている
組織を変えるためには、これまで慣例化されていたやり方やルールを見直したり、改善点を考え、それをメンバー間ですり合わせ、共有するというプロセスが不可欠です。
仕事を通して成長したい、スキルやキャリアをアップさせたいというスタッフであれば、組織変革にも積極的に取り組むものです。
しかし組織のなかには、忙しい職場で日々の業務に追われていて、これまでとは違う作業に取り組むことに心理的な抵抗が生まれて、無意識に変革を拒んでいる人もいることでしょう。
また組織内のコミュニケーションがとれておらず、上意下達の官僚主義や社内派閥が浸透している会社であれば、前向きなディスカッションを行うのは難しくなります。
更には、企業の長期的なビジョンやロードマップが不明瞭であった場合、そもそも何のために組織を変えていくかを理解・納得することも困難になるでしょう。
こういった理由によって、「(変えようと思っても)組織が変わらない」といった状況が続くのです。
「変わらない組織・チーム」を変えていく、「組織変革」とは
組織やチームを変えていくことを、「組織変革」といいます。
組織変革とは、具体的には「組織の構造や運営方法だけでなく、文化も含めて見直して、抜本的に改革すること」を指します。
かつては、社員一人ひとりのスキルが上がれば、組織力も同様に高まっていくと考えられていました。
しかし現代の複雑性や曖昧性の高い社会にスピーディーに適応するためには、個人が成長するだけでなく、組織自体もまた成長していくことが求められます。
それは、現代ではそれぞれの組織が自律的に変化に適応し、新たな価値を創造するのはもちろん、組織間の関係強化に努め、シナジーを追求しなければ、世の中に求められる仕事ができないと言われているからです。
経営者だけでなく、管理職もそうした視点にたって、組織運営を行うことが求められています。
組織変革は、現状を「解凍」するところから始まる
これまでの文化にとらわれず、組織を変革したいなら、意欲だけでやみくもに取り組んでも、うまくいきません。
組織内が混乱しないように配慮しながら、手順を踏んで進めていく必要があります。
その際に参考にしたいのが、社会心理学の父と呼ばれたクルト・レビン氏の「組織変革のプロセス」です。
その内容について、詳しく説明します。
「解凍」「変革」「再凍結」──レビンの3段階変革プロセス
レビンの「組織変革のプロセス」では、「解凍」「変革」「再凍結」という3つの段階が必要だと説いています。
この背景には、組織が変革に抵抗する要因が「現状が均衡状態」であることがあげられるようです。
均衡状態にある組織を打破するのは、それほど簡単なことではありません。
それは1981年に、当時GEのCEOであったジャック・ウェルチ氏が語った言葉にもあらわれています。
その言葉とは、「組織の階層はセーターと同じように遮断の役目を果たす」というものです。
セーターを何枚も重ね着すれば外気の寒さを感じ取りにくいように、組織が均衡状態に陥っていると、その問題点に気づきにくいということです。
では、「解凍」「変革」「再凍結」という3つのプロセスについて、具体的に説明していきましょう。
LEWINの変革プロセス
①解凍 | 組織の構成員に変化の必要性を理解させ、既存の価値観の破壊と変化への準備をさせる |
---|---|
②移動 | 新しい行動基準や考え方などの具体的な導入プランを実施し、同時に構成員に学習させる |
③再凍結 | 導入した変化を浸透・慣習化させる |
解凍
組織を変革するためにはまず、均衡状態から脱却しなければなりません。
私たちが社員に向けて「組織を変革していこう」と促す場合、「今後の仕事は現状の組織文化が通じなくなる」「組織が変わらなければ経営状態の悪化につながる」など、なぜ現状(均衡状態)を打破する必要があるのかについて、理解と納得を得る必要があります。
その際、提示する現状認識に正当性があることも同時に伝えるのがセオリーです。
それらの作業は、いわば凝り固まっている既存の組織風土や価値観、仕事の進め方という文化をまずは「解凍」し、バラバラにすることです。そしてそういった行為が、組織変革のスタートとなるのです。
