上司からのひと言:「考え方の縛り」から解放されて。
[最終更新日]2022/12/15
「教科書思考はやめて、パズルゲームのように考えなさい」
Sayuさん(女性 24歳)
- 職業
- 百貨店顧客案内係
- 職種
- サービス
- 年収
- 秘匿
- 従業員規模
- 秘匿
- 地域
- 大阪府
Index
目次
私の仕事。
大阪の百貨店で顧客案内係をしていました。
業務内容は、玄関でお客様を迎え入れてご案内をすることがメインですが、交代でエレベーターの添乗員をしたり、店内の巡回もしていました。
私は声が大きいことから、土日祝日などの混雑時にお客様を整理する役割としてシフトを組まれることが多くありました。
はじめは、単純な考えで「エレベーターガール」という看板に惹かれて採用試験を受けました。
しかし、いざ仕事が始まるといかに甘い考えで応募したかを実感することとなったのです。
百貨店とは特殊な世界であり、いわゆる「百貨店敬語」なる、一般的には丁寧すぎて面倒くさくなってしまうような言葉遣いをしなければなりません。
「常連客」の中には、こうした百貨店の伝統を重んじている方も多く、求められる接客レベルはとても高いものです。
それゆえ、新入社員のころはお客様からクレームというより「お叱り」を受ける毎日でした。
また、客層の広さからご要望も多岐に渡り、常に柔軟でなければなりません。
辛いことは数えきれませんでしたが、自分の成長を実感することができる職場でもあります。
そして、機転の効いた対応をできてお褒めの言葉を頂けた際には、これ以上ないやりがいを感じることができます。
私の上司。
私の上司は当時30代の女性で、学生時代にバレーボールで全国大会に何度も出場した体育会系の方でした。
よく食べてよく動きよく喋る、表裏のない誰もに好かれる人柄です。
また、多忙なのに4人の子供と8匹の猫を養っており、「一体いつ寝ているんだろう?」と皆が思うほどパワフルな方でした。
彼女の性格は「真っ直ぐ」。これに尽きます。
上司であろうが新入社員であろうが「褒めるべきは褒め、正すべきは正す」といった芯の通った人です。
そんな性格なので、お客様とトラブルになるかというと全くそうではありません。
クレームやお叱りを受けている新入社員の元へすぐに駆けつけたかと思えば、お客様との短いやり取りの中で、いつの間にかお客様を笑顔にしてしまうのです。
百貨店という高い接客が求められる環境でも、どこか「親しみ」のある接客ができて、心からお客様に寄り添える理想の上司でした。
上司からのひと言。
私が入社して、現場に配属になってまだ数ヶ月の頃です。
私が働いていた百貨店の閉店時間は21時だったのですが、20時55分になっても全く焦ることなくお買い物を続けておられるお客様がいました。
そのお客様は年間を通して通ってくださる、いわゆる「上客」と呼ばれる方でした。
しかし、少しクセのある方としても知られていたのです。
その時の私は、「いかにしてお客様の機嫌を損ねずお帰り頂くか」で頭がいっぱいでした。
あっという間に21時半を回り、自分が早く帰りたい気持ちも出てきてしまいました。
きっとそうした個人的な感情が接客にも出ていたのでしょう。
- 私
-
「お客様、閉店時間を過ぎております。お帰りください」
するとお客様は
- お客様
-
「あんた、文句あんの? 私がここでいくら買い物してると思ってんの?」
と私の接客態度へのお叱りを始めました。
店内に響き渡る叱責に頭が真っ白になり、ただただ平謝りをしていると、上司が飛んできてくれたのです。
一旦事務所に下がった私は泣いてしまい、15分ほど経った頃に上司に呼ばれ、玄関にて怒っていたお客様に対して再度謝罪しお見送りをしました。
その後うなだれた私にかけられた言葉が
- 上司
-
「教科書通りの接客は辞めましょう。パズルみたいに、その人その人に必要な言葉が必ずあるの」
だったのです。
接客というのは「この場面ではこれが正しい」という教科書的な正解はありません。
お客様の状態を正確に把握し、パズルを解くように臨機応変な対応することが大切だと、その言葉で学びました。
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そのひと言のおかげで。
その日に関しては、私はあまりのショックで上司からの言葉を深く考える余裕はありませんでした。
次の勤務にて上司と顔を合わせた時も、申し訳ないやら情けないやらで目を合わせるのもはばかられる思いでいっぱいだったのです。
すると、上司は笑顔で
- 上司
-
「そんなんじゃ、まだまだ教科書どおりね」
と声を掛けて下さいました。
続けて
- 上司
-
「あなたの仕事は何? 接客業でしょ」
そう鼓舞してくれました。
私は心の底からハッとさせられました。
なぜなら、それまでの人生において高校や大学の受験、会社の入社試験、バイトの面接、、、
それらは決められたルールさえ守っていればそれなりにどうにかなると信じて疑っていなかったのです。
閉店時間ならお買い物をしていても、何とかして帰らせるべきだというのは、私の中で「教科書通り」で「正解」だと疑わない判断でした。
しかし、あのお客様はこの百貨店が好きで、長年たくさんのお買い物をしてくれています。
「この百貨店なら」と必要なものを求めて来店されていたことでしょう。
そうした背景をしっかりと把握できていれば、「何が何でも帰って頂かねば」と焦りの現れた接客はしなかったはずです。
上司からの言葉によって、そのことに気づけたのです。
それからの私の変化。
それから私の接客は、まず「パズルのピース集め」から始まるようになりました。
以前の「●●だから、●●。」とパッと見て把握できる情報だけで動いていた接客から、大きく変化したのです。
時間や場所だけでなく、「お客様の表情や、何をお求めになっていて、それはどれほど必要なものなのか」。
「何時までに手に入れることを希望されていて、それを遂げるために私にできることはどこまでなのか」。
単純な対応から、より深みのある接客へと変化しました。
お客様と店員の立場がハッキリと分かれている「百貨店」で、上司の「親しみやすさ」はお客様への深い理解から湧き出ていたのだと実感しました。
上司の言葉によって「考え方の縛り」から解放された私は、仕事以外の人間関係にも柔軟に対応できるようになりました。
学生を終えて社会に出ると、友人や知人、家族ではない生身の人間の中に放り込まれ、その中でもがきながら生活しなければなりません。
人との関係は、予期せぬことの連続です。
だからこそ、その時その時の相手の感情や、こちらの言葉がけが重要なのです。
上司は、その数年後に退職されましたが、今でもランチに行くような打ち解けた仲になっています。
上司の生き方には学ぶことが多く、会話するだけでたくさんのエネルギーを頂けております。
きっとこの先も、人生の先輩としてかけがえのない存在であり続けることでしょう。
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