管理職体験談:「重い荷物も、二人でなら」。部下にとっての拠り所になれるように。

[最終更新日]2022/12/15

体験談
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上司への印象とか、体裁とか、どうでもよかった。ただ、彼女を守ってあげるだけでよかった。

ある官公庁の医療部署に勤めており、今年で勤続27年目、役職は課長職です。

仕事内容は多岐にわたり、地域医療はもちろんのこと、病院経営や保健福祉対策、次世代の医療者の養成、ハラスメント対応やDVや虐待の被害を受けている人達を守るなど、とても一言では言い表せません。

ひまわりさん(女性 49歳)
職業
官公庁職員
職種
医療職
年収
850万円
従業員規模
700人
地域
noselect

Index

目次

管理職としての私の仕事。

数年おきに異動があり、その都度扱う仕事内容も変わってきます。
ある年は地域医療と病院経営を任されたり、またある年はハラスメント対策の部署に行ったり…といった感じです。

私は元来、人の上に立ったり目立ったりすることが苦手で、管理職となってからも、なるべく争いごとの起こらないよう、現場を取りなすことに気を遣っていました。

日々の仕事に疲れ果て、趣味も持てず、休みの日は家でずっと寝ているような情けない課長です。
それでもこの春、部長に昇進が決まっています。

救えなかった心。去っていく部下。

管理職になって忘れられない出来事、それは係長時代に、大切な部下を失ってしまったことです。

彼女はいつも一生懸命に仕事に取り組み、自分よりも常に相手を想うような優しい性格でした。
恩着せがましく何かをするのではなく、何も言わずにそっと困っている仲間をサポートするのが彼女の特徴で、その見返りは決して求めませんでした。

そんな彼女を襲ったのが、あるモンスターペイシェントの存在でした。
モンスターペイシェントとは、医療機関に押しかけ、理不尽な要求や暴言を繰り返す患者のことです。

その患者は、あらゆることに難癖をつけては、スタッフ達を泣くまで追い詰めるのです。

対応には注意していたのですが、ある日、私の不在時に再びこの方が職場に現れ、大騒ぎを起こしたのです。
怯える同僚達の矢面に立ち、全てを受け止めてくれたのが彼女でした。

そのことが気に入らなかったのか、彼女は後に、この患者のターゲットとなりました。

その患者はまず、彼女についてのありもしない誹謗中傷を、職場の上層部に流しました。
さらに、メディアを使って彼女への誹謗中傷を拡散させたのです。

私は徹底的にその患者と戦うつもりでいたのですが、上層部は事を荒立てたくなかったのか、その方の言っていることを受け止めるという姿勢を崩すことはありませんでした。
そのことに味を占めたのか、その患者はさらにいくつかの条件を訴えてきたのです。

その方が入院中は個室を病院負担で用意すること、外来では待ち時間なしに優先して診察を行うことなどです。
信じられないことに、課長も部長も、全ての条件を受け入れました。

上層部の怒りの矛先は、彼女に向かいました。
患者の言っていることが間違いであったとしても、あそこまでの怒りを買ってしまったのは、あなたの対応に問題があったんじゃないかと、彼女を責め立てたのです。

彼女はしばらくは頑張って出勤していましたが、ある日、無断欠勤をしました。
ご両親が彼女の部屋を訪れると、彼女は極度の鬱状態で動けなくなっていたそうです。
すぐに精神科に入院し、後に退職となりました。

私がするべきだったこと。

私は自分の情けなさを呪いました。
彼女は、私が辛かった時期も、いつもそばでフォローしてくれる存在でした。

あんなに私を支えてくれていた彼女を、私は救ってあげることができなかった。
しばらくは自分を責め続ける日が続きました。

ある日、課長と部長と私で、彼女の自宅へお見舞いに行きました。
彼女は私たちに会える状態ではなく、顔を見ることも叶いませんでした。

仕事に穴をあけてしまって申し訳ないと頭を下げていた彼女のご両親でしたが、後に、彼女の置かれていた状況が分かったのでしょう。
二度と家には来ないでほしい」そのように言われました。

課長と部長は、「今回の件は仕方なかった。ああする他なかった」と言い訳だけを繰り返し、翌年転勤し、私の胸にわだかまりだけを残していきました。

この件があってから、彼女と親しくしていた同僚たちも職場に不満を抱き、次々に退職していきました。
中には「先輩にあんなによくしてもらったのに、助けてあげられなかった…」と、泣きじゃくる子もいました。

彼女の退職後、一度彼女に手紙を書いたことがあります。
自分の至らなさや申し訳なさを詫びたのですが、開封されないまま、受け取り拒否で戻ってきました。

彼女の携帯にも電話をかけました。
出たのは、彼女の父親で、ひどくお怒りになっているのが受話器越しにも伝わってきました。

彼女の父

娘に精神障碍者の認定が下りました。私は、娘を障碍者にさせるために仕事をさせていたわけではありません

その一言が、彼女を取り巻く一連の出来事の顛末です。

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ある日の思い出。

私が今振り返って思うことは、「なぜもっと上司に盾をつけなかったのだろう」という後悔です。

彼女は、自分の身を挺して後輩を守ったのに、私は彼女を守ることができませんでした。

管理職は、部下を守るべき存在です。

当時の課長や部長は、「今は辛くても、何年かたったら彼女も元通りになるから」と私に言い聞かせました。
しかし、たとえそうだとしても彼女が追い詰められた事実は消えません。

私は2児の母親として、もし我が子が職場で同じ目に遭っていたとしたら、当然許すことはできません。
あれから4年が経とうとしていますが、私の中ではまだ何一つ解決していません。
彼女が元気になっていることを日々祈るだけです。

また、ある日の出来事がたまによみがえります。
私だけ帰りが遅くなった冬の日のことです。

職員玄関の前で、雪が舞う中、彼女が私を待っていました。
両手にコーヒーの缶を握りしめて、私に渡してくれました。

彼女

これすっごくおいしいんです。あったまりますよ!明日も、元気な顔見せてくださいね!先輩の笑顔は私の元気の源です!

そう言い残し、彼女は笑顔で去っていきました。
彼女の笑顔を、私は守りたかった。

今後、私が目指したいこと。

私が持つ管理職のイメージは、「部下の心の拠り所」であることです。
そっと後ろから見守る、それこそ落ち込む部下にそっと缶コーヒーを手渡せるような存在です。

ひとりでは抱えきれない荷物も、ふたりなら背負えることもあるでしょう。

今後私は、メンタルヘルスケアを今以上に充実させたいと思っています。
貴重な戦力を失ってしまった苦い過去と、彼女への償いも兼ねての想いです。

ある会社のとある役員がこんな言葉を残しています。

役員

すべての社員が、家に帰れば自慢の娘であり、息子であり、尊敬されるべきお父さん、お母さんだ。そんな人達を職場のハラスメントなんかで鬱に至らしめたり苦しめたりしていいわけがない

私の職員証の裏にそっとメモしてある言葉です。
毎日勤務前に心に刻んでいます。

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