とはいえ、均衡状態を打破しようとすると、周囲からはそれを抑制しようとする力も働きます。
これまでの風土や価値観を大切にしている(ときに縛られてもいる)人達からすると、その変革は「求めざるもの」であり、理解と納得を得ることは困難でしょう。
ですが、それらの人達に根気強く向き合っていくことも、この「解凍」のフェーズでは求められるのです。
変革
組織変革のプロセスの第一段階である解凍がうまくいくと、メンバー内で変革の必要性が共有されます。
しかし、組織変革の必要性を認識しても議論に終始するだけで、何も行動しなければ、何も変わらないまま元の状態に戻ってしまいます。
そうなると、議論に費やした時間がムダなものに感じられるほか、「話したところで何も変わらなかった」という事実だけが残り、社員が無力感を味わい、企業の成長を失速させる要因になりかねません。
そこで「変革」のプロセスでは、実際に新しい考え方や仕事の進め方を学習します。
組織を変革していくにあたって、関わる人たちそれぞれがどんな役割を担うべきか、その連携によってどんなことができるかを探求し、学んでいくのです。
その際は、足りないスキルを補う人材教育プログラムを利用するのもよいでしょう。
学習を通して新たな価値観を知り、それを組織内で共有することで、メンバーの行動を少しずつ変えていくことを意識します。
再凍結
組織変革のプロセスの最終段階は、「再凍結」です。
「変革」のプロセスで学んだ新しい考え方や仕事の進め方、価値観などがその後も長く維持されるように定着化・慣習化させることを目指します。
新しい考え方や仕事の進め方を学び、それが運用ルールとなっても、部下全員が納得して行っているとは限りません。
定着するまで気長に続けることももちろん大事ですが、部下自身が「命令あるいは指示されたから仕方なくやる」のではなく、新たな価値観で成功事例が出ることで「自分も成果を出すために前向きに取り組む」という意識になってこそ、「再凍結」が完了したといえるのです。
そのためには、組織内の成功事例を積極的に共有し、それを共感し喜び合える組織文化にしていく必要があります。
実際に、組織変革を実施する際の「8つのステップ」
組織変革を行う際には、手順を踏んで進めることが大切だと前述しました。
その手順を踏むにあたり、変革の障害になるものが8つあり、それをクリアするプロセスに着目したのが、ハーバード・ビジネス・スクールに席を置くジョン・コッター氏です。
レビンの3つの変革のプロセスより丁寧な「8段階のプロセス」を提唱しています。
前章の「解凍」・「変革」・「再凍結」という組織変革の流れを、「より詳しく追っていきたい」という場合は、こちらを参考にしていくと良いでしょう。
↓ | ①危機意識(緊迫感)を高める |
---|---|
↓ | ②変革推進のために連帯するチームを築く |
↓ | ③ビジョンと戦略を生み出す |
↓ | ④変革のためのビジョンを周知徹底する |
↓ | ⑤従業員の自発を促す |
↓ | ⑥短期的成果を実現する |
↓ | ⑦成果を生かして、さらなる変革を推進する |
↓ | ⑧新しい方法を企業文化に定着させる |
Phase1)危機意識を高める
ジョン・コッターの8段階のプロセスの第一段階は、「危機意識を高める」ことです。
組織変革というとどうしても社内に目が向きがちですが、企業として生き残っていくためには、業界動向や市場、競合の状況を分析し、自社がどんなポジショニングにいるかを知ることが不可欠です。
業界のシェア率や営業・利益のアップ率など、さまざまな指標がありますが、同業他社と比較した強み・弱みを分析し、そのままでは企業の成長につながらない、会社が衰退する可能性が高いといった危機感を感じれば、変革の必要性を認識できるはずです。
Phase2)変革推進チームをつくる
組織変革を進める際、メンバー全員が同じ熱量、同じペースで取り組むことはできません。
そのため、組織のなかでも変革を推進してくれるメンバーを選んで、チームをつくるのが第二段階となります。
