ストレス耐性が低い部下にどう対処する?注意の仕方と育成方法
[最終更新日]2023/03/11
「部下がストレスに弱いのか、注意するとすぐに落ち込んでしまう」
「ストレスに強くなさそうに見えるので、プレッシャーのかかる仕事を頼みづらい」
部下に対して、このように感じたことはありませんか?
仕事をしていく以上、ある程度のプレッシャーやストレスはつきものです。部下の就業環境からストレスを完全に排除しようとするのは現実的とはいえません。
では、ストレス耐性が低いと思われる部下がいる場合、管理職としてどのように対処したらいいのでしょうか。ストレス耐性が低い部下を指導・育成していく上での注意点について解説します。
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Index
目次
ストレス耐性とは?ストレス耐性が高い人・低い人の特徴
私たちは誰しも見た目や性格が異なるように、ストレスに対する感じ方や捉え方は人によって違います。
ところが、「ストレス耐性」という言い方をするとき、どうしても自分にとってのストレスとの向きあい方や対処法を基準に考えてしまいがちです。
そこで、はじめにストレス耐性とはそもそもどのようなものであるか、ストレス耐性が高い・低いとはどういうことなのかを整理します。
人の性格やものの感じ方を単純に類型化することはできませんが、ストレス耐性を考える上で1つの指標になるはずですので、基本的な知識を確認しておきましょう。
ストレス耐性とは「ストレスに耐えうる強さ」
一般的に「ストレス耐性」とは、ストレスに耐えうる強さのことを指します。
同じ状況下であっても、ストレスを感じるかどうかは人によって異なります。また、明らかにストレスを感じる状況に置かれたとしても、ストレスをうまく解消できる人と溜め込んでしまう人がいます。
このように、ストレス耐性は「ストレスそのものの感じ方」と「ストレスを感じた場合の対処」に分けて考えることができるのです。
ストレスの原因となる事象のことをストレッサーと呼びます。ストレッサーに対処する能力は主に6種類に分類されるといわれており、それぞれの能力の高さによってストレス耐性が決まると考えられています。
ストレス耐性を決定づける6つの要素
感知能力
ストレッサーを感知する能力を指します。感知能力が高い人はささいなことでも気にしてしまい、ストレスとして溜め込みやすい傾向があります。
逆に「嫌味をいわれたと気づかなかった」「失礼なことをされても気にしない」といったタイプの人は、感知能力が低くストレス耐性が高いと考えられます。
回避能力
ストレッサーをうまく回避する能力を指します。
「思い通りにいかないこともある」と気を逸らしたり、「そういう考え方の人もいる」と捉えたりできる人は、回避能力に長けておりストレス耐性が高い傾向があります。
処理能力
ストレスそのものを処理する能力を指します。ストレスの原因を突き止めて排除したり、弱めたりすることができる人は、ストレスに強い傾向があります。
たとえば、仕事量が多すぎることにストレスを感じるのであれば、効率よくこなす方法を考え、ストレスの原因を減らすことができるかどうかに処理能力の差が表れます。
転換能力
ストレッサーを別の方向へと転換する能力を指します。「他の方法で解決できないだろうか」と発想を変えたり、スポーツや趣味などに打ち込むことで嫌なことを忘れたりできる人は、ストレス耐性が高いといえます。
経験
いわゆる「場数を踏んできたかどうか」を指します。同じストレッサーに遭遇した場合でも、初めて対処する人と過去に何度も対処してきた人とでは、ストレスの感じ方に差が生じます。
ただし、総合的なストレス耐性が低い人の場合、経験を重ねても「慣れない」「苦手意識を持ってしまう」といったことが起こり得ます。
容量
ストレスに対するキャパシティーを指します。ある程度のストレスがかかっても許容範囲内に収められる人は、ストレス耐性が高いといえます。
反対に、ちょっとしたトラブルや失敗がいつまでも気になってしまい、悩みがちな人はストレス耐性が低いと考えられます。
ストレス耐性が高い人によく見られる特徴
一般的にストレス耐性が高い人の多くは楽観的で、周囲の目をあまり気にしない傾向があります。
自分にとっての判断基準を持っており、自分と他人を切り分けて捉えることができ、人の考えや評価に振り回されにくいからです。
不測の事態にも冷静に対処できることが多く、周囲から頼られる場合もあるでしょう。
ただ、こうした傾向はときに「マイペースな人」として映ることがあります。
おおらかで人目を気にしない反面、周囲に合わせるべきときに合わせなくても気にしなかったり、実は周囲の人を怒らせてしまっていても気に留めていなかったりすることがあるため、「図々しい」「身勝手」といった捉え方をされやすい弱点もあるのです。
ストレス耐性が低い人によく見られる特徴
