「キャリアアップ」と「キャリアチェンジ」の違いとは?管理職のキャリアアップ・キャリアチェンジの進め方
[最終更新日]2022/12/15
管理職の皆さんがこれからのキャリアプランを考えるとき、必ずと言っていいほど関わってくるキーワードに「キャリアアップ」があります。これと似た言葉ですが、ときどき耳にするキーワードとして「キャリアチェンジ」もあります。
皆さんは、これらの言葉にどのようなイメージを持っているでしょうか。
- 管理職Aさん
-
「キャリアアップと聞くと昇進や昇給など、とにかく上を目指すという感じがしますね」
- 管理職Bさん
-
「キャリアチェンジって、要するに転職してステップアップするということでしょう?」
こうしたイメージは必ずしも誤りではありませんが、「キャリアプラン」「キャリアチェンジ」の概念を十分に説明しているわけではありません。それぞれのキーワードが指す意味とキャリアの方向性について考えてみましょう。
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Index
目次
「キャリアアップ」には、主に4つの方向性がある
キャリアアップという言葉から「昇進」「昇給」といった「上を目指す」イメージを持つ人は少なくないでしょう。たしかに、こうしたイメージもキャリアアップの一面を表しているため間違いではありませんが、実はキャリアアップという言葉の意味にはもう少し「幅」があるのです。
かつての高度経済成長期のように、自分が働くことで会社の業績が伸び、そのことが社会の発展へと直接的に結びついていた時代には、「個人のキャリアアップ=組織の中での昇進・昇給」といった考え方が大半を占めていました。
しかし、現代においてはキャリアアップの解釈はいっそう多様になり、さまざまなキャリアの方向性を選べるようになっています。
こうした変化に薄々気づいている人がほとんどのはずですが、やはり「キャリアアップ」という言葉の響きから「上を目指す」という意味に囚われがちです。
こうした固定観念に凝り固まってしまうことなく、さまざまな方向性があり得ることを知ることによって、自身の今後のキャリアプランを考える上でも余裕のある視点を持ちやすくなるはずです。
キャリアアップの「4つの方向性」
今の時代、キャリアアップに関する考え方は多様化・細分化が進んでいます。そのため、「これが正解」「確実にこのパターンしかない」といった例を挙げるのが難しくなっているのも事実です。
そのことを踏まえた上で、キャリアアップの典型的なパターンとして挙げるとすれば、次の4つの方向性が考えられるでしょう。
キャリアの捉え方タイプ1 役職・ポストの上昇(昇格・昇給等) キャリアの上昇度合を役職やポスト、または年収等で捉える | |
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キャリアの捉え方タイプ2 組織・周囲への貢献度向上 組織内のメンバーや、更には顧客・社会への価値貢献の度合いでキャリアの高度(進度)を捉える | |
キャリアの捉え方タイプ3 スキル・専門性の高まり(専門化) キャリアの上昇度合を携わっている技能・知識の専門性の高まりで捉える | |
キャリアの捉え方タイプ4 能力の拡がり(できることが増える) 仕事の幅を広げ、「できること」「関われること」を広げていくことがキャリアの成長になると捉える |
役職・ポストの上昇
より責任が重く大きな裁量のある役職に就いたり、それによって報酬が増加したりすることを指して「キャリアアップ」と捉えるパターンです。
もちろんこうした評価・期待の高まりがキャリアの可能性を広げることは十分に考えられますので、キャリアアップの一面と考えることは可能です。ただし、これ「だけ」がキャリアアップに相当するという考え方に固執しない柔軟性を持つことも大切でしょう。
