「辞めたいんです…」予期せぬ部下の退職願いを、上司はどう応えるか?ポイント3点
[最終更新日]2023/11/03
管理職をやっていれば、部下が退職を申し出る場面に遭遇することは当然想定されます。
部下の退職をリスクファクターにとして考えた時に「部下をどうやって引き止めるか」もしくは「どのように事前に退職を検討している社員を察知して先回り対応するか」という考えになりがちです。
しかし日本でも転職がだいぶしやすい世の中となってきている中、そもそもこうした「なんとか引き止める前提」の対応は限界があると言えます。
今回は部下の退職リスクに対する正しい対処法をまとめました。
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目次
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まずは、「部下が本当に辞めることになったとき」をしっかりシミュレーションする
en転職コンサルタントで2014年に実施された30歳以上の転職者に対するアンケートによると、転職時にカウンターオファー(退職引き止め交渉)を受けた方は全体の32%だったとのことです。
そもそも全転職者の半数以下ですが、そのカウンターオファーを承諾し転職を踏みとどまったことがある方は、カウンターオファーを受けた方のうち24%しかおりませんでした。
つまり全てのアンケートを受けた転職者のうち、引き止め交渉が上手くいって踏みとどまった人はたった8%足らずということになります。
また、退職希望者のカウンターオファーに対する印象は決して良好とは言えず、カウンターオファーを受けたいと考えている人は36%でした。
カウンターオファーを受けたくないと考えている人からは「そもそも退職を検討させる前に適正に評価してほしい」という意見もありました。
このようにカウンターオファーの成功率は高いとはいえず、印象も良いとはいえません。
管理職においてはカウンターオファーの成功率を上げる、という方策は転職者に対する対策としてあまり両案とはいえないようです。
「木を見て森を見ず」にならないように注意
管理職に求められる転職者の発生リスクに対する方策としては「目の前の転職希望者をいかに引き止めるか」を考えるより、もっと広い視点で従業員の転職というものを捉えることが肝要です。
そもそも本来転職者というのは「発生しうる」ものであることを前提として考えるべきなのです。
部下は確かに今はその組織のため、管理職の元働いているわけですが、何も「組織のために一生を費やす」ことを皆が前提として働いているわけではなく、それぞれのキャリアビジョンを持っていて、そのなかで今の仕事をしています。
その中には「いずれ転職」をすることで達成されるキャリアビジョンを描いている人もいるのは当然です。
管理職の方が行うべきは、このキャリアビジョンを「部署のためになるように作り変えることを強制する」ことではなく、こうした、個々ことなる意向や特性を理解した上で、退職していくというリスクを直視しながら、与えられたリソースをいかに最適に活用するか考えることです。
従業員の退職は「防ぐ」ものではなく「当然あるものとして理解する」ことが大切なのです。
部下を引き留めるか、退職を受け入れるか、その判断軸は
部下を引き止めるか、退職を受け入れるかを判断する権限は管理職である「あなた」にあるといえます。
しかし、先に書いた通り、退職は従業員に当然認められた権利ですから、それを引き止めるかどうか、という判断は慎重に行うべきであります。
また仮に引き止め交渉を行う際も「従業員が当然の権利を行使しているのを無理に止めようとしている」という前提は忘れてはいけません。ここでは部下を引き止めるべきか、退職を受け入れるべきかという判断軸についてまとめました。
基本、その判断の権限は管理職である「あなた」にある。ただし、慎重な発言・行動を。
基本的に、「あなた」が管理職で、部下をマネジメントする権限と責任が発生しているのであれば、退職希望の部下を引き留めるかどうか判断するのは一義的には「あなた」の権限です。
ただしその時忘れてはいけないのが、先ほど同様「広い視点で考える」ことです。
部下にとって退職とは「当然認められる権利」ですので、あなたは「それを無理に引き止めようとしている」という事実を見失ってはいけません。
部下に無理をお願いしているということですから態度やカウンターオファーの条件は最大限配慮が必要ですし、「無理に引き止めること」の部内の空気や働き方に出る影響も慎重に考える必要があります。無理な引き止めをする管理職として部内の士気が下がってしまっては最悪です。
一義的にはあなたに権限があっても、なにも自分一人で決める必要はありません。さらに上の上司や人事部などにかけあってみるのも一案です。
もしかしたら引き止めるにたる画期的なカウンターオファーを出す余地ができるかもしれませんし、逆に新たな人材を調達できる目処が立ち、快く転職を受け入れて円満に進める方が得策になるかもしれません。
