人事評価を「形式的」にやってませんか?評価制度の基本と本来の目的を理解!
[最終更新日]2022/12/15
管理職の皆さんにとって、部下の「評価」は重要な仕事の1つです。
評価によって部下の意欲が高まることもあれば、反対にやる気を失わせてしまったりすることもあり得ます。
そのため、多くの企業では評価制度を定め、できるだけ公正な評価ができるよう努めていることでしょう。
しかし、評価制度があるということと、評価そのものが問題なく運用されるということは別次元の問題です。
「うちは評価の指標が定められているから、その通りに運用すれば問題ない」と思っていると、つい形式的に評価を行ってしまいがちです。
そこで、そもそも人事評価とは何のために行うのか、どのような観点を重要視すべきなのか、といった基本的なことから振り返り、評価制度への理解を深めていきましょう。
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目次
そもそも、人事評価とは何のために行うのか
世の中の会社にはさまざまな評価制度があります。そもそもなぜ、会社は評価制度を定めているのでしょうか。
評価制度は人事制度のうちの1つで、本来の目的としては従業員の貢献度や業務遂行に対する能力を評価するためにあります。
高く評価された従業員は等級が上がって昇給したり、昇進して役職が上がったりといったメリットがもたらされます。
反対に成績が悪かったり能力を発揮できていなかったりすると、降格や減俸といったデメリットを被ることもあり得ます。
人事評価を行う目的はこれだけではありません。人材の配置や人材教育といった面においても、人事評価の結果は活用されています。人事評価を行う主な目的は、次のように整理することができます。
人事評価を行う目的
- 処遇の決定:給与、賞与、昇進・昇格などの決定
- 配置への活用:適材適所を実現するために、個人の能力と適正を見極めた配置・異動に活用
- 育成への活用:課題を明確化し、フィードバックによる人材育成への活用
それぞれ詳しく見ていきましょう。
処遇の決定:給与、賞与、昇進・昇格などの決定
人事評価制度によって、従業員の処遇をどのような根拠で決定したのか示すことができるようになります。
業績や貢献度が高かったことが客観的に評価された社員は等級が上がり、一定の等級以上になると管理職への登用が決定することもあります。
等級制度と報酬を連動させることで、社員の能力や貢献度に応じて報酬が支払われることなり、従業員の納得感を高めることにもつながります。
貢献度の高い従業員の処遇が改善されないまま放置されていると、不満が鬱積する原因になりかねません。従業員は自身の処遇がどのように決定されたのか、経緯や根拠を気にかけているものです。
人事評価制度で貢献度や期待値に応じた評価の根拠が示されていることによって、処遇の客観性や透明性を示すことにも役立つのです。
配置への活用:適材適所を実現するために、個人の能力と適正を見極めた配置・異動に活用
社員の能力や適性を見極めるのは意外と難しいものです。
直属の上長による判断に委ねてしまうと、上長がそれぞれの主観的な判断を下すことになり、場合によっては先入観や個人的な感情が評価に影響を及ぼすことも考えられます。
人事評価制度によって客観的な評価指標の軸ができ、複数人の管理職が部下を評価した場合にも能力や適性を見誤るリスクを低減することができます。
評価制度を根拠に決定した配置や異動の事例が増えていくにつれて、どのように評価される人材をどのセクションに配置すればパフォーマンスを発揮しやすいか、徐々にノウハウが蓄積されていきます。
その結果、配置転換や異動によるミスマッチを未然に防ぎやすくなり、退職による人材の流出を防ぐことにも役立ちます。
育成への活用:課題を明確化し、フィードバックによる人材育成への活用
評価制度によって従業員が達成すべき課題が明確になるということは、従業員が会社側から期待されている行動が明確化されることを意味します。
「何を頑張れば評価が上がるか」が分かるので、従業員の意欲や努力が貢献に結びつきやすくなり、努力が評価されることでいっそう意欲が高まるといった好循環が生まれます。
また、課題に対してどのような面が不足しているのか、どの能力を伸ばせば評価が上がるのかを従業員にフィードバックできるため、中長期的な人材育成にも役立てることができます。
人事評価における評価基準は、従業員にとっては努力すべき目標となります。
評価基準と経営方針が連動していれば、従業員の努力の方向を会社が成長していく方向と合わせることができ、より効率的に、一体感を持って組織を増強していくことにもつながるのです。
評価制度で観るべきポイント
評価制度において従業員の何を見て評価するかは、企業の経営戦略や市場環境によって異なります。
重要なことは、極端に偏った観点で評価が行われることのないよう留意することです。
たとえば、評価制度とは名ばかりで、実際のところは直属の上長による独断で評価が決定されているようでは、評価制度に対する従業員の納得感そのものが下がってしまいます。
