「折れない心」レジリエンスを自身と部下に浸透していく為に
[最終更新日]2023/11/06
何かとストレスの多い日本社会において、最近になって注目されているのが「レジリエンス」という言葉。
元々は「跳ね返り」や「回復」といった意味の単語ですが、近年では「逆境や困難な状況にもかかわらず、しなやかに適応して生き延びる力」を表すために使われるようにもなってきました。
あなたは逆境に行き当たった時、どのようにそれを乗り越えていますか? 今回は、様々な逆境にも負けない「レジリエンス」を育てるためのノウハウについてご紹介いたします!
Index
目次
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レジリエンスとは?
レジリエンスとは、いったいどんなもの?
「何となく興味があって入社してみたけど、思っていた仕事とは違った」「急な昇進で、人間関係や仕事量の変化に追いつけない……」
就職や転職、昇進など、生活が大きく変わると同時に、ストレスや逆境が現れるものです。中にはそれらに耐えかねて仕事を辞めてしまったりする方もいらっしゃいます。
ストレスはもはや、誰もが他人事ではなくなってきている問題の一つです。
他にも、大きな案件に急に関わることになったり、覚えなければいけない仕事が多かったり……。
それらのストレスや逆境に打ち勝つことができるのが、レジリエンスの強みです。 下記のグラフをご覧ください。
このように、一定以上のストレスがかかった場合においても、レジリエンスが強いか弱いかによって、その後のエネルギーに差が開くことがご理解いただけるかと思います。
レジリエンスが強ければ強いほど、逆境に打ち勝つ能力が高く、より人間的に成長することができるのです。
なぜ近年、レジリエンスの注目が集まるようになってきたのか
レジリエンスが注目されるようになってきた背景には、今現在の日本社会における「環境変化の著しさ」が挙げられます。
インターネット普及に伴い情報化社会が促進され、製品・サービスのみならず企業自体の新陳代謝のペースは非常に早まり、私たちの働き方自体も大いに変化してきています。その変化には、業務の専門化や複雑化、更には業務に関わる関係者やステークホルダーの増加も含まれ、それに伴い私たちが仕事に対して感じる問題やストレスもまた、年々増加傾向にあります。
レジリエンスはいわば、それら問題に向き合い、安定したパフォーマンスを維持・向上し続けるための最強の思考です。
「自分を変えたい」「どんな困難にも立ち向かっていける力が欲しい」と思うビジネスパーソンによってレジリエンスは広まってきました。
さらに、個人のパフォーマンス力向上は、組織も無関係ではありません。今後さらなる労働環境の変化が予想されるため、個人に限らず、組織全体でレジリエンス構築のための一手が必要になってくることでしょう。
そのため、最近では組織単位でレジリエンスを学ぼうと行動する企業も少なくないのです。
レジリエンスが発揮できる人、できない人
レジリエンスは、誰もが初めから備えている資質ではありません。レジリエンスを発揮しやすい人、そうではない人の特徴は以下の通りです。
レジリエンスを発揮しやすい人
- 物事を多角的に捉えられる
- 気持ちの切り替えがすぐにできる
- 誰にでも優しく接することができる
- 自分の強みを理解している
- 常に挑戦し続ける気持ちを忘れていない
レジリエンスを発揮しにくい人
- 物事を凝り固まった視点で見てしまいがち
- すぐに気持ちを切り替えることができない
- 人に厳しい
- 自分の欠点ばかりが目につく
- 人前でよく緊張してしまう
レジリエンスを発揮しやすい人は、一つの考え方や価値観にこだわらないので、物事に柔軟な対応をすることができます。
一方で、レジリエンスを発揮しにくい人は視野が狭く、自分に自信がない人が多い傾向にあります。レジリエンスを発揮しやすい人に比べてストレスが多いのも、その特徴です。
では、レジリエンスを高めていくには、一体どのような方法があるのでしょうか。
レジリエンスを高めていく為には、「物事の捉え方」が重要
前の章でお伝えした通り、レジリエンスを「発揮しやすい人」と「発揮しにくい人」がいます。かといって、「レジリエンスが発揮しにくい」=「何もできない」わけではありません。
今はレジリエンスが苦手な人でも、徐々に高めていくことは可能なのです。では、そのためには何が必要なのでしょうか。
レジリエンスを高めるカギは「物事の捉え方」です。
「内的」に捉えるか、「外的」に捉えるか
もしもあなたが、与えられた仕事を思うように処理できなかった時、どのように考えるでしょうか?