変革推進チームのメンバーを選ぶときに、必要なスキルやキャリア、人脈、権限、人間性などが組織内で認められている人を選ぶのが望ましいとされています。
必要によっては、メンバーと個別に話をすることもあるので、コミュニケーションスキルの高さも求められます。
その後は、チームが結束して組織変革を進めるのです。
Phase3)望ましい未来に向けて、適切な「ビジョン」をつくる
組織変革チームが決まったら、まず目指す未来に向けて、適切な「ビジョン」を作成します。これが第三段階です。
このビジョンが組織のメンバーにとって、心躍るものであればあるほど、大胆な変革戦略が描けるようになります。
その際、単にビジョンを設定するのではなく、分析や財務についても十分に検討したうえで、計画の立案と予算の策定を同時に行うことも大切です。
そして掲げるビジョンには、変革を進めるにあたって、障害になりそうなシステムや組織構造を変え、失敗するリスクはあっても、これまで取り組んだことのないアイデアや行動が促されるよう配慮したいところです。
さらにビジョンは目に見えやすく、実現可能で、その方向性が示され、考えに柔軟性があり、誰でもコミュニケートしやすいことを目指します。
Phase4)変革のビジョンを周知徹底する(=ビジョン共有)
その組織が将来あるべき姿をビジョンとして明確化したら、次に行うのは第四段階である「周知徹底」です。
これから推進する変革によって組織として何を目指すのかについて、メンバーの琴線に触れるよう、わかりやすく行動に確信が持てるメッセージを伝えていくのです。
これは、会議の場で発表すればよいというものではありません。
変革チームメンバーの行動や個別のコミュニケーション、実践したことでの成功事例の共有など、あらゆるチャネルで行っていくのがポイントです。
変革に対する不安や不信を感じているメンバーについては、それらを取り除く働きかけも必要です。
Phase5)従業員の自発的な行動を促す(=自己組織化)
同じように働きかけをしても、組織内でそれを素直に実践する人と、過去の価値観に縛られて変わろうとしない人に分かれます。
組織で共有されているはずの変革に積極的に取り組もうとしないのは、気持ちに何かわだかまりがあるからです。
変革チームは、そうしたメンバーの気持ちに寄り添い、気持ちのわだかまりを解消するよう働きかけます。
疑念や不信といった、変革に対するネガティブな感情がなくなれば、ビジョンに心から賛同できるようになるものです。
その結果、メンバーの自発的な行動を促し、自己組織化が実現されます。
こうした従業員の自発的な行動を促すことが、第五段階となるのです。
Phase6) 短期的な成果を生む(=変革の実感を持つ)
ビジョンが明確で賛同できるものであっても、それだけでは机上の空論です。
ビジョンに向かって行動することできちんと成果が出ることを、短期間の間に証明することが大事です。これが、第六段階になります。
複数の組織目標のうち、短期間に一つでも達成できれば、変革に対する皮肉や疑念、悲観論を封じ込めてくれます。
そして、短期的な成果に対して、インセンティブなどが出れば、自分も続きたいと思うメンバーも増えるはずです。 それが、組織の雰囲気をよい方向に変えるきっかけになるはずです。
Phase7) さらに変革を推し進める(=PDCAサイクルとトライ&エラー)
短期的な成果が出て、それが自分にとってのメリットにもなるとメンバーが理解すれば、変革の推進がより加速します。
その結果、手を入れなかった組織構造やシステム、制度が変革にそぐわないことに気づくケースもあります。
そんなときには、さらなる変革を進めるために、再び組織構造やシステム、制度を見直しましょう。これが第七段階です。
また、組織変革を推進してくれる人材の採用やチームメンバーの昇格、能力開発を同時に行うことで、第一目標だった変革の再凍結化をはかります。
一つの変革が成功してもそれが終わりではなく、常に成長しようという意識を醸成するのです。
Phase8) 変革を根付かせ、「習慣化」する
組織変革のために新たなビジョンを掲げ、それまでと違う考え方ややり方に基づいて行動し、それが成果として現れれば、過去に引き戻される可能性は低くなります。