ストレス耐性が低い人の多くは、自分自身がストレスに弱いことを自覚しています。そのため、ストレスを感じやすい状況をできるだけ避けようとする傾向があります。
ストレスを感じる原因の大半を占める対人関係を避けがちであることから、内気な人と思われていることも少なくありません。
仕事においても周囲の目を常に気にしてしまうため、上司から怒られないように細心の注意を払ったり、失敗しそうにない範囲で仕事をこなしたりすることがあります。
ノルマや締め切りに追われる状況はストレスを感じやすいことから、自分のペースで進められる仕事かどうかを基準に職業を選ぶ人もいます。
一方で、ストレス耐性が低いことを本人も認識しているため、ミスのないよう慎重に仕事を進め、細かな不明点も放置せず確認する人が多いという長所もあります。
ストレス耐性は先天的なもの?後天的に高めることは可能?
ストレス耐性には6種類の能力が関わっていることは前述の通りです。ここで気になるのが、ストレス耐性が低いと思われる部下がいる場合、後天的にストレス耐性を高めることができるかどうかという点です。
とくに上司の側が標準〜高めのストレス耐性をもともと備えているケースでは注意が必要です。「慣れれば何とかなるはずだ」「そのうち気にしなくなるだろう」と楽観視しやすいため、部下がストレスを溜め込んでいることに気づけない恐れがあります。
そこで、先天的に決まる要素の多いストレス耐性と、後天的に高められるといわれているストレス耐性について確認しておきましょう。
先天的に決まる要素が多いといわれるストレス耐性
ストレス耐性に関わる能力のうち「感知能力」「処理能力」「容量」は、個人の性格や感受性と深く結びついているため改善することは容易ではありません。
「気にしなければいい」「具体的な解決策を講じなさい」と指導しても、部下にとってむしろプレッシャーを感じる結果をもたらす可能性があります。
むろん、ストレス耐性に関わる6つの能力は互いに独立しているわけではなく、密接に関わり合っています。
過去に「鈍感力」という言葉が流行ったことがあるように、回避能力が高まることでストレスを感知する場面が減っていったり、容量そのものは変わっていなくても経験を積むことで耐えられるストレス値の基準が高くなったように見えたりすることは十分にあり得ます。
ただ、全体的な傾向として「感知能力」「処理能力」「容量」を後天的に改善するのは難しいケースが多いことを理解しておく必要があるでしょう。
後天的に高めることが可能なストレス耐性
一方で、「回避能力」「転換能力」「経験」といった要素は、後天的に高めやすいといわれています。
考え方の幅を広げたり、さまざまな視点を持つよう意識したりすることで、回避能力や転換能力を高めていくことは不可能ではないのです。
経験とは仕事における実務上の経験も指していますが、多種多様なタイプの人との出会いや日常生活とは異なる体験を重ねることにより、視野が広がっていくことも指しています。
写真家の石川直樹さんは著書の中で、ミクロネシア連邦ヤップ島の住人たちと寝食を共にした経験を回想して次のように述べています。
毎日のように夜空を眺め、砂浜を駆け抜けているうちに、自分の中の時間の流れが少しずつ変化していきました。身体の片隅に残った島の時間は、日本に帰ってまた慌ただしい生活にもどっても、自分にとって何よりも大切にすべき感覚の一つです。今この瞬間に、ある異なる時間の流れを生きる人たちがいる。そのことだけで、ぼくの心はなんだかふっと軽くなるのです。
『いま生きているという冒険』石川直樹(理論社 2006年)
この「大切にすべき感覚」は、日常生活や仕事で受けるストレスをうまく逃がしたり、回避したりするのにも役立っていることでしょう。
さまざまな経験をして視野を広げていくことで、後天的に獲得できるストレス耐性もあると考えられます。
ストレス耐性の度合いは同じ人でも常に変化している
注意しておくべき点として、ストレス耐性は個々人にとって固定化されているわけではなく、同一人物であってもタイミングやコンディションによって常に変化していることが挙げられます。
部下によって「この人はストレスに強い」「この人はストレス耐性が低い」と決めてかかってしまうと、部下の心が折れそうになっているのを見過ごしてしまったり、成長の芽を摘み取ってしまったりすることにもなりかねません。
部下が担当している仕事の量や性質、最近の様子や言動を注意深く観察し、過度なストレスがかかっていないか、ストレスに押し潰されそうになっていないか、気を配っていく必要があるでしょう。
部下によっては、強いストレスに晒されていることへの自覚がなかったり、表面上は取り繕って平気な様子を見せていたりすることもあり得ます。
部下のタイプごとに紋切り型の対応に終始するのではなく、今現在の状態をしっかりと見て対処していくことが大切です。
ストレス耐性が低いタイプの部下にどう注意すればいい?