いずれにしても、管理職である「あなた」において、「引き止めるか退職を受け入れるか」はきわめて慎重に判断する必要があります。転職者を引き止めることに固執しすぎないようにすることが肝要です。
部下の退職を引き留める際に、意識したいポイント3点
さて、ここまで書いた通り、部下の転職において「引き止めるか受け入れるか」は慎重に判断する必要があります。
転職を受け入れる場合はあまり困難なことはないかと思います。転職者の穴を埋めるという組織論的な課題はありますが、それは退職リスクへの対処法からは外れるので別の機会に譲り、問題は「引き止める際」の対応法です。
退職希望者や部署全体のへ悪影響が出ず、かつ引き止め成功率を少しでも高め、また引き止められた時により良好な関係を気づけるように意識したいポイントを説明します。
- 「辞めたい」と言う部下と、しっかり「向き合う」こと
- 部下の「辞めたい理由」よりも、「迷いの原因」に注目する
- 部下に対する「自分の偽りない想い・考え」を伝えること
「辞めたい」と言う部下と、しっかり「向き合う」こと
まず大事なことは、やめたいと思っている部下としっかりと向き合うことです。最悪なのは頭ごなしに部下の意向を否定したり、ましてや叱ってしまうことですん。
退職を申し出ることを間違ったこととするのは管理職や会社の都合でしかなく、部下は何も間違ったことをしておりません。ややもするとパワハラで問題になってしまいます。
それよりも「なぜ退職を検討するに至ったか」「部下のキャリアビジョンと会社で部下を戦力として活用する上でのソリューションは存在しないか」を一緒に議論することが大切です。
退職を考えている背景は部下のスキルの不一致にあるのか、キャリアビジョンと会社の部下の育成・キャリアプランにミスマッチがあるのか、そしてそれらを改善させる方法やカウンターオファーの余地があるのか考えましょう。
部下が希望している事実と受け入れ、上記のことを検討した時に「それでも部下・会社双方にとってよりよい方法を提示できる」のであればあくまで押し付けるのではなく、部下に判断を委ねる形でカウンターオファーを提示するのです。
部下の「辞めたい理由」よりも、「迷いの原因」に注目する
部下と今後について議論する上では、「やめたい理由」を深掘りするというアプローチは得策ではありません。
もちろん退職を申し出た部下に対して、最初は「退職に至った背景」を聞かざるを得ないことはありますが、その原因を深掘りするというアプローチではななく、今の会社に置いて自分が置かれている環境において、何が「その会社で仕事を継続することに対する迷い」の源泉となっているのかを確認しましょう。
極力引き止めようとするのであれば、判断軸は「その迷いを会社として解決する余地があるのかどうか」というところになります。
社内の配置換えなのか、部内の担当替えなのか、あるいは待遇を改善するのか、それらのメニューを組み合わせて「社員を円満な形で引き止めることは可能なのか」考え、また必要に応じて関連する人や部署に相談しながら判断していきます。
あくまで「会社の対応できる範囲内で、退職希望者の迷いを小さくすることができるかどうか」という思考で判断していきます。
部下に対する「自分の偽りない想い・考え」を伝えること
最後にポイントとなるのは、自分の考えや想いを正直に伝えることですが、あくまで感情的にならず自分の考えであることを強調して努めて冷静に話すことが大切です。
「どうしてやめて欲しくないのか」「退職希望者が会社にとって大切であるか」そしてなんといっても「退職希望者の迷いを打ち消す力が会社にあり、また長期的な視点で見ても退職希望者にとって魅力的な機会を提供できる」という管理職なりの考えを伝えるのです。
ちなみにこのとき想いを正直に打ち明けようとしてみて「管理者自身の評価が下がるから」とか「人が足りなくなって面倒だから」といった「退職者に言いづらい」ものしか出てこないのだとしたら、あるいは「退職者の未来を描くことができない」のだとしたら、それは引き止めることを諦めた方がいいでしょう。
あくまで退職者の「迷い」を小さくできる会社でなければ、退職表明の段階に至った退職者を引き止めさせることは困難です。
部下の退職願いの際に、絶対やってはいけないNG4点
さて、退職引き止めを試みる際にポイントとなる態度についてさきほど3点説明しましたが、続いては、部下の退職願いを受けた時に、絶対にやってはいけないポイントについて説明します。
概ね先に挙げた3点のついになる態度ですが、こうした態度をとると、退職者との関係を悪化させますし、部内の雰囲気も悪くなります。なによりこうした態度を全社的に横行させると、会社の品位や印象が下がってしまいますので、絶対に避けるようにしましょう。
- 頭ごなしに叱る
- 管理職の都合・会社の都合ばかり考える
- 何の改善点もオファーせずただ感情論に訴える
- 懲罰的な対応をする
それぞれ、順を追って見ていきましょう。
NG例#1 頭ごなしに叱る