多くの日本企業が重視している評価基準として、次の3点が挙げられます。
- 能力評価:成果を出すため、また職務を遂行するために必要な能力
- 態度(情意)評価:日常の職務に対して、能力発揮の取り組み方や姿勢
- 成果評価:定性や定量などの目標に対する達成度、または業績の結果
《能力評価》
自社で求められている能力や資格に照らした上で、成果を出すために必要とされる能力として十分であるか、不足があるかを数値化します。
基準とする能力は担当業務によって異なります。たとえば、技術力や交渉力、業務処理能力などについて、従業員ごとに評価を行うことになります。
《態度(情意)評価》
能力が十分とは言えなくても、成果達成に向けて的確な努力を続けている従業員は将来的に伸びる可能性が高くなります。
態度(情意)評価とは、いわゆる熱意や探究心、協調性といった要素を評価することを指しています。仕事に対する日ごろの取り組みや姿勢を評価し、努力に報いる評価項目となります。
《成果評価》
与えられた業務・職務に対してどれだけの能力を発揮し、実際に成果を挙げたかを評価します。
能力評価や態度(情意)評価が現在や近い未来まで含めて評価しているのに対して、成果評価は過去の実績を評価する点が異なります。仕事の量や質、目標の達成水準、プロセスの価値などが評価項目となります。
主な評価制度の種類
前項で挙げた3つの評価ポイントを偏りなく公平に見るのは、実際にやってみると案外難しいものです。
目立った特徴のある従業員ほど、その特徴に引きずられて他の特徴に関する評価が歪められてしまいやすくなります。こうした心理傾向は「ハロー効果」と呼ばれ、心理学における認知バイアスの1つとして知られています。
つまり、私たちの誰しもが偏った評価を下すリスクを抱えているのです。
評価制度は、こうした認知バイアスをできるだけ廃し、公平な評価を行うためにあります。代表的な評価制度として、次の3つが挙げられます。
- 目標管理制度(MBO)
- 多面評価(360度評価)
- コンピテンシー評価
目標管理制度(MBO)
社員一人ひとりの能力やスキルに適した目標を設定し、その達成度に応じて評価を行う方法です。
評価者である上司と被評価者である従業員があらかじめ目標についての合意を結び、後日その達成度に応じて評価を行います。
具体的で分かりやすい目標であることや、従業員ごとに目標レベルが高すぎたり低すぎたりしないことが重要になります。
また、達成までの期間を設け、達成すべき時期までに着実に到達へと近づけるよう、場合によっては中間チェックを設けるなどして進捗管理を行うこともあります。
この評価制度では個々の従業員の能力やスキルに応じた目標を設定するため、勤続年数や年齢といった属性ではなく、能力や成果を重視した評価をしやすくなります。
どちらかと言えば成果(実績)にやや重きを置いた評価制度とも言えます。
多面評価(360度評価)
上司が部下を評価するだけでなく、同僚や部下からも評価してもらう方法です。自部署のみならず、他部署や取引関係者の評価を取り入れることもあります。
さまざまな立場の人の視点から評価されることになりますので、同僚や部下と良好な関係を築いたり信頼を得たりすることも評価を高めるための重要な要素となります。
そのため、チームワークの強化にも功を奏する評価制度と言えます。被評価者が現場でどのような働き方をしているのか、より実態に近い人事評価のための材料を収集することにも役立ちます。
この評価制度では従業員がお互いを評価し合うことになるため、公平性や納得感の高い評価になりやすい特徴があります。ただし、社員同士がお互いの評価が良くなるように忖度し合ったり、部下を厳しく教育できなくなったりするリスクがあることも理解しておく必要があるでしょう。
コンピテンシー評価
コンピテンシーとは従業員の行動特性や業務遂行能力のことです。成果に結びつく行動を分析し、求められる行動と各従業員の実態を比較して評価していく方法です。
この評価制度は従業員の「行動」にフォーカスするため、社員の資質など先入観を持ちやすい要素をできるだけ排除し、客観性の高い評価をしやすくなります。また、実際に成果が出ている従業員のモデルケースを蓄積していくことによって、効率の良い人材育成が実現しやすくなる効果も期待できます。
ただし、策定したコンピテンシーが正しいものかどうか、本当に成果に結びつくものであるかどうかの検証は必須になります。
時間の経過とともにビジネス環境が変化すれば成果を挙げるための行動も自ずと変わっていく可能性がありますので、定期的に評価基準の検証やメンテナンスを行う必要があります。
人事評価をする際に陥りがちな問題と注意点
ここまで評価制度のポイントや制度の種類について解説してきました。こうした評価制度が作られたそもそもの理由は「公正に評価をするため」です。しかし、評価する側も人間である以上、評価者によって観点や評価結果に差が出る「評価誤差(評価エラー)」が生じることは完全には避けられません。