2つのパターンに分けて考えてみましょう。
まずは、「うまくいかない原因は自分の能力不足のせいだ」という内的思考パターン。物事を内省的な観点で捉えがちな傾向にあり、失敗を恐れ前に踏み出すことが困難になってしまうタイプです。
2つ目は「うまくいかないのは、仕事のやり方に原因がある」という外的思考パターン。原因を幾通りか羅列することにより、より早く改善への道が開け、成長していくタイプです。
以上の事から、レジリエンスを高めるためには、物事を「外的」に捉える視点が必要なことが分かります。
物事を効率よく進めるにあたって、内省の時間はもちろん大切なのですが、あまりにそこに固執しすぎてしまうと、かえってストレスを内に抱えてしまう要因にもなり得ます。
また、外的思考はあくまで「別の方向から改善策を見つける」ためのもので、決して「他責にする」ということではありませんので注意が必要です。
「永続的」に捉えるか、「一時的」に捉えるか
続いて別の2つの思考パターンについてもご説明いたします。
今ある課題やストレスを「永続的」に捉えるか、「一時的」に捉えるかです。
「私はいつも、思ったように仕事をこなせない……」
そう思ってしまうのが「永続的」な思考です。人には向き不向きがあるのは当然のこと。得意なタスクもあれば苦手なタスクもあると思います。
しかし永続的思考を持っている方は、それこそ「うまく仕事ができない自分」がこの先もずっと続いていくと考えてしまうため、どんどん負のスパイラルに陥ってしまうのです。
反対に「一時的」な思考を持つ人はどのように考えるのでしょうか。
「今回はうまくいかなかったけど、ここを改善すれば次からは何とかできる!」
あくまで失敗を「一時的なもの」として捉えることで、同じ失敗を二度繰り返さないように自分自身に意識づけができているのです。
レジリエンスを強化していくためには、この「一時的」に捉えられる思考を身につけられるとよいでしょう。
「普遍的」に捉えるか、「局所的」に捉えるか
最後に比較するのが、今ある課題・ストレスを「普遍的」に捉えるのか、「局所的」に捉えるのかです。
たとえば、一つのタスクにおいてA~Cまでの3つの作業工程があり、「Aの能力はまだ未熟だが、B、Cの能力においては充分である」状態だと仮定します。
課題・ストレスを普遍的に捉える傾向のある方は、Aの能力にのみ不足がある状態でも、結果として「自分はこの仕事のスキルが何もない」と大枠で捉えてしまうのです。
反対に「局所的」に物事を捉えられる人は、「自分にはAのスキルのみ足りていない」という現状をきちんと理解できているため、「Aを伸ばすには何をしたらよいのか」というステップに思考を繋げていくことができるのです。
ここまで三種類の思考比較をさせていただきましたが、皆さんはそれぞれどちらの思考に近かったでしょうか?
レジリエンスに大切なのは「物事を前向きに捉えること」です。そうすることで自分の解決すべき課題がより明確になり、成長への扉が開けるのです。
自身のレジリエンスを高めるための、具体的な行動は──
前章では「レジリエンスに必要な思考」についてご説明させていただきました。
しかし、自分の思考を変えるのは容易なことではなく、一朝一夕でできるものではありません。また、自身の思考の変化を「最近、私は変わった」とすぐに実感することはなかなかできないかもしれません。
ここからはより具体例にフォーカスし、「レジリエンスを高めるためにどんな行動をしていけばよいのか」をご紹介していきます!