組織・周囲への貢献度向上
近年はフラットな組織も増えています。そのため、組織の中での評価だけにこだわるのではなく、より広い視野で顧客や社会全体に対してどのような貢献ができているかを捉え、キャリアアップの度合いを実感するパターンです。
スキル・専門性の高まり
自身が携わっている仕事で求められる技能や知識が高度になり、専門性が高まっていくことをもってキャリアアップと捉えるパターンです。業界や職種によっては、マネジメントに回ることにこだわらず、スペシャリストとして担当業務の専門性を高めていくことを志向するパターンも考えられます。
能力の拡がり
1つの仕事を極めていくというよりは、いろいろなことができるようになり、携わることができる仕事の幅が広がっていくことをもってキャリアアップと考えるパターンです。 自分自身にスペシャリストと呼べるほどの高度なスキルがなかったとしても、概要を理解していることで人を動かすことができるディレクションのような仕事が想定されます。
2)「キャリアチェンジ」は「軌道修正」というより、「能力を広げること」
キャリアアップと並んで誤解が生じやすいキーワードに「キャリアチェンジ」があります。「変える」という意味合いで使われやすいことから、異業種への転職や未経験の仕事への挑戦といったドラスティックな変化をイメージする人が多い傾向があるようです。
しかし、実際には「キャリアチェンジ」が指す方向性はもっと現実的なものです。
転職を経験したことがある人の多くが実感しているはずですが、これまで経験してきた仕事の経験や能力が「一切」活かせない仕事に転職したとしても、うまくいく可能性は極めて低くなります。
キャリアは同じ人が歩んでいくものである以上、連続性があることが大前提なのです。そのため、キャリアチェンジする場合であって今までの経験を活かしていくことが重要になります。
また、転職や人事異動に伴って一見すると今までと異なる職種・業務に就いたとしても、実はこれまでの経験を活かせる場面が少なくないものです。
こうした背景を踏まえると、キャリアチェンジとは劇的な変化やこれまでのキャリアを否定するような軌道修正を指すのではなく、能力を拡張しできることを殖やしていくイメージに近いでしょう。
前述のキャリアアップの4つのパターンのうち、4つめの「能力の拡がり」と重なる部分が多いと言えます。
キャリアチェンジ=「転職」とは限らない
また、キャリアチェンジとは必ずしも「転職」を指すわけではないという点にも注意が必要です。
「異業種で心機一転」といったイメージを持ってしまうと、これまでの経験が活かしづらくなったり、活かせるはずのスキルや経験をみすみす棄ててしまったりすることにもなりかねないからです。
転職しなくても、同じ会社の中でキャリアチェンジを実現していくことは可能です。
たとえば、管理職の誰もが経験している「プレーヤーとマネージャーの違い」についても、一種のキャリアチェンジと言えるでしょう。
プレーヤーとマネージャーでは評価軸が大きく変わりますので、発揮すべき能力のタイプを変えていく必要があるからです。
そのほか、顧客に直接提案を行う営業やプランナーから、間接的に人を動かしていくマーケターやディレクター、プロデューサーといった立場になることも、一種のキャリアチェンジと言えます。
このように、転職という手段を講じなければキャリアチェンジが実現できないわけではないという視点を持つことは、現に携わっている仕事に対する見方や考え方を広げることにもつながります。
「本来自分がやりたい仕事ではない」と悩んでいたところを、「社内でキャリアチェンジできる絶好の機会だ」と捉えることができるかもしれないのです。
3)あなたに向いているのは、「キャリアアップ」・「キャリアチェンジ」のどっち?