とはいえ、時代は常に動いており、企業は組織変革を続けることを余儀なくされます。
そのため、成功体験のあるメンバーを、社内の各階層の変革チームのメンバーあるいはリーダーとして抜擢し、後進を育てるという新しい役割を与えるのも一つの方法です。
そうした企業風土ができあがれば、変革することが組織に根付き、習慣化していきます。これが第八段階です。
それが企業文化となれば、集団の規範や価値観はきっと強化されるはずです。
組織変革は、「成功/失敗」を意識するのではなく、変わり続ける「プロセス」を重要視する
さて、ここでひとつ考えてみたいと思います。
とある組織で「組織変革」を取り組んで、一年の月日が経って大きな目に見える変化がなかった場合(更にはその間業績が下がってしまった場合)、その組織変革は失敗したと言えるのでしょうか。
答えは、YESとも言えますし、NOとも言えます。
そもそも組織変革は、「成功/失敗」を意識するものではなく、「変え続けていこう」というプロセス自体を指しているのです。
たとえ組織変革での取り組みが思わしく進まなかったとしても、人はその経験から新たな気付きや教訓を得ることもできるはずです。つまり、「組織変革がうまく行かなかった」という事態が起きたとしても、「ではどうするか」と考えて、組織変革の流れを止めずに推進していくことが大切なのです。
では、目の前の成功・失敗に意識が拠りがちにならないように、組織変革を絶えず行っていく為には、どんな意識や考え方があると良いかについて、見ていきましょう。
組織変化を推進していく際に、意識していきたい「グロース・マインドセット」の考え
心理学の権威として名高い、スタンフォード大学のキャロル・S・ドゥエック博士が提唱し、ビジネスでの人材育成に生かされている思考があります。
それが「グロース・マインドセット」と「フィックス・マインドセット」という、対極に置かれた思考です。
「グロース・マインドセット」は成長しやすい思考、「フィックス・マインドセット」は成長しにくい思考と捉えると簡単です。
仕事のうえで、上司に厳しく指導された場面を例にあげて考えてみましょう。
「グロース・マインドセット」の人は思考がしなやかなので、指摘された部分を「自分で気が付かないところに気づけたから、これを成長のチャンスにできる」と捉えます。
一方の「フィックス・マインドセット」の人は思考が膠着しているので、「自分の出来の悪さを指摘された」と感じてしまうのです。
また「グロース・マインドセット」の人はどんなときでも正面から向き合い、トライ&エラーをくり返しながら学習していきます。
しかし「フィックス・マインドセット」の人は、解決方法が見つからない難問を避けて通ろうとします。
同じ人間であっても、「グロース・マインドセット」と「フィックス・マインドセット」を行ったり来たりしているので、できるだけポジティブな思考でいるように、心掛ける必要があります。
組織変革を進めるうえで、「グロース・マインドセット」が大切だからです。
管理職であれば、部下の「グロース・マインドセット」を引き出す言葉がけを意識することで、組織変革のスピードアップにつなげられる可能性があります。
きちんとプロセスを経ることで組織変革はできる!
今回は、なぜ組織が変われないのか、組織変革するためには何をすべきなのかについて、お話ししました。
この記事をまとめると
- 人には無意識に変革を避ける傾向がある
- 組織変革は現状を打破することから始まる
- 組織変革は手順を踏んで進めなければ成功しない
- 組織変革は成果だけでなく、変わり続けるプロセスを重視すべき
の4つです。
強い組織をつくり運営していくうえで、管理職一人でできることには限りがあります。
部下と一緒に学び協働するなかで、周囲にプラスの影響を与えられる人を育成することが、組織変革を進めるうえではとても大事です。
この記事から、組織変革を進めるヒントを見つけてくれたら幸いです。
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