獲得レジリエンスと資質レジリエンスの2つがあることを知る
レジリエンスには「獲得レジリエンス」と「資質レジリエンス」の2種類があると言われています。自身のモチベーションによって育てることのできるレジリエンスですが、中には後天的に身につけやすいものと、そうでないものがあるのです。
この先は「獲得レジリエンス」「資質レジリエンス」についてまとめられたレポートから引用させていただきます。詳細が気になる方は、以下の参考URLよりアクセスしてみてください。
参考:「レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み」
レジリエンスは誰もが身につけられる精神的回復力であると言われているが,レジリエンスを導く多様な要因の中には後天的に身につけやすいもの(獲得的レジリエンス要因)と,そうでないもの(資質的レジリエンス要因)があると考えられる。
~中略~
本研究では,資質的レジリエンス要因として「楽観性」「統御力」「社交性」「行動力」,獲得的レジリエンス要因として「問題解決志向」「自己理解」「他者心理の理解」の7因子が見出された。
「レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み」のレポートでは、その他「資質レジリエンスと獲得レジリエンスは相関しあう」ことが述べられています。
つまり、「自分は資質レジリエンスが低い」と思っている人も、獲得レジリエンスを高めることで、総合的なレジリエンスの働きかけを高めていくことができるのです。
現在「レジリエンスが低い…」という方は、「獲得レジリエンス」に注目する
獲得レジリエンスを高めるには、その要因である「問題解決志向」「自己理解」「他者心理の理解」の3要素に注目します。
「問題解決志向」とは、問題に対する原因や改善点を探るのではなく、「問題を解決するために何ができるか?」を考えるアプローチ方法です。「どうしてこうなったのか」にばかり目を向けると、やがて自身のネガティブな感情に繋がりやすくなってしまいます。
「自己理解」は、言葉の通り、自身の考え方や特性についてしっかり熟知しておくことです。「自分のことは自分が一番よく分かっている」と思っていても、実際はそうでないことがほとんどです。そして、「自身が思っている姿」と「実際の姿」のギャップが大きいほど、人は混乱をきたしてしまいます。
「他者心理の理解」は「他者の考えを正しく認知し、受け容れる能力」のことです。そして、他者心理の理解を高めていくうえで注目したいのが、自己理解=他者心理の理解であるということです。
なぜなら、自分自身を正しく理解するためには、その比較対象(他者)が必要になるからです。自己理解は、他者との関わりの中で育てられていくのです。
部下のレジリエンスを高めるための、具体的な行動は──
ここまでは、自身のレジリエンス向上のための考え方、行動についてお伝えしました。
しかし、管理職として働く皆さんにとって悩みのタネは、自分のことだけでなく部下の存在なのではないでしょうか。
「彼(彼女)のやる気を引き出すにはどうすればいいんだろう」「仕事で失敗した部下のモチベーションが、明らかに下がってきている」
そんな事態に直面した際、上司として何をしてあげるべきなのでしょうか。
部下の「心的安全」を確保する
「ラーニングゾーン(学習ゾーン)」という言葉をご存知ですか。
人間が最も集中し、学習意欲が高まっている状態を指します。
しかし、誰もが簡単にラーニングゾーンに入れるわけではなく、ある条件が必要になります。
それは、その人が目指す対象について「責任」を有しており、かつそこで行動を取る際の「心理的安全」が確保されていることです。
心理的安全とは、「環境内において、批判される・否定される・罰せられる等の不安・恐怖がなく、リラックスして自身のアイデア・意見を発信し行動できる状態」──つまり、自分自身の考えを発信しやすい環境であることを指します。
「これを言ったら怒られそう」「本当は違う気持ちだけど、みんなに合わせなくちゃ」といった遠慮が無い状態のことですね。