管理職として部下に接していく以上、指導や教育を施す場面は必ず出てくるはずです。場合によっては、部下がしたことに対して注意を促したり、叱ったりすることも出てくるでしょう。
では、ストレス耐性が低いタイプの部下の場合、どのように注意を促せばいいのでしょうか。
「厳しく叱ると落ち込んでしまうので困っている」「どんな伝え方をしたらいいのか分からない」という人にとって、部下に接していく上でのヒントになるかもしれません。
具体的には、次に挙げる3つの点を意識して部下を注意することが大切です。
高圧的な注意の仕方をしない
ストレスを感じやすい人にとって、言われた内容以上に「言い方」「伝え方」が重要な意味を持ちます。とくに高圧的な言い方をされるとストレス要因となりやすく、心理的な負担をかける恐れがあります。
上司としては、部下が再び同じミスや失敗を繰り返すことのないよう強めに伝えたり、部下のことを思っているからこそきつい言い方になったりすることがあるはずです。
しかし、部下の側としては上司に対する恐怖心が植え付けられてしまい、「上司を怒らせないこと」「叱られないようにすること」が目的化してしまうこともあり得ます。
部下も一人の大人であり、自分で反省して再発防止策を講じていくことができるはずです。
ミスや失敗を高圧的に注意するのではなく、なぜ失敗したのか、再発を防ぐにはどうすればいいのかを考えるよう促すスタンスで臨むことが大切です。
事象が発生したその場で注意を促す
「以前も同じようなことがあった」などと、過去の失敗や落ち度を持ち出して注意するのは避けましょう。
すでに変えられない過去のことを持ち出されてしまうと、部下としては弁解の余地がなく萎縮してしまう原因になるからです。
上司から常に監視されているように感じ、もし落ち度があればのちのち指摘されるのではないか、などと疑心暗鬼になっていく恐れもあります。ミスや失敗はその場で指摘し、注意を促すことが大切です。
注意を促し再発防止策を確認したら、その場限りのこととして話題を打ち切り、いつまでも引きずらないようにしましょう。注意を受けた後も上司がずっと不機嫌そうに見えると、部下にとってストレスがかかり続ける原因になります。管理職自身が忙しく、常に仕事に追われているような状況の場合はとくに注意が必要です。
上司の気分によって怒られているように感じると、部下は上司の機嫌を窺うようになっていきます。上司自身がうまく気持ちを切り替え、感情に任せて叱責することのないよう心がけましょう。
問題点を明確にしてポイントを絞る
部下を注意する際は、何が問題なのか、どのような結果をもたらす恐れがあるのか、ポイントを絞って伝えることが重要です。上司がなぜ怒っているのか分からないと部下は困惑します。ミスや失敗に至った経緯や背景を共有しつつ、順を追って伝えるようにしましょう。
場合によっては、部下にも自分なりの考えがあり、良かれと思ってしていたことかもしれません。
ただ、部下が想定している「良かれと思っていたこと」の方向性が間違っているケースもあるため、どの部分で認識がずれていたのかを明確にしておく必要があります。
部下の性格や人間性と安易に結びつけて叱ってしまうと、部下は自分自身を否定されているように感じるため注意が必要です。
あくまで事象そのものにフォーカスし、「ミスを憎んで人を憎まず」の原則に従って注意するよう意識しましょう。
ストレス耐性の低いタイプの部下を育成するには?
