「CSR」は社会貢献ではない?本来の「CSR」の意義・役割、そして「CSV」とは?

[最終更新日]2022/12/15

お役立ち情報
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CSRCSVについて、どのぐらいご存知でしょうか。

●おおよそどんなものか理解している
●聞いたことはあるものの詳しく知らない
●CSRは分かるがCSVは分からない
●どちらもよく知らない

これからの企業のあり方を考える上で、CSRの意義・役割やCSVとは何かを知っておくのは非常に重要なことです。この記事では、CSRとCSVとは何か、これらが組織にもたらすメリット、さらには実際に取り組んでいる企業の事例を紹介しています。CSR・CSVについて理解を深めていきましょう。

Index

目次

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CSR(企業の社会的責任)とは?

CSRに対する漠然としたイメージとして、「企業が環境保護などの社会貢献活動に携わること」「企業イメージの向上」などを真っ先に連想した人がいるかもしれません。これらのイメージはあながち間違いではないのですが、現在CSRが注目されている本質的な理由を理解するには十分とは言えません。

まずはCSRの本来の意味合いや生まれた背景について理解を深め、企業経営においてなぜCSRが注目を集めているのかをしっかりと確認しておきましょう。

CSRの意味・役割

CSRとはCorporate Social Responsibilityの頭文字を取ったもので、企業の社会的責任を意味しています。

企業のそもそもの目的は営利活動であり、売上をあげ株主に利益を還元することが企業活動の本質と長らく考えられてきました。しかし、企業の成長に伴って社会的な役割も大きくなり、消費者や株主だけでなく従業員、取引先、さらには地域住民も含めた多くの人に影響を与えるようになっていきます。

すると、企業経営者は自社の売上や利益のことだけを考えていればいいのではなく、社会的な責任も求められるようになっていきます。「企業は社会の公器である」と言われることがありますが、まさにこの考え方がCSRの根本にあると言えます。

社会の公器である以上、法令を遵守した経営を行うのはもちろんのこと、人権侵害や環境問題に対して配慮することが求められます。このように、CSRは企業活動が営利目的から拡張され、より社会的な意味合いを帯びた結果、生まれてきたものと考えていいでしょう。

なぜCSRが注目されているのか

近年、企業を取り巻く社会状況は大きく変化しています。企業経営層の不祥事が報じられ、企業のモラルや法令遵守に対して世の中の目が厳しくなっているのは間違いありません。

また、環境問題が深刻化する中、各社が私利私欲のためだけに利益を追求し続けているようでは、近い将来、事業の存続そのものが困難になってしまうのではないか、といった危機感が芽生えつつあります。

そのため、企業が自社だけではなく、より広い視野で社会全体に及ぼす影響や社会的な役割に自覚的になり、さまざまな取り組みをしていることを公表するようになってきたのです。

また、CSRを重視することで企業の内部統制やリスクマネジメントにつながったり、結果的に経営の効率化に結びついたりすることも少なくありません。

他にも、ダイバーシティへの配慮を重んじることは、優秀なグローバル人材を確保する上で必須条件となるなど、CSRへの取り組みは企業にとって多くのメリットをもたらすことが分かってきました。こうして、CSRに取り組むことが回り回って自社のためになるという考え方が広く浸透するに至ったのです。

新しい経営戦略CSVについて

多くの企業がCSRを重視している理由はご理解いただけたでしょうか? 近年では大手企業にCSRを担う部署が置かれていることも決してめずらしくなくなっています。もしかしたら、読者の方の中にも「うちの会社でもCSRに取り組んでいる」という方がいらっしゃるかもしれません。

ところで、CSRと似て非なる「CSV」という概念についてはご存知でしょうか。ここからは、企業の新しい経営戦略として注目を集めているCSVについて見ていきましょう。

CSVが提唱されるようになったワケ

企業活動は、世の中に大きなインパクトを与えます。多くの人に認知されている企業が社会的課題解決に積極的に関わり解決していくことができれば、世の中はより良くなっていくのではないか、という期待が高まっているのも必然の状況と言えるでしょう。

企業は一過的に利益をあげられればいいわけではなく、持続的に成長し繁栄していく必要があります。企業としての社会的責任という観点からも、事業を将来にわたって長く続けていくことが社会貢献につながるという考え方は理に適っています。

そこで、一見すると儲けにつながらないようにも思える取り組みであっても、長い目で見ると企業としての価値を高め、結果的に収益向上へと結びついていくという考えのもと提唱されるようになったのがCSVなのです。

従来は「いかに利益をあげているか」を重視してきた投資家も、持続的に利益をあげられる企業はこうした考え方で将来にわたる収益向上を目指している企業に高い投資価値を見出だすようになってきたのです。

CSRとCSVは何が違う?