だからこそ、評価制度が完全なものと信じ込んでしまい、形式的・事務的に評価を行うことのないよう十分注意しておく必要があるのです。
評価者による評価のずれは、前項の冒頭で例に挙げた「ハロー効果」の他にもさまざまな原因によって引き起こされる可能性があります。人事評価をする際に陥りがちな問題点として、次のものが考えられます。
評価をする際に陥りがちな問題
質問項目 | 素晴らしい状態 |
---|---|
ハロー効果(後光効果) | ひとつの「良かった」「悪かった」実績が、他の評価要因にも作用してしまうこと |
親近効果 | 「同性」「同郷」「趣味や出身学校が同じ」など、親近感を覚える相手に対し評価が甘くなってしまうこと |
外部要因効果(帰属要因効果) | 評価対象者よりも、外部要因(景気の動向や取引先への配慮など)を過大(過小)にとらえ、評価に反映してしまうこと |
寛大化傾向 | 全体的に評価が甘くなること |
中心化傾向 | 評価が中央、もしくは平均値に集中してしまうこと |
厳格化傾向 | 全体的に評価が厳しくなること |
逆算化傾向 | 先に評価を決めてしまい、その結果にするために逆算して評価内容の帳尻合わせをしてしまうこと |
論理的誤差 | 事実確認をせずに、評価者の推論や独自の考えで評価してしまうこと |
対比誤差 | 評価者自身と比較して評価してしまうこと |
近接誤差(期末誤差、期末評価) | 評価期間の終盤の出来事が強く印象に残り、期間全体の評価に影響すること |
アンカリング | 最初に提示された結果を無意識に基準としてしまうこと |
この表のような問題に陥らないために、次のような点に注意することが重要です。
公正で客観的な評価であることが重要、先入観や個人の視点を入れないこと
評価制度がきちんと機能し従業員にとって納得感を得られるものになるためには、公正で客観的な評価が行われることが重要です。
人は誰しも自分の感覚こそが正しく「公正」であると思い込みやすいため、先入観や個人の視点を排して評価を行う必要があるのです。
公正で客観的な評価を行う上で重要なこととして、評価制度の目的や仕組みを理解しておくことに加えて、形式的な評価に陥らない運用を心がけることが挙げられます。具体的には、評価を行う際に次の3点を意識してのぞむようにしましょう。
- 事実に基づいた根拠のある評価を行う
- 人材育成の観点も持ち、指導・育成を念頭においた評価を行う
- 評価対象者とコミュニケーションを重視した評価を行う
事実に基づいた根拠のある評価
評価の根拠が「いつ」「どこで」「何を」「どのように」したことによるものなのか、具体的にかつ客観的な事実に基づいている必要があります。伝聞による不確実な情報や憶測に基づいて評価を行うようなことがあってなりません。
評価対象となる期間にも注意を配る必要があります。評価期間中の行動ではないにも関わらず、「以前こんなことがあった」といった過去の事実によって評価が上下することのないよう留意しましょう。
人材育成の観点を持つ
評価はあくまで人材育成のためのひとつの手段であって、ゴールではありません。
部下に優劣をつけたり序列化したりするのが目的ではないことを理解しておく必要があります。
評価できるポイントについてはしっかりと認め、達成感を感じてもらうことが大切です。逆に評価を通じて発見された課題に関しては、今後どのようにクリアしていけばいいのか、行動レベルの課題に落とし込んで部下と共有していくことが求められます。
評価対象者とのコミュニケーションを重視する
評価にあたって部下との面談を実施する場合、面談の場で上司が一方的に話してしまうことのないようにしましょう。
部下が現状をどう捉えているのか、自身の課題をどう理解しているのかをよく聞き、適切な助言を行うことで信頼関係が生まれます。そのためには、面談の場だけで部下の発言に傾聴すればいいのではなく、日常的なコミュニケーションを図っていくことが重要になります。
まとめ)人事評価は管理職自身のマネジメントに対する「評価」の場にもなる
人事評価は形式的・事務的に行われるべきものではありません。
評価の結果を伝えたことで、部下が意欲を向上させ前向きに仕事に取り組めるようになるかどうか、その結果として組織全体のレベルアップを図ることができるかどうかが重要です。
評価を部下が受け止め、納得することができるかどうかは、それまで上司との間で築かれてきた信頼関係によって大きく左右されます。
その意味では、人事評価は上司から部下に対して行っているようでいて、実は上司自身が日ごろから行っているマネジメントに対する「評価」の場になっているとも言えるのです。
人事評価制度に対する理解を深めることは、マネジメント全体のあり方を検証し、向上させるきっかけにもなり得ます。評価制度の仕組みや目的を改めて考えるとともに、明日からのマネジメントに生かしていきましょう。
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