ストレス耐性が低いと思われる部下に対処していくには、上司としても気を遣う場面が多々あり、上司自身のストレスになっていくこともあり得ます。
1つ1つの事象への対応策をその場で講じていくというよりは、部下を育成していく上での原則や方針を持っておく必要があるでしょう。
ストレスにあまり強くないタイプの部下がいる場合は、次のことを意識して育成に携わることで、管理職としての行動や発言の判断軸になるはずです。
管理者ではなく「伴走者」「良きアドバイザー」になる
「上司はこうあるべき」といったイメージを強く持っている人ほど、部下に対して知らず知らずのうちに威圧感を与えがちです。
部下を「管理」することがマネジメントと捉えていると、どうしてもこの傾向が強くなってしまいます。
上司は「管理者」であるよりも、「伴走者」でいてくれるほうが仕事をしやすいと感じる部下は案外多いものです。
上司としての威厳を示すのは言動や態度によってではなく、いざというときに頼りになる能力や経験の面によるものであってもいいはずです。
「良きアドバイザー」であろうと意識することで、部下にとって相談しやすく頼りになる上司として映るでしょう。
部下にとって良きアドバイザーになることができれば、心配事をすぐに報告・相談しやすい関係性が築かれるため、ストレス耐性が高くないことがむしろ強みになることもあり得ます。
能動的/受動的な仕事のどちらがストレスを感じるか訊ねる
上司と部下では仕事に対する取り組み方や考え方が異なることは十分に考えられます。
上司としては「言われた通りにこなす仕事のほうがストレスを感じにくいだろう」と思っていても、上司の指示通りにミスなく進めなくてはならないことがプレッシャーになっている可能性があります。
あるいは、「自分で考えて仕事を進めたほうが気持ちの面で楽だろう」と上司は思っていても、部下は自分の判断が正しいのか不安を抱える原因となっているかもしれないのです。
部下がどのような場面でストレスを感じるのか見極めが難しければ、部下に直接聞いておくのも1つの方法です。能動的な仕事の進め方と受動的な仕事の進め方のどちらが自分に合っていると感じるか、率直に訊ねてみるのです。
「自分で考えて取り組みたい」「具体的な指示があったほうがありがたい」といった答えが返ってきたら、部下の意思を尊重した仕事の任せ方をしましょう。
こうすることで、部下は自分の考えや仕事への姿勢を認めてもらえていると実感でき、ストレスを感じにくい環境で働けるはずです。
人間的な部分で根本的に信頼していることを常に伝える
人と人との信頼関係は多層的であり、どのレベルで信頼を築くことができているかによって心理的安全に大きく影響します。
たとえば、仕事の成果によってのみ信頼を得ていると部下が感じている場合、結果が出せなくなった時点で信頼を失いかねないと認識するでしょう。
一方で、そもそも人間的な部分で信頼してもらえていると実感していれば、多少の失敗があったとしても信頼は揺るがないと思うことができ、果敢にチャレンジしやすくなるはずです。
部下の人柄や人間性に信頼を寄せ、人間的な部分で好かれていると部下が感じていれば、注意の仕方1つで信頼が揺らいでしまう確率を抑えることができるでしょう。
部下を人間的な部分で根本的に信頼していることを常日頃から伝え、部下の自己肯定感を高めていくことは非常に重要です。仮にストレス耐性が高くない部下がいたとしても、「この上司とならうまくやっていけそうだ」と実感することで、ストレッサーとなる要因を減らしていくことは十分に可能です。
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まとめ)ストレス耐性の低い部下の育成こそ管理職の手腕が問われる
ストレスに強く、自分の中でストレスを処理できる部下は、上司にとって「手のかからない」人材といえます。
これに対して、ストレス耐性が高くないと思われる部下は上司として気を遣う面が多々ある反面、ストレスに押し潰されてしまうことなく順調に成長してくれれば、将来は部下や後輩の気持ちが分かる頼もしい社員になっていくでしょう。
ストレス耐性の低い部下がいることは、上司にとって悩みの種かもしれません。
しかし、対処の難しい部下の育成においてこそ、管理職としての手腕が真に問われるのではないでしょうか。
今回解説してきたポイントを参考に、さまざまなタイプの部下と良好な関係性を築いていく上でぜひ役立ててください。
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