ところで、CSVは前出のCSRとどう違うのでしょうか。大きく異なるのは次の2点です。

  • CSRが法令遵守など「守り」であるのに対して、CSVは積極的に事業価値を高める取り組みである点
  • CSRが本業と必ずしも関わりがないケースがあるのに対して、CSVは事業融合的である点

まず、CSVは企業経営のあり方そのものを問い直し、本業の事業が社会的課題の解決に役立つものになっているのか目先の利益を追いかけるのではなく将来にわたって社会的意義のあるものになっているのか、といった点を本質的に問い直します。これにより、市場の潜在的なニーズを深く考えることにつながり、結果的に事業活動においてチャンスをもたらすという考え方なのです。

CSRは、たとえば「環境保護」といった、本業から派生した取り組みや周辺的な取り組みが多く見られます。これに対して、CSVでは本業そのものを社会的課題の解決につなげようという考え方ですので、本業の社会的価値をより高めることに必然的につながっていきます。

このように、企業価値を高めるという究極の目的は同じであっても、CSVのアプローチや考え方はCSRのそれとは根本的に異なります。CSVは従来のCSRに置き換わるものではないという点がポイントです。

CSR、CSVへの取り組みが組織にもたらすメリット3つ

メリット① 企業価値を高めることができる

自社の売上や利益を増加させることに留まらず、より広義の社会貢献を目指している企業があれば、世の中にとっていっそう重要な組織として見られる存在になっていくでしょう。実際、極端な営利主義に走ってしまい、私利私欲を優先させている(ように見える)企業に対して、世間は厳しい見方をするケースが少なくありません。

月並みな表現ですが「世のため人のため」に働いてくれる企業のことを、世の中は高く評価し賞賛します。「強欲なエゴイスト集団」ではなく、社会全体のことを慮るだけの体力と余裕がある企業であることも、世の中に伝えることができます。

このように、CSRやCSVに取り組むことによって企業価値の向上を図り、企業としての社会的な重要度を高めることにつながります。

メリット② 社員のモチベーションが強化される

よく言われていることとして、社員はお金のためだけに働いているのではありません。自身の仕事が世の中の役に立ち、社会貢献できているという実感が得られてこそ、モチベーションを持続させることができるのです。

属している企業の仕事を通してスキルを磨き、磨かれたスキルによって社会貢献できているという実感こそが、自分の仕事に自信を持ち、より良い仕事をしたい・スキルをさらに磨いていきたいといったモチベーションの源泉となっていくのです。

たとえ利益をあげ社員に高い報酬を払っている企業であっても、事業内容に社会的価値が感じられないようでは社員の心は離れていってしまいます。携わっている仕事に価値があると社員が実感できるのは、優秀な人材を確保していく上でも重要なことなのです。

メリット③ その企業にしかない強み(持続的競争優位)を保有できる

短期的に売上や利益を伸ばすための取り組みは、ノウハウに再現性があるなど、いわば「その企業でなくてもできてしまうこと」であることが少なくありません。その結果、短期的には収益向上に寄与しても、すぐにコピー商品が出回ったり、業態を真似されてしまったりして、他社との差別化が困難な状況へと追いこまれてしまいやすいのです。

しかし、一見すると利益に直接寄与しない取り組みは、よほど信念を持って臨まなければ容易に真似できないものです。CSRやCSVに取り組み続けることは、長い目で見るとその企業にしかない強み(持続的競争優位)を保有することにつながっていきます。社員の帰属意識が高まり、結果的に経営が安定化しやすい点においても、CSRやCSVへの取り組みは持続的競争優位を生み出すと言えるでしょう。

活用のポイントは、CSVとCSRを共存させること

前述のように、CSRとCSVはそもそも別物であり、どちらかが片方を置き換えるという性質のものではありません。ただし、性質が異なるだけであって、CSRとCSVは共存できないわけではありません。次の項で紹介するように、CSVを実現していながら、CSR戦略を重視している企業は数多く存在します

とくに近年は、企業としてのモラルが問われるような不祥事がメディアで報じられる機会が増えてきたこともあり、CSRの「守り」の部分も企業にとって重要度が増しています。こうした「守り」を固めつつ、本業によって社会的課題解決を実現しようとすることは不可能ではありません。