上司の立場から、「部下にとって意見の出しやすい環境とは」を考えるのはなかなか簡単なことではありません。
しかし、管理職の皆さんも、かつては一般社員の時期を過ごされたかと思います。
その時を思い出し、「あの時自分は、上司にこうしてほしいと思っていた」「あの時こう言いたかったのに、上司のあの態度があったから言えなかった」という振り返りや発見をするのも大切なことです。
部下は上司の姿から学んでいくものです。上司の行動次第で、部下も自ら成長していくことでしょう。
「ABC理論」を意識した、良質なフィードバックを
「ABC理論」とは、アルバート・エリスが提唱した認知の概念で、認知のプロセスを「出来事」「信念」「結果」の3つに分けたものです。
「出来事」があって「結果」があるわけではなく、その間に「信念=どのように感じたか」の解釈が挟まれることによって、問題解決への糸口が見つかりやすくなります。
ここで注意しなければならないのが、「同じ出来事でも受け取り方が違えば、結果も変わってくる」という点です。
ビジネスシーンで考えてみましょう。
あなたは上司です。部下が企画書を持ってやってきました。しかし、その内容はやや不十分で、このまま企画を通すことはできないとなった時。
「このままじゃ通せないから、もう一度やり直して」
このフィードバックでは、部下はやる気をなくしてしまう可能性があります。「自分の意見は否定された」と解釈しかねないからです。
部下のレジリエンスを高めるためのフィードバックには、「相手がどう受け取るか」を意識する必要があります。
「一度は却下されたけど、ここを改善すればOKを出してくれそうだ」
そんな風に部下が思えるように、伝え方を工夫してみるといいかもしれません。
成長するマインドセット「グロースマインドセット」を意識する
「グロースマインドセット」は、スタンフォード大学の心理学の権威、キャロル・S・ドゥエック博士が提唱した「成長するための思考法」です。
何か出来事を起きたとき、人は2通りのマインドセットを持つと言われています。一つがフィックスト・マインドセットで、もう一つがグロース・マインドセットです。
フィックスト・マインドセットの思考を持ち合わせている場合、難しい課題に直面した時に、「どうせ自分にはできっこない」などと難題から背を向けてしまいやすい傾向にあります。
一方でグロース・マインドセットが身についていると、難しい課題でも自分から積極的に挑戦していき、自分自身の成長や、会社の利益に繋げることができます。
参考:「成長」のカギを握るマインド「グロース・マインドセット」
グロースマインドセットが備わっていると、難しい課題に直面した際にも積極的に挑戦し、自らの成長に繋げることができます。
主な特徴としては「集中力の持続」がしやすい点があります。問題に対しても真正面からぶつかり、何度もトライ&エラーを繰り返しながら、問題解決の方法を探っていく。グロースマインドセットの備わった人は、そのための努力や時間を惜しみません。
グロースマインドセットは意識するだけでも高めることができる思考だと言われています。しかしそれも、本人が「変わろう!」と強く働きかけてこその結果です。
部下へ働きかけるためには、まずは上司である自分自身がグロースマインドセットを意識してみるのも一つの方法でしょう。なぜなら、グロースマインドセットは周囲にも伝播していくからです。
自身の理想と、部下の理想が重なるように
いかがでしたか。
問題に直面した際の回復力「レジリエンス」についてご紹介いたしました。
人はネガティブな感情に引っ張られやすい傾向があると言われているため、物事を前向きに捉えるための意識づけはなかなか難しいものです。
さらに、自分自身だけでなく部下のレジリエンスを意識しなければならないのが、管理職の大変なところですね。
自身が思う会社の理想像と、部下の思う理想像が重なること。それが会社にとって一番望ましい姿ではないでしょうか。
その理想に近づくためのレジリエンスを、ぜひ意識してみてください。
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