一つ目は、退職を悪いこととして頭ごなしに叱ることです。
これはそもそも管理職の前提が誤っていて、会社が忙しい時であろうと、なんであろうと、退職を決めるのは個人の自由です。
退職の一定期間前に申し出なければならないという以外は、退職を制限するルールは一切ありません。
退職を悪いことだという前提を置くのは、管理職自身や部内、社内の都合によるものでしかないので絶対に避けましょう。
退職者との関係悪化や、社会的な会社の品位の低下はもちろん、管理職自身、最悪の場合は会社全体がパワハラ等でダメージを受ける可能性が高いですので、まず絶対にやってはいけないことです。
NG例#2 管理職の都合・会社の都合ばかり考える
退職というのは、会社に何らかの不満があったり、魅力がなかったり、あるいは将来のキャリアビジョンを見据えた時に、継続して働くことがマッチしないからこそ発生するものです。
もちろん会社は退職を引き止めることはできますが、これらの不満や魅力不足・ビジョンとのミスマッチを解消できなければ引き止めが不発に終わるのは目に見えています。
しかし実態では会社の都合(人員が足りなくて困るなど)、管理職の都合(担当の調整が面倒)などを軸にして無理な引き止め交渉が行われ、そして不発に終わっている例が多いです。引き止めたいのであれば、最優先すべきは「退職希望者の都合」で、それを重視する対応が会社としてできないのであれば、引き止めは諦めたほうがいいでしょう。
NG例#3 何の改善点もオファーせずただ感情論に訴える
カウンターオファーを出すのは会社の自由ですが、出すからには、何かしらの改善や進歩が提示されるのは当然です。
退職者は今の状況に迷いや不満を抱いているのですから、何か「変革」がなければいけません。
実際には感情論「君が必要なんだ!」「将来に期待している」などとそれらしい気持ちだけで何の変化ももたらさないカウンターオファーもありますが、これはそもそも成功率が低いですし、たまたま成功したとしてもいずれ退職者は「なにもよくなっていない」ことに気付くでしょう。
そうすれば近い将来また退職を検討し始めるであろうことはあきらかです。従って、感情論で訴えるだけの何の改善点も提示しない引き止めは、避けたほうがいいでしょう。
NG例#4 懲罰的な対応をする
実際に最後の給与を引き下げるなど懲罰的な対応をするのはもちろんNGですが、そのリスクを仄めかすようなことを匂わす発言も絶対に避けなければなりません。
繰り返しにはなりますが、退職というのは労働者にとって認められている行為であり、何ら悪いことではありません。むしろ、こうしたことに対して会社として懲罰的な行動をとることの方が社会的には問題ですし、それを盾にしたような引き止めを行うのは脅迫行為になる可能性もあります。
部内・社内の士気を著しく下げるリスクがありますし、最悪の場合社会的にも問題になることが考えられますので、退職者にダメージを与えること、またはそれを仄めかす行動をとることは厳にさけましょう。
退職は「起こり得るもの」として冷静な判断を
事例:とある部下Aさんのケース
最後に、退職に対するリスク管理がしっかりとできている事例を一つ紹介します。Aさんが所属していた企業は人材流動性が高い業種であるため、退職者は日常的に発生しています。
社員もエネルギッシュで将来のキャリアの開拓に積極的な方が多いので、建前ではないキャリアアップのための転職が多いのです。Aさんも外資系のコンサルファームに転職しましたが、その上司も部署全体も退職者に対するリスク管理はよく行き届いていました。
専門性の高い仕事にもかかわらず、マニュアル化とノウハウの共有が日頃から徹底されているため、ハイスキルの人材が流出してもダメージは極小化されていますし、人事も常に中途市場に目を光らせているので、即戦力の採用もスムーズです。
Aさんに対しても務めて冷静に、可能な限りで会社の改善案は提案しつつも、折り合わなければ暖かく送り出す、そして退職後も円満な関係構築に努めるという合理的な対応がとられました。実際Aさんはコンサルファームに転職したのちは「元いた企業がクライアント」という状況になったため、円満な関係構築は、その後のお互いにとって大いにプラスになりました。
このような合理的な対応と判断ができることが、管理職・企業にとって望ましいあり方であるといえるでしょう。
◇ ◇ ◇
日本は従前終身雇用の維持という考え方が支配的でしたが、こうした前提が崩れ、転職者の発生が珍しくなくなってきています。
管理職や企業についてもこの事実を受け入れ、退職者が出てくるかもしれないというリスクに適切に対応する必要があります。
もちろん合理的な形で退職希望者の引き止め・承諾を判断するメソッドを構築することも大事ですが、日頃から退職者が出るリスクを認識し、組織として、管理職として「もし退職者が出た場合」についてしっかりと準備しておくことが大切です。
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