これらを共存させ両立させようとすることを通じて、企業価値を高めさらに社会的な意義のある事業へと昇華させることができるのです。

CSR、CSV取り組みの実例

CSR取組みの事例

事例① ブリヂストン

ブリヂストンはグローバルCSR体系として「One Wat to Serve」を掲げ、社員一人ひとりがCSRの担い手であるという認識を共有することを目指しています。

取り組みの一例として、タイヤゴムの原料となるパラゴムノキが罹る「根白腐病」を迅速に診断する技術を開発し、感染拡大を抑制するための活動に取り組んでいます。

また、南アフリカにおいて交通局職員への車両点検トレーニングを年4回以上実施することで、道路上での走行に不適格な車両を発見できるよう支援しています。

インドネシアにおいては、高校卒業者を対象とした無償の職業訓練学校を運営し、インドネシアの産業の発展と技術向上に貢献しています

こうした取り組みを通じて、同社が進出している地域の発展に貢献するとともに、グローバル規模で同社の企業価値を高め、社員の帰属意識やモチベーションの向上に寄与していると考えられます。

事例② KDDI

KDDIは、次の4点を重点課題としてCSRに取り組んでいます。

  • 安定した情報通信サービスの提供
  • 安心・安全な情報通信社会の実現
  • 多様な人財の育成による活力ある企業の実現
  • 地球環境保全への取り組み

一例として、災害時などの非常時に地上の通信が使えなくなってしまったときのバックアップとして、イリジウム衛星携帯電話サービスを企業や地方自治体に訴求しています。通信手段は重要なライフラインですので、事業の社会的意義の大きさを認識してこうした対策を講じていることが分かります。

地球環境保全への取り組みとしては、携帯電話をリサイクルする際、手作業による部材別回収を行い、部材をほぼ100%再資源化しています。持続可能な事業への取り組みという点において、将来を見据えていることが伝わり、消費者としても安心して同社のサービスを利用し続けられる効果があると考えられます。

CSV取組みの事例

事例① ネスレ

ネスレでは「栄養」「水資源」「農業・地域開発」の3つの分野において、共通価値の創造に取り組んでいます。コンプライアンスやサスティナビリティの考えをさらに進化させ、共通価値を創造することによって社会的責任を果たしながら経済価値を創出することをビジョンに掲げています。

一例として1962年、同社はインド北部の地域にミルク工場を建設しています。当時、インフラがほぼ未整備だった地域に10億円を投資し、冷蔵ミルク集荷場の設置や集荷のためのトラックの手配、獣医・栄養士・農地管理といった専門家による技術指導などを行いました。

これにより、ミルクが安定供給できるようになっただけでなく、農家の支援や地域のインフラ整備へとつながり、現地の生活水準の向上に貢献しています

このように、長期的な視野で地域社会の課題解決に取り組むことによって、ネスレの成長へとつながっているのです。

事例② 伊藤園

伊藤園では飲料の自動販売機を通じた社会貢献活動として「おぎゃー献金基金」に取り組んでいます。該当する自販機で商品を購入すると、売上の一部が基金に提供され、心身障害児のための施設や心身障害の予防研究のための活動資金に用いられるというものです。

また、お年寄りや子どもが選びやすく、硬貨を投入しやすいユニバーサル自動販売機を開発し、病院や公共施設などを中心に設置しているのも取り組みの1つです。

これらは社会的課題の解決に役立っていると同時に、同社の売上伸長という点でもメリットがあることから、CSVの取り組みとして成功している事例と言えるでしょう。

こうした同社の取り組みはSDGsに取り組む企業の一例として外務省ホームページにも紹介されており、社会貢献度の高い企業として社会に認知されることにつながっていると考えられます。

CSR、CSVの事例から企業価値を高めるヒントを得ていこう

すでにCSRやCSVに取り組んでいる企業に勤務している方にとって、CSR、CSVの役割や効果を把握しておくことは非常に重要です。職場の価値を再発見したり、社内のモチベーションアップにつなげたりする上で、こうした取り組みへの理解を深めることが役立つケースは少なくありません。

また、現在CSRやCSVへの大がかりな取り組みをしているわけではない企業でも、社会的課題解決に向けた取り組みを通じて企業価値が高まることや、結果的にビジネスチャンスを手にするきっかけになる場合もあると知っておくことは大切です。CSRやCSVの事例を通じて、企業価値を高めるヒントを見つけられるかもしれないのです。

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