ここまで、キャリアアップとキャリアチェンジについて、それぞれの違いや共通点について見てきました。また、どちらのキーワードも狭義で捉えてしまうと、これまでの経験が活かしづらくなったり、さまざまな選択肢があることを見落としてしまったりといった機会損失につながりかねないことにも触れてきました。
そこで、今後のキャリアの方向性を考えるにあたって、キャリアアップとキャリアチェンジのどちらに近いのかを確認しておきましょう。大きな方向性を理解しておくことで、これからのキャリアプランがいっそうクリアに見えてくるはずです。
現在において「キャリアアップ」のアプローチが向いている人は、こんな人
- 目標とする人物(上司、経営者など)が明確にいる人
- 実現したい事業があるなど、会社組織を活用して叶えられる可能性が高い目標を持っている人
- 仕事を通じて誰かに喜んでもらえている、という実感が働く原動力になる人
- 現在の仕事を続けていくことで、5年後・10年後といった中長期の成長をイメージできている人
- マネジメント能力に限定せず、スペシャリストとしてのスキルの向上を図りたいと考えている人
- 携わっている業務の専門性が高く、技能や知識が向上することで希少な人材になれる可能性がある人
- 目標とする人物(上司、経営者など)が明確にいる人
- 実現したい事業があるなど、会社組織を活用して叶えられる可能性が高い目標を持っている人
このタイプの人は役職やポストの上昇を目標とすることによって、結果的に目指しているキャリアを実現できる可能性も高くなるでしょう。
今の仕事・職場でまだやっておくべきことがあるという状態の人も多いはずですので、このまま上を目指して努力を続けていくことがキャリアにとってプラスになるはずです。
- 仕事を通じて誰かに喜んでもらえている、という実感が働く原動力になる人
- 現在の仕事を続けていくことで、5年後・10年後といった中長期の成長をイメージできている人
目に見える成果や実績を今すぐ得ることがなかったとしても、自分が組織や顧客、さらには社会に対して貢献できているという実感があれば、その方向性のままさらに周囲への貢献度を高めていくことを目指していきましょう。「これもキャリアアップの1つだ」と実感しつつ、自信をもって突き進むことが大切です。
- マネジメント能力に限定せず、スペシャリストとしてのスキルの向上を図りたいと考えている人
- 携わっている業務の専門性が高く、技能や知識が向上することで希少な人材になれる可能性がある人
管理職と聞くとマネジメントに携わる仕事というイメージを抱きがちですが、専門性を高めることで人材としての希少価値を高め、キャリアを築いていく方法もあります。
とくに今携わっている業務そのものが専門的な知識や技能を必要とする場合、知識を深めていくことでキャリアアップにつながると同時に日常業務にも活かせる可能性があるため、一石二鳥と言えるでしょう。
現在において「キャリアチェンジ」のアプローチが向いている人は、こんな人
- 自分一人でできることよりも、多くの人に関わってもらい事業を成長させていきたい人
- 1つのことを突き詰めるよりも、いくつかのことを並行して進めていくほうが得意な人
- 変化の激しい業界に身を置いていて、できることを増やしていくことが強みになると感じている人
- 新規性の強い事業を立ち上げるなど、予測不能な事態が生じる可能性のあることをやってみたい人
- 将来的に独立も視野に入れてキャリアプランを考えている人
- 自分一人でできることよりも、多くの人に関わってもらい事業を成長させていきたい人
- 1つのことを突き詰めるよりも、いくつかのことを並行して進めていくほうが得意な人
- 変化の激しい業界に身を置いていて、できることを増やしていくことが強みになると感じている人
現代社会においては、誰も考えたことのない全く新しいビジネスを創り出すのは困難と言われています。
また、リーダー像もかつてのカリスマ型から調整型へとシフトしているとも言われています。既存の知見をどのように組み合わせたら新しいアイデアに結びつく化学反応が起きるのか、誰にも予測できないところがあります。
そのため、自分1人の力で何かを成し遂げようとするよりも、多くの人の力を借りたり、何に役立つか分からなくても興味のおもむくままに情報を集めたりすることが重要視されているのです。
- 新規性の強い事業を立ち上げるなど、予測不能な事態が生じる可能性のあることをやってみたい人
- 将来的に独立も視野に入れてキャリアプランを考えている人
ビジネスを後押しする情報や人脈はビジネスの場にだけあるとは限りません。個人的な趣味や地域社会とのつながりなど、何がヒントになってビジネスに良い影響を与えることになるのか予測できないところがあります。
そのため、新規性の強い事業に取り組むことや、いずれ独立を視野に入れたキャリアプランを検討している人は、こうした「一見すると仕事に関係なさそうなこと」にも全力で打ち込んでいきましょう。
キャリアアップか、キャリアチェンジかは、人生のフェーズによっても変わる
キャリアアップとキャリアチェンジは、人によってどちらのタイプが向いているかが決まるというよりは、同じ人であっても人生のフェーズやそのときの状況によって、どちらがより適切かが変化していきます。
20代で転職したばかりの人であれば、「いろいろなことができるようになりたい」と一足飛びに考えるよりも、まずは目の前の担当業務で実績を作り、認められていくことのほうが先決でしょう。
この人が30代に差し掛かり、さらに仕事の幅を広げていきたいと考えたときには、能力の拡がりを意識してキャリアチェンジを志向していったほうが良い結果がもたらされる可能性が高いはずです。
現状キャリアアップを目指している人でも、時間の経過とともにキャリアチェンジも視野に入れることで仕事の捉え方に幅が生まれ、最終的なキャリアの満足度は高まる場合があります。「自分はキャリアアップ志向だ」と固定化してしまわず、定期的にキャリアプランの見直しと共に、志向すべきキャリアの方向性を検討し直してみるといいでしょう。
私の事例 キャリアアップを諦めたことがキャリアチェンジのきっかけに
私自身は、元をたどればキャリアアップを志向するタイプでした。新卒で入社した会社は同期が100人以上いましたが、3年目までに現場の責任者に抜擢されないようだと事実上の戦力外通告とも言われていました。 3年目までに責任者になり、同期の中でも先頭集団に入っていたい——。そう考えた私はがむしゃらに働き、入社3年目で責任者になることができました。
責任者になって3年目、これまで経験したことのなかった大きな挫折を味わいました。
前任者の評判が極めて良かったため、顧客からは「担当が変わった」だけでも大ブーイングの状態からのスタートでした。
何をやっても「前の人のほうが良かった」と言われ続け、私という人間を見てもらえない日々が続くうち、徐々に精神的に落ち込むことが増えていきました。
1つ狂い出すと全てがおかしくなっていくもので、その年の担当顧客はことごとく壊滅的な状態。部下2人は退職してしまい、見かねた上司は私を異動させることに決めました。
異動先は制作部門。いわば、これまで私が携わってきた提案営業を縁の下で支える役回りでした。
重要な仕事であることに間違いはないはずでしたが、社内のポジションとしては提案営業こそが花形。出世街道から外れ、日の当たらない場所に移されてしまったのだと感じました。
しかし、何が吉と出るか分からないものです。制作部門での仕事は私の性に合っていたようで、提案営業の経験を活かしつつ、現場に向けて制作サイドからさまざまな改善案を投げかける流れを作ることができました。
この経験が、「2つ以上の経験を掛け合わせる」という発想の原点になっていったのだと思います。
現在、私は完全に「キャリアチェンジ」志向です。何が役立ち、どのようにビジネスにつながっていくのかは、あらかじめ予測して選び取るのが困難だと身に染みて分かったからです。
一見すると仕事と関係のなさそうな情報でも取り入れ、面白そうなことには首を突っ込んでいくというスタイルになっているのも、今思えばキャリアアップを諦めたあのときの経験が原点になったと思っています。
まとめ)今後のキャリアを考えるときは幅を持たせてプランニングしよう
子どもの頃、学校で「将来の夢」について聞かれたり、作文を書いたりした記憶のある人は多いことでしょう。
目標が決まっていて、そこを目がけて一直線に努力していくことが美徳のように思われがちなのは、こうした教育の影響なのかもしれません。
今、私たちが現役で働く期間は昔と比べて長くなっています。定年退職が70歳に引き上げられるという噂レベルの話が現実味を帯びてきている中、キャリア形成においても同じ目標を生涯追い続けることは困難になっていると言わざるを得ません。
「目指すべきキャリアは1つしかない」と決めつけず、幅を持たせてプランニングし、必要があれば見直しをかけることも織り込んでおいてはいかがでしょうか。
こうした柔軟なキャリアプランこそが、社会の変化に適応し未来志向であり続けるための支柱になるのかもしれません。
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